「錐体外路症状」の版間の差分
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英:extrapyramidal symptom, extrapyramidal sign | |||
同義語:なし | |||
錐体外路症状とは、錐体外路の障害により出現する症状である。広義には錐体外路は、錐体路以外のすべての中枢神経系の経路を指すが、錐体外路症状という場合には、大脳基底核を中心とする大脳皮質との神経回路(大脳皮質―大脳基底核ループ)のことを錐体外路と考えてよい。つまり、錐体外路症状とは、大脳皮質―大脳基底核ループの障害に由来する症状である。錐体外路症状を呈する代表的疾患は、パーキンソン病である。 | |||
==錐体外路症状== | |||
錐体外路症状というと運動症状を指す場合が多い。錐体外路症状には多くの種類の運動症状があるが、これらは運動過少と運動過多の2種類に大別される。運動過少を呈する症状は、固縮、無動などであり、パーキンソン病や、パーキンソン病に類似した症状を呈するパーキンソン症候群でしばしばみられる症状である。運動過多を呈する症状は、振戦、舞踏運動、片側バリズム、アテトーゼ、ジストニアなどであり、しばしば不随意運動として扱われる。ここで、振戦、固縮、無動はパーキンソン病の三大徴候であるため、これらの症状を2つ以上有する場合には、これらの症状を総称してパーキンソニズムと呼ぶ。これらの錐体外路症状は、1990年にAlexanderとCrutcherにより提唱された大脳皮質―大脳基底核ループのモデルにより、概念的に説明可能なものが多く、このモデルは現在も広く用いられている<ref><pubmed> 1695401 </pubmed></ref>。錐体外路症状と言うと、主に体性運動系の障害を指すが、厳密にはその他の運動系や非運動系にも錐体外路症状は現れうる<ref><pubmed> 10893428 </pubmed></ref>。例えば、パーキンソン病における動作緩慢は眼球運動系にも認められ、それは大脳皮質―大脳基底核ループの障害による事が判明している<ref><pubmed> 21449014 </pubmed></ref>。この他の非運動症状が近年パーキンソン病では注目されていて<ref><pubmed> 22021174 </pubmed></ref>、これらも厳密には錐体外路症状であるが、一般的には以下に示す運動に関連する症状を錐体外路症状としている。 | |||
== | ==錐体外路症状の種類== | ||
===振戦=== | |||
患者の訴えとして、ふるえと表現されることが多く、最大の特徴はふるえが規則的である点である。発現の状況により、静止時振戦、姿勢時振戦、運動時振戦に分類されるが、パーキンソン病では、4~6Hzの比較的遅く、丸薬を丸めるような動作を伴う静止時振戦が特徴的である。また通常、片側の上肢に発症し、次に同側下肢、後に対側の上肢、下肢へとみられるようになる。姿勢時振戦、運動時振戦がみられる疾患の場合、さほど左右差は目立たないことが多い。 | |||
===固縮(強剛)=== | |||
骨格筋はある程度の緊張状態を保っており、これを筋トーヌスと呼ぶ。錐体外路の障害により筋トーヌスが上昇し、これを固縮(強剛)と呼ぶ。固縮は、筋トーヌスの診察をしないと評価できず、頸部や四肢の関節を他動的に動かして、受ける抵抗が強いことで判明する症状である。歯車様固縮と鉛管様固縮に分類され、前者は関節屈伸運動時にガタガタとした断続的な抵抗を感じるもので、パーキンソン病に特徴的な固縮であるのに対し、後者は一様な抵抗を感じるもので、非特異的な固縮である。 | |||
== | ===無動(寡動、動作緩慢)=== | ||
自発的な動作が少なくなり、動作が緩慢となり、進行すると動けなくなる。この動作の減少を寡動、動作の緩慢を動作緩慢、動作の欠如を無動と呼ぶ。パーキンソン病でみられる仮面様顔貌、すくみ足、瞬きの減少などは無動によるものと考えられる。 | |||
=== | ===舞踏運動(コレア)=== | ||
比較的速く、四肢遠位部優位・顔面に見られる運動で、動きのパターンは全く不規則で、唐突で奇妙な落ち着きのない動きである。顔をしかめたり、首を回旋させたり、手足を伸展・屈曲・開閉・回旋させたりする。代表疾患はハンチントン病であるが、脳血管障害でもみられる。この場合、舞踏運動は片側性となり、また動きのパターンが比較的一定となり、片側バリズムとの連続性が指摘されている。 | |||
===片側バリズム=== | |||
