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<div align="right"> <font size="+1">[https://researchmap.jp/hiroyukisakagami 阪上 洋行]</font><br> ''北里大学・医学部・解剖学''<br> DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2025年4月24日 原稿完成日:2025年4月27日<br> 担当編集委員:[http://researchmap.jp/wadancnp 和田 圭司](国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター) </div> 英:ADP ribosylation factor<br> 英略語:Arf {{box|text= ADPリボシル化因子(Arf)は、Rasスーパーファミリーに属する低分子量GTP結合タンパク質で、哺乳類ではArf1からArf6の6種類の分子(ヒトではARF2以外の5分子)が存在する。ArfはGTP結合型とGDP結合型の2つのコンフォメーションを変換させて、細胞内小胞輸送やアクチン細胞骨格の再構築を制御する分子スイッチとして機能する。神経系において、Arfは軸索、樹状突起、棘突起の形成と維持、細胞移動、シナプス小胞サイクル、シナプス可塑性などの多彩な機能に関与する。「ADPリボシル化因子」の名称は、試験管内でのコレラ毒素の[[補酵素]]としての性質に由来するもので、必ずしも生理的な機能を反映するものではない。}} == 発見の経緯とその後 == ADPリボシル化因子(Arf)は、[[コレラ毒素]]Aサブユニットによるヘテロ[[三量体Gタンパク質]][[Gαs]]の[[ADP-リボシル化]]に必要な補因子として、[[ウサギ]][[肝臓]]と[[ウシ]][[脳か]]ら精製された<ref name=Enomoto1980><pubmed>6766444</pubmed></ref><ref name=Kahn1984><pubmed>6327671</pubmed></ref><ref name=Schleifer1982><pubmed>6273425</pubmed></ref>。精製されたArf自体が[[GTP]]結合能を持ち<ref name=Kahn1986><pubmed>3086320</pubmed></ref>、さらにSewellとKahn (1988年) <ref name=Sewell1988><pubmed>3133654</pubmed></ref>によりクローニングされたウシ[[Arf1]]の一次構造から、[[Ras]]や三量体Gタンパク質Gαsと相同性の高い配列を持つ[[低分子量GTP結合タンパク質]]であることが明らかになった。その後、[[哺乳類]]ではArf1-[[Arf6]]の6種([[ヒト]]では5種)の[[パラログ]]の存在が明らかになっている<ref name=Hosaka1996><pubmed>8947846</pubmed></ref>。 「ADPリボシル化因子」の名称は、試験管内でのコレラ毒素の[[補酵素]]としての性質に由来するもので、生理的な機能を反映するものではない。細胞内において、Arfは[[小胞輸送]]や[[アクチン]][[細胞骨格]]の制御に関わる低分子量GTP結合タンパク質として機能している。コレラ毒素のADPリボシル化の補酵素としての性質に基づいたArfの本来の定義に該当する分子はArf1-Arf6の6分子(ヒトでは5分子)のみであるが、近年、[[Arf-like]] ([[Arl]])、[[Arf-related protein 1]] ([[ARFRP1]])、[[secretion-associated and Ras-related protein 1]] ([[SAR1]])などの近縁分子が多数同定され、Arfスーパーファミリーとして広がりつつある。 == ファミリー構成分子 == 哺乳類のArfファミリーは、異なる遺伝子から生じる6種のパラログ(Arf1-6)からなる<ref name=Hosaka1996><pubmed>8947846</pubmed></ref>。ただし、ヒト[[ARF2]]は[[偽遺伝子]]化しタンパク質として存在しない。6種のArf分子は一次配列とゲノム構造の類似性から3つのクラスに分類され、クラスIにはArf1、Arf2、[[Arf3]]、クラスIIには[[Arf4]]、[[Arf5]]、クラスIIIにはArf6が属する。クラスIは181アミノ酸、クラスII は180アミノ酸、唯一クラスIIIに属するArf6は175アミノ酸からなる。[[マウス]]Arfにおいて同一クラス間で90-96%, クラスIとクラスII間では78-81%、クラスI/IIとクラスIII間では65-69%のアミノ酸の同一性がある。なお、記載法として、「ARF」はヒトの遺伝子あるいはタンパク質に対して使われ、「Arf」はヒト以外の種での名称、総称、活性などに対して用いられることが推奨されている<ref name=Kahn2006><pubmed>16505163</pubmed></ref>。 == 構造 == Arfは、低分子量GTP結合タンパク質に共通の構造として、GTPおよびGDPとの結合により大きく立体構造を変化させてGTP依存的にエフェクターと相互作用するスイッチIとスイッチII領域を持つ<ref name=Gillingham2007><pubmed>17506703</pubmed></ref><ref name=Pasqualato2001><pubmed>11266366</pubmed></ref>。さらに他の低分子量GTP結合タンパク質とは異なる特徴として、N末端の開始[[メチオニン]]残基が除去され、2番目の[[グリシン]]残基に14炭素[[鎖飽和脂肪酸]]の[[ミリスチン酸]](C14:0)が不可逆的に[[アミド結合]]で付加されている。さらにそれに続くN末端領域に両親媒性[[αヘリックス]]領域が存在し、Arfの脂質膜との相互作用とともにスイッチIとスイッチII領域の構造変化に関わる。脂質膜と相互作用するN末端領域とエフェクターと相互作用するスイッチ領域間の立体構造上の距離が短い(1-2nm)ため、他の低分子量GTP結合タンパク質に比べて、[[エフェクター]]は脂質膜のより近くにリクルートされ作用する。これらの性質はArfの下流エフェクターである[[リン脂質]]代謝酵素や[[アダプタータンパク質]]によるリン脂質膜への作用を介した[[小胞輸送]]制御に密接に関連すると考えられている<ref name=Gillingham2007><pubmed>17506703</pubmed></ref>。さらに[[GDP]]結合型とGTP結合型への変換に伴いスイッチIとスイッチII領域を繋ぐインタースイッチ領域も大きく立体構造を変化させるのもArfの構造上の特徴として挙げられる。 == 下流エフェクター == 他の低分子量GTP結合タンパク質と同様に、GTP結合型Arfは活性型として、種々のエフェクターを[[細胞膜]]や[[細胞小器官]]の脂質膜マイクロドメインにリクルートし、小胞輸送経路やアクチン細胞骨格の再構築を促す<ref name=D'Souza-Schorey2006><pubmed>16633337</pubmed></ref><ref name=Donaldson2011><pubmed>21587297</pubmed></ref>。