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TANC、ヒトタンパク質;Tanc、mouse/ratタンパク質;tanc、zebrafishタンパク質。 {{box|text= TANCはTANC1とTANC2からなる、細胞内タンパク質ファミリーである。ショウジョウバエにはホモログであるRolling Pebbles(Rols)が存在する。P-loop NTPaseドメイン、ankyrin repeat(ANK)、tetratricopeptide repeat(TPR)などからなる多ドメインタンパク質である。樹状突起スパインやシナプス後肥厚部に局在し、PSD-95をはじめとする多数のタンパク質と相互作用し、足場タンパク質として機能する。特に、STAND/NACHT型ATPaseに属し、ATPの結合・加水分解に伴う構造変化や自己会合状態の変化を介して機能が調節される。このことから、TANCは単なる静的な足場タンパク質としてだけではなく、シナプス後肥厚部におけるタンパク質複合体の形成や動態を調節する分子スイッチとして機能すると考えられている。TANCは樹状突起スパインの形成、シナプス可塑性、学習・記憶などに関与するほか、特にTANC2の機能異常は、自閉スペクトラム症、知的発達症、発達遅滞などを含む神経発達症と関連する。したがってTANCは、シナプスの構造・機能と脳発達を結びつける分子である。}} == TANCとは == TANCは、2000年頃に[[シナプス後部]]における局所翻訳系を明らかにする目的で行われた、[[シナプス後肥厚部]]に付随して精製されるmRNA種の網羅的同定により発見された。コードされるタンパク質はC末端にPDZドメイン結合モチーフ(-ESNV)を有していたことから、PSD-95などのPSD足場タンパク質と相互作用し、PSDと深く関わるタンパク質である可能性が考えられた。全長タンパク質は3個のテトラトリコ・ペプチドリピート(TPR)、10個のアンキリンリピート(ANK)、および1個のコイルド・コイル構造を有していたことから、TANC(a protein containing TPR, ANK, and coiled-coil)と命名された。最初の論文でTANCの名称とPSDへの局在、およびPSD-95をはじめとする複数のPSD足場タンパク質との結合が報告され、PSDの形態や機能の制御に関与している可能性が示唆された<ref name="Suzuki2005"><pubmed>15673434</pubmed></ref>。その後、N末端側にP-loop ATPaseドメインが存在することが指摘され、TANCがSTAND ATPaseファミリーの一員であることが示された<ref name="Gasparini2017"><pubmed>28754924</pubmed></ref><ref name="Zhong2026"><pubmed>42035792</pubmed></ref>。これにより、TANCに対する従来の概念は大きく変化することとなった。 == サブファミリー == 現在知られているTANCサブファミリーは、TANC1とTANC2の2つのみである。TANC1とTANC2はアミノ酸配列の約50%が相同であり、ドメイン構造もほぼ共通している。進化的には、共通祖先遺伝子の遺伝子重複によって生じたパラログであると考えられている。また、DrosophilaにはTANCのホモログであるRolsが知られている<ref name="AvirneniVadlamudi2012"><pubmed>22182840</pubmed></ref><ref name="Guo2019"><pubmed>31616000</pubmed></ref>。アイソフォームについてはいくつか報告されている('''表1''')。 {| class="wikitable" id="表1" |+ 表1.主要なTANCアイソフォーム ! タンパク質 !! アイソフォーム !! UniProt ID !! 長さ !! 備考 |- | rowspan="2" | TANC1 | TANC1 標準[[アイソフォーム]] | Q9C0D5-1 | 約1861[[アミノ酸]] | 全長 |- | TANC1 アイソフォーム 2 | Q9C0D5-2 | 約1755アミノ酸 | 122–227残基の領域を欠損 |- | rowspan="4" | TANC2 | TANC2 標準アイソフォーム | Q9HCD6-1 | 約1990アミノ酸 | 全長 |- | TANC2 アイソフォーム 2 | Q9HCD6-2 | 約2000アミノ酸 | 1225残基付近に挿入 |- | TANC2 アイソフォーム 3 | Q9HCD6-3 | 約971アミノ酸 | 短縮型(C末端を大きく欠損) |- | TANC2 アイソフォーム 4 | Q9HCD6-4 | 約1010アミノ酸 | 短縮型(C末端を大きく欠損) |} == 構造 == TANC1、TANC2ともに、N末端側からP-loop ATPaseドメイン、アンキリンリピート、テトラトリコペプチドリピート、コイルド・コイル、C末端PDZ結合モチーフを持つ('''図1''')<ref name="Gasparini2017" />。 === N末端領域 === N末端およびC末端領域は天然変性領域(intrinsically disordered region:IDR)であり、TANCパラログ間での配列同一性は比較的低く、これらの領域が機能的に分化している可能性が示唆されている。哺乳類、鳥類、および魚類のTANC2タンパク質においては、TANC1と共通する54アミノ酸残基からなる領域が認められる。この配列には、カゼインキナーゼ1 (CK1)リン酸化部位と、2つのSH3結合モチーフが含まれる。 TANC配列内には、いくつかの推定線状モチーフが同定されている。例えば、ユビキチン依存性分解の開始に関与すると考えられる2つの高度に保存されたモチーフや、プロテインホスファターゼ1(PP1)のドッキングモチーフであるRVxFモチーフなどが存在する。また、高度に保存されたセリン豊富領域(serine-rich region:SRR)には、GSK3、MAPK、NEK2などのキナーゼによって認識されるリン酸化部位が含まれている('''図1''')。 === P-loop型ヌクレオシド三リン酸加水分解酵素(NTPase)ドメイン === TANC1およびTANC2のN末端側に機能的なP-loop NTPaseドメインが存在することが予測され、TANCがSTAND(Signal Transducing ATPases with Numerous Domains)NTPaseファミリー<ref name="Leipe2004"><pubmed>15381417</pubmed></ref>に属する可能性が指摘された<ref name="Gasparini2017" />。さらに、構造解析の結果、TANCはSTAND ATPaseファミリーのNACHT系統<ref name="Leipe2004" />(STAND/NACHT ATPase)に属し、ATPase活性をもつことが実証された('''図2''')<ref name="Zhong2026" />。STAND ATPaseのNACHT系統(NAIP, CIITA, HET-E, and TP1)は、STAND ATPaseを構成する主要な系統の一つである。 NTPaseには多種のタイプが存在するが、分類するとSTAND/NACHT ATPaseはP-loop型のASCE系統(Additional StrandとCatalytic Glutamateを持つ系統)のNTPaseの一員である('''図2''')<ref name="Kozlova2022"><pubmed>36291556</pubmed></ref><ref name="Leipe2004" />。STAND NTPaseの特徴的ドメイン構造を'''図3'''に示した。STAND ATPaseファミリーのタンパク質は、保存されたP-loop型ヌクレオチド結合領域(特徴的なα/βフォールドを持つ)とC末端側のヘリカルモジュール(helical third domain of STAND、HETHS)からなる基本構造を特徴とし、しばしば反復配列型の相互作用ドメインを含む巨大な多ドメインタンパク質として存在する。これらは、アポトーシス、免疫、ストレス応答などに関わるシグナル伝達経路において、ヌクレオチドの結合・加水分解に伴う構造変化を利用して機能を制御する分子スイッチとして働くことが知られている<ref name="Leipe2004" />。STAND ATPaseの多くでは、ヌクレオチド結合状態の変化に伴ってタンパク質の構造状態が変化し、それがオリゴマー化や他のドメインの配置変化、さらには下流因子との相互作用の制御につながる<ref name="Lisa2019"><pubmed>30788511</pubmed></ref><ref name="Zhong2026" />。TANCも同様に、ATPの結合・加水分解に伴う構造変化によってその活性状態が制御されると考えられるようになった。 === アンキリンリピート=== アンキリンの各リピートは、約33アミノ酸残基からなる比較的保存性の高いモチーフであり、他のタンパク質との相互作用に関与する<ref name="Sedgwick1999"><pubmed>10431175</pubmed></ref>。TANC1およびTANC2はいずれも11個のANKを有する。ANKの基本構造はTANC1とTANC2でよく保存されているが、TANC2では第5~第6リピート間に特徴的な長い負電荷ループが存在する。このループは進化的に保存されており、TANC2に特有の結合相手や機能に関与している可能性が高い。また、ANKドメイン表面の電荷分布にはTANC1とTANC2で違いがあり、これが結合タンパク質の選択性に影響している可能性がある。 === テトラトリコペプチドリピート=== TANCには、3個のテトラトリコペプチドリピートが存在する。各モジュールは34アミノ酸残基から構成される2本の逆平行αヘリックスから形成される。これらのTPRモジュールが連続して配置されることで、超らせん状(superhelical)のヘリックス-ターン-ヘリックス構造を形成する。テトラトリコペプチドリピートは一般に、タンパク質間相互作用やタンパク質複合体の形成に関与することが知られている<ref name="DAndrea2003"><pubmed>14659697</pubmed></ref><ref name="Main2003"><pubmed>12737816</pubmed></ref>。過去には、テトラトリコペプチドリピートのC末端側にコイルド・コイル領域が存在すると考えられていたが、現在では、これはテトラトリコペプチドリピートの末端を安定化する「C末端キャップヘリックス構造」である可能性が高いと考えられている<ref name="Gasparini2017" />。 === C末端領域 === C末端領域全体としての配列保存性は他の領域と比べて低いが、機能的な短いモチーフは保存されている。特に、最末端にはTANC1、TANC2間で保存されたPDZ結合モチーフが認められている。このモチーフは、TANCとPSD-95、SAP97、およびScribble planar cell polarity protein(SCRIB)との相互作用を仲介することが示されている<ref name="Han2010" /><ref name="Luck2011"><pubmed>22069443</pubmed></ref><ref name="Suzuki2005" />。 両TANCのC末端領域には、ポリグルタミン領域(poly-Q region)、それに続くプロリン豊富領域(proline-rich region)、およびセリン豊富領域(serine-rich region:SRR)が存在する。また、すべてのTANCホモログのC末端には、MAPK結合部位およびWWドメイン結合部位が予測されている。これらの部位は部分的に重なり合っており、さまざまなキナーゼによってリン酸化されると予測される領域に位置している。さらに、複数の14-3-3タンパク質結合モチーフもC末端のさまざまな位置に予測されている。このように、TANCのC末端領域には、多数のシグナル伝達およびタンパク質間相互作用に関与するモチーフが存在する。 TANC2のC末端には、TANC1にはみられない特徴として、約12残基間隔で並ぶ27個の保存されたチロシン残基が存在する。詳細な解析から、約12アミノ酸残基を単位とする短い反復モジュールの存在が示唆され、チロシン残基がその構造を特徴づける中心的な要素であることが明らかになった。チロシンはリン酸化を受けやすいことから、これらの反復モジュールは、TANC2特異的なシグナル伝達や調節に関与する可能性が考えられている。 == 発現と細胞内分布 == TANC1およびTANC2は主として脳に広範な発現が認められる<ref name="Han2010" /><ref name="Suzuki2005" />。[[樹状突起]]、[[樹状突起スパイン]]およびPSDに局在するほか、[[軸索終末]]にも検出されている<ref name="Han2010" />。さらに、生化学的に調製したPSD画分からもTANCが検出されている<ref name="Han2010" /><ref name="Suzuki2005" />。 Tanc1とTanc2は、時空間的な発現パターンおよび機能において顕著な違いを示す<ref name="Gasparini2017" /><ref name="Han2010" /><ref name="Kim2021"><pubmed>33976205</pubmed></ref>。マウス脳の発達過程では、Tanc1の発現は出生後に著しく増加し、成体期に高い発現レベルに達する<ref name="Han2010" /><ref name="Kim2021" /><ref name="Zhong2026" />。これに対してTanc2は、脳発達の初期段階で強く発現し、胎生期に高い発現を示す<ref name="Han2010" /><ref name="Zhong2026" />。 発生期ヒト大脳皮質のsingle-cell RNA-seq解析では、TANC2は興奮性ニューロンに加えて[[放射状グリア]](radial glia)にも発現が認められ、TANC1は放射状グリアにさらに強い発現を示すことが報告されている<ref name="Guo2019" />。一方、マウス[[海馬]]由来の初代培養系では、Tanc2はglia-enriched cell populationにも発現するものの、その発現量はニューロンと比較して著しく低いことが示されている<ref name="Kim2021" />。 