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{{Taxobox | name = ''Danio rerio'' | status = LC | status_system = IUCN3.1 | image = Zebrafisch.jpg | image_caption = 成体(中央)、1細胞期の胚(左)、および受精後16時間の胚(右)(提供:岡本仁(理化学研究所)) | image_width = 250px | regnum = [[Animal]]ia | phylum = [[Chordate|Chordata]] | classis = [[Actinopterygii]] | ordo = [[Cypriniformes]] | familia = [[Cyprinidae]] | genus = ''[[Danio]]'' | species = '''''D. rerio''''' | binomial = ''Danio rerio'' | binomial_authority = ([[Francis Buchanan-Hamilton|F. Hamilton]], 1822) | synonyms = * ''Barilius rerio'' * ''Brachydanio rerio'' * ''Cyprinus chapalio'' * ''Cyprinus rerio'' * ''Danio frankei'' * ''Danio lineatus'' * ''Nuria rerio'' * ''Perilampus striatus'' }} <div align="right"> <font size="+1">[https://researchmap.jp/fumikubo 久保 郁]</font><br> ''理化学研究所 脳神経科学研究センター''<br> DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2026年8月31日 原稿完成日:2026年9月15日<br> 担当編集委員:[https://researchmap.jp/yamagatm 山形 方人](ハーバード大学・脳科学センター)<br> </div> 英:zebrafish 独:Zebrafisch 仏:poisson-zèbre<br> 学名:''Danio rerio'' {{box|text= ゼブラフィッシュは、小型で飼育・繁殖が容易であり、幼若期の胚・仔魚が透明であることから、神経系の発生や神経活動を生体で観察できる重要な脊椎動物モデルである。また、Tol2トランスポゾンやCRISPR/Casなどの遺伝学的手法により、特定の遺伝子や神経細胞を操作できるため、遺伝子と神経機能・行動との因果関係を解析することができる。仔魚では脳が小型であることを活かして、全脳神経活動イメージングや光遺伝学、行動解析を組み合わせることで、神経回路と行動の関係を一細胞レベルで研究できる。さらに、単一細胞RNAシーケンス、デジタル脳アトラス、コネクトーム解析などにより、神経細胞の分子特性、形態、神経接続、活動を統合的に解析する研究が進んでいる。}} == 神経科学におけるゼブラフィッシュ == [[神経系]]の構造や機能を理解するためには、[[遺伝子]]、[[神経細胞]]、[[神経回路]]、[[行動]]の各階層を統合して解析する必要がある。そのため神経科学では、[[線虫]]・[[ショウジョウバエ]]などの[[無脊椎動物]]から、[[マウス]]などの[[哺乳類]]動物まで、目的に応じてさまざまな[[モデル生物]]が用いられてきた。[[ゼブラフィッシュ]]は、[[コイ科]]に属する小型[[淡水魚]]のモデル生物である。[[成魚]]は全長3〜5 cm程度と小型で、飼育・繁殖が容易であり、一度に多数の[[胚]]を得ることができる。ゼブラフィッシュは[[脊椎動物]]であり、神経系の基本的な[[発生]]過程や神経細胞の[[分化]]、[[感覚]]や行動を司る神経回路について、哺乳類との比較が可能である。また、ショウジョウバエや線虫と比較すると神経系は複雑であるものの、[[仔魚]](およそ[[受精]]後3日以降〜数週間まで)の[[脳]]は小さく、全脳の神経活動を[[細胞]]レベルで測定することが可能である。後述するように、[[遺伝子改変]]技術、全脳神経活動[[イメージング]]、[[光遺伝学]]、[[仮想現実]]を利用した[[行動実験]]などの技術の発展により、ゼブラフィッシュは「遺伝子―神経細胞―神経回路―行動」の関係を統合的に解析するモデルとして重要になっている。 [[ファイル:Kubo Zebrafish Fig1.jpg|サムネイル|'''図. 受精後5日のゼブラフィッシュ仔魚''']] == モデル生物としての特徴 == ゼブラフィッシュが神経科学研究に適している第一の理由は、胚(およそ受精後3日後まで)・仔魚が高い透明性を有することである('''図''')。神経細胞を[[蛍光タンパク質]]で[[標識]]することで、神経細胞の分化、[[軸索]]伸長、神経回路形成を ''in vivo'' で観察できる。