多数のエフェクター分子が同定されており、それぞれArf分子に対する選択性を持つが、主要なエフェクターとして、①[[コートタンパク質]]([[COPI複合体]]、[[Golgi-localized, γ-ear-containing, Arf-binding protein]] ([[GGA]])、アダプタータンパク質複合体([[AP-1]], [[AP-2|2]], [[AP-3|3]], [[AP-4|4]])、②リン脂質修飾酵素([[ホスホリパーゼD]]、[[ホスファチジルイノシトール 4-リン酸5-キナーゼ]] ([[PIP5K]])、[[ホスファチジルイノシトール 4-キナーゼ]])、③[[モータータンパク質]]([[MKLP1]])とアダプター分子([[FIP3]]/[[FIP4|4]], [[JIP3]]/[[JIP4|4]])、④[[小胞繋留因子]] ([[エクソシスト複合体サブユニット]][[Sec10]]、[[ゴルジン]][[GMAP210]]、[[GARP]]/[[EARP]]複合体サブユニット[[Vps52]])などが挙げられる。また、GDP型Arfに選択的に結合する分子も同定されており、例えばGDP結合型Arf6の場合、アダプタータンパク質[[Fe65]]<ref name=Cheung2014><pubmed>24056087</pubmed></ref>、[[Rac]]/[[Rho-GEF]]である[[Kalirin]]<ref name=Koo2007><pubmed>17640372</pubmed></ref>、[[Rab-GAP]]である[[TBC1D24]]<ref name=Falace2010><pubmed>20727515</pubmed></ref>などが挙げられる。これらの事実から、古典的なGDP-GTPサイクルのドグマにおいて不活性型とされるGDP型Arfが、シグナル経路の調節に積極的に関与している可能性が示唆される。 == 細胞内局在 == Arfは様々な組織に幅広く発現する<ref name=Hosaka1996><pubmed>8947846</pubmed></ref>。内因性Arfの細胞内局在は、分子間の高い同一性から特異的な[[抗体]]の作製が難しく、依然明らかにされていない。[[培養細胞]]への[[強制発現系]]を用いた局在解析から、Arf1-5は[[小胞体]]、[[ゴルジ装置]]、[[エンドソーム]]に主に局在するのに対して、Arf6は細胞膜とエンドソームに局在することが報告されている<ref name=D'Souza-Schorey2006><pubmed>16633337</pubmed></ref><ref name=Radhakrishna1997><pubmed>9314528</pubmed></ref>。[[CRISPR-Cas9]]を用いた[[ゲノム編集]]技術によりクラスI Arf (Arf1, Arf3)とクラスII Arf (Arf4, Arf5)のC末領域にタグをノックインした内因性Arfタンパク質の細胞内局在に関する[[超解像度顕微鏡]]解析の報告によると、[[HeLa細胞]]において、クラスIとクラスII Arfとも[[小胞体–ゴルジ体中間区画]]([[ERGIC]])、ゴルジ装置、[[管状小胞状]]の構造に部分的に共存しながら分布するが、同じ細胞小器官において異なるナノドメインへの局在も示すことから、クラスIとII のArfの各分子は、重複する機能とともに特異的な機能を持つものと考えられる<ref name=Wong-Dilworth2023><pubmed>37102998</pubmed></ref>。 [[ファイル:Sakagami Arf Fig.png|サムネイル|'''図. マウスArfの活性化制御分子(GEFとGAP)ファミリーとドメイン構造'''<br>哺乳類のArfGEFは15分子6ファミリーからなり、GEF活性に必須の約200アミノ酸からなるSec7領域を持つ。ArfGAPは31分子10ファミリーに分類されている。<br>ALPS, amphipathic lipid packaging sensor; ANK, ankyrin repeats; BAR, Bin/Amphiphysin/Rvs domain; CC, coiled-coil motif; DCB, dimerization and cyclophilin-binding domain; FAT, focal adhesion targeting domain; HDS, homology downstream of Sec7; HUS, homology upstream of Sec7; IQ, IQ motif; PH, pleckstrin homology domain; RA, Ras-associating domain; SAM, sterile α motif domain; SH3, Src-homology 3 domain; SLD, synaptic localization domain]] == 活性化制御 == ArfのGDP-GTPサイクルは[[グアニンヌクレオチド交換因子]]([[GEF]])と[[GTPase活性化因子]]([[GAP]])により厳密に調節されている。 === Arf-GEF === 1996年に[[酵母]]から[[Gea1]]が、哺乳類から[[サイトヘジン-2]] ([[ARNO]])と[[BIG1]]のcDNAが最初にクローニングされた<ref name=Chardin1996><pubmed>8945478</pubmed></ref><ref name=Peyroche1996><pubmed>8945477</pubmed></ref>。その一次構造の比較から、GDPからGTPへの交換活性に必須である約200アミノ酸からなる[[Sec7]]ドメインの存在が明らかになった。Sec7ドメインを持つタンパク質は、ヒトでは15種存在し、ドメイン構造の特徴から、[[GBF1ファミリー]]、[[BIGファミリー]]、[[サイトへジンファミリー]]、[[BRAG/IQSECファミリー]]、[[EFA6/PSDファミリー]]、[[F-box only protein 8]] ([[FBXO8]])に分類される('''図''')<ref name=Cox2004><pubmed>14742722</pubmed></ref><ref name=Gillingham2007><pubmed>17506703</pubmed></ref><ref name=Sztul2019><pubmed>31084567</pubmed></ref>。 FBXO8以外のSec7タンパク質は、Arf各分子に対する基質親和性は異なるもののArfに対するグアニンヌクレオチド交換活性を持つ<ref name=Cox2004><pubmed>14742722</pubmed></ref><ref name=Gillingham2007><pubmed>17506703</pubmed></ref><ref name=Sztul2019><pubmed>31084567</pubmed></ref>。一方、FBXO8はSec7とともにF-boxドメインを持ち、GEFとしては機能せず、Arf6の非分解性の[[ユビキチン化]]を介した活性の制御に関わる<ref name=Yano2008><pubmed>18094045</pubmed></ref>。Arf-GEFは、Sec7ドメイン以外に[[コイルドコイルモチーフ]]、[[プレクストリン相同ドメイン]]([[PH domain]])、[[PDZ結合モチーフ]]、[[IQモチーフ]]などファミリーごとに特徴的なドメイン構造を持ち、Arf-GEFの細胞内局在や活性が制御されている。例えば、[[BRAG1]]と[[BRAG2]]は、C末端のPDZ結合モチーフを介して[[PSD-95]]との結合し、[[海馬]][[神経細胞]]の[[興奮性シナプス]]の[[シナプス後肥厚部]]に局在する<ref name=Fukaya2020><pubmed>32341099</pubmed></ref><ref name=Sakagami2008><pubmed>18164504</pubmed></ref>。