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市村 徹(元防衛大学校 応用科学群応用化学科) 田岡万悟(東京都立大学 理学部化学科) 英語名:14-3-3 protein {{box|text= 14-3-3タンパク質は分子量約30kDaのサブユニットから構成される2量体タンパク質のファミリーである。ヒトでは9つの分子種(α~σアイソフォーム)の存在が確認されており、各アイソフォームは分子のN末端構造を介してホモ或いはヘテロに結合することで、その内部にU字型の溝構造を形成している。14-3-3は、この溝構造を利用することで多種多様なリン酸化タンパク質と、リン酸化に依存して結合する。脳神経系において、14-3-3は神経突起の伸長、神経分化、細胞移動と生存、神経伝達物質の合成や放出など、さまざまな細胞プロセスに関わることが報告されている。さらに、14-3-3は、クロイツフェルト・ヤコブ病やパーキンソン病をはじめとする神経変性疾患、神経発達疾患、神経精神疾患など、さまざまな神経疾患と遺伝的に関連することも報告されている。}} == 研究の歴史 == 14-3-3 タンパク質(以下14-3-3)は、1965年B. W. Mooreによって、[[ウシ]][[脳]]の可溶性画分において発見され、[[DEAEセルロースクロマトグラフィー]]での分画番号とその後の[[ゲル電気移動]]での移動位置の組み合わせによって命名された一群の酸性タンパク質である<ref name=Moore1965><pubmed>4953930</pubmed></ref>[1]。[[神経細胞]]に特異的に発現し(可溶性タンパク質の約1%)、神経[[軸索流]]によって[[神経終末]]([[シナプス]]部)に輸送されることが報告されていたが<ref name=Erickson1980><pubmed>6161216</pubmed></ref><ref name=Boston1982><pubmed>7038050</pubmed></ref>[2][3]、その構造と機能は発見から約20年間にわたり不明であった。 1987年、このタンパク質の最初の機能として、[[カテコールアミン]]と[[セロトニン]]生合成経路の[[律速段階酵素]]([[チロシン水酸化酵素]][TH]と[[トリプトファン水酸化酵素]][TPH])を、[[カルシウム/カルモデュリン依存性タンパク質キナーゼII]] ([[CaMKII]]) <ref name=Yamauchi1981><pubmed>6113235</pubmed></ref>[4]によるリン酸化反応に依存して活性化する能力が報告された<ref name=Ichimura1987><pubmed>2885229</pubmed></ref>[5]。次いで、このタンパク質の分子構造<ref name=Ichimura1988><pubmed>2902623</pubmed></ref>[6]と[[リン酸化]]依存性相互作用<ref name=Furukawa1993><pubmed>8101440</pubmed></ref>[7]が明らかにされ、さらにこれが互いに構造が類似した複数の成分からなるmulti-geneファミリーを形成していることが証明された<ref name=Shinkai1996><pubmed>8721374</pubmed></ref>[8]。 現在ではこのファミリーが[[ヒト]]から[[植物]]、[[酵母]]に至る[[真核生物]]に広汎に分布すること、また[[細胞膜]]から[[核]]内に至る細胞反応の調節に深く関与していることが分かっている。 == 構造 == === 一次構造 === 14-3-3は[[等電点]] 4.6~5.1、分子量約30kDaのサブユニットから構成される二量体分子である<ref name=Ichimura1988 /> [6]。複数の分子種([[アイソフォーム]])の存在が確認されており、それらの一次構造は生物種間において高度に(60%以上の一致性)保存されている(後述)。各アイソフォームのアミノ酸配列には、リーダー配列や[[膜貫通領域]]などの極端な[[疎水性]]領域は含まれていない。また結合[[糖鎖]]の存在も確認されていない。14-3-3はこれらのアイソフォームがホモ或いはヘテロに結合することで形成される可溶性タンパク質の集団である<ref name=Ichimura1988 /><ref name=Shinkai1996 /> [6][8]。 === 高次構造 === 14-3-3を構成する各サブユニットは、9個の[[α-ヘリックス]]とそれらをつなぐ短いリンカーからなり、U字型の溝構造を作るためにダイマーを形成する<ref name=Xiao1995><pubmed>7603573</pubmed></ref><ref name=Liu1995><pubmed>7603574</pubmed></ref>[9][10]('''図1A''')。片方のサブユニットの第1および第2ヘリックスと、他方のサブユニットの第3および第4ヘリックスは[[静電相互作用]]と[[疎水結合]]によって結合し、14-3-3のダイマー形成に関与している。