また、ショウジョウバエでは、TANC1/TANC2オルソログであるRolsは、主としてグリア細胞に発現することが報告されている<ref name="Guo2019" />。 == 機能 == === 足場タンパク質として === C末端にPDZドメイン結合モチーフを有することは、TANCがPSDにおける足場タンパク質複合体の形成に関与する可能性を示唆している。実際、TANCが精製PSD画分に存在すること<ref name="Han2010" /><ref name="Suzuki2005" />、免疫電子顕微鏡法(pan-TANC抗体を使用)によりTANCがPSDに局在すること<ref name="Han2010" />、さらに免疫沈降法などによりPSD構成タンパク質との相互作用が示されていること<ref name="Han2010" /><ref name="Suzuki2005" />は、この可能性を支持する。 TANC1およびTANC2の相互作用タンパク質の報告が一覧にまとめられ(表2)、また相互作用タンパク質候補(表3)も、整理・予測されている<ref name="Gasparini2017" />。相互作用タンパク質には、TANC1またはTANC2のいずれか一方について報告されているものがある一方で、両者に共通するものも認められる。このことは、TANC1およびTANC2が共通する機能に加えて、それぞれ異なるタンパク質複合体の形成に関与する可能性を示唆している。 {| class="wikitable" id="表2A" |+ 表2A.TANCと相互作用するタンパク質 ! 機能分類 !! 遺伝子記号 !! タンパク質名(UniProt英語名) !! 結合対象 |- | rowspan="5" | [[中心体]]の構築、[[繊毛]]の形成 | [[CEP120]] | 120 kDa中心体タンパク質(Centrosomal protein of 120 kDa) | TANC2 |- | [[CEP128]] | 中心体タンパク質128(Centrosomal protein 128) | TANC1 |- | [[CNTRL]] | セントリオリン(Centriolin) | TANC1 |- | [[NINL]] | ナイネイン様タンパク質(Ninein-like protein) | TANC1 |- | [[PCM1]] | 中心小体周辺物質タンパク質1(Pericentriolar material 1 protein) | TANC1 |- | [[繊毛内輸送]] | [[INPP5E]] | イノシトールポリリン酸-5-ホスファターゼE(Inositol polyphosphate-5-phosphatase E) | TANC1 |- | rowspan="3" | [[細胞骨格]]の構築 | [[INA]] | αインターネキシン(Alpha-internexin) | TANC1 |- | [[SPTAN1]] | 非赤血球型スペクトリンα鎖1(Spectrin alpha chain, non-erythrocytic 1) | TANC1 |- | [[MAPRE1]] | 微小管結合タンパク質RP/EBファミリーメンバー1(Microtubule-associated protein RP/EB family member 1) | TANC2 |- | rowspan="10" | [[グルタミン酸受容体]]シグナル伝達 | [[CaMKII|CAMK2A]] | カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII αサブユニット(Calcium/calmodulin-dependent protein kinase type II subunit alpha) | TANC1 |- | [[CASK]] | 細胞膜表在性タンパク質CASK(Peripheral plasma membrane protein CASK) | TANC1 |- | [[DLGAP1]] | Disks large結合タンパク質1(Disks large-associated protein 1) | TANC1 |- | [[AMPA型グルタミン酸受容体|GRIA1]] | グルタミン酸受容体1(Glutamate receptor 1) | TANC1 |- | [[GRIP1]] | グルタミン酸受容体相互作用タンパク質1(Glutamate receptor-interacting protein 1) | TANC1 |- | [[HOMER1]] | ホーマータンパク質ホモログ1(Homer protein homolog 1) | TANC1 |- | [[NMDA型グルタミン酸受容体|GRIN2B]] | イオンチャネル型グルタミン酸受容体NMDA型2B(Glutamate receptor ionotropic, NMDA 2B) | TANC1 |- | [[PSD-95|DLG4]] | Disks