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<div align="right"> <font size="+1">野田 隆政、岡本 長久</font><br> ''国立精神・神経医療研究センター''<br> DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2014年月日 原稿完成日:2014年月日<br> 担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> </div> 英語名:ElectroConvulsive Therapy ;ECT ==ECTの歴史== ===従来型ECTの誕生=== 電気けいれん療法(ElectroConvulsive Therapy ;ECT)は経皮的に頭部に通電を行うことで脳に人工的なけいれんを誘発し、治療効果を得ようとする治療法であり、精神神経疾患に古くから広く用いられてきた。<br> けいれんを誘発して精神疾患を治療しようとする試みは18世紀頃から行われており、最初はけいれん誘発物質としてショウノウが用いられた。1931年、Medunaは統合失調症(旧精神分裂病)とてんかんの拮抗仮説に基づき、ショウノウ誘発性けいれんによる統合失調症治療を実施し有効性を確認した(1)。まもなくけいれん惹起物質としてショウノウにかわりペンチレンテトラゾールが用いられるようになったが、けいれん誘発前の不快感が生じるため、他の方法が求められていた。<br> 精神症状に対し治療効果のあるけいれんを誘発するために、けいれんを惹起する薬剤ではなく確実性のある電気刺激による脳への通電を用いる方法は、1938年にCerlettiらによりはじめて報告された。彼らは屠殺場で通電することによりけいれんが誘発されることをヒントにしてヒトに応用し、身元不明の統合失調症患者に対し、電気による脳への通電によりけいれんを誘発するECTが見出された(2)。<br> このように統合失調症患者に対して、経皮的な脳への電気通電によるけいれん誘発が施行され治療効果を認めたことから、欧米では精神科治療として1950~60年代にかけてECTが広く行われるようになり、同時にうつ病への治療効果も報告されるようになった。 日本では1939年に九州大学の安河内と向笠により統合失調症者に対するECTが報告され、以後本邦でもECTが普及するようになった(3)。<br> (参考文献) 1) Abrams R : Electroconvulsive Therapy.3 rd ed.New York, Oxford University Press, 1997 2) Cerletti U ; Old and new information about electroshock. Am J Psychiatry 1950 ;107 :87-94 3) 安河内五郎,向笠広次 : 精神分離症の電撃痙攣療法について. 福岡医大誌 1939 ;32:1437-1440 ===従来型ECTから修正型電気けいれん療法へ=== 麻酔や筋弛緩薬を使用せず施行する従来型ECTでは、施行前に患者に恐怖感があることとやけいれんに伴う脊椎等の骨折、呼吸器系・循環器系の副作用が少なからず起こることが問題視されていた。<br> 次第に、施行前の患者の恐怖感に対しては、静脈麻酔薬であるチオペンタールやアモバルビタール等のバルビツール系の静脈麻酔薬が用いられるようになり、けいれん発作時の骨折事故を減らすため、通電後の脳のけいれん波出現時に全身けいれんが起こらないようにする工夫として筋弛緩薬が用いられるようになった。<br> 筋弛緩薬については、1940年、Bennetらはクラレを使用したが(4)、作用時間が長いことが問題であったため、1952年、HolmbergとThesleffzらは、サクシニルコリン(succinylcholine ; SCC)の使用を提唱し(5)、ここに現在まで用いられている静脈麻酔薬とSCCによる修正型ECT(Modified ElectroConvulsive Therapy;mECT)の基盤が完成した。 日本でも1958年、島薗らにより筋弛緩薬を使用したECTの報告がなされた(6)が、その後安全面を含めた評価、改良、一般化が不十分で、また患者に強制的に行う負のイメージが強いこともあり、薬物療法の発展とともに次第に第一線の治療から後退した。<br> 1980年代、ようやく日本でも総合病院の一つの科としての精神科の位置づけが確立し、またリエゾン精神医学の進展に伴い、麻酔科医と連携した十分な酸素化と呼吸循環管理のもとで筋弛緩薬と静脈麻酔薬を用いて行うmECTが総合病院や大学病院を中心に拡がり、同時に手術に準じて患者や家族にインフォームドコンセントが行われることが一般的となったことで、ECTの安全性が高まるのと同時に、従来の負のイメージは徐々に払拭された。 