一方、それぞれのサブユニットの第3、5、7、9ヘリックスは全体として屈曲し、U字型構造の内部に標的(リガンド)に対する結合部位を形成している('''図1B''')。14-3-3の各サブユニットはこのリガンド結合部位を介して、1サブユニットあたり1つのリガンドと、ダイマー分子あたり2個のリガンドを同時に結合できる。 上記したように14-3-3ファミリーのアミノ酸配列は生物種を超えて高度に保存されているが、U字構造内部の配列はとりわけ高く保存されている<ref name=Liu1995 /> [10]('''図1''')。このU字構造と[[nonsense mediated mRNA decay factor]] ([[SMG7]])タンパク質([[ナンセンスmRNA]]の崩壊因子)のN末端領域が形成する構造は、立体的に相同であることが報告されている<ref name=Fukuhara2005><pubmed>15721257</pubmed></ref>[11]。 == ファミリー == 複数の14-3-3アイソフォームが真核生物(動物界、植物界、菌界)を構成するさまざまな細胞から見つかっている。 ヒトでは9つのアイソフォーム(α~σアイソフォーム)が報告されており<ref name=Shinkai1996 /> [8]、これらのうち、αとδアイソフォームは、それぞれβとζアイソフォームのリン酸化型である<ref name=Aitken1995><pubmed>7890696</pubmed></ref>[12]。同様のアイソフォームは、ラット、マウス、ウシ、ヒツジ、ニワトリ、ツメガエル、ゼブラフィシュでも確認されている。各アイソフォームは種内でもまた種間でも高い配列保存が見られる。 線虫(C. elegans)とショウジョウバエ(D. melanogaster)では、それぞれ2つのアイソフォーム(PAR-5とFTT-2:Dm14-3-3εとDm14-3-3ζ)の発現が検出されている<ref name=Berdichevsky2006><pubmed>16777605</pubmed></ref> <ref name=Skoulakis1996><pubmed>8938125</pubmed></ref><ref name=Benton2002><pubmed>12431373</pubmed></ref>[13][14][15]。 植物ではシロイヌナズナで13のアイソフォーム(μ~χアイソフォーム)の存在が確認されている<ref name=DeLille2001><pubmed>11351068</pubmed></ref>[16]。また、ワタには6つ、イネには8つ、オオムギには5つ、タバコには17の潜在的アイソフォームの存在が報告されている<ref name=Denison2011><pubmed>21907297</pubmed></ref>[17]。菌類の出芽酵母(S. cerevisiae)と分裂酵母(S. pombe)では、それぞれ2つのアイソフォーム(BMH1とBMH2;Rad24とRad25)が見つかっている<ref name=vanHeusden1995><pubmed>7744048</pubmed></ref><ref name=Peng1997><pubmed>9278512</pubmed></ref>[18][19]。 系統樹(図2)から考えると、共通の祖先は、まず、εとβγζηθσのアイソフォームグループの2つに分かれ、その後εは酵母や植物各種アイソフォームと分岐し、βζθσはγηアイソフォームと分岐している。εは原始14-3-3タンパク質に最も近い配列を持っており、その一方でσは最も遠い配列を持っている(図2)。なお、原核生物(新生細菌や古細菌)の細胞からは、14-3-3ファミリーに属するタンパク質は見つかっていない。 == 脳神経系における分布 == 各アイソフォームに特異的なcDNAを用いた''in situ hybridization''解析では、ラット脳の14-3-3タンパク質のmRNAはモノアミン合成ニューロンだけでなく、ほとんどすべての領域で発現していることが確認されている。いずれの領域でも、発現は神経細胞で顕著であり、特に嗅球僧帽細胞、海馬錐体細胞、小脳プルキンエ細胞、脳幹や脊髄の運動ニューロンなど、比較的大きな細胞体と高度に発達した樹状突起野を持つ投射型ニューロンで多量に検出されている<ref name=Watanabe1991><pubmed>1649368</pubmed></ref>[20]。一方、こうしたmRNAの発現には、ラットの発生初期から一貫して高レベルの発現を示すニューロン、発生初期に高発現を示し、その後成熟期と成体期に発現が減少するニューロン、発生を通じて低レベルの発現を示すニューロンの3つのタイプがあることが確認されている。さらに、ある種のニューロンでは、mRNAの発現にアイソフォーム特異性があることが知られている<ref name=Watanabe1994><pubmed>7984035</pubmed></ref>[21]。 各アイソフォームに特異的な抗体を用いた免疫組織化学では、神経細胞の軸索や樹状突起を含む細胞体で発現が確認されている。