largeホモログ4(Disks large homolog 4) | TANC1&2 |- | [[SAP97|DLG1]] | Disks largeホモログ1(Disks large homolog 1) | TANC1&2 |- | [[SHANK1]] | SH3ドメインおよび複数のアンキリンリピートドメインをもつタンパク質1(SH3 and multiple ankyrin repeat domains protein 1) | TANC1 |- | rowspan="2" | グルタミン酸受容体・[[Hippo経路|Hippo]]シグナル伝達 | [[PPP1CC]] | セリン/スレオニンプロテインホスファターゼ1触媒サブユニットγアイソフォーム(Serine/threonine-protein phosphatase 1 catalytic subunit gamma isoform) | TANC2 |- | [[YWHAB]] | 14-3-3タンパク質β/α(14-3-3 protein beta/alpha) | TANC2 |- | グルタミン酸受容体・Hippo・[[Wnt]]シグナル伝達 | [[PPP1CA]] | セリン/スレオニンプロテインホスファターゼ1触媒サブユニットαアイソフォーム(Serine/threonine-protein phosphatase 1 catalytic subunit alpha isoform) | TANC2 |- | rowspan="2" | Hippo経路 | [[LATS2]] | セリン/スレオニンプロテインキナーゼLATS2(Serine/threonine-protein kinase LATS2) | TANC2 |- | [[ZYX]] | ザイキシン(Zyxin) | TANC2 |- | [[メッセンジャーRNA|mRNA]]の[[核外輸送]] | [[NXF1]] | 核RNA輸送因子1(Nuclear RNA export factor 1) | TANC1 |- | 核外輸送 | [[XPO1]] | エクスポーチン1(Exportin-1) | TANC2 |- | [[核内受容体]]シグナル伝達 | [[NR2C2]] | 核内受容体サブファミリー2グループCメンバー2(Nuclear receptor subfamily 2 group C member 2) | TANC2 |- | [[セントロメア]]における[[ヌクレオソーム]]形成 | [[CENPQ]] | セントロメアタンパク質Q(Centromere protein Q) | TANC2 |- | rowspan="4" | [[平面内細胞極性]]経路 | [[PAK7]] | セリン/スレオニンプロテインキナーゼPAK7(Serine/threonine-protein kinase PAK 7) | TANC2 |- | [[PRICKLE1]] | プリックル様タンパク質1(Prickle-like protein 1) | TANC1&2 |- | [[PRICKLE2|PRICKLEZ]] | プリックル様タンパク質2(Prickle-like protein 2) | TANC1&2 |- | [[SCRIB]] | スクリブルホモログ(Scribble homolog) | TANC1 |- | [[Rap2]]を介するシグナル伝達およびWntシグナル伝達 | [[TNIK]] | TRAF2およびNCK相互作用プロテインキナーゼ(TRAF2 and NCK-interacting protein kinase) | TANC1 |- | Rap2を介するシグナル伝達 | [[MINK1]] | Misshapen様キナーゼ1(Misshapen-like kinase 1) | TANC1 |- | [[翻訳]]の調節 | [[FMR1]] | 脆弱Xメッセンジャーリボ核タンパク質1(Fragile X messenger ribonucleoprotein 1) | TANC2 |- | [[RNA]]を介する[[遺伝子サイレンシング]] | [[MOV10]] | RNAヘリカーゼMOV-10(RNA helicase MOV-10) | TANC1 |- | [[スプライソソーム]]の形成 | [[CDC5L]] | 細胞分裂周期5様タンパク質(Cell division cycle 5-like protein) | TANC2 |- | [[ユビキチン]]を介する分解 | [[FBXW11]] | F-box/WDリピート含有タンパク質11(F-box/WD repeat-containing protein 11) | TANC1 |- | [[小胞輸送]] | [[SPIRE2]] | スパイアタンパク質ホモログ2(Protein spire homolog 2) | TANC2 |- | Wnt/Winglessシグナル伝達、繊毛の形成 | [[CBY1]] | チビータンパク質ホモログ1(Protein chibby homolog 1) | TANC2 |} {| class="wikitable" id="表2B" |+ 表2B.TANCと相互作用するタンパク質クラス候補 ! 