また、遺伝子コード型[[カルシウムインジケーター]]などを神経細胞に[[発現]]させることで、活動中の神経細胞を光学的に記録することも可能である。受精後約一週間の仔魚では、脳を構成する神経細胞数は約10万細胞と比較的少なく、脳全体が[[顕微鏡]]観察に適したサイズである。この特徴を活用することで、[[ライトシート顕微鏡]]や[[二光子顕微鏡]]を用いて脳内の大部分の神経細胞の活動を[[単一細胞]]レベルでリアルタイムに記録することができる(後述の「全脳神経活動イメージング」を参照)。さらに、胚・仔魚の高い[[光透過性]]を利用することで、光遺伝学による神経活動の[[非侵襲]]的な操作も可能である。 第二の特徴は、飼育・繁殖が容易で、多数の[[同齢個体]]を得ることができる点である。発生が速く、受精後1日目には[[自発運動]](自発的[[コイリング]])を開始し、その後、[[触覚]]、[[視覚]]、[[聴覚]]などの[[感覚刺激]]に対する[[応答]]をはじめとする基本的な行動が段階的に発達する。そのため、脳が小さく透明な仔魚期から、神経回路と行動を対応づけた研究が可能である<ref name=Fero2011>'''Fero K, Yokogawa T, Burgess HA. (2011).''' The Behavioral Repertoire of Larval Zebrafish. In: Kalueff AV, Cachat JM, eds. ''Zebrafish Models in Neurobehavioral Research''. Humana Press; 249–291. [[doi:10.1007/978-1-60761-922-2_12|[DOI].]]</ref>。 第三の特徴は、[[遺伝学]]的操作が比較的容易であることである。[[トランスポゾン]][[Tol2]]を利用した[[トランスジェニック]]ゼブラフィッシュ系統の作製、[[CRISPR/Cas]]を用いた[[ゲノム編集]]([[ノックアウト]]や[[ノックイン]])など、多様な遺伝学的手法が利用できる<ref name=Kawakami2004><pubmed>15239961</pubmed></ref><ref name=Kimura2014><pubmed>25293390</pubmed></ref><ref name=Hwang2013><pubmed>23360964</pubmed></ref>。これらを利用して、特定の遺伝子の[[機能]]を操作したり、特定の神経細胞群を標識したりすることができる。 == 遺伝学的手法 == ゼブラフィッシュは、[[発生異常]]や[[行動異常]]を指標とした[[順遺伝学]]的[[スクリーニング]]に利用されてきた。大規模な[[化学変異原]]スクリーニングによって多数の[[突然変異体]]が同定され、脊椎動物の発生を制御する遺伝子の[[機能解析]]に貢献した<ref name=Driever1996><pubmed>9007227</pubmed></ref>。神経科学においても、視覚応答や[[運動行動]]の異常を指標とした遺伝学的スクリーニングが行われている<ref name=Neuhauss1999><pubmed>10493760</pubmed></ref><ref name=Granato1996><pubmed>9007258</pubmed></ref>。 [[逆遺伝学]]的解析では、古典的には[[morpholino antisense oligonucleotide]]を用いた[[遺伝子発現]]阻害が広く利用された。その後、[[TALEN]]や[[CRISPR/Cas9]]などのゲノム編集技術が導入され、[[標的遺伝子]]のノックアウトやノックインをより安定して行えるようになった<ref name=Hwang2013 />。 [[トランスジェニック技術]]では、[[組織特異的]]あるいは[[細胞種特異的]]な[[プロモーター]]を利用して、特定の神経細胞群に蛍光タンパク質やカルシウムインジケーター等を発現させることができる。また、[[Gal4/UASシステム]]や[[QF/QUASシステム]]などの[[バイナリー遺伝子発現系]]、[[Cre/loxPシステム]]などの[[リコンビナーゼ]]を用いた手法を利用することで、特定の神経細胞群をより柔軟かつ選択的に標識・操作することが可能である<ref name=Subedi2014><pubmed>23792917</pubmed></ref><ref name=Scott2009><pubmed>19457087</pubmed></ref><ref name=Carney2018><pubmed>29429760</pubmed></ref>。さらに、[[化学遺伝学]]や光遺伝学を組み合わせることで、特定の神経細胞を[[アブレーション]]したり、活動を操作したりすることが可能となり、その神経細胞が行動に果たす因果的役割を検討できる。 == 神経系の構造 == 脊椎動物の脳は、さまざまな形や大きさをしているが、いずれも[[終脳]]、[[間脳]]、[[中脳]]、[[小脳]]、[[後脳]]といった[[脳領域]]から構成され、基本的な構造は共通している。魚類の終脳は哺乳類の[[大脳皮質]]とは形態が異なるが、[[発生学]]的・[[分子生物学]]的な対応関係が認められる領域が存在する<ref name=Puelles2013><pubmed>23871546</pubmed></ref>。このため、ゼブラフィッシュは脊椎動物における脳領域の形成や神経細胞の分化を研究するためのモデルとして利用されている。 近年では、[[単一細胞RNAシーケンス]]などの技術を用いた発生段階を追う大規模な単一細胞[[トランスクリプトーム]]解析により、発生過程における[[神経細胞タイプ]]の多様化が解析され、多数の神経細胞集団が同定されている<ref name=Raj2020><pubmed>33068532</pubmed></ref>。 == 神経回路と行動 == ゼブラフィッシュは、神経回路と行動との関係を研究する上でも優れたモデルである<ref name=McArthur2020>'''McArthur KL, Chow DM, Fetcho JR. (2020).'''<br>Zebrafish as a Model for Revealing the Neuronal Basis of Behavior. In: Cartner SC, et al., eds. ''The Zebrafish in Biomedical Research''. Academic Press; 593–617. [[doi:10.1016/B978-0-12-812431-4.00046-4|[DOI]]].</ref>。胚および仔魚は、視覚刺激に対する[[定位行動]]、光・暗条件に対する応答、[[逃避行動]]、[[遊泳]]など、定量的に測定可能な行動を示す。[[時間分解能]]の高い行動データを用いることで、遊泳運動の[[特徴量]]に基づき、仔魚の行動を[[教師なし学習|教師なし]]で[[クラスタリング]]することが可能である<ref name=Marques2018><pubmed>29307558</pubmed></ref>。 [[視覚系]]はゼブラフィッシュ神経科学において特に研究が進んでいる<ref name=Baier2024><pubmed>38663429</pubmed></ref>。[[視蓋]]を中心とする視覚回路は、[[視覚刺激]]の検出から運動行動に至る神経回路を解析するモデルとなっている。視覚刺激によって誘発される[[捕食行動]]、逃避行動などの行動を定量的に測定し、それに[[相関]]を示す神経細胞を一細胞レベルで調べることができる。 また、[[運動系]]においては、仔魚の遊泳行動を制御する神経回路が特によく解析されている。例えば、[[脊髄]]の[[運動ニューロン]]や[[介在ニューロン]]に加え、[[マウスナー細胞]]に代表される、[[脳幹]]から脊髄へ[[投射]]する[[網様体脊髄路]](reticulospinal)ニューロンの活動も詳細に解析されており、これらの神経回路が[[運動出力]]をどのように制御しているかを解析することができる<ref name=Berg2018><pubmed>30271327</pubmed></ref>。 また、ゼブラフィッシュでは[[社会行動]]、[[攻撃行動]]、[[摂食行動]]、[[ナビゲーション]]、[[睡眠]]・[[覚醒]]、[[学習]]・[[記憶]]などのより複雑な行動も研究対象となっている<ref name=McArthur2020 /><ref name=Okamoto2021><pubmed>33421772</pubmed></ref>。成魚では仔魚より複雑な行動を解析できる一方、脳が巨大化し透明性が失われるため、仔魚に比べて全脳イメージングには技術的な制約がある。このため仔魚と成魚を目的に応じて使い分けることが重要である(下記「ダニオネラ属:ゼブラフィッシュを補完する魚類モデル」を参照)。 == 全脳神経活動イメージング == 神経科学研究におけるゼブラフィッシュの最も特徴的な解析手法の一つが、仔魚を用いた全脳神経活動イメージングである。Ahrensらは、遺伝子コード型カルシウムインジケーター[[GCaMP]]を発現させたゼブラフィッシュ仔魚を用いて、[[運動適応]]中の脳全体の神経活動を二光子顕微鏡で記録し、[[感覚入力]]や運動出力と相関する神経活動を同定した<ref name=Ahrens2012><pubmed>22622571</pubmed></ref>。その後、より高速なイメージングが可能なライトシート顕微鏡が導入され、脳内のほぼすべての神経細胞の活動を、約2 volumes/secの取得速度で一細胞レベルにおいて記録できるようになった<ref name=Ahrens2013><pubmed>23524393</pubmed></ref>。 この方法の重要性は、行動に関連する神経活動を、特定の脳領域をあらかじめ選択することなく、脳全体から探索できる点にある。このような[[仮説]]に依存しない大規模神経活動イメージング手法は、視覚、運動、逃避、摂食などの行動の解析に適用されてきた。