Gastrulation brain homeoboxファミリー
Gbx(Gastrulation brain homeobox)ファミリー
要約 Gbx(Gastrulation brain homeobox)遺伝子はほぼ全ての多細胞動物で存在が知られる、進化的に極めて古いホメオボックス遺伝子ファミリーであり、多様な機能が明らかになっている。脊椎動物で研究が進んでおり、初期神経板での中脳と後脳の境界の決定とその位置での峡部オーガナイザーの形成、そしてその後の小脳形成においてGbxが重要な役割を担うことから注目を集めた。その後、終脳、視床、脊髄などにおいて各種ニューロンの発生がGbxにより制御されること、この遺伝子は神経堤細胞や内耳原基の発生を制御すること、心臓の発生にも関わることなどが判明した。近年の研究は、Gbxが細胞の多能性維持に関わること、一方で各種疾患と関わりをもつことも明らかにしており、この遺伝子の役割は、今後も引きつづき、脳形成をはじめとする動物発生に関わる基礎生物科学、そして医学研究の重要な対象となると考えられる。
イントロダクション Gbx/GBX/gbxファミリーは、Antpクラスに分類されるホメオボックス遺伝子群から構成されており[1][2]、無脊椎動物、脊椎動物を問わず動物界に広く存在している(表1)。Gbx(Gastrulation brain homeobox)という名称は、原腸形成期のアフリカツメガエル(以下ツメガエル、Xenopus laevis)胚および発生初期のマウス脳における発現に由来する[3][4]。当初、多くの動物種において、新たなHox型遺伝子の同定を目指して縮重プライマーを用いたPCR増幅が行われ、その結果として同定された(以下、一般名としてはGbxを用いる)。脊椎動物では二つのパラログ遺伝子、Gbx1とGbx2が知られており、このユニークな遺伝子名からも推察されるように、多くの種で原腸形成以降様々な領域で発現するが、とりわけ脳での発現と機能が顕著である。研究の初期では、脊椎動物胚での中脳後脳境界(MHB)の決定と峡部形成、中脳・小脳を誘導するオーガナイザー活性との関わりから注目を浴びたが、その後、中枢神経系(CNS)の発生を始めとして多様な発生の局面で役割が明らかになりつつある。なお、最初に報告されたGbxはニワトリGbx1であり、その時点では Chox7 [5]と呼ばれ、引き続いてマウスではMMoxBと命名された[6]。一方、Gbx2は、同定時にはMMoxA[6]、Stra7 [7]と呼ばれていた。 これまで、Gbx1についてはヒト[8]、マウス[6] [9]、ニワトリ[5] [10]、ゼブラフィッシュ[11] [12]、Gbx2に関しては、ヒト[13][14][8]、マウス[3][6]、ニワトリ[15][16]、ツメガエル [17] [18]、ゼブラフィッシュ[11] [12] [19]などで初期の研究が行われた(表1)。Gbxはさらに、原始的脊椎動物である無顎類、脊椎動物と同じく脊索動物に属する頭索類[1]、そして脊索動物とともに後口動物とされる半索動物[7] [20]と棘皮動物[21][22]でも見出された。また、前後軸を持つ多細胞動物のもう一つの主要系統である前口動物でも、節足動物(ショウジョウバエ)(unplugged, unpg)[23]、軟体動物[24] [25] [26]、環形動物で同定された[27] [28]。さらに近年、これら左右相称動物のみならず、放射相称動物である刺胞動物でも存在が知られるようになった[29]。なお、これら無脊椎動物ではGbx1とGbx2への遺伝子重複は確認されていない(表1)。意外なことに、脊椎動物に最も近縁とされる無脊椎動物の尾索類(ホヤ、Ciona)のゲノムでは見出されておらず[30]、この系統では二次的に喪失したと考えられる。
構造的特徴 研究が先行している脊椎動物Gbx2は340–348アミノ酸からなるタンパク質であり、種間ではアミノ酸配列全長で65-72%の相同性を示す。一方、Gbx1については313–418アミノ酸から構成され、種間では全長で60–73%の一致が見られる。Gbx2内には、種間で特に保存性の高い4つの保存配列領域 (CD1, CD2、ホメオドメイン、CD3) が存在する(図1A)[11]。Gbxタンパク質のホメオドメインは、Antpクラスの中でEHGbox グループ [2]またはExtended Hoxグループに分類される[1]。Gbx2およびGbx1のホメオドメインは、それぞれ脊椎動物種間でほぼ完全に保存されており、両者の間でも96%が一致する。さらにGbx2のホメオドメインとショウジョウバエGbx(Unplugged; 以下Unpg)の間でもやはり高い相同性が見られる(92%)(図1B)。 N末側領域に位置するCD1配列についてはNCR配列がGbx1でも保存されている[31](図1C)。NCR内には、転写抑制活性をもつとされるEh1様配列[32] に加え、Gbx2においては転写活性化能を持つとされるProline-rich(Pro-rich)配列[33]が含まれており[7]、さらにPro-rich様配列がGbx1とGbx2の両者で認められる。明確なCD2相同配列はGbx1では見られないが、CD3配列はGbx1のC末端領域と比較的高い相同性を示し、Unpgでも部分的に保存されている(図1D)。以上より、Gbx1、Unpg のいずれも分子的機能についてGbx2とは共通性があるとともに違いも予想される。なお、ゼブラフィッシュ胚での強制発現実験では、Gbx1とGbx2は同等の前方脳形成抑制効果を示しており[11]、両者の機能は少なくとも初期脊椎動物胚では類似していると考えられる。