また、ほとんどの原発性ヒト神経系腫瘍において14-3-3タンパク質の発現亢進が認められている<ref name=Cao2006><pubmed>16292484</pubmed></ref>[22]。一方、細胞分画法を組み合わせた生化学的な方法では、14-3-3タンパク質は主に細胞質画分に検出されるが、かなりの割合がシナプス膜などの不溶性画分にアイソフォーム特異的に検出されている<ref name=Martin1994><pubmed>7964746</pubmed></ref>[23]。 == 機能 == === 共通認識配列 === 14-3-3は、分子全体で形成するU字型構造のリガンド結合部位を介して、タンパク質キナーゼによってリン酸化された様々な標的分子と相互作用する<ref name=Tzivion2002><pubmed>11709560</pubmed></ref>[24]。14-3-3が認識するリン酸化の共通配列として、モード1(RxxpS/TxP)<ref name=Muslin1996><pubmed>8601312</pubmed></ref>[25]、モード2(RxxxpS/TxP)<ref name=Yaffe1997><pubmed>9428519</pubmed></ref>[26],モード3(pS/TxxCOOH)<ref name=Ganguly2005><pubmed>15644438</pubmed></ref>[27]が報告されている(pS/Tはリン酸化セリンまたはリン酸化トレオニン、xは任意のアミノ酸)。共通配列のうち、モード1の配列を含む標的分子が最も多く、その配列中にProが含まれないことも多い。プレ配列と呼ばれるシグナル配列をN末端にもつミトコンドリアタンパク質の前駆体や 緑膿菌ADP-ribosyltransferase Exoenzyme S (ExoS)などは、14-3-3との結合にリン酸化を必要としないが、リン酸化タンパク質の場合と同様にU字型構造のリガンド結合部位を介して相互作用すると考えられている<ref name=Masters1999><pubmed>10213629</pubmed></ref>[28]。 === 阻害物質と安定化物質 === 14-3-3のタンパク質-タンパク質間相互作用を標的とすることで、神経疾患をはじめとするさまざまな疾患に治療的に介入しようとする試みが新たに始まっている<ref name=Stevers2018><pubmed>28968506</pubmed></ref>[76]。低分子量化合物による14-3-3タンパク質-タンパク質間の制御には,阻害的と増強的(安定化)という2つの方向性がある。 ==== 阻害物質 ==== 14-3-3タンパク質のリガンド結合部位に結合して14-3-3のタンパク質-タンパク質間相互作用をマスクする阻害剤として、ペプチド性あるいは非ペプチド性の物質が報告されている。ペプチド性物質としては、ファージディスプレイによって発見されたR18ペプチド(PHCVPRDLSWLDLEANMCLP)や、2分子のR18を短いペプチド鎖で連結したdifopeinなどがある<ref name=Wang1999><pubmed>10493820</pubmed></ref><ref name=Masters2001><pubmed>11577088</pubmed></ref>[77][78]。非ペプチド性の阻害物質としては、フタルイミド誘導体であるBV02がある<ref name=Mancini2011><pubmed>21041536</pubmed></ref>[79]。 ==== 安定化物質 ==== 14-3-3タンパク質-タンパク質間相互作用の安定化剤としては真菌が産生するジテルペン配糖体であるフシコクシン(FC-A)とそれの誘導体であるコチレニン(CN-A)などがある。これらは14-3-3タンパク質とH<sup>+</sup>-ATPase (PMA2) <ref name=Wurtele2003><pubmed>12606564</pubmed></ref>[80]、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子 (cystic fibrosis transmembrane conductance regulator, CFTR)<ref name=Stevers2016><pubmed>26888287</pubmed></ref>[81]、Raf-1<ref name=Molzan2013><pubmed>23808890</pubmed></ref>[82]とのタンパク質-タンパク質間を安定化することが報告されている。 === タンパク質レベルにおける役割 === 14-3-3が標的とするタンパク質は現在300種を超えており、その中には細胞内シグナル伝達経路を構成する一連の酵素・タンパク質が共通して含まれている<ref name=Kakiuchi2007><pubmed>17559233</pubmed></ref>[29]。こうした14-3-3の標的には、タンパク質キナーゼ、ユビキチンリガーゼ、代謝酵素、転写因子、細胞骨格成分、イオンチャンネルなどがあげられる。