これらの行動下では、複数の脳領域にまたがる分散的な[[神経活動パターン]]が観察されている<ref name=Vanwalleghem2018><pubmed>29486425</pubmed></ref><ref name=Loring2020><pubmed>33221591</pubmed></ref>。 さらに、頭部を固定した仔魚を[[仮想環境]]に置き、仔魚の尾の運動に応じて視覚刺激を変化させる[[閉ループ]]型の実験系も開発され<ref name=Ahrens2012 />、全脳イメージングに実装されている。これにより、行動によって生じた感覚入力のずれをアップデートすることが可能となった。また近年では、[[自由遊泳]]する仔魚の動きを[[追跡]]しながらイメージングを行う顕微鏡が開発され、[[自由行動]]下においても仔魚の全脳神経活動を記録することが可能となっている<ref name=Kim2017><pubmed>28892088</pubmed></ref>。 == 神経回路の構造解析とデジタル脳アトラス == [[機能イメージング]]と並行して、神経回路の[[解剖学]]的構造を網羅的に記載する研究も進められている。蛍光標識した単一神経細胞の軸索・[[樹状突起]]投射を三次元的に再構築し、標準脳座標系に登録することで、神経細胞の[[形態]]および投射パターンを網羅的に記載する試みが行われている<ref name=Kunst2019><pubmed>31147152</pubmed></ref>。さらに、遺伝子発現、細胞形態、脳領域の解剖学定義を統合したデジタル脳アトラス(下記「外部リンク」を参照)の構築が進められている。これらは一般に公開されており、単一細胞レベルの遺伝子発現地図と神経細胞の形態・投射情報を統合することにより、神経細胞タイプを分子と形態の両面から定義することが可能となっている<ref name=Shainer2023><pubmed>36812331</pubmed></ref>。 さらに近年では、[[電子顕微鏡]]画像データを三次元的に再構築することで、[[シナプス]]レベルの神経回路を網羅的に解析する[[コネクトーム]]研究も進展している<ref name=Svara2022><pubmed>36280717</pubmed></ref><ref name=Petkova2025>'''Petkova MD, et al. (2025).'''<br>A connectomic resource for neural cataloguing and circuit dissection of the larval zebrafish brain. bioRxiv. [[doi:10.1101/2025.06.10.658982.|[DOI].]]</ref>。 == 疾患モデルと創薬・毒性スクリーニング == ゼブラフィッシュは[[ヒト疾患]]関連遺伝子の機能解析や[[疾患モデル]]の構築にも利用されている。ヒト疾患関連遺伝子の多くにはゼブラフィッシュにおける[[相同遺伝子]]が存在し、遺伝子編集によって変異体を作製することで、[[てんかん]]、[[自閉症スペクトラム障害]]、[[統合失調症]]などの[[神経疾患]]・[[精神疾患]]や、[[パーキンソン病]]、[[アルツハイマー病]]などの[[神経変性疾患]]に関連する[[表現型]]を解析することができる<ref name=Chia2022><pubmed>36311026</pubmed></ref><ref name=Sakai2018><pubmed>30210288</pubmed></ref>。 また、多数の胚・仔魚を容易に得られることから、ゼブラフィッシュは[[化合物]]を用いた大規模スクリーニングにも適している。[[96ウェルプレート]]などの[[マルチウェルプレート]]を用いることで、多数の個体を同時に解析することが可能であり、化合物を飼育水中に添加することで、行動解析や[[蛍光イメージング]]などを指標とした効率的なスクリーニングを実施できる。この特性を利用して、[[神経発達障害]]、てんかん、神経変性疾患などを対象とした[[薬剤]]候補化合物の探索に加え、[[発生毒性]]や[[神経毒性]]などの[[安全性評価]]にも利用されている<ref name=MacRae2015><pubmed>26361349</pubmed></ref>。 == 中枢神経系の高い再生能力 == 成体哺乳類の[[中枢神経系]]が[[損傷]]後に[[再生]]しにくいのに対し、ゼブラフィッシュは、成魚においても脳や脊髄の損傷後に神経細胞や神経回路を再構築し、[[機能回復]]する高い[[再生能力]]を有している。損傷部位では、[[放射状グリア]](radial glia)が[[幹細胞]]として機能し、新たな[[ニューロン]]を産生するとともに、既存の神経回路へと統合することが知られている。