個体での発現 ここでは、初期に報告された個体レベルでの発現について概説し、表2に整理する。胚領域ごとの詳細は「個体でのGbxの機能」の項に譲る(発生段階の表記については表2の注2参照)。 (1)Gbx1 Gbx1は、マウスの場合、E7.5から胚体の後方領域で後端ほど強く発現しており、発現前端は後述するGbx2のものよりやや後方にある。その後、後脳第2-第7菱脳節(r2-7)、脊髄、眼胞、内側基底核原基(MGE)、前脳基底部などで発現が見られる[34]。神経系以外では、原条、尿嚢、側板中胚葉でも発現が観察されている[9] [34]。ニワトリでは、13日胚の脳と骨格筋で発現が検出された[15]。さらに、ニワトリ胚由来の表皮や腸の粘膜上皮で培養系においてGbx1の発現が確認されている[10]。 ゼブラフィッシュgbx1の場合、原腸形成期においてマウスとは発現パターンに大きな違いが見られる。この動物の場合、gbx1は、gbx2の発現がまだ見られない原腸形成中期(75% epiboly)において、otx2の発現する前方脳領域とほぼ相補的に神経板の後方で広く発現する[11] [12] (図2, 3)。こうした発現はマウスGbx1では知られておらず、下述する四足類でのGbx2の発現と一致する。一方、体節形成期以降でのgbx1の発現は、マウスGbx1のものと類似している。まず、後脳では前端(r1)で発現が消失する一方、r2及びその後方の菱脳節、そして脊髄全域で発現する[35](図2, 3)。咽頭胚期(30 hpf以降)になると、gbx1の発現は外套下部(終脳腹側)のMGE領域、そして後脳の鰓弓運動ニューロンでも観察されている[12][35]。
(2)Gbx2 マウスの場合[7] [36]、Gbx2の発現は頭褶期(E7.5–7.75)に胚後方の3胚葉すべてで開始する。CNSでの発現は、前方で見られるOtx2発現領域と接するように後方神経領域で広く認められるが、E10.5では後脳前端に収束する(図2, 3)。ニワトリ、ツメガエルでも、Gbx2発現は原腸形成中期にMHB周辺を前端として後方神経板で広範囲に観察され、徐々に発現は後脳前端へと限局する[16] [37] [17]。なお、これらの動物種においても、神経板前方ではマウス同様Otx2が発現しており、Gbx2の発現はこれに接している[38][39][40][41]。マウスおよびニワトリ胚では、Otx2 とGbx2の発現は原腸形成期に独立して始まり、重なりがみられるが、原腸形成後に両遺伝子の発現は排他的になり、明確な境界を形成する。なお、この時期に後脳前端でFgf8の発現が始まり、峡部オーガナイザーが形成される[42][43](図2)。 原腸形成以降、Gbx2は様々な胚領域で発現する。マウスの場合[7] [36]、E8.5胚では前腸と尾芽、E9.5胚において脊髄全域、内耳原基(耳胞)、咽頭弓で発現し、E11.5になると、視床、線条体、小脳、延髄、脊髄背側、内耳上皮、咽頭弓でも観察される。成体では視床、膝状体、扁桃体で発現し、さらに脾臓とメス生殖管で発現が認められている[7]。ニワトリ胚[44][16][37]とツメガエル胚[17] [18]でもGbx2の発現パターンはマウスのものと類似している(詳細は表2参照)。なお、ニワトリ胚では、様々な造血系組織(骨髄、ファブリキウス嚢、肝臓、脾臓、胸腺)で発現が検出されている[15]。 ゼブラフィッシュgbx2の発現パターンも、原腸形成終了後になると四足類のものと共通性が高いが[11][12][19]、発生初期(原腸形成期)においてはgbx1 の場合と同様に大きな違いが見られる。ゼブラフィッシュでもotx2は原腸形成初期から神経板前方で発現するが[45]、gbx2は発現開始時期が遅く、原腸形成終期(90% epiboly)に後脳前端(r1)で初めて発現が検出され[11][12][19]、この発現は原腸形成終了後も維持される(図2, 3)。体節形成後期(18–24 hpf)では終脳で一過的な発現が認められ、36 hpf以降には視床原基でも発現が観察される[11][19]。体節形成期以降になると、耳原基/耳胞、移動中の神経堤細胞、咽頭弓、尾芽などでも発現が認められる。
(3)無脊椎動物Gbxの発現 無脊椎動物についてはこれまで主にCNSでの発現が解析されてきた。半索動物胚のOtxとGbxは、重なりはあるもののそれぞれ前方外胚葉と後方外胚葉で発現する。頭索類胚のCNSでは、前方のOtx発現と後方のGbx発現が明瞭な境界をつくる[46] [20] [47]。一方、前口動物であるショウジョウバエのunpgは、st. 8において初めて腹側の神経外胚葉細胞と中胚葉細胞で発現する[23]。その後、CNSでは後方で発現し、前方脳特異的遺伝子otd(Otx2ホモログ)の発現後端と接する[48]。環形動物(ゴカイ)および各種軟体動物の幼生でも同様に前後に沿った部域特異的発現がOtx-Gbxについて報告された[28] [25] [26]。以上の観察は、CNSのパターニングではたらくOtx2-Gbxの制御系が進化的に保存されてきたことを示唆する。なお、unpgは、後述する変異体の表現型からも予想されるように第一気管分節内の脳分枝形成細胞でも発現する[23]。
Gbxのタンパク質としての機能 Gbxタンパク質は、他のホメオドメイン転写因子と同様に、ATTA/TAATを中心とするDNA塩基配列を認識する(表3)。Gbx1についてはTAATTA配列に結合し、結果としてタンパク質高次構造に局所的多型が生じることが示された[49]。また、ChIP-SeqによるGBX2結合塩基配列の網羅的解析から、TAATを含む多数のゲノム配列に結合することが確認された[50]。培養細胞系では、MGF[15]、IL-6[51]、EEF1A1[50] 各遺伝子のプロモーター内TAAT類似配列にGbx2が結合し、いずれについても転写を活性化する。 一方、発生制御遺伝子については様相が異なる。Gbx2はゼブラフィッシュにおいて、TAATTA を含むfgf8aのMHBエンハンサー内配列に結合して転写抑制的に作用する[52]。マウスでは、Otx2の前・中脳エンハンサー内にある TAATTAに結合して転写を抑制すること[53]、Lmo3の上流領域にあるCTAATTAG に結合してLhx2依存性の転写を抑制することが報告されている [54]。実際、少なくとも発生初期の脳形成においては、直接の制御かどうかは不明であるものの、「個体でのGbxの機能」の項で述べるように、多くの脳形成制御遺伝子に対してGbxによる発現抑制効果が観察されている。