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ジストロフィンはDMD遺伝子にコードされる巨大な細胞骨格関連タンパク質であり、骨格筋、心筋、中枢神経系などに発現する。骨格筋では、細胞内のF-アクチンと基底板を含む細胞外マトリックスを、ジストロフィン糖タンパク質複合体を介して連結し、筋収縮に伴う機械的ストレスから筋線維膜(筋形質膜)を保護する。DMD遺伝子には複数のプロモーターが存在し、全長型Dp427に加えて、Dp260、Dp140、Dp116、Dp71などの短縮型アイソフォームが産生される[1]<ref><pubmed>14636778</pubmed></ref>。 == イントロダクション == ジストロフィンは、1980年代後半にデュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因遺伝子であるDMD遺伝子の産物として同定された巨大タンパク質である[2-3]<ref><pubmed>3282674</pubmed></ref><ref><pubmed>3319190</pubmed></ref>。 骨格筋において、ジストロフィンは筋線維膜直下に局在し、ジストロフィン糖タンパク質複合体を介して細胞内のF-アクチンと基底板を含む細胞外マトリックスを連結する。この構造は筋収縮時の機械的ストレスから筋線維膜を保護する[4-7]<ref><pubmed>33589809</pubmed></ref><ref><pubmed>15059951</pubmed></ref><ref><pubmed>10942796</pubmed></ref><ref><pubmed>8349731</pubmed></ref>。 その後の研究により、DMD遺伝子には複数のプロモーターが存在し、全長型Dp427に加えて、Dp260、Dp140、Dp116、Dp71などの短縮型アイソフォームが産生されることが明らかになった[8-10]<ref><pubmed>28963379</pubmed></ref><ref><pubmed>39487911</pubmed></ref><ref><pubmed>40254779</pubmed></ref>。特に中枢神経系では、Dp427、Dp140、Dp71がシナプス機能、神経発達、血液脳関門や神経血管単位の維持に関与すると考えられている[1,8-11,15-16]<ref><pubmed>14636778</pubmed></ref><ref><pubmed>28963379</pubmed></ref><ref><pubmed>39487911</pubmed></ref><ref><pubmed>40254779</pubmed></ref><ref><pubmed>39789386</pubmed></ref><ref><pubmed>9361032</pubmed></ref><ref><pubmed>28933375</pubmed></ref>。 == 構造 == ジストロフィンの全長型であるDp427は、約427 kDaの巨大な細胞骨格関連タンパク質である[5,9]<ref><pubmed>15059951</pubmed></ref><ref><pubmed>39487911</pubmed></ref>。C末端ドメインはジストロブレビンやシントロフィンなどと結合し、細胞膜直下の分子複合体形成に関与する[9,12,14]<ref><pubmed>39487911</pubmed></ref><ref><pubmed>39779974</pubmed></ref><ref><pubmed>11972042</pubmed></ref>。 この複合体には、サルコグリカン、サルコスパン、ジストロブレビン、シントロフィンなども含まれる[5-7]<ref><pubmed>15059951</pubmed></ref><ref><pubmed>10942796</pubmed></ref><ref><pubmed>8349731</pubmed></ref>。 中枢神経系でも、ジストロフィンおよび短縮型アイソフォームは、ジストログリカン、シントロフィン、ジストロブレビンなどとともにジストロフィン関連タンパク質複合体を形成すると考えられている[9-11]<ref><pubmed>39487911</pubmed></ref><ref><pubmed>40254779</pubmed></ref><ref><pubmed>39789386</pubmed></ref>。 近年のクライオ電子顕微鏡により、ジストロフィン糖タンパク質複合体の立体構造についても理解が進んでいる[12-13]<ref><pubmed>39779974</pubmed></ref><ref><pubmed>39779973</pubmed></ref>。 == アイソフォームと関連タンパク質 == ジストロフィンには、DMD遺伝子の複数のプロモーターに由来する全長型および短縮型アイソフォームが存在する。また、構造的に関連するタンパク質としてユートロフィンなどがある[14]<ref><pubmed>11972042</pubmed></ref>。 全長型Dp427に加えて、内部プロモーターによりDp260、Dp140、Dp116、Dp71などの短縮型アイソフォームが産生される[8-10]<ref><pubmed>28963379</pubmed></ref><ref><pubmed>39487911</pubmed></ref><ref><pubmed>40254779</pubmed></ref>。Dp260は主に網膜に発現し、視覚機能との関連が示唆されている[15]<ref><pubmed>9361032</pubmed></ref>。Dp116は主に末梢神経のシュワン細胞に発現する[16]<ref><pubmed>28933375</pubmed></ref>。ユートロフィンはジストロフィンと類似した構造をもつ関連タンパク質として研究されている[14,17-18]<ref><pubmed>11972042</pubmed></ref><ref><pubmed>31360464</pubmed></ref><ref><pubmed>40049270</pubmed></ref>。 == 発現 == ジストロフィンは、骨格筋、心筋、中枢神経系、網膜、末梢神経などに発現する[4,19-20]<ref><pubmed>33589809</pubmed></ref><ref><pubmed>23473314</pubmed></ref><ref><pubmed>11879882</pubmed></ref>。 Dp427は神経細胞のシナプス後部位に局在し、特に抑制性シナプスとの関係が報告されている[9,21]<ref><pubmed>39487911</pubmed></ref><ref><pubmed>2244790</pubmed></ref>。Dp140は胎生期から発達期の脳で比較的高く発現し、神経発達や認知機能との関連が示唆されている[8-10]<ref><pubmed>28963379</pubmed></ref><ref><pubmed>39487911</pubmed></ref><ref><pubmed>40254779</pubmed></ref>。