「SNARE複合体」の版間の差分

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==脂質膜の融合==
==脂質膜の融合==
[[[image:snare複合体1.png|thum350px|図1.]]
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 神経伝達物質や水溶性ホルモンの分泌は、シナプス小胞膜や分泌小胞膜が細胞膜と融合する開口放出機構によって営まれている。さらに小胞体からゴルジ体を含むさまざまな細胞内小器官へのタンパク質輸送は、送り手の膜から出芽した輸送小胞が標的の生体膜に融合する細胞内小胞輸送機構によって営まれている。これらの過程では小胞膜が標的の生体膜と融合するステップが必須である。細胞膜や細胞内膜は脂質二重層からできており、表面は親水性であるリン脂質の極性部分が被い、膜の内部には疎水性の炭化水素の尾の部分が並んでいる(図1)。小胞膜と標的の生体膜が融合するためには、二つの膜の疎水性部分が水層を超えて連絡するヘミフュージョン状態をとる必要があり、そのためには2つの膜が非常に接近する必要がある。しかしリン脂質の親水性の頭部には水分子が水和しており、2つの脂質膜は2.5 A以内に接近することは通常では困難である。このため脂質膜の融合が起こるためには、タンパク質の助けが必要となるが、その役割を担うタンパク質がSNAREタンパク質と呼ばれる一群のタンパク質である。
 神経伝達物質や水溶性ホルモンの分泌は、シナプス小胞膜や分泌小胞膜が細胞膜と融合する開口放出機構によって営まれている。さらに小胞体からゴルジ体を含むさまざまな細胞内小器官へのタンパク質輸送は、送り手の膜から出芽した輸送小胞が標的の生体膜に融合する細胞内小胞輸送機構によって営まれている。これらの過程では小胞膜が標的の生体膜と融合するステップが必須である。細胞膜や細胞内膜は脂質二重層からできており、表面は親水性であるリン脂質の極性部分が被い、膜の内部には疎水性の炭化水素の尾の部分が並んでいる(図1)。小胞膜と標的の生体膜が融合するためには、二つの膜の疎水性部分が水層を超えて連絡するヘミフュージョン状態をとる必要があり、そのためには2つの膜が非常に接近する必要がある。しかしリン脂質の親水性の頭部には水分子が水和しており、2つの脂質膜は2.5 A以内に接近することは通常では困難である。このため脂質膜の融合が起こるためには、タンパク質の助けが必要となるが、その役割を担うタンパク質がSNAREタンパク質と呼ばれる一群のタンパク質である。


==SNAREタンパク質の特徴==
==SNAREタンパク質の特徴==
[[[image:snare複合体2.png|thum350px|図2.]]
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[[[image:snare複合体4.png|thum350px|図3.]]
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[[[image:snare複合体5.png|thum350px|図4.]]
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[[[image:snare複合体3.png|thum350px|図5.]]
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 SNAREタンパク質は概してアミノ酸100~300位からなる小さなタンパク質で、分子内に約60アミノ酸からなるSNAREモチーフを持っている。SNAREモチーフにはheptad repeatと呼ばれる7アミノ酸の繰り返し構造がある(図2)。Heptad repeatを構成する7つのアミノ酸残基をa~gとした時、aとdの位置にはLeu、Ile、Valなどの疎水性アミノ酸が、他の部位には主に親水性アミノ酸が配置されている。Heptad repeatを持つポリペプチド鎖がヘリックスを巻くと、へリックスの片側に疎水性残基が帯状に連なるため、heptad repeatを持つ他のへリックスと疎水性面を介して会合しcoiled-coil複合体を作る。
 SNAREタンパク質は概してアミノ酸100~300位からなる小さなタンパク質で、分子内に約60アミノ酸からなるSNAREモチーフを持っている。SNAREモチーフにはheptad repeatと呼ばれる7アミノ酸の繰り返し構造がある(図2)。Heptad repeatを構成する7つのアミノ酸残基をa~gとした時、aとdの位置にはLeu、Ile、Valなどの疎水性アミノ酸が、他の部位には主に親水性アミノ酸が配置されている。Heptad repeatを持つポリペプチド鎖がヘリックスを巻くと、へリックスの片側に疎水性残基が帯状に連なるため、heptad repeatを持つ他のへリックスと疎水性面を介して会合しcoiled-coil複合体を作る。
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==SNAREタンパク質の種類==
==SNAREタンパク質の種類==
[[[image:snare複合体6.png|thum350px|図6.]]