なお、ツメガエルおよびゼブラフィッシュにおいて、後述するようにGbx2には前・中脳形成抑制活性が見られるが、VP16 の転写活性化領域、あるいはEngrailed の転写抑制領域を用いたキメラ遺伝子の過剰発現が示す効果から、Gbx2 タンパク質が転写抑制因子としてはたらくことが示唆された[55] [31]。 つまり、Gbxタンパク質は状況に応じて転写活性化因子、転写抑制因子の両方の機能を有する可能性がある。実際、Gbx2下流遺伝子に関する網羅的解析でも、Gbxが遺伝子発現の活性化、抑制の両方に関与することが示されている[56][50] [57]。Gbxで見られる保存領域の役割については、ゼブラフィッシュ胚で欠失導入の効果が検討されており[31]、Gbx2の前・中脳の形成抑制活性にはNCR内のEh1配列とCD4配列の双方が寄与することが示された。Gbx2による前方脳抑制活性にEh1配列が必要であることはメダカでも観察されており、この場合、Groucho/Tle4との結合が必要とされた[32]。Gbx2は神経堤細胞の形成にも関与するが、これに由来する色素細胞の分化制御にはGbx2のN末領域の関与が報告されている[58]。
個体でのGbxの機能 (1)中枢神経系の発生 Gbxは発生初期において、CNSの前後に沿った部域化と峡部オーガナイザーの形成で重要な役割を担い、その後は特定脳領域の神経細胞系列の分化を制御する。
(1.1)中脳後脳境界(MHB)の形成 (1.1.1)脊椎動物 CNS原基である神経板は発生初期に神経誘導により背側外胚葉から生じるが、この領域は前後軸に沿って前脳、中脳、後脳、そして脊髄に部域化される。中脳と後脳の境界、すなわち中脳後脳境界(MHB)は、しばしば峡部オーガナイザー(isthmic organizer)とも呼ばれ、中脳および前部後脳の発生を誘導するシグナルセンターであることが様々な移植実験により示されている[39] [59](本辞典、「オーガナイザー」参照)。 MHB/峡部領域の形成を制御する遺伝子カスケードの概略は明らかになっている[40][60] [39][61] [62][63](図2)。これまでに解析されたすべての脊椎動物において、Otx2とGbxがMHB近傍で最も早期に発現する遺伝子である。Otx2は様々な動物種で前方形成に関わる遺伝子であり、脊椎動物胚では、原腸形成初期に前方神経外胚葉で広く発現する[64][65]。一方のGbxは初期原腸期から後方神経板で広く発現し、両者が相互に発現を抑制し合う結果、神経板において明瞭な発現境界が形成される。生じたOtx2-Gbx境界周辺では原腸形成終期以降、Pax2、Fgf8、Wnt1などが独立して発現を開始する結果、MHB領域が確立され(確立段階)、さらにこの部位で初期MHB遺伝子の相互調節ループが形成される(維持段階)[40]。続いて、これらの初期MHB遺伝子の下流で形成される遺伝子制御ネットワークが峡部を形成するとともに、分泌シグナルを介して中脳と後脳、特に小脳の発生を誘導する[66][67](図2)。以下、MHB・峡部の形成でGbxが果たす役割に関して行われた具体的研究について説明するが、留意すべきは、発現から予想されるように、MHBの決定に関わるGbx遺伝子が、四足類ではGbx2、ゼブラフィッシュではgbx1とされることである。
(1.1.1.1)四足類(マウス、ニワトリ、ツメガエルなど) マウスにおいてはGbx2の遺伝子破壊(ノックアウト, KO)実験が行われており、得られたGbx2欠損胚では、峡部、小脳、そしてr1-3が欠損する一方で、中脳は尾側に拡大していた[36]。この実験は、峡部発生、そして結果的には小脳と中脳の発生においてGbx2が不可欠であることを初めて示したものである。一方、Otx2を後脳前方に異所的に発現させたノックインマウスでは、新たに生じたOtx2の発現後端に従ってMHB遺伝子の発現領域も後方へシフトしていた [68]。これに対し、Gbx2を中脳後方に異所的に発現させたノックインマウスでは、Gbx2の発現前端とともにMHB遺伝子の発現について前方へのシフトが見られた[69]。以上より、原腸形成時におけるOtx2とGbx2の発現境界がMHBの位置を決定すると考えられる[70] [71]。また、中脳-r1領域にGbx2を異所的に発現させると、中脳、小脳の欠損が起きることから[72]、Gbx2は前方脳の形成には抑制的であると考えられる。MHB遺伝子(Fgf8, Wnt1, Pax2, En) の発現開始はOtx2及びGbx2とは独立して起きるが、その後の発現制御にはOtx2-Gbx2相互作用が必要である[43][73][74] [42][75][76]。近年、ヒトES細胞から誘導された前方後脳細胞ではSOX1が高発現してGBX2を活性化すること、SOX1の発現はOTX2により抑制されることが観察されており、こうした機構もMHBの維持と後脳前方の発生に寄与すると考えられている[77]。 ニワトリ胚の場合も、in ovo electroporationによる異所的発現誘導により[78]、Gbx2が神経板において、MHBを前方へシフトさせること、Otx2とGbx2が相互抑制関係にあること、さらにFgf8の発現がOtx2-Gbx2境界で誘導されることが示された。ツメガエルでも、mRNA注入によるgbx2の過剰発現実験やアニマルキャップを用いたin vitro系の実験により同様の結果が報告された[79] [18] [80][55][55]。こうした結果はマウスでの結果と一致している。さらに、これらの動物でも原腸形成期の後方神経板ではGbx2が広く発現することから、四足類では共通して、原腸形成期に後方神経板で発現するGbx2と前方神経板で発現するOtx2の抑制的相互作用がMHBの位置決定と確立に関与すると考えられる。一方、Gbx1は、少なくともマウス胚ではMHB領域の決定時期にはMHBより後方で発現することから、峡部形成には関与しないと考えられる。