推定される相互作用相手 !! ドメイン構成 !! TANC内の推定相互作用モチーフ/領域 |- | [[サイクリン依存性キナーゼ]](CDK) | [[プロテインキナーゼ]] | CDK認識[[リン酸化]]モチーフ |- | [[アクチン|Gアクチン]](G-actin) | アクチンドメイン | アクチン/WH2関連結合モチーフ |- | [[サイクリン]](Cyclins) | サイクリンN末端ドメイン | サイクリンドッキングモチーフ |- | [[MAPキナーゼ|分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ]](MAPK) | プロテインキナーゼ | MAPKドッキングモチーフ |- | [[WWドメイン]]含有タンパク質(WW domain-containing protein) | WWドメイン | WWドメイン認識モチーフ |- | [[Atg8]]タンパク質ファミリー(Atg8 protein family) | [[オートファジー]]関連タンパク質 | LIR(LC3/Atg8結合)モチーフ |- | [[カゼインキナーゼ1]](CK1) | プロテインキナーゼ | CK1認識リン酸化モチーフ |- | [[GSK3|グリコーゲン合成酵素キナーゼ3]](GSK3) | プロテインキナーゼ | GSK3認識リン酸化モチーフ |- | [[NEK2|NIMA関連キナーゼ2]](NEK2) | プロテインキナーゼ | NEK2認識リン酸化モチーフ |} 相互作用タンパク質の中には複数のタンパク質キナーゼやタンパク質ホスファターゼが含まれていることから、TANC自身のリン酸化状態、あるいはTANCを含むタンパク質複合体の構成が、リン酸化・脱リン酸化によって制御される可能性も考えられる。これらの相互作用に関与すると推定されるTANC上の部位の一部を図1に示した。 === STAND NTPaseファミリータンパク質としての側面 === 発見当初、TANCは酵素活性を持たないPSD足場タンパク質と考えられていたが、その後の解析から、N末端にSTAND/NACHT型P-loop NTPaseに相当するATPaseドメインを持つことが示された。これにより、TANCは単なる静的な足場タンパク質ではなく、STAND/NACHT型P-loop ATPaseドメインを中心とした構造変換を介して、自身の分子状態や機能を制御する動的な分子スイッチとして機能する可能性が示された<ref name="Gasparini2017" />。 クライオ電子顕微鏡解析では、Tanc1およびTanc2が、P-loop ATPase、ANK、TPRからなるhead、body、tailのオタマジャクシ様構造をとることが明らかとなり(図4)、ATPaseドメインがSTAND/NACHT型であることが構造学的にも支持された<ref name="Zhong2026" />。また、TANC1とTANC2ではATPaseモジュールの自己抑制機構に違いが認められた。Tanc1ではaa. 226–231の自己抑制性lock segmentによりclosed/inactive stateが安定化される(図4A)のに対し、Tanc2ではclosed stateに加えてsemi-open stateが存在し(図4B)、これがATP依存的オリゴマー形成およびATPase活性化に至るpre-activated stateと考えられる。 さらに、ATP/Mg²⁺存在下でTanc1では顕著なオリゴマー化が認められなかったのに対し、Tanc2ではATP依存的なオリゴマー形成と高いATPase活性が認められた。これらの知見から、TANC2ではATP結合に伴う構造変化と分子間会合が連動して機能状態を切り替えると考えられる<ref name="Zhong2026" />。 以上のことから、TANCは単なるPSD足場タンパク質ではなく、ATP結合を起点としてSTAND/NACHT型ATPaseを介してヌクレオチド結合状態、構造、オリゴマー化を連動させ、自身の機能状態を制御する動的な分子スイッチとして機能する可能性が示唆されている(図5)<ref name="Lisa2019" /><ref name="Zhong2026" />。 == 脳機能および神経精神疾患との関連 == TANCの機能に関する初期の知見は、培養神経細胞への過剰発現実験および遺伝子欠損マウスの解析から得られた。Hanらは、TANC1またはTANC2の過剰発現により樹状突起スパインおよび興奮性シナプス密度が増加することを示した。また、TANC1欠損マウスでは海馬CA3におけるスパイン密度が低下し、空間学習・[[記憶]]が障害された。