また、[[サイトへジン-2]]はN末端のコイルドコイルモチーフを介して[[タマリン]]と結合し[[代謝型グルタミン酸受容体]]と複合体を形成し、興奮性シナプスの[[ペリシナプス]]に局在する<ref name=Ito2021><pubmed>34390832</pubmed></ref><ref name=Kitano2002><pubmed>11850456</pubmed></ref>。一方、BRAG3は[[ゲフィリン]]や[[ジストロフィン]]との結合を介して[[抑制性シナプス]]の[[シナプス後膜]]に選択的に局在する<ref name=Fukaya2011><pubmed>21198641</pubmed></ref><ref name=Um2016><pubmed>27002143</pubmed></ref>。 === Arf-GAP === 一方、精製されたArfにはGTPase活性が検出されないことより<ref name=Kahn1986><pubmed>3086320</pubmed></ref>、GAPの存在がGTPの加水分解に必須であることが発見当初より予想されていた<ref name=Kahn1986><pubmed>3086320</pubmed></ref>。1994年にRandazzoとKahnによりウシ脳抽出液に[[ホスファチジルイノシトール 4,5-ビスリン酸]] ([[PI(4,5)P2]]) 存在下で活性化するArf-GAPの存在が示された<ref name=Randazzo1994><pubmed>8144664</pubmed></ref>。同年、MaklerらによりArf1に対するGAP活性を指標に約49kDaのArf-GAPが[[ラット]]肝臓より精製され<ref name=Makler1995><pubmed>7890632</pubmed></ref>。そのアミノ酸の部分配列より[[cDNA]]が初めてクローニングされた<ref name=Cukierman1995><pubmed>8533093</pubmed></ref>。その結果、C4タイプの[[ジンクフィンガー構造]](CX2CX16CX2CX4R)からなるGAP活性に必須のArfGAPドメインが見出された。 現在、ArfGAPドメインを共通に持つArf-GAP分子はヒトで31種同定されている <ref name=Kahn2008><pubmed>18809720</pubmed></ref>。ドメイン構造の類似性から[[ArfGAP1]]ファミリー、[[ArfGAP2]]/[[ArfGAP3|3]]ファミリ―、[[SMAPファミリー]]、[[AGFGファミリー]]、[[ADAPファミリー]]、[[GITファミリー]]、[[ACAPファミリー]]、[[ASAPファミリー]]、[[AGAPファミリー]]、[[ARAPファミリー]]の10種類に分類される('''図''')<ref name=Kahn2008><pubmed>18809720</pubmed></ref>。 ArfGAPのドメイン構造はArf-GEFと比べてより多彩で、例えば[[ARAP1]]はArf-GAPドメインとともにRho-GAPドメインやRas結合ドメイン<ref name=Miura2002><pubmed>11804590</pubmed></ref>を、[[GIT1]]はRac-GEFである[[PIX]]と結合する[[Spa2]]相同ドメインなどを持ち<ref name=Zhao2000><pubmed>10938112</pubmed></ref>、Arfのoffスイッチの制御分子であるとともに、Arf-GAP自体がGTP結合型Arfのエフェクターとして他のシグナル経路とのクロストークを担うものと考えられている。また、ArfGAPドメインはArf-GAP分子に必須のものではなく、ArfGAPドメインを持たない[[C9orf72]]や[[ELMOD2]]がArf-GAP活性を示すことが報告されており<ref name=East2012><pubmed>23014990</pubmed></ref><ref name=Ivanova2014><pubmed>24616099</pubmed></ref><ref name=Su2021><pubmed>34145292</pubmed></ref><ref name=Su2020><pubmed>32848248</pubmed></ref>、今後さらにArf-GAPファミリーが広がる可能性がある。 また、RabやRhoファミリーと異なり、Arf活性制御にはGDP結合型の低分子量GTP結合タンパク質と結合しGDP解離を抑制する[[GDP解離阻害因子]](GDI, GDP dissociation inhibitor)やGDP型低分子量GTP結合タンパク質からGDIを解離させる[[GDI置換因子]](GDF, GDI displacement factor)は存在しない。 == 全身ノックアウトマウスの表現型 == これまでArf1, Arf4, Arf5, Arf6の全身型ノックアウトマウスの表現型が報告されている。 === Arf1 === 胎生致死。胎生3.5日齢 (E3.5)の[[胚盤胞]]までは野生型と外見上の差はなく成長するが、着床後まもないE5.5において[[KOマウス]]の71.4%に変性がみられ、E12.5にはKOマウスは消失し存在しない。胎生致死の原因は不明であるが、少なくともKOマウスの胚盤胞の[[栄養外胚葉]]や[[内細胞塊]]は野生型と同様に成長することが培養系実験で示されている<ref name=Hayakawa2014><pubmed>25305484</pubmed></ref> 。 === Arf4 === 胎生致死。E9.5のKOマウスは野生型と比較して著明な成長遅延を示し、E10.5には全てのKOマウスが致死に至る。KOマウスの[[臓性内胚葉]]細胞において、大型の[[リソソーム]]([[頂端液胞]])の減少や[[エンドサイトーシス]][[受容体]][[メガリン]]の頂端領域での分布の減少などが認められることより、臓性内胚葉細胞における母体―胚子間の物質交換の障害が胎生致死の機序として考えられている<ref name=Follit2014><pubmed>24586199</pubmed></ref>。 === Arf5 === KOマウスは[[メンデル則]]に従って誕生し正常に成長する。異常な表現型は認められていない<ref name=Hosoi2019><pubmed>31201232</pubmed></ref>。 === Arf6 === 胎生致死。KOマウスは胎生中期の[[肝細胞索]]の形成障害による肝臓の発達不全を示し、胎生中期(E13.5)から後期にかけて致死に至る<ref name=Suzuki2006><pubmed>16880525</pubmed></ref>。また、E12.5のKOマウスにおいて[[脊髄]][[交連神経]]の正中線での[[軸索投射]]異常が認められる<ref name=Kinoshita-Kawada2019><pubmed>30674481</pubmed></ref>。 == 神経系での機能 == === 神経上皮細胞 === [[脳室帯]]の[[神経幹細胞]]である[[神経上皮細胞]]の細胞間および[[細胞外マトリックス]]との[[細胞接着]]の障害は、脳室帯の構造維持とともに脳構造の形成に重要であり、その障害は異所性[[灰白質]]や[[小頭症]]などの脳形成障害を引き起こす。 2004年Sheenらは異所性灰白質を伴う小頭症の原因遺伝子としてクラスI ArfのGEFであるヒト[[BIG2]] ([[ARFGEF2]])を同定した<ref name=Sheen2004><pubmed>14647276</pubmed></ref>。