(1.1.1.2)ゼブラフィッシュ すでに述べたように、ゼブラフィッシュの場合、原腸形成期の後脳前方ではまずgbx1が発現し、その後、この発現はgbx2に置き換わることになる[11][12](図3)。実際、ゼブラフィッシュgbx2の機能について、モルフォリノオリゴによるノックダウン(KD)実験により検討された結果、原腸形成期でのMHBの確立には関与せず、その後のMHBの維持や峡部構造の形成に関与することが示唆された [11]。つまり、四足類ではMHBの確立とその後の維持はいずれもGbx2に依存するのに対し、ゼブラフィッシュの場合、2種のgbx遺伝子の間で機能的分業があり、MHB の位置決定はotx2-gbx1、MHB の維持やその後の形態形成にはotx2-gbx2が関与していると考えられている。四足類と真骨魚類でのGbx/gbx遺伝子の発現制御の違いに関しては、脊椎動物の進化過程における転写調節シスエレメントの重複・変性・相補(DDC、Duplication-Degeneration-Complementation)[81]と、その後の遺伝子機能のシャッフリングに起因すると推定されている[82](図3)。なお、gbx1とgbx2の変異体では、二重変異胚において峡部形成の異常が明瞭に観察された。単独変異での異常は軽微とされたが、原腸形成終了前後では後脳前端においてgbx1とgbx2の発現が重複しており、このことが原因と考えられる。 以上の遺伝子機能阻害実験とは別に、ゼブラフィッシュgbxの機能については、ツメガエルと同様にmRNA注入による過剰発現実験が行われている[11]。その結果、gbx1、gbx2のいずれにも、マウスなどの羊膜類や両生類のGbx2と同様に、前・中脳形成を抑制する活性が見られた。ただし、低レベルでの強制発現では異常が峡部に限定されており、MHB/峡部がgbxに対して高い感受性を有すると考えられる[31]。ヒートショック誘導性gbx2コンストラクト (hsp-gbx2) を用いた時期特異的な強制発現実験により、MHB/峡部の形成においてotx2-gbxの抑制的相互作用が決定的になるのは原腸形成の終了前後であるとされた。 なお、ゼブラフィッシュの場合、MHB領域において神経分化が抑制されており、この未分化状態がシグナルセンターとしての機能に重要と考えられている。この神経分化抑制に関わる主要遺伝子としてbHLH遺伝子のher5が知られており[83]、同様の峡部オーガナイザーの維持機能はマウスHes1/Hes3でも報告されている[84]。上述したhsp-gbx2の誘導実験により、gbx2はher5の発現領域を限定することでシグナルセンターの維持に寄与することが示唆されている[57]。
(1.1.2)無脊椎動物(ショウジョウバエ) ショウジョウバエ胚の脳では、前方から後方にかけて、otd、Pax2/5/8、unpg、そしてHoxがこの順で発現している。otdおよびunpgの変異による遺伝子の不活化は、Pax2/5/8およびHox遺伝子の脳特異的発現領域の喪失または位置異常を引き起こす。さらに、otdとunpgはそれぞれの脳特異的発現領域の境界において相互に発現を抑制する (49)。つまり、各脳領域の形成において、otdおよびunpgの相互抑制が必要であり、前口動物と後口動物の共通祖先において、CNSの前後軸に沿った領域化機構の基本が既に確立されていた可能性が高い。
(1.2)小脳・後脳前方領域の発生 Gbx2のKOマウスでは、峡部に由来する峡部核、小脳、青斑核、三叉神経運動核(運動神経V)が欠損しており、この遺伝子が小脳と後脳前方領域の発生に不可欠であることが示されていた[36]。その後、Gbx2ハイポモルフ変異マウスを用いて行われた研究では、後脳前方の異なる領域ごとに必要なGbx2の発現レベルが違うこと、r1の前方とr2の発生がもっとも高いGbx2の発現を必要とすることが示されている[85]。また、コンディショナルKO法(cKO)によりE9以降に後脳r1でGbx2を欠損させたマウス胚の解析からは、この時期におけるGbx2の機能がOtx2の発現抑制ではなく、峡部オーガナイザー遺伝子の発現維持であること、Otx2の抑制はFgf8によって担われており、Gbx2のはたらきはFgf8の発現領域の決定であることが示唆された[86]。同様のcKOにより、Gbx2は後脳自体の分化にも不可欠とされた[76]。一方、誘導性遺伝学的発生運命追跡法(IGFM)により、マウス胚小脳原基のGbx2発現細胞は、E7.5からE11.5までの異なる時期に、プルキンエ細胞、顆粒細胞、そして深部小脳核ニューロンへの分化運命の選択を行うことが明らかにされている[87]。 一方、ゼブラフィッシュ体節形成期胚において、後脳前端のgbx2発現細胞を追跡した実験では、gbx2細胞は後方に移動し、網様体脊髄ニューロンなどに分化するとされた[88]。また、gbx2のKD実験では、r2、r3、r5における細胞死の増加、後脳前方の短縮、r2およびr3における脳神経V細胞体の異常なクラスター形成が認められており、真骨魚のgbx2も哺乳類と同様に後脳前方領域のパターン形成に関わると考えられる[89]。さらに、ゼブラフィッシュのgbx1とgbx2はそれぞれ後脳内の運動ニューロン・神経前駆細胞とグリシン作動性ニューロンの分化を制御すること、Retinoblastoma 1タンパク質(Rb1)がGbx/gbx遺伝子の発現を抑制することで後脳形成に関与することが示された[90]。
(1.3)終脳の形成 マウスGbx1は、上述したように機能は不明ながらMGEでの発現が知られている[34][9]。ラットでもMGEと前脳基底部でGbx1の発現が確認されており、特に前脳基底部のコリン作動系においてLhx7との共発現が観察された[91]。マウスGbx2については、E12.5の時期に大脳基底核、特にMGEで発現する[3] [34]。IGFM法により、MGEで生じて接線方向に移動するGbx2発現細胞からは線条体のコリン作動性介在ニューロンが生じるのに対し、放射状移動をするGbx2発現細胞は主に前脳基底部においてGABA作動性ニューロンや他の非コリン作動性ニューロンに分化するとされた。変異マウス解析では、Gbx2が、線条体のコリン作動性ニューロンの移動に必要であること、MGEでのコリン作動性ニューロンの分化においてLhx8の下流で機能することも確認された[92] [93]。 ゼブラフィッシュについてはすでに述べたように、gbx1は咽頭胚期にMGE領域で発現し[12][35]、gbx2の発現は体節形成後期に終脳両側部の脳室帯で観察された[35]。実際、体節形成後期でのヒートショック誘導性gbx2の一過的発現では、前脳領域での脳形成遺伝子の発現低下が外套下部で顕著であり、gbx2の変異体の胚では前脳形成遺伝子の発現が背側終脳(外套)で増強された。したがって、gbx2は外套下部の形成に対して抑制的にはたらくことで大脳基底核の形成に関与すると推定される。なお、ゼブラフィッシュ胚の終脳において、gbx2の発現はWntシグナルとRAで抑制される一方、FGFシグナルを必要としており、これらのシグナルはgbx2を介して終脳のパターン形成に寄与すると考えられる[35]。