一方、TANC2欠損マウスは胎生致死であり、TANC1がシナプス形成・維持や海馬依存性認知機能に、TANC2が発生過程に重要であることが示唆された<ref name="Han2010" />。その後、TANCの多様な相互作用タンパク質や構造的特徴が明らかになるにつれ、TANCはPSD足場タンパク質としてだけでなく、複数の神経シグナル経路を調節する分子でもあると考えられるようになった。 一般に、PSD-95、Shank、HomerなどのPSD scaffold/adaptorタンパク質をコードする遺伝子の異常はNDDや精神疾患の発症に関与することが示されている<ref name="Berkel2010"><pubmed>20473310</pubmed></ref><ref name="Fromer2014"><pubmed>24463507</pubmed></ref><ref name="Gauthier2010"><pubmed>20385823</pubmed></ref><ref name="Gilman2011"><pubmed>21658583</pubmed></ref><ref name="Ting2012"><pubmed>22540979</pubmed></ref><ref name="Yang2019"><pubmed>31040020</pubmed></ref>。TANCも、このようなシナプス関連タンパク質の一つとして、NDDを含む神経精神疾患との関連が注目されている。 TANC2については、機能喪失変異がNDDの原因となり得るという報告がある<ref name="Guo2019" />。また、Tanc2ヘテロ欠損マウスでは、海馬依存性学習障害、過活動、不安様行動に加え、発達段階に依存したLTP/LTD障害が認められた。さらに、TANC2はmTORに結合してそのシグナルを抑制することから、シナプス構造のみならずmTOR経路を介して神経発達とシナプス可塑性を調節すると考えられる<ref name="Kim2021" />。さらに、TANC2において多数のNDD関連TANC2バリアントが同定されており<ref name="BertoliAvella2021"><pubmed>33875846</pubmed></ref><ref name="deLigt2012"><pubmed>23033978</pubmed></ref><ref name="Fromer2014" /><ref name="Gasparini2017" /><ref name="Iossifov2014"><pubmed>25363768</pubmed></ref><ref name="Iossifov2012"><pubmed>22542183</pubmed></ref><ref name="Kosmicki2017"><pubmed>28191890</pubmed></ref><ref name="Wang2021"><pubmed>33994118</pubmed></ref>、ミスセンス、欠失、短縮型およびコピー数変異など、48種類のバリアントが報告されている<ref name="Zhong2026" />。 ゼブラフィッシュではTanc2欠失により細胞増殖が促進され、[[アポトーシス]]が抑制される一方、NDD関連変異体の過剰発現ではアポトーシスが促進されることが示されている。したがって、TANC2の量的・質的異常は、細胞増殖と細胞死、神経細胞生存および脳発達のバランスを変化させ、NDDの病態形成に寄与する可能性がある<ref name="Long2023"><pubmed>36534563</pubmed></ref>。 TANC2は神経系以外にも発現し、その機能破壊型変異ではNDDに加えて多様な非神経学的表現型も報告されている<ref name="Garrett2022"><pubmed>34964047</pubmed></ref>。TANC1についても、染色体異常と発達遅滞との関連が報告されている<ref name="GranotHershkovitz2011"><pubmed>21739571</pubmed></ref><ref name="Wessel2017"><pubmed>29070031</pubmed></ref>。 == おわりに == TANCは、ATPase活性を有するPSD scaffoldタンパク質である。Spine/PSDへの局在や空間記憶への関与から、TANCがPSD scaffoldタンパク質として機能することは支持されているが、シナプス後部におけるTANCの分子動態に関する実験は、現在までに報告はない。TANCのATPase活性は、構造変換を介して自身の会合状態や、他のPSD scaffoldタンパク質およびシナプスタンパク質との相互作用に影響を与え、PSDの形成・維持・動態を制御する分子スイッチとして機能している可能性が考えられる。一方、細胞を用いた発現実験からは、TANCのATPase活性の状態が細胞のアポトーシスを制御することが示されている。