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<div align="right"> <font size="+1">[http://researchmap.jp/kennyfutai 二井 健介]</font><br> ''マサチューセッツ州立大学 メディカルスクール''<br> DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年6月4日 原稿完成日:2013年6月xx日<br> 担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所) </div> {{box|text= パッチクランプ法は、イオンチャネルを介したイオンの挙動(電流)を記録することで、細胞膜上の単一または複数のイオンチャネルの活動を直接的に測定する方法である。 培養細胞や急性単離標本、組織標本、さらにin vivoの系において解析可能であり、神経、心筋、平滑筋、感覚器細胞などの興奮性細胞の研究に用いられている。 パッチクランプ法は電位固定法の変形であり、1976年にErwin NeherとBert Sakmannによって開発された<ref name=ref1><pubmed>1083489</pubmed></ref>。彼らはこの方法により筋線維における単一アセチルコリン電流を直接的に検出し、イオン通過路としてのチャネルの存在を初めて証明した。その後、ギガシール法の確立により精度が向上し、いくつかのヴァリエーションの追加開発により、多くの細胞系に用いられるようになった。この技法を発明し、発展させたことにより、1991年にErwin NeherとBert Sakmannはノーベル生理学・医学賞を受賞した。}} == 基本的技術 == 先端が開口しているガラス微小ピペットを電極として用いる。先端の経が1μmほどであり、この大きさは[[細胞膜]]上の[[イオンチャネル]]が数個入る程度である。さらに、熱加工により先端表面は滑らかであり、細胞膜と高抵抗で密着する。ピペットの内部は、実験者が使用するコンフィグレーションに従って選択された内液によって満たされる(例えば、セルアタッチ法では、内液とバス液のイオン組成は同じである)。また、薬物を添加したり、イオン組成を変えたりして、異なる環境下のイオンチャネルの挙動を解析することも可能である。内液と接触している塩化銀の金属線は、専用アンプへ電流を伝える。ピペットは細胞に接触し、吸引により内部に軽いマイナスの圧力をかけることで、細胞膜とピペット先端との隙間が非常に小さくなる。この隙間の絶縁性は非常に高いため、ピペット内部とバス液の間の電気抵抗は非常に高くなる。この電気抵抗はギガオーム以上になるため、このピペットと細胞膜の密着をギガシールと呼ぶ。このギガシールにより、漏れ電流が非常に小さくなり、イオンチャネルの開閉による小さな電流を測定することが可能となる。 == 種々の方法 == 研究対象によってコンフィグレーションが使い分けられる。セルアタッチ法とインサイド-アウト法、アウトサイド-アウト法は、電極で取り囲んだ領域のイオンチャネルの挙動を記録するために用いられる(単一チャネル記録法)。ホールセル法とPerforated法は単一チャネル電流ではなく、細胞膜全体の電気現象を記録することができる(全細胞電流記録法)。 == セルアタッチ法 == 電極を細胞膜上に密着させたまま記録する方法である。この方法は細胞内環境を変化させることなく、単一イオンチャネル電流を記録することができる。リガンド依存性イオンチャネルや代謝型受容体に調節されるチャネルに関する研究では、細胞膜の外部表面に神経伝達物質や薬物が接触できるように、それらを電極内液に含ませて使用する。 == インサイド-アウト法 == セルアタッチ法からギガシールした電極を素早く引き上げて、細胞からパッチ膜が切り離され、細胞膜の内側がバス液中に露出した状態がインサイドーアウト法である。この方法ではイオンチャネルの細胞膜内側の条件を自由にコントロールすることが可能であり、細胞内リガンドによって影響されるイオンチャネルの解析に有用である。 == ホールセル法(コンベンショナル ホールセル法) == セルアタッチ法から電極の陰圧をさらに強くすることでパッチ膜を破って穴を開け、電極内と細胞内が繋がる状態がホールセル法である。ホールセル法では、全細胞膜の複数のイオンチャネルを介した電流を記録することが可能である。ホールセル法は、電極を刺入して電流を記録する方法と比較して、ギガシールの結果によりリーク電流が非常に少なく安定して記録することができる。また、穴を通して細胞内をパッチ電極内液で透析するため、細胞内環境をコントロールすることが可能である。しかし、細胞内の可溶性成分が電極側へ漏出することにより細胞内から失われるという欠点がある。 == アウトサイド-アウト法 == ホールセル法で電極をゆっくりと細胞から引き離し、細胞膜の小胞を形成させ、細胞から切り取る。電極の先端には、もともと外側の細胞膜が電極の外側を向くように細胞膜が付いている。接着した細胞膜が十分小さいなら、単一電流記録が可能であり、細胞外液をコントロールして記録することができる。この方法は、神経伝達物質のような細胞膜外側に作用するような物質の研究で用いられている。 == パーフォレイテッド法(穿孔パッチ法) == コンベンショナル ホールセル法の代替法であり、HornとMartyによって開発された<ref name=ref2><pubmed>2459299</pubmed></ref>。ギガシールを形成後、陰圧によって膜を破るのではなく、パッチ電極内液に含まれたナイスタチン、アンフォテリシンBやグラミシジンのような抗生物質によって細胞膜に小さな穴をあける方法である。これらの抗生物質が、ほとんどの細胞膜に一価イオンや10Å以下の径を持つ分子を通過させる孔をあけることを利用している。このことにより、細胞の内容成分の漏出を軽減することが可能となる。しかし、いくつかの欠点がある。まず、電極の先端が部分的に細胞膜に覆われているので、コンベンショナル ホールセル法と比較して、access resistanceが高く、電気的解像能が低下したり、ノイズが増加してしまう。また、抗生物質による細胞膜の穿孔には時間がかかる(10-30分間)。さらに、抗生物質により形成された孔によって電極先端の膜は弱くなっているため、その膜が破れて、コンベンショナル ホールセル法に移行する危険性がある。 == ルーズパッチ法 == ルーズパッチ法は、ギガシールよりも緩いシールを形成して記録を行う点で、通常のパッチクランプ法とは異なる。シールが緩いので、記録後に電極を細胞膜から取り去っても細胞膜は無傷である。このことにより、細胞膜を壊すことなく、同じ細胞の異なる場所で繰り返し記録することが可能である。しかし、電極と細胞膜間の抵抗が低いため、電流が漏れやすいという欠点がある。この漏れ電流は、細胞の異なる場所での記録と比較することで補正することができる。 == 参考文献 == <references /> 3.'''岡田泰伸'''<br> 新パッチクランプ実験技術法<br> ''吉岡書店'' (2001) ISBN 4-8427-0296-6 4.'''Tritsch D. Chesnoy-Marchais D. Feltz A.'''(translation supervised by Mikoshiba K.)<br> ニューロンの生理学<br> ''京都大学学術出版会'' ISBN 978-4-87698-773-3
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