英国ではECTに関するガイドラインが報告され(7)、米国でも、1975年に米国精神医学会がECTに関する専門委員会を設置し、1990年、2001年(8)に全体を網羅するガイドラインが刊行された。<br> わが国では日本総合病院精神医学会から精神科電気けいれん療法の実践指針が示され、同学会に電気けいれん療法の手技や適応基準の検討を行う小委員会が設置された。2000年、本橋らによりわが国初めてのECTマニュアルが出版され(9)、2002年には全国自治体病院協議会が電気けいれん療法の仕様に関する提言を行い、修正型での運用を強く推奨することとなった。<br> わが国で現在用いられるECT麻酔薬は、比較的短時間で麻酔作用の消失するバルビツレート系麻酔薬のチオペンタールや非バルビツレート系麻酔薬のプロポフォールが使用されることが多く、また筋弛緩薬はSCCが使用されることが多い状況である。<br> (参考文献) 4) Bennet AE : Preventing traumatic complications in convulsive therapy by curare. JAMA 1940 ; 114 :322-324 5) Holmberg G, Thesleff S : Succinyl-choline-iodide as amuscular relaxant in electroshock therapy. Am J Psychiatry 1952 ; 108 :842-846 6) 島薗安雄,森温理,徳田良仁 : 電撃療法時におけるSuccinylcholine Chlorideの使用経験.脳と神経 1958 ; 10 : 183-193 7) Royal College of Psychiatrists : The ECT Handbook : The Second Report of the Royal College of Psychiatrists’ Special Committee on ECT, Royal College of Psychiatrists, London 1995 8) American Psychiatric Association : Task Force on Electroconvulsive therapy : The Practice of Electroconvulsive therapy : Recommendations for Treatment, Training, and Privileging 2nd. APA 2001 9) 本橋伸高 : ECTマニュアル~科学的精神医学を目指して 医学書院 2000 ===サイン波治療器からパルス波治療器へ=== 通電のためのECT機器としては、従来、交流正弦波(サイン波)治療器が用いられてきた。サイン波治療器は電源から交流正弦波の電圧変換を行う機器で、2本の電気通電用の棒の先についている布部分を生理食塩水で湿らせ、医療者が両手で2本の電気通電用の棒を持ち、棒の先の布部分を患者の両側の前頭部に当てながら通電ボタンを押し、正弦波(サイン波)を105V程度で5秒間程度通電することで脳のけいれんを誘発する機器であった。<br> 欧米では、1980年代より、サイン波治療器より安全性の高い定電流短パルス矩形波治療器(パルス波治療器)が用いられるようになり、わが国への導入推進の動きが本橋らを中心に行われ、2002年に日本でパルス波治療器が認可され導入された。<br> 現在主に使用されているものはサイマトロン(Thymatron®)と呼ばれるパルス波治療器で、短パルス矩形波(パルス波)を通電することで、従来の刺激装置であるサイン波治療器の約1/3程度のエネルギー量でけいれんを誘発することができるため、循環器系副作用、通電後の認知機能障害などが低減し、更にECTの安全性が向上している。パルス波治療器を用いた実際のECT手順については後述する。<br> またECTの手順の標準化や安全性のさらなる向上のため、定電流短パルス矩形波治療器の使用にあたり、近年はECT治療施行者に対する精神科関連学会を中心に運営するECTトレーニングセミナーの受講が義務付けられ、使用法についても標準化されていることで、強い高齢者や身体合併症のある精神疾患患者にもECT治療がより安全に行われるようになっている。<br> しかし、ECT麻酔薬として良く用いられているチオペンタールなどのバルビツレート系麻酔薬はもちろん、プロポフォールなどの非バルビツレート系麻酔薬も少なからず抗けいれん作用を持ち、パルス波治療器の普及とともに、パルス波治療器の最大刺激電流量(100%)を用いても脳波上のけいれん波が誘発されない症例が少なからず存在することが分かってきた。バルビツレート系麻酔薬であるメトヘキシタールでECTを受けた471名の患者のうち72人(15%)は最大刺激強度を必要とし、最大刺激強度でも72名のうち24名(33%)は発作持続時間が足りないか、不発であったという報告がある(10)。