(1.4)視床の発生 マウスやニワトリの場合、Gbx2は異なる視床核の神経前駆細胞において特定の発生段階で発現し、各前駆細胞の分化を制御すると考えられている[3] [94] [95][96]。Gbx2は特に視床の背側及び後方の境界形成に必要であり、この作用は分泌因子を介する[97]。予定視床領域ではIrx1が発現し、Fez遺伝子とともに視床の前方境界にあたるzona limitans intrathalamica(ZLI)の位置を決定するが[98]、この際、Gbx2はIrx1の発現を抑制することで視床領域の確立に関与する[56]。また、Gbx2は、分裂終了ニューロンからのフィードバック機構を介して視床と同じくプロソメア2(p2)に由来する手綱核の分化を抑制し、視床形成に寄与すること、一方でId4とEbf3の制御を介して視床での神経発生自体を抑制することが示唆された[56]。IGFM法によるGbx2発現細胞の追跡では、異なる視床核群の神経前駆細胞ごとにGbx2発現の時期が異なるとされた[97]。cKO実験でも、各視床核群は異なる時期にGbx2を必要とすること、視床核群ごとにGbx2への依存度が著しく異なること、などが示されている[99]。 なお、Gbx2変異体では、視床から大脳皮質への軸索について、数の減少と伸長異常が見られており[100]、Gbx2は視床皮質投射(TCA)の発達に必須といえる。実際、異なる胚発生段階でGbx2を欠損させた実験で、Gbx2がTCAの経路選択と標的決定で継続的に必要とされた。さらに、Gbx2が誘導シグナルに対するTCAの応答性を制御すること、Gbx2がLIMドメイン因子との相互作用を通してRoboやLmo3の転写を制御することで軸索伸長に関与することも判明している[54]。 先に述べたように、ゼブラフィッシュでも原腸形成以降、gbx2は視床で発現が観察される[11]。ヒートショック誘導性gbx2を用い、視床でのgbx2の発現開始に先だってgbx2の過剰発現を行ったところ、視床形成への関与が予想される遺伝子(irx1b, dbx1a, olig2)の発現が抑制されており、gbx2は視床の形成において抑制的に作用すると考えられる[35]。
(1.5)脊髄の発生 マウスにおいて、Gbx1は脊髄前駆細胞プールでダイナミックな発現変動を示すが、E12.5までにその発現は背側の外套層に限局する。実際、Gbx1欠損マウスでは顕著な運動機能障害、特に後肢の動きの異常が観察されており、この変異体の解析より、Gbx1が脊髄内の固有受容感覚回路の発生、背根内のGABA作動性介在ニューロン及び腹側のISL1+運動ニューロンの発生や維持に関わるとされた[101] [102]。Gbx1はPAX2陽性背側介在ニューロンおよび腹側運動ニューロンの発生と生存にも関与する[103]。Gbx1はE12.5以降、脊髄後角内のLBX1陽性ニューロンの一部でも発現するが、この発現はLbx1の機能に依存している。Gbx1はさらに、発生後期以降、LHX1/5陽性・PAX2陽性ニューロン、そして脊髄後角における特定のGABA作動性ニューロンの発生を制御するとされる[104]。 Gbx2も後角のPAX2陽性介在ニューロンおよび腹側運動ニューロンの前駆細胞で発現する[103]。発現細胞系譜の検討により、マウス胚の脊髄においてこれらのニューロンがいずれもGbx2細胞系譜に由来することが示された[105]。Gbx2細胞由来の脊髄ニューロンは成体でも維持されるが、脊髄の背側領域に限定され、この細胞系譜が抑制性介在ニューロンを生成する。長期的な細胞系譜解析では、Gbx2の発現とそのタイミングが、成体脊髄での介在ニューロンのサブタイプの決定に寄与することも明らかになった。 なお、Gbx1変異体とGbx2変異体の脊髄ではそれぞれGbx2とGbx1の発現上昇が報告されており、これらの変異体の解析においては相互補償の可能性に注意が必要である[103][106]。
(2)神経堤細胞とそれに由来する器官の発生 Gbx2はツメガエルやゼブラフィッシュ胚では移動中の神経堤細胞(NCCs)[11][17]、マウスやニワトリの場合はNCCsの移動先の1つである咽頭弓で発現が観察された[7] [37]。マウス胚では特に咽頭弓表層外胚葉でGbx2の発現が報告されている[107]。実際、Gbx2欠損マウス胚ではNCCsの減少(E10.5)、咽頭弓へのNCCsの移動ルートの異常(E10.5)、そして咽頭弓由来構造(頭蓋顔面骨格など)の異常が観察された[107]。なお、NCCsは心臓原基にも移動して心臓形成に寄与するが(心臓NCCs)、Gbx2欠損マウス胚において、第4咽頭弓動脈(PAA)の異常発達に伴う心血管奇形、騎乗大動脈や心室中隔欠損が見られる。関連して、発生中の咽頭弓領域においてFgf8とGbx2が共発現し、咽頭弓および心血管発生過程で両者が遺伝的に相互作用することが明らかになった[107]。 なお、PAAの発生では咽頭外胚葉がシグナル分泌センターとして必要であり、この領域は、心臓NCCsが後方PAAに移動するための分泌シグナルを放出する。このはたらきはTbx1とその下流のGbx2に依存しており、Gbx2は特に心臓NCCsの移動に際して起きるSlit/Roboシグナル伝達経路の活性化に関与する[108]。さらに、Gbx2がNeuropilin 1の発現を介してNCCsの移動と三叉神経節の形成に関わることも明らかとなっている[109]。 ツメガエル胚の場合、gbx2はNCCs特異化の最初期ではたらく遺伝子である。この場合、gbx2はWnt/β-cateninシグナルで発現が活性化され、zic1との相互作用、six1の抑制、そして神経褶の決定因子pax3とmsx1の発現制御を通して神経堤の分化誘導を行う[109]。