14-3-3の結合は、標的リン酸化タンパク質のコンフォメーションや分子間相互作用に影響を与えることで<ref name=Tzivion2002><pubmed>11709560</pubmed></ref><ref name=Yaffe1997><pubmed>9428519</pubmed></ref><ref name=Obsil2001><pubmed>11336675</pubmed></ref><ref name=Yaffe2002><pubmed>11911880</pubmed></ref><ref name=Park2019><pubmed>31581174</pubmed></ref>[24][26][30][31][32]、結果として(1)標的酵素の活性を調節する、(2)標的タンパク質の細胞内輸送(局在)を制御する、(3)標的分子を安定化させる、など多彩な役割をもつことが知られている(図3)。14-3-3の相互作用にはアイソフォーム特異性があることが報告されている<ref name=Shinkai1996><pubmed>8721374</pubmed></ref>[8]。 === 細胞と個体レベルにおける役割 === 14-3-3はリン酸化シグナルに応じて多種多様な細胞機能を調節している<ref name=Morrison2009><pubmed>19027299</pubmed></ref>[33]。例えば、14-3-3はRaf-1<ref name=Freed1994><pubmed>8085158</pubmed></ref><ref name=Irie1994><pubmed>8085159</pubmed></ref><ref name=Fantl1994><pubmed>7935795</pubmed></ref><ref name=Fu1994><pubmed>7939632</pubmed></ref>[34][35][36][37]やBRAF<ref name=Park2019><pubmed>31581174</pubmed></ref><ref name=Kondo2019><pubmed>31604311</pubmed></ref>[32][38]、MEKK<ref name=Fanger1998><pubmed>9452471</pubmed></ref>[39]などに結合して、それらのキナーゼ活性を制御することで細胞の増殖や分化を調節している。また、PI3K<ref name=Bonnefoy-Berard1995><pubmed>7479742</pubmed></ref>[40]やAkt<ref name=Zhang1999><pubmed>10411906</pubmed></ref>[41]などと相互作用し細胞の生存維持や運動を、あるいはBad<ref name=Zha1996><pubmed>8929531</pubmed></ref>[42]やFKHRL1<ref name=Brunet1999><pubmed>10102273</pubmed></ref>[43]などと複合体を形成し細胞死(アポトーシス)抑制に関与していることが報告されている。分裂酵母では、CDC25Cホスファターゼに結合することで、DNA修復にかかわる細胞周期チェックポイントシグナルの調節に重要な役割を果たしている<ref name=Peng1997 /><ref name=Ford1994><pubmed>8036497</pubmed></ref>[19][44]。出芽酵母では2つの14-3-3遺伝子の欠損は細胞死を引き起こすことが知られている<ref name=vanHeusden1995 />[18]。 === 脳神経系での機能 === 脳神経系において、14-3-3は上記したチロシン水酸化酵素やトリプトファン水酸化酵素、セロトニンN-アセチル転移酵素(NAT)<ref name=Obsil2001 /> [30]と相互作用し酵素活性を制御することで細胞内モノアミンレベルの調節に関わっている。またCa2+シグナルに応じて神経伝達物質の放出(エキソサイトーシス)を促進する役割が確認されている<ref name=Morgan1992><pubmed>1538762</pubmed></ref>[45]。シナプスにおける働きとしてよりよく理解されているのは、さまざまなイオンチャンネルのモジュレーターとしての役割である。代表的な標的チャンネルとして、ニコチン性アセチルコリン受容体(α4β2nAChR <ref name=Jeanclos2001><pubmed>11352901</pubmed></ref>[46])、電位依存性カルシウムチャンネル(Ca(V)2.2 <ref name=Li2006><pubmed>16982421</pubmed></ref>[47])、カリウムチャンネル(KCNK3 <ref name=O'Kelly2002><pubmed>12437930</pubmed></ref>[48])、塩素チャンネル(CFTR <ref name=Liang2012><pubmed>22278744</pubmed></ref>[49])、NMDA受容体 (NR2Cサブユニット<ref name=Chen2009><pubmed>19477150</pubmed></ref>[50])などが上げられる。