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<div align="right"> <font size="+1">[https://researchmap.jp/mituij-tky 三井 純]</font><br> ''東京大学大学院医学系研究科''<br> DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2026年9月28日 原稿完成日:2026年9月29日<br> 担当編集委員:[https://researchmap.jp/hideakimatsui 松井 秀彰](新潟大学 脳研究所)<br> </div> 英:hereditary spastic paraplegia 独:hereditäre spastische Paraplegie 仏:paraplégie spastique héréditaire<br> 同義語:Strümpell–Lorrain症候群<br> 英略語:遺伝性痙性対麻痺 {{box|text= 遺伝性痙性対麻痺は、両下肢の痙性と筋力低下を主な症状とする遺伝性神経疾患群である。「痙性(痙縮)」とは、上位運動ニューロン系の障害に伴う筋緊張の亢進で、他動的に関節を動かして筋肉を伸ばす際に、速く動かすほど抵抗が強くなることを特徴とする。「対麻痺」は左右両側の下肢の麻痺を意味するが、初期には麻痺よりも痙性による支障が前面に出る。原因遺伝子は多数あり、長い神経線維が維持される仕組みを理解するうえでも重要な疾患群である。}} == 遺伝性痙性対麻痺とは == 1880年にドイツの[[w:Adolf_von_Strümpell|Adolf Strümpell]]が成人期に発症する痙性対麻痺の兄弟例を記載し<ref>Strümpell A. Beiträge zur Pathologie des Rückenmarks. Arch Psychiatr Nervenkr 1880; 10: 676–717. doi: [https://doi.org/10.1007/BF02224539 10.1007/BF02224539].</ref>、後にフランスの[[wi:Maurice Lorrain|Maurice Lorrain]]が症例をまとめたため、Strümpell–Lorrain症候群とも呼ばれる。 本邦では、遺伝性痙性対麻痺は行政上、[[脊髄小脳変性症]]に含まれる。これは、[[小脳]]や[[脊髄]]の神経系が進行性に障害される疾患群を包括的に扱ってきた歴史的背景に加え、一部の病型で痙性対麻痺と[[小脳性運動失調]]が重なることによる。ただし、小脳障害は本疾患の必須所見ではなく、純粋型では主として[[皮質脊髄路]]の障害が症状の中心となる。 1990年代以降、原因[[遺伝子]]の同定が進んだ。1999年には、最も頻度の高い病型であるSPG4の原因遺伝子''SPAST''が同定された<ref><pubmed>10610178</pubmed></ref>。 == 診断 == === 臨床像 === 発症年齢は乳幼児期から高齢期まで幅広い。典型例では、膝がつっぱる、つま先が引っかかる、走りにくいといった症状から始まり、徐々に歩行が困難になる。診察では下肢の[[筋緊張]]が高く、膝などの[[腱反射]]が亢進する。足底への刺激で母趾が背屈する[[Babinski徴候]]や、[[足間代]](足関節を急に背屈させたときに足関節の底屈と背屈が律動的に繰り返される現象)もみられる。これらは、[[大脳]]から[[脊髄]]へ至る[[上位運動ニューロン]]系の障害を反映した所見である。 臨床的には純粋型と複合型に大別される。純粋型では下肢の[[痙縮]]と筋力低下が中心であり、[[尿意]]切迫などの[[排尿]]症状や、[[深部感覚]]の軽度低下をしばしば伴う。複合型では、これらに加えて、[[知的発達症]]、[[認知機能障害]]、[[小脳性運動失調]]、[[末梢神経障害]]、[[視神経萎縮]]、[[てんかん]]などを認める。 多くは緩徐に進行するが、幼児期発症例には長期間ほとんど進行しないものもある。同じ原因[[遺伝子]]、同じ家系内でも発症年齢や重症度は異なることがある<ref><pubmed>10980739</pubmed></ref>。