神経幹細胞

提供:脳科学辞典
2016年3月31日 (木) 20:34時点におけるKenichimizutani (トーク | 投稿記録)による版

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神経幹細胞(neural stem cell : NSC)は、分裂・増殖することができる自己複製能を有し、様々な神経細胞とグリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト)に分化する多分化能をもつ神経系の組織幹細胞である。

目次 1、神経幹細胞の増殖・未分化性を維持する分子機構 (1)Notchシグナル系 (2)FGFシグナル系 (3)Wntシグナル系

(1)Notchシグナル系  Notchシグナル系は、細胞間相互作用によって制御を受けるシグナル伝達経路で、膜貫通型タンパク質であるNotch受容体が、隣接する細胞の膜上に提示されたリガンド分子(Delta-likeあるいはJagged)と相互作用することによって細胞内にシグナルが伝わる。Notch受容体がリガンド刺激を受けると、プレセニリンを含みプロテアーゼ活性をもつγ-セクレターゼ複合体によってNotch受容体の細胞内ドメインが切り離され、膜から離れたNotch細胞内ドメイン(NICD)は核内に移行する。Notch細胞内ドメインは核内で転写因子CBF1(RBP-JまたはCSLとも呼ばれる)などと結合し、CBF1のターゲット遺伝子の転写を活性化する。胎生期の神経幹細胞におけるNICD/CBF1複合体のターゲットのなかで最も重要なものは、Hes(特にHes1とHes5)である。Hes1やHes5は、神経分化を誘導するプロニューラルbHLH型の転写因子であるNeurogeninやAscl1(Achaete-scute complex homolog 1)の転写ターゲットであるNotchリガンドの発現を抑制することによって神経分化を抑制し、神経幹細胞の未分化状態を維持する。この隣り合った細胞間でのNotchシグナルのやり取りは、均一な細胞集団から性質の異なる細胞集団を生み出すうえで中心的な役割を果たす。たとえば、神経幹細胞の集団のなかの一つの細胞が確率論的に神経細胞に分化すると、分化細胞ではプロニューラル転写因子の下流でNotchリガンドの発現が上昇する。すると、まわりの細胞ではNotchシグナルが活性化して分化が抑制され、未分化状態が維持される。このフィードバック現象は側方抑制(lateral inhibition)と呼ばれ、線虫・ショウジョウバエからマウスまで保存されたメカニズムであることが明らかになっている。


神経系の細胞を作る能力を持つ増殖細胞。場合により大きく定義が異なるが、「多分化能(様々なニューロンとグリア細胞を産生する能力)」と「長期維持(自己複製)能」を定義に加えることが多い。