14-3-3のリン酸化依存性相互作用は、チャンネル活性を調節し、あるいは細胞内輸送や構造安定性に影響を与えることによって、効率的なシナプス伝達の維持・制御に寄与していることが報告されている。 マウス海馬において阻害ペプチドであるdifopein(dimeric fourteen-three-three peptide inhibitor、後述)を用い14-3-3を阻害すると、CA3-CA1シナプスにおける連想学習と記憶行動を障害され、長期増強(LTP)を抑制されることが明らかになっている<ref name=Qiao2014><pubmed>24695700</pubmed></ref>[51]。またdifopeinは14-3-3とLRRK2キナーゼの相互作用を妨害し、マウス海馬の初代培養ニューロンの神経突起伸長を短縮化させることも知られている<ref name=Lavalley2016><pubmed>26546614</pubmed></ref>[52]。14-3-3はδカテニン、NUDEL、LIMドメイン含有キナーゼ (LIMK)やcofilinなどに相互作用することで、神経細胞の移動、神経分化、形態形成、構造可塑性を制御することが報告されている<ref name=Cornell2017><pubmed>29075177</pubmed></ref>[53]。これらの標的に加えて、14-3-3は、次項に列挙したものを含む多種多様なタンパク質と結合することによって、脳神経系で機能していると考えられる。 == 疾患との関わり == 14-3-3は脳神経系に多量に存在すること、その発現にアイソフォーム特異性があること、さらに14-3-3が標的とするタンパク質の多くが神経機能に重要な役割を担っていることなどから、14-3-3と神経疾患との関わりについては多くの報告がある。 === クロイツフェルト-ヤコブ病 === プリオンタンパク質(PrP)のミスフォールディングによって引き起こされる致死性の海綿状脳症である。治療法は現在開発されておらず、対症療法が主体である。生前の確定診断法はないが、脳脊髄液(CSF)由来の14-3-3タンパク質がCJDの信頼できるマーカーになりうることが報告されている<ref name=Hsich1996><pubmed>8782499</pubmed></ref> [54]。14-3-3タンパク質のCSFへの漏出は、CJDによる脳神経細胞の広範な破壊に依存している可能性が指摘されている<ref name=Muayqil2012><pubmed>22993290</pubmed></ref>。[55] === アルツハイマー病 === 数百万人が罹患しており、徐々に悪化する神経変性疾患である。ADは、アミロイド斑と神経原線維変化(NFT)という2つの病理学的特徴があげられる。NFTは、異常にリン酸化されたタウタンパク質の凝集によって主に構成されており、14-3-3は、リン酸化されたタウに結合し<ref name=Hashiguchi2000><pubmed>10840038</pubmed></ref>[56]その機能や安定性を制御することで、NFTへのタウの凝集を調節していると推定されている<ref name=Shimada2013><pubmed>24364034</pubmed></ref><ref name=Abdi2024><pubmed>38375509</pubmed></ref>[57][58]。また、14-3-3は、ADのアミロイド斑の主成分であるβアミロイドのクリアランスに関係することも報告されている<ref name=Abdi2024 />[58]。さらに、14-3-3はAD患者の脳や脳脊髄液中で発現レベルが異常化していることも判明しており、その異常がADの病態マーカーになる可能性も示唆されている。 === パーキンソン病 === 黒質のドーパミン神経細胞の障害によって発症する神経変性疾患である。PD患者の脳では、レビー小体(LB)と呼ばれる線維状タンパク質を含む不溶性の凝集体が観察され、14-3-3はレビー小体に存在することが証明されている<ref name=Kawamoto2002><pubmed>11895039</pubmed></ref>[59]。さらに14-3-3は、PDの発症と進行に関係する3大主要因子であるLRRK2、α-シヌクレイン、パーキンらのすべてと相互作用し、その活性を制御したり細胞内局在を変化させたり、あるいは安定化するなどの役割が報告されている<ref name=Giusto2021><pubmed>34548498</pubmed></ref>[60]。14-3-3のアミノ酸配列にはα-シヌクレインと相同的な領域がある<ref name=Ostrerova1999><pubmed>10407019</pubmed></ref>[61]。 === 筋萎縮性側索硬化症 === 筋力低下と筋萎縮を特徴とする致死的な運動ニューロン疾患である。ALSの神経病理学的特徴として、ニューロフィラメント(NF)やTDP-43、SODなどを含むレビー小体様ヒアリン封入体(LBHI)の存在があげられる。