上下肢の近位部に生じる振幅が大きい素早い運動で、上肢または下肢を投げ出すような激しい動きである。動きのパターンは一定である。対側の視床下核や、視床下核に投射する神経線維連絡の障害により、視床から大脳皮質への出力が異常に増大して出現すると考えられている。脳血管障害が原因として多いが、高血糖でも生じる。 | |||
=== | ===アテトーゼ=== | ||
主に四肢遠位部および顔面・頸部にみられる持続の長い運動で、異常肢位がゆっくり捻れながら変化していくような動きである。原因としては、周産期異常による脳性麻痺が多い。アテトーゼのみを呈することは稀であり、舞踏運動、ジストニア、痙縮などを伴う場合が多い。 | |||
===ジストニア=== | |||
持続的な筋収縮により異常姿勢や運動の障害を来たす病態である。小児例では遺伝子変異を伴う全身性ジストニアが多いが、成人例では局所性ジストニアの場合が多い。局所ジストニアは頻度が高く、眼瞼痙攣、痙性斜頸、書痙などがある。ジストニアの特徴として、主動筋と拮抗筋が同時に収縮すること(共収縮)、姿勢異常や運動障害が一定のパターンをとること(常同性)、特定の感覚入力によって症状が改善すること(感覚トリック)、ある特定の動作のみが障害されること(動作特異性)、起床時に症状が軽いこと(早朝効果)などがある。 | |||
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==参考文献== | |||
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(執筆者:松本英之, 宇川義一, 担当編集委員:高橋良輔) | |||
2012年6月5日 (火) 13:16時点における版
英:extrapyramidal symptom, extrapyramidal sign
同義語:なし
錐体外路症状とは、錐体外路の障害により出現する症状である。広義には錐体外路は、錐体路以外のすべての中枢神経系の経路を指すが、錐体外路症状という場合には、大脳基底核を中心とする大脳皮質との神経回路(大脳皮質―大脳基底核ループ)のことを錐体外路と考えてよい。つまり、錐体外路症状とは、大脳皮質―大脳基底核ループの障害に由来する症状である。錐体外路症状を呈する代表的疾患は、パーキンソン病である。
錐体外路症状
錐体外路症状というと運動症状を指す場合が多い。錐体外路症状には多くの種類の運動症状があるが、これらは運動過少と運動過多の2種類に大別される。運動過少を呈する症状は、固縮、無動などであり、パーキンソン病や、パーキンソン病に類似した症状を呈するパーキンソン症候群でしばしばみられる症状である。運動過多を呈する症状は、振戦、舞踏運動、片側バリズム、アテトーゼ、ジストニアなどであり、しばしば不随意運動として扱われる。ここで、振戦、固縮、無動はパーキンソン病の三大徴候であるため、これらの症状を2つ以上有する場合には、これらの症状を総称してパーキンソニズムと呼ぶ。これらの錐体外路症状は、1990年にAlexanderとCrutcherにより提唱された大脳皮質―大脳基底核ループのモデルにより、概念的に説明可能なものが多く、このモデルは現在も広く用いられている[1]。錐体外路症状と言うと、主に体性運動系の障害を指すが、厳密にはその他の運動系や非運動系にも錐体外路症状は現れうる[2]。例えば、パーキンソン病における動作緩慢は眼球運動系にも認められ、それは大脳皮質―大脳基底核ループの障害による事が判明している[3]。この他の非運動症状が近年パーキンソン病では注目されていて[4]、これらも厳密には錐体外路症状であるが、一般的には以下に示す運動に関連する症状を錐体外路症状としている。
錐体外路症状の種類
振戦
患者の訴えとして、ふるえと表現されることが多く、最大の特徴はふるえが規則的である点である。発現の状況により、静止時振戦、姿勢時振戦、運動時振戦に分類されるが、パーキンソン病では、4~6Hzの比較的遅く、丸薬を丸めるような動作を伴う静止時振戦が特徴的である。また通常、片側の上肢に発症し、次に同側下肢、後に対側の上肢、下肢へとみられるようになる。姿勢時振戦、運動時振戦がみられる疾患の場合、さほど左右差は目立たないことが多い。
固縮(強剛)
骨格筋はある程度の緊張状態を保っており、これを筋トーヌスと呼ぶ。錐体外路の障害により筋トーヌスが上昇し、これを固縮(強剛)と呼ぶ。固縮は、筋トーヌスの診察をしないと評価できず、頸部や四肢の関節を他動的に動かして、受ける抵抗が強いことで判明する症状である。歯車様固縮と鉛管様固縮に分類され、前者は関節屈伸運動時にガタガタとした断続的な抵抗を感じるもので、パーキンソン病に特徴的な固縮であるのに対し、後者は一様な抵抗を感じるもので、非特異的な固縮である。