このことは、TANCのATPase活性の異常が発達初期における細胞増殖・細胞死のバランスや神経細胞の生存に影響を及ぼし、脳の発達異常を介してNDDの発症につながる可能性を示唆している。したがって、TANCは、PSDにおけるシナプス機能の調節に加えて、発達期の細胞機能を制御するATPase依存的な分子スイッチとして、NDDの病態形成に関与する可能性がある。 == 関連項目 == * シナプス後肥厚部 * 樹状突起スパイン * [[シナプス可塑性]] * [[液-液相分離]] * 自閉スペクトラム症 * [[神経発達症]] * [[長期増強]] * [[長期抑圧]] == 図表の説明 == === 表1.主要なTANCアイソフォーム === <ref name="Gasparini2017" />から作成。図1を参照。 === 表2.TANCと相互作用するタンパク質(A)および候補タンパク質クラス(B) === (A)は実験的に結合が証明されたもの、(B)はSLiM(short linear motif、短い線状モチーフ)から推定されたもの。論文引用や同定方法は<ref name="Gasparini2017" />を参照。 === 図1.TANCタンパク質のドメイン構造および主要モチーフ === DEG_SCF_TRCP1_1:SCF–β-TrCP1認識分解モチーフ1;DEG_Nend_Nbox_1:N末端N-box型分解モチーフ1;LIG_14-3-3_2:14-3-3結合モチーフ2;MOD_LATS_1:LATSリン酸化修飾モチーフ1;MOD_NEK2_1:NEK2リン酸化修飾モチーフ1;poly-Q:グルタミンに富む領域;poly-P:グルタミン/プロリンに富む領域;PP1:PP1(protein phosphatase 1)ドッキングモチーフ(RVxF)。 TANCタンパク質の既知アイソフォームを上段と最下段に示す。<ref name="Gasparini2017" />から引用。 === 図2.ATPase/NTPaseの構造による分類 === STAND/NACHT NTPaseは触媒部位にP-loopを有するグループのASCE系統に属する。<ref name="Leipe2004" /><ref name="Leipe2002"><pubmed>11916378</pubmed></ref>から作成。 === 図3.典型的なSTAND ATPaseの構造 === NTPase α/βフォールドはATPの結合・加水分解を担う触媒コアを形成し、Walker A、Walker Bなどの保存された構造要素を含む。ASCE型NTPaseでは、Walker AとWalker Bの間にadditional β-strandが挿入されるとともに、進化的に保存されたグルタミン酸残基が触媒グルタミン酸(catalytic Glu)としてATP加水分解に関与する。STAND NTPaseでは、この触媒グルタミン酸はWalker BのC末端側に位置する。Walker Aモチーフはリン酸基を含むヌクレオチドの結合に関与し、Walker Bに含まれる保存性の高い酸性残基は、Mg²⁺を介したATP加水分解に重要な役割を果たす。<ref name="Gasparini2017" /><ref name="Leipe2004" />から作成。 === 図4.単量体mTanc分子の立体構造とATPase活性状態に伴うコンフォメーション変化 === Expi293F細胞に発現させたmTancタンパク質を精製し、クライオ電子顕微鏡解析を行った。上段は再構成された三次元密度マップ、下段左はリボンモデル、下段中央および右は密度マップに原子モデルを重ねた構造を示す。 A)mTanc1(215–1452);B)mTanc2(211–1421)。Tanc分子は、P-loop ATPase module、ANK、TPRモチーフがそれぞれhead、body、tailを構成するtadpole様の構造を示す。ATPaseの活性状態に応じてhead部分のコンフォメーションが変化し、不活性状態(off state)ではclosed conformationをとり、ATP結合およびATPase活性化に伴ってhead部分がsemi-openあるいはopen conformationへ移行する。mTanc1では主としてclosed/inactive stateが観察されるのに対し、mTanc2ではclosed/inactive stateに加えてsemi-open/pre-activated stateが観察される。<ref name="Zhong2026" />より作成。 === 図5.PSDにおけるTANCファミリーの機能発現の過程(仮説モデル) === TANCはATPの結合状態に依存してPSDの形成や動態を制御するスイッチとして働く可能性を示す。* 推定プロセス。 == 参考文献 == <references />
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