(3)内耳原基の発生 マウスでは、E9.5までに内耳原基でGbx2 mRNAが検出可能となる。これより形成される耳胞では背内側領域全体に発現し、E10.5になるとこの発現は耳胞の赤道域まで拡大するとともに、内部に生じる内リンパ管でGbx2の発現が見られる[110] [111]。実際、Gbx2変異体胚では内リンパ管の欠損と膜迷路の腫脹、さらに、半規管、球形嚢および蝸牛管の異常が見られる[36] [111][112]。内耳の発生は後脳からのシグナルに依存するが、この際、内耳原基におけるGbx2発現の活性化が重要であり、Gbx2はWnt2bやDlx5などを正に調節することで内リンパ管や半規管などの背側構造を発生させる一方、Otx2発現を制限することで球形嚢や蝸牛管などの腹側構造の発生を促進すると考えられている[111]。 ツメガエルやニワトリの胚では、感覚性プラコード領域の前方領域と後方領域はそれぞれOtx2とGbx2に依存し、後方領域から耳胞領域が生じる[113]。ニワトリ胚の場合、初期(HH10)では予定耳胞全域でGbx2が発現するが、HH14になると、耳胞の側方領域(予定前庭領域)ではOtx2、内側領域(予定蝸牛領域)ではGbx2が発現する。これら2領域に夾まれた境界領域ではPax2とともにFgf8とFgf10が発現し、この領域近傍で聴覚前庭神経節が出現する[114] [112][115]。この状況はMHBでの遺伝子相互作用を思わせるが、実際、異所性Gbx2発現はOtx2発現を抑制し、その逆も同様であった。これらの結果は、内耳発生が、Gbx2とOtx2の相互作用とこの下流でのFgfの発現により制御されていることを示唆する[112]。
(4)その他の組織・器官の発生での役割 咽頭内胚葉でのGbx2とPax9の遺伝学的相互作用が心血管系の発生で重要とされる[116]。ニワトリではGbx2がMybの標的遺伝子であり、骨髄芽球からの単球の分化を起こす一方、AMV v-Myb による細胞の悪性化に関わるとされた[15]。ショウジョウバエにおいては[23]、unpgがCNSに進入する気管分枝と神経節分枝の形成に関わること、その発現はUbxなどのバイソラックス複合遺伝子(BX-C)の制御下にあることが示されている。刺胞動物は一般には放射相称とされ、前後パターンが明確には見られないが、この動物群でもHox様遺伝子が同定されており、近年GbxがこれらHox様遺伝子とともに内中胚葉の分節構造形成に関わるとされた[29]。
(5)細胞の多能性との係わり Gbx2に関する初期の研究では、マウスES細胞においてGbx2の発現が見られること、この発現が分化誘導に伴って消失すること、着床前の胚において内部細胞塊で発現していることが示され、多能性遺伝子の可能性が示唆されていたが[117][118]、近年これを支持する結果が報告されている。Gbx2はマウスES細胞を維持するLIF/Stat3シグナルの下流でKlf4を制御し、多能性幹細胞の誘導と維持に作用する[119][120]。また、ヒトiPS細胞の作成効率向上にGBX2が寄与すること、OCT4、SOX2、 NANOG、KLF4を含む多能性因子との間で相互作用を行うことが示された。このように、GBX2は多能性維持や自己新生に寄与すると考えられる[121]。
Gbx遺伝子の発現制御因子 Gbxの初期後方神経板での発現制御の詳細は明らかになっていないが、ゼブラフィッシュgbx1の原腸形成期における神経板後方での発現は、胚盤周縁部(後方)からのWnt8シグナルに依存するとされている[122] [123]。ゼブラフィッシュのgbx2の内耳原基での発現もまた後方化シグナルとされるレチノイン酸で正に制御される[11]。 体節形成期以降の後脳前端でのマウスGbx2の発現については、ATP依存性ヘリカーゼ(Chd7)がOtx2及びGbx2の転写を制御し、小脳の維持に寄与する[124]。また、ヒト GBX2の下流にはOTX2結合配列とSOX1結合配列があり、ヒトES細胞から誘導した前方後脳細胞では、これらの配列を介してOTX2とSOX1がGBX2の発現をそれぞれ抑制、活性化するとされた[77]。ツメガエルではgbx2の発現をxiro1/irx1が後脳において活性化し[80]、一方で後脳前端においてZnフィンガー転写因子Sall1が、クロマチン・リモデリング複合体(NuRD)依存的にgbx2の転写を抑制する[125]。ゼブラフィッシュでは、後脳発生において、gbx1とgbx2の発現が各々E2Fファミリー転写因子E2F3とヒストン脱アセチル化酵素HDAC1を介し、Rb1によりエピジェネティクスレベルで抑制される[90]。また、ゼブラフィッシュgbx2については、体節形成中期以降において後脳前端(Anterior-most hindbrain, AMH)と視床下部での発現を再現する転写調節cis領域(AMHエンハンサー)が、胚を用いたレポーター解析により計3か所同定されている。これらは機能的に冗長であり、シャドウエンハンサーといえる。その一つであるAMH1にはPax2の結合部位があり、この配列へのPax2の結合が転写制御に必要とされた[82]。 視床でのGbx2の発現については、培養系において、遺伝子上流領域のLEF/TCF結合部位を介してTCF7L2/LEF/β-cateninにより活性化されることが示された[96]。また、ヒトとマウスで保存されている長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)の1種(Crnde)がマウスでの視床の発生において、Gbx2 mRNAの発現を正に制御する[126]。なお、正常個体での意義は不明ながら、喉頭扁平上皮癌細胞(LSCC)においてマイクロRNAのmiR-4497がGBX2の発現抑制により細胞増殖を抑制し、アポトーシスを引き起こすこと、lncRNAの1種であるFEZF1-AS1がmiR-4497のはたらきを抑制し、LSCCの転移と浸潤を促進することが報告された[127][128]。