無動(寡動、動作緩慢)
自発的な動作が少なくなり、動作が緩慢となり、進行すると動けなくなる。この動作の減少を寡動、動作の緩慢を動作緩慢、動作の欠如を無動と呼ぶ。パーキンソン病でみられる仮面様顔貌、すくみ足、瞬きの減少などは無動によるものと考えられる。
舞踏運動(コレア)
比較的速く、四肢遠位部優位・顔面に見られる運動で、動きのパターンは全く不規則で、唐突で奇妙な落ち着きのない動きである。顔をしかめたり、首を回旋させたり、手足を伸展・屈曲・開閉・回旋させたりする。代表疾患はハンチントン病であるが、脳血管障害でもみられる。この場合、舞踏運動は片側性となり、また動きのパターンが比較的一定となり、片側バリズムとの連続性が指摘されている。
片側バリズム
上下肢の近位部に生じる振幅が大きい素早い運動で、上肢または下肢を投げ出すような激しい動きである。動きのパターンは一定である。対側の視床下核や、視床下核に投射する神経線維連絡の障害により、視床から大脳皮質への出力が異常に増大して出現すると考えられている。脳血管障害が原因として多いが、高血糖でも生じる。
アテトーゼ
主に四肢遠位部および顔面・頸部にみられる持続の長い運動で、異常肢位がゆっくり捻れながら変化していくような動きである。原因としては、周産期異常による脳性麻痺が多い。アテトーゼのみを呈することは稀であり、舞踏運動、ジストニア、痙縮などを伴う場合が多い。
ジストニア
持続的な筋収縮により異常姿勢や運動の障害を来たす病態である。小児例では遺伝子変異を伴う全身性ジストニアが多いが、成人例では局所性ジストニアの場合が多い。局所ジストニアは頻度が高く、眼瞼痙攣、痙性斜頸、書痙などがある。ジストニアの特徴として、主動筋と拮抗筋が同時に収縮すること(共収縮)、姿勢異常や運動障害が一定のパターンをとること(常同性)、特定の感覚入力によって症状が改善すること(感覚トリック)、ある特定の動作のみが障害されること(動作特異性)、起床時に症状が軽いこと(早朝効果)などがある。
参考文献
- ↑
Alexander, G.E., & Crutcher, M.D. (1990).
Functional architecture of basal ganglia circuits: neural substrates of parallel processing. Trends in neurosciences, 13(7), 266-71. [PubMed:1695401] [WorldCat] [DOI] - ↑
Hikosaka, O., Takikawa, Y., & Kawagoe, R. (2000).
Role of the basal ganglia in the control of purposive saccadic eye movements. Physiological reviews, 80(3), 953-78. [PubMed:10893428] [WorldCat] [DOI] - ↑
Matsumoto, H., Terao, Y., Furubayashi, T., Yugeta, A., Fukuda, H., Emoto, M., ..., & Ugawa, Y. (2011).
Small saccades restrict visual scanning area in Parkinson's disease. Movement disorders : official journal of the Movement Disorder Society, 26(9), 1619-26. [PubMed:21449014] [WorldCat] [DOI] - ↑
Seppi, K., Weintraub, D., Coelho, M., Perez-Lloret, S., Fox, S.H., Katzenschlager, R., ..., & Sampaio, C. (2011).
The Movement Disorder Society Evidence-Based Medicine Review Update: Treatments for the non-motor symptoms of Parkinson's disease. Movement disorders : official journal of the Movement Disorder Society, 26 Suppl 3, S42-80. [PubMed:22021174] [PMC] [WorldCat] [DOI]
(執筆者:松本英之, 宇川義一, 担当編集委員:高橋良輔)