マウスBIG2は胎生期の脳室帯に豊富に発現し、Arf-GEF ([[BIG1]]、BIG2、[[GBF1]])に対する[[阻害剤]][[ブレフェルジンA]]の胎児期脳室帯への投与やBig2ノックアウトマウスにおいて、神経上皮細胞間の[[N-カドへリン]]を介した細胞接着が障害され、脳室帯の構造の破綻が生じる<ref name=Ferland2009><pubmed>18996916</pubmed></ref><ref name=Zhang2012><pubmed>22956851</pubmed></ref>。その後、ヒトARF1も異所性灰白質の原因遺伝子として報告され<ref name=Ishida2023><pubmed>36345169</pubmed></ref>、BIG2によるARF1の活性化が、神経上皮細胞間のN-カドへリン依存的な細胞接着の制御を介して脳室帯の構造維持に関与する可能性が示唆される。 また、胎生期のマウス脳室帯の神経上皮細胞において、[[EphB2]]-[[ephrin B1]]シグナルは、Arf6の活性化による頂端面での[[インテグリンβ1]]のエンドサイトーシスを抑制し、インテグリンの表面発現を適切に維持することにより、脳室帯の構造維持、非対称分裂、脳室帯から分裂後の細胞離脱を制御することが報告されている<ref name=Arvanitis2013><pubmed>23578932</pubmed></ref>。 === 神経細胞移動 === [[中枢神経系]]において神経幹細胞の非対称分裂により生じた幼若神経細胞は、脳室帯を離脱し、先導突起の伸長と[[細胞体]]や[[細胞核]]の牽引を繰り返し、最終的に機能する部位へと細胞移動する。この細胞移動には、牽引力となるアクチン細胞骨格の再構築とともに、小胞輸送経路による先導突起方向への細胞膜成分の輸送、細胞接着分子や誘引因子に対する受容体などの極性配置の調節が重要な役割を果たす。特にヒトARF1とBIG2が異所性灰白質の原因遺伝子であること<ref name=Ishida2023><pubmed>36345169</pubmed></ref><ref name=Sheen2004><pubmed>14647276</pubmed></ref>から、Arfの神経移動の重要性が示唆されていた。 大脳皮質層形成過程で、興奮性神経細胞は[[多極性移動]]、[[ロコモーション]]、[[ターミナルトランスロケーション]]からなる移動様式を取る。[[子宮内電気穿孔法]]を用いた研究から、Arf1、Arf4、Arf6の神経移動への機能関与が明らかになっている<ref name=Falace2014><pubmed>24469796</pubmed></ref><ref name=Hara2016><pubmed>27622210</pubmed></ref><ref name=Hara2023><pubmed>37848288</pubmed></ref><ref name=Ishiguro2024><pubmed>39052890</pubmed></ref>。異所性灰白質と関連するヒトArf1変異遺伝子のマウス脳室帯細胞への導入により、神経細胞移動の障害による大脳皮質の層形成異常が生じる。このArf1変異遺伝子を発現する移動神経細胞はゴルジ装置の拡大を示すことより、Arf1のゴルジ装置での輸送経路の調節を介した神経細胞移動への関与が示唆されている<ref name=Ishiguro2024><pubmed>39052890</pubmed></ref>。一方、Arf4は多極性移動、多極性から双極性への形態変換、それに続くロコモーションに、Arf6は多極性移動とともに多極性から双極性への形態変換の段階に関わる<ref name=Hara2016><pubmed>27622210</pubmed></ref><ref name=Hara2023><pubmed>37848288</pubmed></ref>。移動神経細胞において、Arf4とArf6はそれぞれ[[逆行性輸送経路]]および[[リサイクリング経路]]を介したN-カドへリンの小胞輸送の制御により[[放射状グリア]]との細胞接着性を調節する可能性が示唆されている<ref name=Hara2016><pubmed>27622210</pubmed></ref><ref name=Hara2023><pubmed>37848288</pubmed></ref>。また、神経細胞移動におけるArf6の活性化制御としてArf6-GAPである[[ACAP3]]の関与が報告されている<ref name=Miura2017><pubmed>28919417</pubmed></ref>が、Arf6-GEFは不明である。 === 軸索形成 === Arf6は、PIP5Kの活性化を介して、[[成長円錐]]でのアクチン細胞骨格を制御し、軸索の分岐や伸長を抑制的に調節することが海馬[[初代培養細胞]]において報告されている<ref name=Hernandez-Deviez2004><pubmed>14565977</pubmed></ref>。同様に[[脊髄神経節]]初代培養細胞においてもArf6の活性化は軸索の伸長に抑制的に作用する<ref name=Eva2012><pubmed>22836268</pubmed></ref>。 Arf6ノックアウトマウスは、胎生12.5日齢の脊髄において脊髄交連神経の正中線での軸索投射異常を示す<ref name=Kinoshita-Kawada2019><pubmed>30674481</pubmed></ref>。その機序として、脊髄交連神経の成長円錐において、Arf6が軸索反発因子[[スリット]]の受容体[[Robo1]]や誘引因子[[Wnt5a]]の受容体[[Frizzled]]の適切なタイミングでの軸索膜上での発現を調節することにより、正中線通過後の交連線維の[[ネトリン]]に対する反発活性の獲得や吻側方向での軸索のターニングや伸長に関与する可能性が報告されている<ref name=Kinoshita-Kawada2019><pubmed>30674481</pubmed></ref><ref name=Onishi2013><pubmed>24305805</pubmed></ref>。なお、交連軸索投射異常を示す[[ショウジョウバエ]]変異体スクリーニングにより、Arf6-GEFであるBRAGファミリー分子のオルソログである[[Schizo]] / [[Loner]]が同定されている。Schizoは正中部グリア細胞において膜結合型スリットのArf6依存的なエンドサイトーシスを介して軸索の正中線の交差に関与する<ref name=Onel2004><pubmed>15148300</pubmed></ref>。 === 軸索輸送 === Arf6は、脊髄神経節ニューロンの軸索や[[PC12]]細胞の突起において、インテグリンを含む[[輸送小胞]]の逆行性輸送に関与する<ref name=Eva2012><pubmed>22836268</pubmed></ref>。さらにGTP結合型Arf6は、エフェクターのJIP3/JIP4と結合することにより、JIP3/JIP4の[[ダイナクチン]]/[[ダイニン]]複合体との相互作用とダイニンのモーター活性を促進し、[[オートファゴソーム]]の逆行性軸索輸送を制御することが海馬初代培養細胞で報告されている<ref name=Cason2023><pubmed>37909920</pubmed></ref>。軸索でのArf6の活性制御機構として、中枢神経系細胞において、Arf6-GEFであるEFA6Aは、[[軸索初節]]に豊富に局在し、[[軸索起部]]においてArf6の活性化を促し、軸索輸送を調節している可能性が報告されている<ref name=Eva2017><pubmed>28935671</pubmed></ref>。 