疾患との係わり GBX1との関連性が知られる疾患としては、脊髄小脳失調症13型(Spinocerebellar Ataxia 13, SCAR13)と低ホスファターゼ症(Hypophosphatasia)がある[129]。また近年、GBX1が発達遅延と焦点性てんかん(Focal Epilepsy)に関連することが報告された[130]。GBX2遺伝子との関連性が知られる疾患としては、DiGeorge症候群、てんかん、CHARGE症候群、Opitz-G/BBB症候群などがある[108][129] [124]。GBX2は発がんにも関わることが示唆されており、前立腺癌[131] [132] [133]、喉頭扁平上皮癌[128]、膀胱癌[134]、肝細胞癌[135]、食道扁平上皮癌[136]などへの関連が報告されている。また、肺腺癌においてはAKT/ERK経路の調節を介して細胞増殖、浸潤、遊走を促進することが示されている[137]。
関連項目
・神経板
・神経管
・脳の領域化
・脳胞
・オーガナイザー
・終脳の発生
・前脳基底部
・大脳基底核原基
・間脳の発生
・小脳原基
・脊髄の発生
・ホメオボックス
・脊髄介在ニューロン
参考文献 (リストは最後にあります。EndNoteで作成しました) 表1.動物界におけるGbx遺伝子の分布1 対称性 大グループ 門 遺伝子 種名(一般名と学名) 出典 放射相称動物 刺胞動物 Gbx イソギンチャク(Nematostella vectensis) [29]
左右相称動物 前口動物
節足動物 Gbx ショウジョウバエ(Drosophila menanogaster) [23]
軟体動物 Gbx 二枚貝類(5種)、ヒザラガイ(Acanthochitona crinita)、サンゴノヒモ(Wirenia argentea)、イカ(Loligo opalescens, Sepia officinalis) [25][27][24] [26]
環形動物 Gbx ユムシ(Urechis caupo)、ツリミミズ(Lumbricus sp.)、イソツルヒゲゴカイ(Platynereis dumerilii) [27] [28]
後口動物
棘皮動物 Gbx ウニ(Holopneustes purpurescens)、ヒトデ(Asterina minor) [21][22]
半索動物 Gbx ギボシムシ(Saccoglossus kowalevskii) [7][20]
頭索動物 Gbx ナメクジウオ(Branchiostoma floridae) [7][1]
脊椎動物 Gbx ヤツメウナギ(Pefromyson marinus) [7]
Gbx12 ヒト(Homo sapiens)、マウス(Mus musculus)、ニワトリ(Gallus gallus) 本文参照 Gbx2 ヒト(Homo sapiens)、マウス(Mus musculus)、ニワトリ(Gallus gallus)、ツメガエル(Xenopus laevis)、ゼブラフィッシュ(Danio rerio) 本文参照
1. Gbx遺伝子の存在と配列が記載された主要動物群。ただし、モデル動物を除いてPCR産物による同定のみのものが多い。 2. Xenopusのgbx1については現時点ではゲノム配列からの予測に留まっている(2026年3月時点)。
表2.初期の研究で報告されたGbx遺伝子の発現パターン1
遺伝子 動物種 発現2 出典 Gbx1 マウス ・E7.5から後方で強く発現する。発現前端はGbx2のものよりやや後方にあり、後方に向けて発現が強くなる。その後、後脳第2-第7菱脳節(r2-7)、脊髄(脳室帯)、眼胞、内側基底核原基(MGE)、前脳基底部などで発現が見られる。後脳では特にr3とr5で発現が顕著となる。 ・原条、尿嚢、側板中胚葉でも発現が見られる。 [34] [9] [104]
ニワトリ ・RT-PCRにより13日胚の脳と骨格筋で発現が検出された。 ・胚由来の表皮、そして腸の粘膜上皮でも発現する。 [15] [10]
ツメガエル not known ゼブラフィッシュ ・原腸形成中期(75% epiboly)からotx2の発現する前方脳領域とほぼ相補的に神経板の後方で広く発現する。 ・体節形成期以降、後脳では前端(r1)で発現が消失する一方、より後方の菱脳節及び脊髄で発現が見られる。各菱脳節での発現レベルはダイナミックに変動する。 ・咽頭胚期(30 hpf以降)、外套下部(MGE)で発現が観察され、後脳鰓弓運動ニューロンでも発現する。 [11] [12] [35]
Gbx2 マウス ・発現は頭褶期(E7.5–7.75)に胚後方の3胚葉全てで開始し、その後、CNSで発現が顕著となる。E7.75において、MHB周辺を前端として後方CNSで広く認められるが(峡部–r3相当領域)、徐々に前方に限定され、E10.5では後脳前端に収束する。 ・MHB周辺以外についても多様な部位で発現する。E8.5胚では前腸と尾芽、E9.5胚では脊髄全域、内耳原基(耳胞)、咽頭弓、E11.5では、視床、線条体、小脳、延髄の一部、脊髄背側、内耳上皮、咽頭弓で発現が観察される。成体では視床、膝状体、扁桃体で発現する。 ・成体器官でのRT-PCR解析では脳、脾臓、メス生殖管で発現が見られている。 [7] [36]
ニワトリ ・原腸形成の進行するHH3+/HH4より胚盤葉後方で広く発現が見られる。HH6/HH6+より神経管での発現が顕著となり、体節形成が開始する時期にMHBを前端として後脳前方(r1-r3)で発現する。その後、後脳や脊髄背側部の脳室帯、視床、菱脳節境界、尾芽、内胚葉、体節、耳胞内側部、咽頭弓間充織細胞などで発現する。 ・RT-PCRでは、様々な造血系細胞(骨髄、ファブリキウス嚢、肝臓、脾臓、胸腺)で発現が検出される。 [16]
[37]