この再生メカニズムを解析することは、[[再生医療]]や[[神経保護]]・[[神経修復|修復]]技術の開発に向けた基礎研究モデルとして注目されている<ref name=Cigliola2020><pubmed>32461216</pubmed></ref><ref name=Cellini2025><pubmed>40307837</pubmed></ref>。 == ダニオネラ属:ゼブラフィッシュを補完する魚類モデル == [[ダニオネラ]](''Danionella'')は、コイ科[[ダニオ亜科]]に属する小型淡水魚の[[属]]であり、ゼブラフィッシュに近縁な[[分類群]]である。ダニオネラ属の魚類は、成魚でも体長10–15 mm程度と極めて小型であり、脊椎動物における[[幼形成熟]](progenesis)の中でも極端な例の一つとされる。幼形成熟とは、体の大部分が十分に発達するよりも早い段階で[[生殖機能]]が成熟する現象を指す。この発生様式により、ダニオネラは成魚においても仔魚期に見られる高い透明性を維持し、成体の脳を生きた状態で光学的に観察できるという、ゼブラフィッシュにはない利点を有する。 神経科学研究において特に注目されているのが、''[[Danionella cerebrum]]''と呼ばれる種である<ref name=Wang2026><pubmed>42607648</pubmed></ref><ref name=Ando2024>'''安藤康史・菊池和 (2024).'''<br>透明魚ダニオネラ 生命科学研究の新たな生体イメージングモデル動物.''生体の科学'' 75(4):369–374, [[doi:10.11477/mf.2425201885|[DOI].]]</ref>。本種は、成体でも体長約12 mmと極めて小型で、脳サイズも既知の成体脊椎動物の中で最小クラスである。2018年頃の初期の研究では、研究用個体群が当初''D. translucida''と記載されていたが、その後、詳細な分類学的解析によって別種である''D. cerebrum''として同定されたという経緯がある<ref name=Britz2021><pubmed>34556691</pubmed></ref>。''D. cerebrum''は遺伝学的操作にも適しており、CRISPR-Cas9によるゲノム編集やTol2トランスポゾンを用いた[[トランスジェネシス]]の手法が確立されている<ref name=Schulze2018><pubmed>30323353</pubmed></ref>。このように、ダニオネラはゼブラフィッシュと同様の遺伝学的・光学的手法を利用できる一方、成体における小型性と透明性という独自の特徴を有することから、成体脊椎動物の脳を全脳・一細胞レベルで解析するための新たなモデル動物として期待されている。 == 今後の展望 == 近年のゼブラフィッシュ研究では、遺伝学、[[単一細胞解析]]、全脳イメージング、[[コネクトミクス]]、[[行動解析]]を統合する方向に発展している。単一細胞RNAシーケンスによる細胞タイプの同定、脳アトラスによる空間情報、神経活動イメージングによる機能情報を統合することで、「どの細胞が、どこに存在し、どの遺伝子を発現し、どの神経細胞と結合し、どの行動に関与するか」を一つの枠組みで解析することが可能になりつつある。 また、電子顕微鏡解析から得られたコネクトームを[[人工ニューラルネットワーク]]の構造的制約として組み込み、実際の神経接続パターンに基づくモデルを用いて視覚処理などの計算タスクを再現・[[シミュレーション]]するといったアプローチも発展すると考えられる<ref name=Lappalainen2024><pubmed>39261740</pubmed></ref>。また、行動追跡により高精度に定量化した運動パターンと全脳の神経活動パターンを多次元空間上で対応づけることで、行動状態と神経状態の関係を定量化し、行動を生み出す神経回路のダイナミクスを明らかにすることも期待される。今後は、こうした多階層の実験データと計算モデルを統合することで、神経回路の構造・機能と行動の因果関係をより包括的に理解することが可能になると考えられる。 == 外部リンク == * [https://zfin.org/ ZFIN] - ゼブラフィッシュの遺伝子、ゲノム、遺伝子発現、変異体、表現型、疾患モデルなどを統合したモデル生物データベース。 * [https://mapzebrain.org/ MapZebrain] - ゼブラフィッシュ仔魚の脳解剖、遺伝子発現、神経細胞形態、神経活動などを共通座標系上で統合・可視化する脳アトラス。 * [https://vis.arc.vt.edu/projects/zbb/ Zebrafish Brain Browser] - ゼブラフィッシュ仔魚の脳領域やトランスジェニック系統の蛍光標識パターンを三次元的に検索・可視化する脳アトラス。 * [https://zebrafish.cn/ ZExplorer] - ゼブラフィッシュ脳の遺伝子発現、単一神経細胞形態、神経回路、神経活動などを三次元共通座標系上で統合した脳アトラス。 == 参考文献 == <references />
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