一方、Arf4とArf5のダブルノックアウトマウス (Arf4/5 DKO)は、[[プロパノール]]や[[ガバペンチン]]反応性の[[本態性振戦]]様の[[不随意運動]]を示す。さらに、Arf4/5 DKOマウスの[[小脳]][[プルキンエ細胞]]において、[[電位依存性ナトリウムチャネル]][[Nav1.6]]の軸索起始部での局在が障害され、自発的な連続発火が低下することから、クラスII Arfが小胞輸送経路を介した軸索起始部でのイオンチャネルの発現を制御する可能性が示唆されている<ref name=Hosoi2019><pubmed>31201232</pubmed></ref>。 === 樹状突起形成 === Arf1とArf6は異なるシグナル制御経路を介して樹状突起の発達を制御する。Arf1はゴルジ装置においてBIG2により活性化され、[[RhoA]]-[[mDia]]経路を介して、頂上樹状突起の基部へのゴルジ装置の極性配置を制御し、頂上樹状突起の伸長・分岐に関与する<ref name=Hong2018><pubmed>29455446</pubmed></ref>。一方、Arf6の活性化は、初代海馬培養細胞の[[樹状突起]]の分岐形成<ref name=Hernandez-Deviez2004><pubmed>14565977</pubmed></ref>や海馬[[スライス培養]]での[[CA1]][[錐体神経細胞]]の樹状突起の[[網状分子層]]への伸長を抑制する<ref name=Han2020><pubmed>32873638</pubmed></ref>。樹状突起形成におけるArf6活性の制御因子としては、GEFとして[[サイトへジン-1]] <ref name=Han2020><pubmed>32873638</pubmed></ref>, [[サイトへジン-2]] <ref name=Hernandez-Deviez2002><pubmed>12032543</pubmed></ref>、[[EFA6A]] <ref name=Sakagami2004><pubmed>15009133</pubmed></ref>が、GAPとしてADAP1 ([[centaurin α1]]) <ref name=Moore2007><pubmed>17635995</pubmed></ref>と[[ACAP3]]<ref name=Miura2016><pubmed>27330119</pubmed></ref>の関与が報告されている。Arf6による樹状突起形成制御機構として、Rac1を介した細胞骨格の制御<ref name=Hernandez-Deviez2002><pubmed>12032543</pubmed></ref>、JIP3やFIP3によるモータータンパク質の活性調節を介した小胞輸送の制御<ref name=Suzuki2010><pubmed>20493856</pubmed></ref><ref name=Yazaki2014><pubmed>24576489</pubmed></ref>, GDP結合型Arf6との結合能を持つRab-GAPの[[TBC1D24]]を介した経路の関与<ref name=Falace2014><pubmed>24469796</pubmed></ref>が報告されている。 === スパインの形成・維持 === スパイン(棘突起)は樹状突起に沿ったキノコ状の突起で、興奮性シナプスの主要な場である。スパインはアクチン細胞骨格に富み、神経入力依存性に形態を変化させることが知られており([[構造的可塑性]])、長期的な伝達効率の変化([[シナプス可塑性]])と密接に関連する。また、その形態異常と種々の神経発達障害との病態機序との関連性が指摘されている。これまでにArf1とArf6のスパインの形成・維持への機能関与が報告されている。 Arf1は[[PICK1]]との相互作用を介して、PICK1による[[Arp2/3]]依存的なアクチン重合の阻害を調節することでスパイン構造の制御に関わる<ref name=Rocca2013><pubmed>23889934</pubmed></ref>。GTP型Arf1はPICK1と結合し[[AMPA型グルタミン酸受容体]]([[AMPAR]])を[[シナプス後肥厚部]]([[PSD]])で複合体を形成している。[[NMDA型グルタミン酸受容体]]([[NMDAR]])依存的[[LTD]]の過程で、NMDA刺激によりGTP型Arf1が[[GIT1]]などのArf-GAPによりGDP型に変換される結果、PICK1はArf1との結合から解放され、それに代わりArp2/3と結合し、Arp2/3によるアクチン線維の重合を抑制することで、スパイン頭部の退縮が引き起こされる。 一方、Arf6 は、初代海馬培養細胞において、スパインの発達段階に応じて双方向性の作用を示す<ref name=Choi2006><pubmed>16672654</pubmed></ref><ref name=Kim2015><pubmed>25605715</pubmed></ref><ref name=Miyazaki2005><pubmed>16325184</pubmed></ref>。Arf6の活性化は、スパイン形成期(培養11-15日)において[[フィロポディア]]からスパインへの形成に促進的な作用を示すのに対して、スパイン維持期(培養17-20日)にはスパインの維持に対して抑制的に作用する<ref name=Choi2006><pubmed>16672654</pubmed></ref><ref name=Kim2015><pubmed>25605715</pubmed></ref><ref name=Miyazaki2005><pubmed>16325184</pubmed></ref>。発達期におけるArf6の活性化によるスパイン形成・成熟の促進機序としては、ホスホリパーゼDの活性化を介したRac経路によるアクチン細胞骨格の再編成<ref name=Kim2015><pubmed>25605715</pubmed></ref>や、細胞接着分子[[テレンセファリン]]の細胞膜からの取り込みによるフィロポディアからスパインへの成熟の促進<ref name=Raemaekers2012><pubmed>22781129</pubmed></ref>が考えられている。一方、Arf6による成熟期のスパイン維持の抑制機序として、成熟に伴うRacの発現低下とRhoの発現上昇によるRhoに対するArf6依存的なRac活性化経路の相対的な低下<ref name=Kim2015><pubmed>25605715</pubmed></ref>、GDP型Arf6の結合タンパク質である家族性[[てんかん]]原因遺伝子産物[[TBC1D24]]の関与<ref name=Lin2020><pubmed>32004315</pubmed></ref>が報告されている。Arf6のスパイン制御の上流活性化制御分子としては、Arf6-GEFとして[[EFA6A]]<ref name=Choi2006><pubmed>16672654</pubmed></ref><ref name=Raemaekers2012><pubmed>22781129</pubmed></ref>、BRAG2<ref name=Ansar2019><pubmed>31607425</pubmed></ref>が、Arf6-GAPとしてGIT1<ref name=Zhang2005><pubmed>15800193</pubmed></ref>、AGAP1<ref name=Arnold2016><pubmed>27713690</pubmed></ref>、ADAP1<ref name=Szatmari2021><pubmed>33139322</pubmed></ref>が関与する。 === 神経終末部でのシナプス小胞サイクル === シナプス小胞サイクルは、シナプス小胞のシナプス前膜へのドッキングと融合、エンドサイトーシスによる膜成分の回収、再利用などの種々のステップからなり、[[神経伝達物質]]の持続的な放出を可能にするための神経細胞特有の小胞輸送経路である。 Asheryら<ref name=Ashery1999><pubmed>9927699</pubmed></ref>は、[[アフリカツメガエル]]の[[神経筋接合部]]において、脊髄[[運動ニューロン]]へのサイトへジン-1 / [[msec7-1]]の過剰発現により、[[骨格筋]]の[[自発性シナプス電流]]頻度の増加と運動ニューロン刺激により誘発される[[興奮性シナプス後電位]]([[EPSC]])の振幅が増加することから、Arfの活性化がシナプス前部での神経伝達物質の放出に関与する可能性を初めて報告した。Kraussら<ref name=Krauss2003><pubmed>12847086</pubmed></ref>は、精製した[[シナプトソーム]]膜を用いた[[クラスリン]]被覆小胞の再構築実験系で、GTP結合型Arf6が[[PIP5Kγ]]の活性化を介して[[PI(4,5)P2]]の産生を増加させることにより、クラスリン被覆小胞の形成を促進することを示した。さらに、Tagliattiら<ref name=Tagliatti2016><pubmed>26731518</pubmed></ref>は、海馬初代培養細胞においてArf6のノックダウンにより、神経終末においてシナプス小胞の減少、エンドソーム様膜小器官の出現、アクティブゾーンにドッキングするシナプス小胞の増加が生じることが報告した。一連の研究から、Arf6はシナプス小胞のドッキングの調節やシナプス前膜からクラスリン依存的に回収されたシナプス小胞の膜成分の再利用のためのリサイクリング経路の決定などの種々のシナプス小胞サイクルの段階に関与するものと考えられている。サイトへジン阻害剤[[SecinH3]]によりArf6ノックダウンと同じ表現型を示すことから、Arf6の上流活性化因子として[[サイトへジンファミリー]]が考えられる<ref name=Tagliatti2016><pubmed>26731518</pubmed></ref>。また、Arf-GAPであるGITファミリー分子は、アクティブゾーンの構成分子としてPiccoloと複合体を形成し<ref name=Kim2003><pubmed>12473661</pubmed></ref>、[[Held萼状シナプス|ヘルドのカリックスシナプス]]前終末においてシナプス小胞の放出確率の調節に関与する<ref name=Montesinos2015><pubmed>26637799</pubmed></ref>。 一方、Arf1のラット[[副腎髄質]][[褐色細胞腫]]由来PC12細胞における[[有芯小胞]]の形成への機能関与の報告はある<ref name=Faundez1997><pubmed>9245782</pubmed></ref>が、クラスI/II Arfの神経細胞のシナプス小胞サイクルへの関与に関する実験証拠はない。 === シナプス可塑性 === [[シナプス可塑性]]のうち、[[長期増強]] ([[LTP]])と[[長期抑圧]] ([[LTD]])は、シナプス刺激に伴うシナプス後膜でのAMPARの長期的な発現量の増加と減少によりそれぞれ引き起こされるが、小胞輸送経路はAMPARのシナプス後膜での発現量を調節する主要な制御機構である。さらに、樹状突起スパイン内部のアクチン細胞骨格の再構築は、シナプス可塑性に伴う形態の変化とともに、細胞膜の湾曲、[[取り込み小胞]]の切断や輸送を介してシナプス後膜でのAMPARの動態と密接に関連する。 Arf1とArf6は、異なる機構を介して海馬の長期抑圧(LTD)に関与することが報告されている<ref name=Rocca2013><pubmed>23889934</pubmed></ref><ref name=Scholz2010><pubmed>20547133</pubmed></ref>。GTP結合型Arf1は、PICK1と結合しAMPARと複合体を形成しているが、NMDA刺激によりGIT1などによりGDP結合型に変換される結果、PICK1との結合が解除される。開放されたPICK1はArp2/3と結合しArp2/3依存的アクチン重合を阻害する。これによりスパインの退縮とともにAMPARの[[GluA2]]/[[GluA3|3]]サブユニットのエンドサイトーシスが促進され、 NMDAR依存的な海馬LTDが生じる<ref name=Rocca2013><pubmed>23889934</pubmed></ref>。一方、Arf6-GEFであるBRAG2は代謝型グルタミン酸受容体 (mGluR)刺激によりAMPARと複合体を形成し、Arf6をGTP型に変換する。その結果、活性化したArf6はAMPARのクラスリン依存的なエンドサイトーシスを促進することにより、海馬[[シャーファー側枝]]-CA1シナプスでのmGluR依存的なLTDに関与する<ref name=Scholz2010><pubmed>20547133</pubmed></ref>。また、BRAG2-Arf6経路は、mGluR依存的LTDのみならず、NMDA依存的LTDにおけるAMPARのエンドサイトーシスにも関与する<ref name=Scholz2010><pubmed>20547133</pubmed></ref>。 一方、海馬LTPへのArf小胞輸送の機能関与は、ブレフェルジンAによるクラスI/II Arfの活性化の阻害<ref name=Broutman2001><pubmed>11150316</pubmed></ref>やArf6-GAPであるADAP1ノックアウトマウス<ref name=Szatmari2021><pubmed>33139322</pubmed></ref>やAGAP3の[[ノックダウン]]実験<ref name=Oku2013><pubmed>23904596</pubmed></ref>から示唆されているが、直接的な実験証拠はない。 === 髄鞘形成 === [[髄鞘]]は[[支持細胞]]([[末梢神経]]では[[シュワン細胞]]、中枢神経系では[[オリゴデンドロサイト]])の細胞膜からなる軸索を包む層状構造で、[[跳躍伝導]]や軸索の機械的な損傷から保護する役割を持つ。シュワン細胞の髄鞘形成には、[[Neuregulin-1]]と[[Erb2]]/[[Erb3|3]]を介する軸索―グリア間相互作用が不可欠である。山内らの一連の研究<ref name=Torii2024><pubmed>38894552</pubmed></ref>から、シュワン細胞において、Arf6は、[[Fyn]]によるリン酸化により活性化したサイトへジン-1とサイトへジン-2の作用でGTP結合型に変換され、アクチン細胞骨格の制御や髄鞘膜への膜成分の小胞輸送を介して髄鞘形成に促進的に作用する<ref name=Miyamoto2022><pubmed>35077201</pubmed></ref><ref name=Yamauchi2012><pubmed>23012656</pubmed></ref>。[[坐骨神経]]において、サイトへジン-1の発現は生後直後にピークを示し発達とともに徐々に低下するのに対して、サイトへジン-2の発現は生後の発達に伴い増加することから<ref name=Torii2015><pubmed>25824033</pubmed></ref><ref name=Yamauchi2012><pubmed>23012656</pubmed></ref>、サイトへジン-1が髄鞘形成の早期に、サイトへジン-2が髄鞘形成の中後期にArf6の活性化因子として機能する。