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 小胞体で作られた膜タンパク質は、細胞内小胞輸送機構で細胞膜やゴルジ体をはじめとする様々な細胞内小器官に輸送されていく。これらのタンパク質輸送には送り手の膜から出芽した輸送小胞が標的の膜に融合する細胞内小胞輸送機構によって営まれており、全ての膜融合にSNAREタンパク質が関わっている。小胞膜のSNAREをv-SNARE、融合する標的膜のSNAREをt-SNAREと呼ぶが、シナプスではシナプス小胞にあるシナプトブレビン2がv-SNAREとして、シナプス前膜にあるシンタキシン1とSNAP-25がt-SNAREとして機能している。
 小胞体で作られた膜タンパク質は、細胞内小胞輸送機構で細胞膜やゴルジ体をはじめとする様々な細胞内小器官に輸送されていく。これらのタンパク質輸送には送り手の膜から出芽した輸送小胞が標的の膜に融合する細胞内小胞輸送機構によって営まれており、全ての膜融合にSNAREタンパク質が関わっている。小胞膜のSNAREをv-SNARE、融合する標的膜のSNAREをt-SNAREと呼ぶが、シナプスではシナプス小胞にあるシナプトブレビン2がv-SNAREとして、シナプス前膜にあるシンタキシン1とSNAP-25がt-SNAREとして機能している。
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==SNARE複合体形成の制御==
==SNARE複合体形成の制御==
[[[image:snare複合体7.png|thum350px|図7.]]
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 細胞膜に存在するシンタキシン1の細胞質部分は、HA、HBおよびHCの3つのへリックス構造をとり得るN末ドメイン(27-146)と、C末側のSNAREモチーフを持つH3ドメインから構成されている(図3)。HA、HB、HCの3つのへリックスは交互に折りたたまれたHabc 3-helical bundleを形成し、SNARE複合体形成制御に関わっている[19]。シンタキシン1はHabc 3-helical bundle にシンタキシン1のSNAREモチーフが結合したclosed conformation と、Habc 3-helical bundle とSNAREモチーフが解離したopen conformation とをとる[20-22](図7)。Open conformationにあるSNAREモチーフは、SNAP-25およびシナプトブレビン2のSNAREモチーフと結合しSNARE複合体を形成できるが、closed conformationをとるシンタキシン1は、N末ドメインがSNAREモチーフを持つH3に結合してシナプトブレビン2との結合を抑制するためSNARE複合体を形成することができない。
 細胞膜に存在するシンタキシン1の細胞質部分は、HA、HBおよびHCの3つのへリックス構造をとり得るN末ドメイン(27-146)と、C末側のSNAREモチーフを持つH3ドメインから構成されている(図3)。HA、HB、HCの3つのへリックスは交互に折りたたまれたHabc 3-helical bundleを形成し、SNARE複合体形成制御に関わっている[19]。シンタキシン1はHabc 3-helical bundle にシンタキシン1のSNAREモチーフが結合したclosed conformation と、Habc 3-helical bundle とSNAREモチーフが解離したopen conformation とをとる[20-22](図7)。Open conformationにあるSNAREモチーフは、SNAP-25およびシナプトブレビン2のSNAREモチーフと結合しSNARE複合体を形成できるが、closed conformationをとるシンタキシン1は、N末ドメインがSNAREモチーフを持つH3に結合してシナプトブレビン2との結合を抑制するためSNARE複合体を形成することができない。
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==SNARE複合体形成とクランプ==
==SNARE複合体形成とクランプ==
[[[image:snare複合体8.png|thum350px|図8.]]