また、経過中に随伴症状が明らかになり、純粋型から複合型へ分類が変わる場合もある。臨床分類と遺伝子による分類は必ずしも一対一には対応しないことに注意する<ref><pubmed>34983064</pubmed></ref>。 === 診断と鑑別 === 診断には、症状の経過、神経学的診察、家族歴、画像検査、血液検査、電気生理学的検査、遺伝学的検査を組み合わせる。 幼児期発症例では[[脳性麻痺]]との区別が問題になる。小児・若年例では、下肢[[ジストニア]]が痙性歩行に見えることがあるため、[[ドーパ]]反応性[[ジストニア]](Dopa-responsive dystonia:DRD)を鑑別に挙げ、日内変動や睡眠後の改善を確認するとともに、[[レボドパ]]投与試験を検討する。[[常染色体潜性遺伝]]性[[若年性パーキンソニズム]](autosomal recessive juvenile parkinsonism:AR-JP)も、まれに痙性対麻痺様に発症するため、動作緩慢や筋強剛を伴う場合には鑑別に含める。家族歴がなくても、潜性遺伝、新たに生じた[[病的変異]](de novo variant)、家族の軽微な症状が自覚されていない、[[浸透率]]が低いなどの可能性を考慮する必要がある。脳・[[脊髄]][[MRI]]は、脊髄の圧迫、炎症、腫瘍など、類似症状を生じる疾患の除外に重要である。特に純粋型では、通常のMRIで明らかな異常を認めないことが多いが、病型によっては脊髄や[[小脳]]の萎縮、白質病変、左右の[[大脳]]を結ぶ[[脳梁]]の菲薄化がみられる。血液検査では、[[ビタミンB12]]欠乏、[[ヒトT細胞白血病ウイルス1型関連脊髄症]] ([[human T-cell leukemia virus type 1-associated myelopathy]]; [[HAM]])、[[副腎白質ジストロフィー]]、[[クラッベ病]]、[[脳腱黄色腫症]]などを鑑別する。特に、治療可能な原因を見逃さないことが重要である。電気生理学的検査では、[[神経伝導検査]]や[[体性感覚誘発電位]]検査によって、[[末梢神経障害]]、[[脊髄後索]]障害の合併を検索する。[[運動誘発電位]]検査によって、[[皮質脊髄路]]の伝導障害を評価することができる。 本邦では、遺伝性痙性対麻痺の遺伝学的診断に研究機関との連携が重要な役割を果たしている。解析手法としては、複数の原因[[遺伝子]]を同時に調べる[[遺伝子パネル]]、[[タンパク質]]をコードする領域を広く解析する[[エクソーム]]解析、[[ゲノム]]全体を広く解析する[[全ゲノム解析]]などがある。遺伝性痙性対麻痺は原因遺伝子が多く、他の神経疾患との臨床像の重なりもあるため、臨床像や検査体制に応じて、遺伝子パネル、エクソーム解析、全ゲノム解析などを選択する。遺伝子パネルを用いる場合には、対象遺伝子の選定と継続的な更新が重要となる。[[SPG4]]、[[SPG31]]、[[SPG11]]などでは[[エクソン]]単位以上の欠失・重複も認められるため、塩基置換や小さな挿入・欠失に加え、これらの[[コピー数変異]]を検出できる検査設計が重要である<ref><pubmed>34983064</pubmed></ref>。遺伝学的解析を行う際は、未知の遺伝性痙性対麻痺の原因遺伝子が残されていること、解析手法によっては病的変異を検出できない場合があること(例えば、通常のエクソーム解析では、深部[[イントロン]]変異の多くは解析対象外となる)、病的意義が解釈できない変異が見つかる場合があることなどに留意する。多くの遺伝性痙性対麻痺病型では、現時点で確立した疾患修飾療法はないが、原因遺伝子の同定は、病型に応じた合併症の評価、[[遺伝カウンセリング]]、治療研究への参加に役立つ。 === 原因遺伝子と遺伝形式 === 病型名には通常、SPGと数字を組み合わせた表記が用いられる。これは歴史的に[[遺伝子座]]の同定に伴って付けられた名称で、臨床像や遺伝形式を反映していない。例えば、SPG4(''SPAST''-遺伝性痙性対麻痺)のように、病型名と原因遺伝子に基づく名称を併記すると理解しやすい。[[SPG7]]やSPG11などでは、SPG番号による病型名と遺伝子シンボルが一致しているため、病型名は正体、遺伝子シンボルは斜体で表記して区別する必要がある。