家族性ALSでもALS動物モデルでも、14-3-3はLBHIに存在することが証明されている<ref name=Kawamoto2004><pubmed>15378322</pubmed></ref>[62]。14-3-3は、NF軽鎖にリン酸化依存的に結合して安定化させることで、NF軽鎖を介する凝集体形成を抑制すると推定されている<ref name=Miao2013><pubmed>23230147</pubmed></ref>[63]。また、14-3-3 θのmRNA発現レベルがALS患者の脊髄で上昇していることも明らかにされている<ref name=Malaspina2000><pubmed>11080204</pubmed></ref> [64]。 === ポリグルタミン病 === 脊髄小脳失調症1型(SCA1)は、アタキシン-1におけるポリグルタミン(ポリQ)鎖の異状伸長によって引き起こされる致死性の神経変性疾患である。SCA1における病態の顕著な部位は小脳プルキンエ細胞であり、そこでは異状アタキシン-1が核に入り込み、封入体を形成する。14-3-3は、リン酸化されたアタキシン-1に結合し<ref name=Chen2003><pubmed>12757707</pubmed></ref>[65]、脱リン酸化を防ぐとともに核への移行を阻害する役割が報告されている<ref name=Lai2011><pubmed>21835928</pubmed></ref>[66]。14-3-3εの部分欠損がSCA1の小脳表現型を改善するという所見は、14-3-3がSCA1の病因に寄与していることを示唆している<ref name=Jafar-Nejad2011><pubmed>21245341</pubmed></ref>[67]。 === ハンチントン病 === 常染色体優性遺伝の進行性神経変性疾患であり、ハンチンチンタンパク質におけるポリQ鎖の伸長によって引き起こされる。14-3-3は、この異常ハンチンチンの封入体形成を促進することで、ミスフォールディングしたハンチンチンを除去する役割が示唆されている<ref name=Kaneko2006><pubmed>16516399</pubmed></ref>[68]。siRNAによる14-3-3ζの減少は異状ハンチンチンの封入体形成を阻害したことから<ref name=Omi2008><pubmed>18078716</pubmed></ref>[69]、14-3-3が封入体形成に関与することも示唆されている。 === ミラー・ディーカー症候群 === Lissencephaly(無脳症)のより重篤な型であり、ヒトとマウスに脳の異常を伴うまれな神経細胞移動障害を引き起こす。14-3-3ε遺伝子YWHAEが存在する染色体領域17p13-3はMDS患者で常に欠損していることが明らかになっている<ref name=Toyo-oka2003><pubmed>12796778</pubmed></ref>[70]。14-3-3εは、CDK5でリン酸化されたNUDELに結合し、NUDELのリン酸化状態を保護することで、神経細胞の移動を制御していることが報告されている<ref name=Toyo-oka2003 /> [70]。NUDELは、LIS1結合タンパク質として知られており、この複合体は細胞質ダイニン重鎖機能を制御する、神経細胞の移動に必須な因子である<ref name=Taya2007><pubmed>17202468</pubmed></ref>[71]。このことは、14-3-3εが神経細胞移動に必須の役割を担っていることを示唆している。実際、14-3-3ε欠損マウスは、海馬の欠損、皮質の菲薄化、移動距離の減少、神経細胞死の増加などの脳構造の異状を示す。しかし14-3-3εの単独欠失では、MDSを発症しないことが報告されている<ref name=Denomme-Pichon2023><pubmed>36999555</pubmed></ref>[72]。 === 統合失調症 === 陽性症状、陰性症状、認知症状の組み合わせによって特徴付けられる精神神経疾患であり、高い遺伝性があることが示されている。遺伝子解析により、14-3-3η遺伝子YWHAHが存在する染色体領域22q12-13との関連が示唆されている。実際、14-3-3η遺伝子の一塩基多型(SNP)との有意な関連は、様々なヒトサンプルを用いた多くの研究で証明されている<ref name=Toyooka1999><pubmed>10206237</pubmed></ref><ref name=Bell2000><pubmed>11121172</pubmed></ref>[73][74]。SZ患者の脳サンプルにおいて、14-3-3ηを含む多くの14-3-3アイソフォームのmRNA発現レベルが変化していることが明らかになっている。また、14-3-3εヘテロ接合体ノックアウトマウスは、海馬や皮質の構造変化やワーキングメモリー障害などの表現型を表すことから、SZにおける初めての動物モデルとして提唱されている<ref name=Ikeda2008><pubmed>18658164</pubmed></ref>[75]。
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