Dp71は成熟脳に広く発現し、血管周囲アストロサイト終足、グリア限界膜、海馬歯状回の抑制性シナプスなどに局在する[9-11,22-24]<ref><pubmed>39487911</pubmed></ref><ref><pubmed>40254779</pubmed></ref><ref><pubmed>39789386</pubmed></ref><ref><pubmed>39227468</pubmed></ref><ref><pubmed>33377255</pubmed></ref><ref><pubmed>35027539</pubmed></ref>。 == 機能 == === タンパク質・細胞レベルでの機能 === ジストロフィンが欠損すると筋線維膜が脆弱となり、微小損傷、カルシウム流入、炎症、線維化が進行する[6-7,25]<ref><pubmed>10942796</pubmed></ref><ref><pubmed>8349731</pubmed></ref><ref><pubmed>26721609</pubmed></ref>。また、骨格筋では、神経型一酸化窒素合成酵素(neuronal nitric oxide synthase:nNOS)の筋線維膜局在を制御し、血流調節や筋活動時の代謝応答にも関わる[25-27]<ref><pubmed>26721609</pubmed></ref><ref><pubmed>7544149</pubmed></ref><ref><pubmed>11087895</pubmed></ref>。 Dp427はGABA作動性シナプスにおけるGABA_A受容体の集積や抑制性シナプス伝達の安定化に関与すると考えられている[28-29]<ref><pubmed>10594662</pubmed></ref><ref><pubmed>36294311</pubmed></ref>。その欠損により、興奮性神経伝達と抑制性神経伝達のバランスが変化し、シナプス可塑性や行動表現型に影響する可能性がある[30]<ref><pubmed>40411614</pubmed></ref>。Dp71は星状膠細胞足突起や血管周囲構造に局在し、AQP4やKir4.1などの膜タンパク質の配置、血液脳関門の安定性、水・カリウム恒常性、神経血管単位の維持に関与すると考えられている[22-24,31]<ref><pubmed>39227468</pubmed></ref><ref><pubmed>33377255</pubmed></ref><ref><pubmed>35027539</pubmed></ref><ref><pubmed>36799942</pubmed></ref>。発生期には神経幹細胞や放射状グリア細胞にも発現し、神経発生や分化制御への関与が示唆されている[11]<ref><pubmed>39789386</pubmed></ref>。 === 個体レベルでの機能 === 個体レベルでは、ジストロフィンは骨格筋と心筋の構造維持に不可欠である[4]<ref><pubmed>33589809</pubmed></ref>。心筋では、拡張型心筋症や心不全の原因となることがある[4,32-33]<ref><pubmed>33589809</pubmed></ref><ref><pubmed>37469564</pubmed></ref><ref><pubmed>38950808</pubmed></ref>。 中枢神経系では、ジストロフィン・アイソフォームの欠損が認知機能、言語発達、注意、行動、情動、社会性に影響する可能性がある[4,34]<ref><pubmed>33589809</pubmed></ref><ref><pubmed>35952818</pubmed></ref>。特に、Dp140やDp71の発現が失われる変異では、神経発達や認知機能への影響がより目立つ可能性がある[35-37]<ref><pubmed>36575893</pubmed></ref><ref><pubmed>38688459</pubmed></ref><ref><pubmed>39970581</pubmed></ref>。 == 疾患との関わり == ジストロフィン異常によって生じる疾患群は、ジストロフィノパチーと総称される。代表的な疾患は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーとベッカー型筋ジストロフィーである[4]<ref><pubmed>33589809</pubmed></ref>。 ベッカー型筋ジストロフィーでは、短縮型または量的に低下したジストロフィンが発現するため、デュシェンヌ型筋ジストロフィーより軽症の経過をとることが多い[4,32-33]<ref><pubmed>33589809</pubmed></ref><ref><pubmed>37469564</pubmed></ref><ref><pubmed>38950808</pubmed></ref>。この違いは、DMD遺伝子変異がmRNAの読み枠を破綻させるか、読み枠を保ったまま短縮型タンパク質を産生しうるかという点と関連する[1,4]<ref><pubmed>14636778</pubmed></ref><ref><pubmed>33589809</pubmed></ref>。 デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者では、認知機能障害、学習障害、言語発達の遅れ、注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症様行動、強迫性症状、不安、てんかんなどがみられることがある[34]<ref><pubmed>35952818</pubmed></ref>。これらの症状の背景には、Dp427、Dp140、Dp71などの脳内ジストロフィン・アイソフォームの欠損が関与すると考えられる[35-36]<ref><pubmed>36575893</pubmed></ref><ref><pubmed>38688459</pubmed></ref>。特に、DMD遺伝子の遠位側に変異があり、Dp140やDp71の発現にも影響する場合には、中枢神経症状がより強く現れる可能性がある[37]<ref><pubmed>39970581</pubmed></ref>。 == 関連語 == ジストロフィノパチー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、DMD遺伝子、ジストロフィン糖タンパク質複合体、ジストロフィン関連タンパク質複合体、ジストログリカン、サルコグリカン、シントロフィン、ユートロフィン、Dp427、Dp140、Dp71、GABA作動性シナプス、血液脳関門、神経血管単位、アクアポリン4、Kir4.1、筋線維膜、基底板 == 参考文献 == <references/>
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