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 v-SNAREを組み込んだリポソームの平面膜への融合速度は遅く、結合してから10-100 ms後でないと起らないが、神経伝達物質放出は非常に素早く起こり、Ca2+流入後1 ms以内には完了する。このような素早い放出を可能にするためには、律速段階であるSNARE複合体形成は予めある段階まで進行させておき、Ca2+の流入に即応して素早く複合体形成が完了できる状態にしておく必要があると考えられる[21, 27-29]。SNARE複合体形成はN末端側から始まり、ジッパーを締めるようにC末方向に進行していく。コンプレキシン(Complexin)は134アミノ酸からなる小型のタンパク質で、分子の中央部のへリックス部位がSNARE複合体のN末側に結合しSNARE複合体形成の開始を促進する[30]。しかしコンプレキシンのN末側のへリックスはシナプトブレビン2のSNAREモチーフのC末側と拮抗しSNARE複合体形成の完了を阻害する。このためコンプレキシン存在下ではSNARE複合体形成は0レイヤー付近で停止した「クランプ」状態に止まることになり膜融合は引き起こされない [31-33]。Ca2+濃度が高まるとシナプトタグミン(Synaptotagmin)がコンプレキシンにとって代わって結合してクランプ状態を解除し、その結果SNARE複合体形成が完了して膜融合が速やかに引き起こされる[13, 34](図8)。シナプトタグミンはCa2+依存的にリン脂質に結合するが、リポソームにシナプトタグミンを加えると、チューブ状の構造ができることから、結合した脂質2重膜の曲率を変化させる作用があると考えられる。これらのことからシナプトタグミンにはクランプ状態を解除させる機能に加え、細胞膜の曲率を局所的に変えることにより、膜融合の速度をさらに加速する機能もあると考えられる[35-37]。
 v-SNAREを組み込んだリポソームの平面膜への融合速度は遅く、結合してから10-100 ms後でないと起らないが、神経伝達物質放出は非常に素早く起こり、Ca2+流入後1 ms以内には完了する。このような素早い放出を可能にするためには、律速段階であるSNARE複合体形成は予めある段階まで進行させておき、Ca2+の流入に即応して素早く複合体形成が完了できる状態にしておく必要があると考えられる[21, 27-29]。SNARE複合体形成はN末端側から始まり、ジッパーを締めるようにC末方向に進行していく。コンプレキシン(Complexin)は134アミノ酸からなる小型のタンパク質で、分子の中央部のへリックス部位がSNARE複合体のN末側に結合しSNARE複合体形成の開始を促進する[30]。しかしコンプレキシンのN末側のへリックスはシナプトブレビン2のSNAREモチーフのC末側と拮抗しSNARE複合体形成の完了を阻害する。このためコンプレキシン存在下ではSNARE複合体形成は0レイヤー付近で停止した「クランプ」状態に止まることになり膜融合は引き起こされない [31-33]。Ca2+濃度が高まるとシナプトタグミン(Synaptotagmin)がコンプレキシンにとって代わって結合してクランプ状態を解除し、その結果SNARE複合体形成が完了して膜融合が速やかに引き起こされる[13, 34](図8)。シナプトタグミンはCa2+依存的にリン脂質に結合するが、リポソームにシナプトタグミンを加えると、チューブ状の構造ができることから、結合した脂質2重膜の曲率を変化させる作用があると考えられる。これらのことからシナプトタグミンにはクランプ状態を解除させる機能に加え、細胞膜の曲率を局所的に変えることにより、膜融合の速度をさらに加速する機能もあると考えられる[35-37]。

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