脳波上のけいれん波が不十分であったり、不発である場合は、内服している抗けいれん作用のあるベンゾジアゼピンや抗けいれん薬の中止、けいれん域値を下げるECT通電前の過換気、ケタミン麻酔などへの変更(11)を検討する必要がある。<br> 10) Krystal AD, Dean MD, Weiner RD, : ECT stimulus intensity: are present ECT devices too limited? Am J Psychiatry 157 : 963-7, 2000 11) Krystal AD, Weiner RD, Dean MD, et al : Comparison of seizure duration, ictal EEG, and cognitive effects of ketamine and methohexital anesthesia with ECT. J Neuropsychiatry Clin Neurosci 15 : 27-34, 2003 ==ECTの作用機序== ECTの効果は電流通電そのものの効果ではなく、むしろ脳波上の発作を誘発することに起因することが分かっている。脳波上の発作による脳の血流量のパターンや脳代謝の変化、前頭葉を主体とした早期の抗けいれん効果との関連 、内側側頭葉を主体とした神経栄養効果等が想定されている(12)。<br> 従来、抗うつ効果との関連から、ECTの効果発現にかかわる可能性のある物質として、神経伝達物質やその受容体への直接的影響や細胞内情報伝達系に与える影響が注目され、コルチゾール、副腎皮質刺激ホルモン、コルチコトロピン放出因子、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン、オキシトシン、バソプレッシン、dehycroepiandrosterone sulfate、tumor necrosis factor α等のECTによる変化が報告されてきた(13)。<br> またgamma-aminobutyric acid(GABA)もmagnetic resonance spectoscopyを用いた研究で、ECT後増加することが示されており(14)、ECTの施行を繰り返すとけいれん時間の減少やけいれん閾値の上昇がみられ、脳内におけるGABAの増加が関係している可能性がある。<br> 近年は、ECTの神経保護作用が注目されるようになり、神経細胞の可塑性、再生、維持に関わる神経栄養因子であるbrain-derived neurotrophic factor(BDNF)を強化する働きと内側側頭葉を中心とした神経栄養効果が注目されるようになった(15)。<br> うつ病患者ではメタ解析でもECT治療後のBDNFの増加が確認されており(16)、BDNF増加とHAM-D総得点減少が相関するという報告も存在する。また霊長類を用いた研究では、ECTにより海馬での神経新生が促進されたことが報告されている(17)。<br> このようにECTの有効性における作用機序についての検討は多く行われいくつかの有力な仮説は提示されているものの、現在までECTの明確な作用機序は明らかにされていない。 ECTの作用機序を研究することは、うつ病の本質的な病態の解明につながる可能性もあり非常に重要な課題である。<br> 12) Abbott CC1, Gallegos P, Rediske N, Lemke NT, Quinn DK.J Geriatr Psychiatry Neurol. 2014 Mar;27(1):33-46. doi: 10.1177/0891988713516542. 2013 Dec 30. A review of longitudinal electroconvulsive therapy: neuroimaging investigations. 13) Marano CM, Phatak P, Vemulapalli UR, et al.: Increased plasma concentration of brain-derived neurotrophic factor with electroconvulsive therapy: a pilot study in patients with major depression. J Clin Psychiatry 68: 512-517, 2007 14) Bajbouj M, Lang UE, Niehaus L, et al.: Effects of right unilateral electroconvulsive therapy on motor cortical excitability in depressive patients. J Psychiatr Res 40: 322-327, 2006 15) Taylor SM: Electroconvulsive therapy, brain-derived neurotrophic factor, and possible neurorestorative benefit of the clinical application of electroconvulsive therapy. J ECT 24: 160-165, 2008 16) Rocha RB, Dondossola ER, Grande AJ, et al.: Increased BDNF levels after electroconvulsive therapy in patients with major depressive disorder: A meta-analysis study. J Psychiatr Res 83: 47-53, 2016. 