さらに、胎生12日齢のサイトへジン-1のノックアウトマウスにおいて、未熟なシュワン細胞の末梢神経に沿った腹側への移動の遅延が観察され、Fyn→サイトヘジン-1→Arf6経路が発生期の未熟なシュワン細胞の細胞移動にも関与することが示唆されている<ref name=Yamauchi2012><pubmed>23012656</pubmed></ref>。 一方、BIG1により活性化されたArf1は、[[ミエリンタンパク質ゼロ]]([[MPZ]])などの髄鞘タンパク質のアダプタータンパク質複合体AP-1依存的な小胞輸送を介して、髄鞘の初期形成段階に関わる<ref name=Miyamoto2018><pubmed>29740613</pubmed></ref>。 中枢神経系におけるオリゴデンドロサイトによる髄鞘形成にも、Arf6はシュワン細胞のそれとは異なる制御機構を介して機能関与する。未熟なオリゴデンドロサイトにおいてArf6は、ACAP2による不活性化状態からサイトへジン-2により活性化され、オリゴデンドロサイトの分化と髄鞘形成を促進的に作用する<ref name=Miyamoto2014><pubmed>24600047</pubmed></ref>。さらに、ネスチン-Creマウスとの交配による中枢神経系特異的Arf6ノックアウトマウスは、[[脳梁]]や[[海馬采]]での有髄神経の割合と髄鞘の厚さの低下を示す。この髄鞘形成障害は[[タウ]]-Creマウスとの交配による神経細胞特異的Arf6ノックアウトでも観察されるが、[[2',3'-環状ヌクレオチド3'-ホスホジエステラーゼ]] ([[CNP]])-[[Cre]]マウスとの交配によるオリゴデンドロサイト特異的ノックアウトでは観察されないことから、神経細胞のArf6によるオリゴデンドロサイトの髄鞘形成の調節機構の存在が考えられた。この分子機序として、神経細胞に発現するArf6が神経細胞からの[[線維芽細胞成長因子2]] ([[FGF2]])などの液性因子の分泌を調節することにより、[[オリゴデンドロサイト前駆細胞]]の細胞移動と髄鞘形成を間接的に制御する可能性が示されている<ref name=Akiyama2014><pubmed>25144208</pubmed></ref>。 == 神経疾患との関わり == === 脳形成障害 === Sheenら(2004)は、小脳症と脳室周囲異所性灰白質を持つトルコ家系からクラスI Arfに対するGEFであるBIG2/ARFGEF2のホモ接合型[[ミスセンス変異]]を同定した<ref name=Sheen2004><pubmed>14647276</pubmed></ref>。さらにゲノムの翻訳部領域においてミスセンス変異が生じることが通常ないゲノム領域(missense-depleted region)に着目した、先天性脳構造異常の患者に対する[[エクソーム解析]]により、[[MRI]]で脳室周囲結節性異所性灰白質を示す発達障害とともに[[注意欠如・多動性障害]]を示す男児からARF1のGDP結合部位のミスセンス変異(p.Tyr35His)が同定された<ref name=Ge2016><pubmed>28868155</pubmed></ref>。その後、ARF1遺伝子のde novoミスセンス変異がさらに13ヶ所見出されている<ref name=deSainteAgathe2023><pubmed>37185208</pubmed></ref><ref name=Ishida2023><pubmed>36345169</pubmed></ref>。ARF1遺伝子変異を持つ患者は、[[知的障害]]とともに小脳症、異所性灰白質、脳梁の菲薄化などの種々の程度の脳構造異常を伴う。小脳症と脳室周囲異所性灰白質の機序として、BIG2→ARF1経路の障害による脳室上皮細胞間の細胞接着を介した脳室帯構造維持の破綻や神経幹細胞の細胞増殖の障害とともに脳室帯離脱後の細胞移動障害などが考えられている。 また、[[常染色体顕性遺伝]]性の先天性脳形成異常の患者からARF3遺伝子の2種類のde novoのミスセンス変異が同定されている<ref name=Sakamoto2021><pubmed>34346499</pubmed></ref>。ARF3遺伝子変異患者が呈した脳形成障害は、進行性の[[大脳]]や[[脳幹]]の萎縮あるいは非進行性の小脳低形成で2症例間で異なるが、いずれの患者も著明な発育遅延、てんかん、知的障害を伴う。 === 先天性知的障害 === 2008年に重度の知的障害と発育障害を伴う[[ヒプスアリスミア]]の脳波所見を示す[[点頭てんかん]]([[ウエスト症候群]])様の女児において、[[X染色体]]と[[20番染色体]]間との[[転座]](t(X;20)(p11.2;q11.2))が見出され、そのX染色体側の切断点にArf-GEFであるBRAG1/IQSEC2遺伝子が位置することが明らかになった<ref name=Morleo2008><pubmed>21479374</pubmed></ref>。さらに2009年にShoubridgeらは、X連鎖性非症候群性知的障害を持つ4家系の全X染色体エクソーム解析によりBRAG1/IQSEC2の4種のミスセンス変異を報告した<ref name=Shoubridge2010><pubmed>20473311</pubmed></ref>。4種のミスセンス変異のうち3カ所はグアニンヌクレオチド交換能に必須であるSec7ドメインに、残りの1カ所は[[カルモジュリン]]結合部位である[[IQモチーフ]]に存在し、いずれもArf6に対するGEF活性の低下を招く。現在、BRAG1/IQSEC2変異は70種類以上報告され、主要な先天性知的障害原因遺伝子のひとつとなっている。BRAG1/IQSEC2変異患者は、知的障害とともに、てんかんや[[自閉症スペクトラム]]を含む精神障害を伴うことが多い。またIQSEC2/BRAG1領域はX染色体不活化を逃れる領域で、BRAG1/IQSEC2のヘテロ接合性変異を持つ女性患者は様々な度合いの症状を示す<ref name=Shoubridge2019><pubmed>30328660</pubmed></ref>。さらにBRAG/IQSECファミリーに属するBRAG2/IQSEC1とBRAG3/IQSEC3も常染色体潜性遺伝形式を示す知的障害の原因遺伝子として同定されている<ref name=Ansar2019><pubmed>31607425</pubmed></ref><ref name=Monies2019><pubmed>31130284</pubmed></ref>。 === アルツハイマー病 === [[アルツハイマー病]]の主要な病理学的特徴である[[老人斑]]の主成分である[[アミロイドβタンパク質]](Aβ)は、[[アミロイド前駆タンパク質]]([[APP]])が[[βセクレターゼ]]([[BACE1]])と[[γセクレターゼ]]の2種類のタンパク質分解酵素により段階的に切断され産生される。APPとBACE1は、いずれも一回膜貫通型タンパク質で細胞膜とエンドソーム間を小胞輸送される過程で、同じ細胞内コンパートメントで出会いAPPの分解反応が起こる。 Arf6のAβ産生への関与に関して、Arf6がBACE1のクラスリン非依存的経路を介した細胞膜から細胞内への取り込みと初期エンドソームへの輸送を制御することにより、初期エンドソームでのAPPの切断を制御することがHeLa細胞を用いた発現系で初めて報告された <ref name=Sannerud2011><pubmed>21825135</pubmed></ref>。しかしながら、その後、BACE1の細胞膜からの取り込みの主要な経路はクラスリン依存的経路であるとの報告がある<ref name=Chia2013><pubmed>23773724</pubmed></ref>。