ツメガエル ・gbx2遺伝子は2つ同定されており(gbx2a、gbx2b)、gbx2aはマウスやニワトリのものと同様、原腸形成初期・中期(st. 10.5/11)から後方の背・側方外胚葉で広く発現し、st. 13/14ではMHBに対応する鮮明な前方発現境界を示す。その後、r1、脊髄、後方後脳、耳胞、移動中の神経堤細胞、咽頭弓で発現が見られる。gbx2bも同様の発現を示すが、開始が遅く(st. 12)、発現レベルが低い。その一方で血島での発現が観察された。 [17]
[18]
ゼブラフィッシュ ・発現開始時期が遅く、原腸形成終了期(90% epiboly)に後脳前端に出現する。原腸形成終了後も後脳前端で発現が継続する。体節形成後期(18–24 hpf)に終脳で一過的に発現が検出される。36 hpf以降は視床原基でも発現が観察される。 ・体節形成期以降、耳原基/耳胞で発現し、さらに神経堤細胞、咽頭弓、尾芽などのでも発現する。 ・RT-PCR解析では、ゼブラフィッシュgbx2の発現は卵でも検出された。 [19] [11] [12] [35]
Gbx 半索動物(ギボシムシ) ・OtxとGbxは、重なりはあるものの、各々前方外胚葉と後方外胚葉で発現する。 [20]
頭索類(ナメクジウオ) ・CNSでは前方のOtx発現と後方のGbx発現は明瞭な境界をつくっている [47]
ショウジョウバエ ・unpgはst. 8において初めて腹側正中線上の神経外胚葉細胞および中胚葉細胞で発現が認められ、その前方境界は頭側溝に存在する。神経外胚葉において unpg 発現領域は後方で拡大し、その最前縁は中大脳(deutocerebrum)に到達する。この位置は中大脳/後大脳(tritocerebrum)境界領域に対応する。 ・unpgは第一気管分節内の脳分枝形成細胞においても発現する。 [23] [48]
環形動物(ゴカイ) OtxとGbxが各々外胚葉の前方、後方で発現する。 [28]
1. 各組織、器官での発現の詳細は本文の「個体でのGbxの機能」参照
2. 発生段階:マウスは受精後の日数で示し(E)、ニワトリはHamburger and Hamiltonに従う(HH)。なお、中間段階は+、–で示す[138]。ツメガエルはNiewukoop とFaberに従う(st.)[139]。ゼブラフィッシュは受精後の時間数で示す(hpf)[140]。ショウジョウバエはHartensein and Campos-Ortegaに従う(st.)[141]。
表3.Gbxタンパク質による転写制御
Gbx 標的配列 コア結合配列 アッセイ法 細胞 Gbx の転写調節能 出典 Gbx1 TAATTA 物理化学的手法1 N/A [49]
Gbx2 ChIP-Seqで網羅的に同定された GBX2結合配列 ATWWWH WWWAYW2 ChIP-Seq, Motif Sampler 前立腺がん細胞 N/A [50]
Gbx2 ニワトリMGFプロモーター ATTAA レポーターアッセイ 繊維芽細胞 活性化 [15]
Gbx2 ヒトIL-6プロモーター ATTA レポーターアッセイ 前立腺がん細胞 活性化 [51]
Gbx2 EEF1A1プロモーター TATATAA レポーターアッセイ HEK293FT 活性化 [50]
Gbx2 ゼブラフィッシュfgf8a MHBエンハンサー TAATTA レポーターアッセイ 胚 抑制(活性化) [52]
Gbx2 マウスOtx2の 前中脳エンハンサー TAATTA レポーターアッセイ 胚、P19細胞 抑制 [53]
Gbx2 マウスLmo3プロモーター CTAATTAG レポーターアッセイ P19細胞 Lhx2による活性化を抑制 [54]
1. 円偏光二色性スペクトル測定、等温滴定熱測定、NMR.
2. W, A or T; H, A, C or T; Y, T or C.
図1
図1.Gbxタンパク質の構造と保存配列 A. Gbxタンパク質の構造の模式図。代表としてヒトGBX1とGBX2について、アミノ酸の位置を下に示す。CD1配列とNCR配列の範囲はGBX2についてのみ上に直線で示されている。 B. 脊椎動物のGbx2とGbx1、ショウジョウバエのUnpgとAntp各々のホメオドメインのアラインメント。 C. Gbx2とGbx1のNCR配列のアラインメント。典型的なPro-rich配列はGbx2のみだが、Pro-rich様配列(下線部)がGbx2とGbx1の両者で見られる。 D. Gbx2とGbx1のCD3配列のアラインメント。 h, m, z;各々ヒト、マウス、ゼブラフィッシュを示す。右に最上段の配列との一致度(%)を示す。ただし、NCRについてはGbx2で見られるN末側のPro-rich配列を考慮していない。 図2
図2.峡部オーガナイザーの形成に関わる遺伝子カスケード。主としてマウス、ニワトリ、ゼブラフィッシュでの研究から推定された。原腸形成期ではたらくGbxは四足類ではGbx2、ゼブラフィッシュではgbx1と考えられる。 (出典は本文参照。ただし、1–3のゼブラフィッシュ遺伝子については以下参照。 [142][143][144] [145]) 図3
図3.DDCモデルによって説明される脊椎動物のGbx遺伝子の転写制御機構の分子進化(仮説)。 祖先Gbx遺伝子は、少なくとも3種の独立したエンハンサーによって制御されている。第1のエンハンサーは原腸形成期において後方神経板での転写を活性化し(長方形)、第2のエンハンサーは原腸形成終了後において後脳前端での発現を誘導し(円)、第3のエンハンサーはr1を除く後脳などGbx1特有の発現を制御する (楕円)。推定エンハンサーの位置は任意に示している。脊椎動物の進化初期での遺伝子重複後、四足類の場合、初期神経板後方エンハンサーと後期後脳エンハンサーはGbx1で消失したが、Gbx2では保持された。一方、真骨魚系統のgbx1およびgbx2では相補的な形で保持されている。 四足類のGbx1がゲノムから排除されなかったのは、第3エンハンサーによって発現が駆動される領域において、この遺伝子が不可欠な役割を果たしているためと考えられる。結果的に、共通祖先でのGbxの発現は、無脊椎動物、脊椎動物各々について、Gbx1、Gbx2のいずれかが担うことになり、2種のGbxの間で機能的なシャッフリングが起きたと推定される。
参考文献
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