17) Perera TD, Coplan JD, Lisanby SH, et al.: Antidepressant-induced neurogenesis in the hippocampus of adult nonhuman primates. J Neurosci 27: 4894-4901, 2007 ==ECTの適応と禁忌== ===ECTの適応=== ECTはエビデンスに基づく医療行為である。2015年米国精神医学会は「ECTは、安全かつ有効なエビデンスに基づく医療であり、適切に適応を選択された患者のために、適切な資格のある精神科医によって行われるとき、ECTはAPAによって支持される」という声明を発表している。<br> ECTが臨床的治療で主に用いられる疾患としてうつ病、躁うつ病のうつ状態および躁状態、統合失調症がある。また、まだ十分なエビデンスは確立しておらず研究的な要素も存在するものの、難治性で緊急性を要すパーキンソン病やレビー小体型認知症、慢性疼痛の治療にも臨床的に用いられ有効であることがある。 臨床的には、ECTの適応は、診断と状態(症状特性や重症度)の組み合わせから判断することになる。<br> たとえば、うつ病はECTの主要な適応となる疾患であるが、軽症であれば基本的にECTが選択されることはない。ECTの一次的適応が考慮される状態として、食事摂取困難や拒食による低栄養・脱水が進行し生命にかかわる可能性がある場合、自殺企図など患者に生命の危険の差し迫った重篤な症状が存在し迅速な症状改善を要する場合など、抗うつ薬が効いてくるまでの時間的余裕がない場合にはECTの優先順位は高くなりECTは切り札的な治療として実施されることがある。また、妊娠、高齢者、薬物療法の副作用、身体合併症など他の治療よりECTのほうが高い安全性があると考えられる場合もECTが考慮される。ECTの二次的な適応としては、過去の薬物療法への強い治療抵抗性があり長期にうつ症状が遷延している場合、薬物治療の副作用が強く十分な薬物療法が行えず忍容性においてECTが優れる場合などはECTの適応が検討されることがある。<br> 統合失調症では、同様に治療抵抗性で生命にかかわるような緊張病や昏迷状態、精神症状による著しい焦燥感・興奮・錯乱がある場合、強い希死念慮がある場合等に適応が検討されることがある。また、いずれの疾患でも過去のECTが効果的であった治療歴、患者本人の希望は治療方針の決定において重要となる。<br> わが国においてECTの適応について詳述されているものは本橋らが報告している「電気けいれん療法(ECT)推奨事項 改訂版」を参照されたい(18)。<br> 18)本橋伸高, 粟田主一, 一瀬邦弘ほか: 電気けいれん療法(ECT)推奨事項 改訂版. 精神神経学雑誌 115: 586-600, 2013. ===ECTの禁忌=== アメリカ精神医学会(American Psychiatric Association; APA)は、ECT導入に際しての絶対的禁忌はないとしながらも、ECTのリスクが増す状態として相対的禁忌を定義している(8)。<br> わが国で用いられているサイマトロン(Thymatron®)の添付文書でもこれらが反映され、原則として禁忌となる疾患や状態として、①最近起きた心筋梗塞、不安定狭心症、非代償性うっ血性心不全、重度の心臓弁膜症のような不安定で重度の心血管系疾患、②血圧上昇により破裂する可能性のある動脈瘤または血管奇形、③脳腫瘍その他の脳占拠性病変により生じる頭蓋内圧亢進、④最近起きた脳梗塞、⑤重度の慢性閉塞性肺疾患、喘息、肺炎のような呼吸器系疾患、⑥米国麻酔学会水準4または5と評価される状態(ECTにより脳出血後まもない患者では再出血の危険性がある、発作による交感神経系の活性化による血圧上昇、頻脈により最近起きた心筋梗塞患者では心室性不整脈や心破裂の危険性がある、修正型ECTは麻酔下において治療が行われるため麻酔危険度を設定する必要がある)が挙げられている。またECTとの併用禁忌として、深部脳刺激装置(deep brain stimulation: DBS)が埋め込まれている場合が挙げられている。<br>
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