また、BACE1はC末細胞内領域の酸性クラスター・ジロイシンモチーフ(DISLL)を介してArfの主要な下流エフェクターであるコートタンパク質GGAと相互作用することにより、ArfによるBACE1の小胞輸送の制御を介したAβ産生への関与の可能性も報告されている<ref name=Wahle2005><pubmed>15886016</pubmed></ref>。 一方、APPのArf6による[[マクロピノサイトーシス経路]]を介した細胞内への取り込みが報告されている<ref name=Tang2015><pubmed>26170135</pubmed></ref>。APPはアダプタータンパク質である[[Mint]]タンパク質([[Mint1]]-[[Mint3|3]])や[[Fe65]]との結合モチーフ(XYNPXY)をC末細胞内領域に持ち、これらのアダプタータンパク質との相互作用を介した細胞膜への小胞輸送の制御を受けることが報告されている<ref name=Sabo1999><pubmed>10075692</pubmed></ref><ref name=Shrivastava-Ranjan2008><pubmed>17959829</pubmed></ref>。興味深いことにMintとFe65はいずれもArfの結合タンパク質(MintはすべてクラスのGTP結合型Arfとの結合能を、Fe65はGDP結合型Arf6との結合能を持つ)であり、APPの細胞内輸送におけるArfの関与の可能性が示唆されている<ref name=Cheung2014><pubmed>24056087</pubmed></ref><ref name=Hill2003><pubmed>12842896</pubmed></ref>。 また、Arf1とArf4が、新たに合成されたBACE1のゴルジ装置から細胞膜への輸送を介して、APPのプロセッシングに関与することがHeLa細胞で報告されている<ref name=Tan2019><pubmed>30639513</pubmed></ref>。また、クラスIとII ArfのGEFであるGBF1がAPPのゴルジ装置から細胞膜への輸送に関与することが、大脳皮質初代培養系と[[SH-SY5Y]]細胞を用いた実験系で報告されている<ref name=Liu2019><pubmed>31111546</pubmed></ref>。いずれも生体での機能的重要性は不明である。 さらに、アルツハイマー病患者の海馬[[CA3]]-[[CA4]]領域の錐体ニューロンにおけるArf6の免疫染色性の増加が報告されているが、症例数は少数(n=8)で信頼性に乏しい<ref name=Tang2015><pubmed>26170135</pubmed></ref>。 === 筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭型認知症 === C9orf72遺伝子のイントロン1のGGGGCCの繰り返し配列の異常な伸長は、[[筋萎縮性側索硬化症]]と[[前頭側頭葉型認知症]]の最も多い遺伝的要因の一つである。C9orf72の生理機能に関しては不明な点が多いが、C9orf72との結合タンパク質の探索により、Arf1とArf6が同定されている<ref name=Sivadasan2016><pubmed>27723745</pubmed></ref>。また、脊髄運動ニューロンの初代培養系において、C9orf72はArf6の活性化を抑制することにより、Arf6の下流エフェクターであるRac1-[[LIMキナーゼ]]による[[コフィリン]]の[[リン酸化]]を抑制する。その結果として成長円錐でのアクチンのリモデリングと軸索の伸長が促進する<ref name=Sivadasan2016><pubmed>27723745</pubmed></ref>。さらにC9orf72はArfGAPドメインを持たないが、[[SMCR8]]および[[WDR41]]と複合体を形成し、Arf1、Arf5、Arf6に対するArf-GAP活性を示す<ref name=Su2021><pubmed>34145292</pubmed></ref><ref name=Su2020><pubmed>32848248</pubmed></ref>。これらの結果に一致して、運動ニューロン細胞株[[NSC-34]]細胞においてC9orf72の発現抑制によりGTP結合型Arf6が増加すること、C9orf72遺伝子変異を持つALS患者由来[[iPS細胞]]における軸索伸長の抑制が[[恒常活性型]]Arf6の発現により回復することが示されている<ref name=Sivadasan2016><pubmed>27723745</pubmed></ref>。しかしながら、C9orf72遺伝子を原因とする筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭葉型認知症の発症や病態におけるArfの役割は不明である。 === α-シヌクレイン関連疾患 === [[α-シヌクレイン]]が細胞内に凝集し蓄積することにより引き起こされる細胞死は、[[パーキンソン病]]、[[レビー小体型認知症]]、[[多系統萎縮症]]などの[[シヌクレイノパチー]]として総称される神経変性疾患の原因となる。 α-シヌクレインの凝集と細胞死を引き起こす機序として、Arf6によるPIP5Kγの活性化の関与が報告されている<ref name=Horvath2023><pubmed>37838947</pubmed></ref>。初代神経細胞において、[[家族性パーキンソン病]]の原因となる変異を持つα-シヌクレイン(A53T)の発現や[[α-シヌクレインフィブリル]]を暴露することにより、PIP5KγがArf6依存的に細胞膜にリクルートされPI(4,5)P2の産生が促進され、その結果、α-シヌクレインのさらなる凝集とPI(4,5)P2代謝産物である[[イノシトール3リン酸]]([[IP3]])の増加による[[IP3受容体]]を介した細胞内[[Ca2+|Ca<sup>2+</sup>]]の増加が引き起こされる。さらに変異α-シヌクレイン(A53T)やα-シヌクレインフィブリルは、小胞体のIP3受容体と[[ミトコンドリア]]の[[電位依存性アニオンチャンネル]]とのカップリングを促し、ミトコンドリア内でのCa<sup>2+</sup>の上昇と[[活性酸素種]]の生成が促進され、[[細胞死]]が引き起こされるモデルが提唱されている<ref name=Horvath2023><pubmed>37838947</pubmed></ref>。 === 末梢神経障害(軸索型ニューロパチー) === クラスIとクラスII Arfに対するGEFであるGBF1の遺伝子変異が[[顕性遺伝性ニューロパチー]]を示す4家系の患者から見出されている<ref name=Mendoza-Ferreira2020><pubmed>32937143</pubmed></ref>。その臨床像は多彩で、20~50歳代で発症し、運動神経のみの障害(遺伝性運動ニューロパチー)あるいは運動神経と感覚神経の両方の障害(Charcot-Marie-Tooth病2型)を呈し、主に[[遠位筋]]の筋力低下と萎縮を伴う。4家系から見出された4種類の遺伝子変異の部位は主にGBF1のゴルジ装置への局在に関わるHDB (homology downstream of the Sec7) 1領域とHDB2領域に存在し、患者から樹立した[[線維芽細胞]]株はゴルジ装置の細胞質全体への分散などの構造異常を示す<ref name=Mendoza-Ferreira2020><pubmed>32937143</pubmed></ref>。 == 参考文献 ==
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