遺伝形式には、[[常染色体顕性遺伝]]、[[常染色体潜性遺伝]]、[[X連鎖遺伝]]などがある<ref><pubmed>34983064</pubmed></ref>。代表的な病型と原因遺伝子、主な遺伝形式、臨床的特徴を表1に示す。 {| class="wikitable" |+ 表1. 遺伝性痙性対麻痺の代表的な病型と原因遺伝子 ! 病型名(SPG番号) !! 原因遺伝子 !! 主な遺伝形式 !! 代表的な臨床的特徴 |- | [[SPG2]] || ''[[PLP1]]'' || X連鎖性 || 純粋型から、[[眼振]]・[[運動失調]]・[[認知機能障害]]を伴う複合型まで。 |- | [[SPG3A]] || ''[[ATL1]]'' || 顕性† || 小児期発症が多く、純粋型が主体。 |- | [[SPG4]] || ''[[SPAST]]'' || 顕性 || 最も頻度が高い。発症年齢は幅広く、純粋型が多い。 |- | [[SPG5]]([[SPG5A]]) || ''[[CYP7B1]]'' || 潜性 || 純粋型が多く、[[深部感覚]]障害を伴うことがある。 |- | [[SPG7]] || ''[[SPG7]]'' || 潜性 || [[痙性対麻痺]]と[[小脳性運動失調]]の重なり。[[視神経]]萎縮を伴うことがある。 |- | [[SPG8]] || ''[[WASHC5]]''(旧名''[[KIAA0196]]'') || 顕性 || 成人期発症の純粋型が多い。 |- | [[SPG10]] || ''[[KIF5A]]'' || 顕性 || 純粋型から、[[末梢神経]]障害や筋萎縮を伴う複合型まで。 |- | [[SPG11]] || ''[[SPG11]]'' || 潜性 || 若年発症、認知機能障害、[[脳梁]]菲薄化、末梢神経障害。 |- | [[SPG15]] || ''[[ZFYVE26]]'' || 潜性 || 若年発症、認知機能障害、脳梁菲薄化。[[網膜]]変性を伴うことがある。 |- | [[SPG30]] || ''[[KIF1A]]'' || 顕性・潜性† || 純粋型から、[[知的発達症]]・末梢神経障害・視神経萎縮などを伴う複合型まで幅広い。 |- | [[SPG31]] || ''[[REEP1]]'' || 顕性 || 純粋型が多いが、末梢神経障害を伴うことがある。 |- | [[SPG46]] || ''[[GBA2]]'' || 潜性 || 小脳性運動失調、[[白内障]]、認知機能障害、末梢神経障害などを伴う。脳梁菲薄化や小脳萎縮を認めることがある。 |- | [[SPG47]] || ''[[AP4B1]]'' || 潜性 || [[AP-4]]関連遺伝性痙性対麻痺:乳幼児期の発達遅滞・筋緊張低下に続き痙性が明らかになる。知的発達症などを伴う。 |- | [[SPG50]] || ''[[AP4M1]]'' || 潜性 || AP-4関連遺伝性痙性対麻痺(PG47の欄を参照)。 |- | [[SPG51]] || ''[[AP4E1]]'' || 潜性 || AP-4関連遺伝性痙性対麻痺(PG47の欄を参照)。 |- | [[SPG52]] || ''[[AP4S1]]'' || 潜性 || AP-4関連遺伝性痙性対麻痺(PG47の欄を参照)。 |} :本表は、本文中で取り上げた病型を含む代表的な病型を示したものであり、すべての病型を網羅していない。示されている臨床的特徴は代表例であり、必須所見ではない。 :注:顕性・潜性はいずれも常染色体遺伝を示す。同じ原因遺伝子でも臨床像は異なり、純粋型・複合型と遺伝子による分類は必ずしも一対一に対応しない。 :† SPG3A(''ATL1''-遺伝性痙性対麻痺)は主に顕性遺伝であるが、両アレルの[[病的変異]]による潜性遺伝の報告もある。SPG30(''KIF1A''-遺伝性痙性対麻痺)には顕性遺伝と潜性遺伝の双方がある。 === 常染色体顕性遺伝 === 顕性遺伝では、父母から受け継いだ2コピーのうち、一方に[[病的変異]]があると発症しうる。頻度の高い病型はSPG4、SPG3A、SPG31である。SPG4(''SPAST''-遺伝性痙性対麻痺)は多くの集団で最も頻度が高く、日本の疫学研究でも最多と報告されている<ref><pubmed>30104498</pubmed></ref>。発症年齢は広く、純粋型が多い。SPG3A(''ATL1''-遺伝性痙性対麻痺)は小児期発症が多く、SPG31(''REEP1''-遺伝性痙性対麻痺)では[[末梢神経障害]]を伴う場合がある。 === 常染色体潜性遺伝と複合型 === 潜性遺伝では、父母から受け継いだ2コピーの両方に[[病的変異]]がある場合に発症する。潜性遺伝形式を取るSPGの多くは複合型である。SPG11は代表的な複合型で、若年発症の痙性対麻痺に[[認知機能障害]]や[[脳梁]]菲薄化を伴う。SPG7では、痙性対麻痺と[[小脳性運動失調]]が様々な割合で組み合わさる。このように、遺伝性痙性対麻痺と[[脊髄小脳変性症]]の表現型には重なりがある。 SPG47(''AP4B1''-遺伝性痙性対麻痺)、SPG50(''AP4M1''-遺伝性痙性対麻痺)、SPG51(''AP4E1''-遺伝性痙性対麻痺)、SPG52(''AP4S1''-遺伝性痙性対麻痺)はAP-4関連遺伝性痙性対麻痺と総称され、細胞内の輸送小胞の形成に関与する[[アダプタータンパク質複合体4]]([[adaptor protein complex 4]]:[[AP-4]])の各サブユニットをコードする[[遺伝子]]の異常によって生じる。乳幼児期から発達遅滞や[[筋緊張]]低下がみられ、その後に痙性が明らかになることが多い。これらは[[神経変性]]だけでなく[[神経発達]]の異常という側面も持つ<ref><pubmed>32979048</pubmed></ref>。 == 病態生理 == === 長い軸索の障害 === [[軸索]]は[[神経細胞]]から伸び、離れた細胞へ信号を伝える細長い突起である。[[皮質脊髄路]]のうち下肢を支配する線維は特に長く、[[細胞体]]から離れたところまで[[タンパク質]]や[[細胞小器官]]を輸送し、膜やエネルギー供給を維持する必要がある。多くの遺伝性痙性対麻痺では、こうした長い軸索の維持が障害され、遠位部が障害を受ける。病理学的には皮質脊髄路の変性を中心とし、感覚を伝える[[脊髄後索]]も障害されうる。ただし、病変の分布は病型によって異なる。 === 細胞骨格と小胞体 === SPG4の原因[[遺伝子]]''SPAST''がコードする[[スパスチン]]([[spastin]])は、[[微小管]]を切断してその構成を調節する[[酵素]]である。微小管は細胞の骨組みであるとともに、物質輸送のレールとして働くため、適切に組み替えられることが重要である。SPG3Aの原因遺伝子''[[ATL1]]''がコードする[[アトラスチン1]]([[atlastin-1]])とSPG31の原因遺伝子''[[REEP1]]''がコードする[[receptor accessory protein 1]] ([[REEP1]])は、[[小胞体]]の形態やネットワークの維持に関与する。小胞体は[[タンパク質]]・[[脂質]]の合成や[[カルシウム]]調節を担う膜構造で、[[軸索]]内にも広がっている。これらの遺伝性痙性対麻痺関連タンパク質が相互作用することから、微小管と小胞体の協調が長い軸索の維持に重要と考えられている<ref><pubmed>20200447</pubmed></ref>。 === 細胞内分解と脂質代謝 === ''[[SPG11]]''がコードする[[スパタクシン]]([[spatacsin]])と、SPG15の原因[[遺伝子]]''[[ZFYVE26]]''がコードする[[スパスチジン]]([[spastizin]])は、細胞内の分解装置である[[リソソーム]]の再形成に関与する。不要な[[タンパク質]]や傷んだ[[細胞小器官]]を分解・再利用する[[オートファジー]]を持続させるには、リソソームを再び利用可能な状態に戻す必要がある。この過程の障害は、細胞内の品質管理を損なう<ref><pubmed>25365221</pubmed></ref>。また、SPG5(''[[CYP7B1]]''-遺伝性痙性対麻痺)では、[[コレステロール]]代謝に関わる[[酵素]]の障害によって、[[27-ヒドロキシコレステロール]]などの神経毒性のある酸化ステロールが蓄積する<ref><pubmed>29126212</pubmed></ref>。 == 治療 == === 症状に対する治療 === 現時点で遺伝性痙性対麻痺全般の進行を抑制する確立した治療はなく、運動機能と生活の質を保つ支援が中心となる。ストレッチ、筋力・歩行訓練、装具や歩行補助具を組み合わせ、関節が固くなる拘縮や転倒を予防する。[[痙縮]]に対しては、[[バクロフェン]]などの内服薬、局所の筋への[[ボツリヌス毒素]]注射、重症例ではバクロフェン髄注療法が検討される。痙縮を緩和すると、立位を支えていた[[筋緊張]]も低下する場合があるため、歩行や移乗への効果を評価して、リハビリテーションと併用することが望ましい。排尿障害や疼痛への対応も求められる。 小児期発症の遺伝性痙性対麻痺では、成長に伴う二次的障害の予防も重要である。足関節の[[尖足]]、足部変形、膝・股関節の拘縮、[[側弯]]を定期的に評価し、理学療法、姿勢管理、装具を調整する。装具は成長に伴って不適合となるため、疼痛や皮膚障害に注意する。複合型では、言語・認知発達、[[てんかん]]、[[嚥下障害]]、栄養状態なども継続して評価、治療する必要がある。 === 病態に基づく治療開発 === SPG5では、酸化ステロールの蓄積抑制を目的に、[[アトルバスタチン]]を用いた無作為化比較パイロット試験が行われ、血清27-ヒドロキシコレステロールの低下が示された。しかし、この生化学的変化が神経症状の改善や長期的な進行抑制につながるかは、今後の検証が必要である<ref><pubmed>29126212</pubmed></ref>。 [[遺伝子治療]]も臨床研究に進み始めている。2024年には、[[AP-4関連遺伝性痙性対麻痺]](SPG50)の小児1例に、正常な''[[AP4M1]]''を搭載した[[アデノ随伴ウイルス]](AAV)ベクターを投与する第1相試験が報告された<ref><pubmed>38942994</pubmed></ref>。SPG4モデルマウス(正常なマウス''[[Spast]]''[[遺伝子]]を残したまま、[[病的変異]]を持つヒト''SPAST''遺伝子を追加した[[トランスジェニック]]モデル)の研究では、正常マウス・スパスチンと変異ヒト・スパスチンの発現を抑制しながら、抑制に抵抗性を持つ正常ヒト''SPAST''を導入する方法(silence-and-replace)により、[[皮質脊髄路]]変性と歩行障害の発症が予防された<ref><pubmed>41311060</pubmed></ref>。この方法は、SPG4の病態として議論されているスパスチンの機能喪失と、変異[[タンパク質]]の毒性獲得の双方に対処する戦略である。ただし、発症前のマウスでの結果であり、発症後のヒトでの効果や安全性は未確立である。 === 治療効果を測るための研究 === 遺伝性痙性対麻痺は進行が緩やかで個人差も大きいため、1~2年程度の観察期間では治療効果を判断することは難しい。米国では、Spastic Paraplegia–Centers of Excellence Research Network(SP-CERN)が設立され、自然歴研究、臨床評価の標準化、臨床・遺伝学的情報の集約、検体収集、ウェアラブル機器による評価法の開発が進められている<ref><pubmed>39996129</pubmed></ref>。原因[[遺伝子]]に基づく層別化と、患者の日常生活に意味のある変化を捉える評価法を組み合わせることが、治療開発の重要な課題である。 == 疫学 == 本邦では、2002年度の特定疾患登録資料に基づき、遺伝性痙性対麻痺の有病率は人口10万人当たり約0.9人と推計されているが、医療機関を受診していない未診断例や、特定疾患に登録していない症例があるため、正確な推計が難しい<ref><pubmed>18418674</pubmed></ref>。 == 関連項目 == * [[皮質脊髄路]] * [[軸索]] * [[微小管]] * [[小胞体]] * [[オートファジー]] * [[脊髄小脳変性症]] == 参考文献 == <references /> 同義語:家族性痙性対麻痺(familial spastic paraplegia)、Strümpell–Lorrain症候群 (執筆者:三井 純/東京大学大学院医学系研究科)
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