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Masatakawatanabe (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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人の非侵襲的研究においては、刺激呈示前に視覚野や聴覚野で活動性の変容が見られるときには、前頭前野を含む前頭葉の多くの部位が活性化することが示されている。またサルの前頭前野を電気刺激すると、視覚関連領野の活動が促進されることも示されている。こうした大脳後部における活動性の変容は、前頭前野からのトップダウン信号top-down signalを受けた結果生じたのではないかと想定される。こうしたトップダウン信号は、課題に関係した刺激の処理を効率化することにより、適切な反応に導くという役割を担っていると考えられる。 認知と情動・動機づけは相互作用することが知られている。たとえば、被験者の情動を操作することにより,前頭前野の活動性が変化するとともに,ワーキングメモリー課題の成績も変化することが示されている。人の非侵襲的研究によると、このワーキングメモリーと情動・動機づけの統合に関係して、前頭前野の外側部、特にその前頭極でより顕著な活性化が見出されている。こうした前頭前野における活動は、トップダウン信号として脳の後ろの部位に伝えられ、行動制御に重要な役割を果たしていると考えられる。サルのニューロンレベルの研究でも、より好ましい報酬が期待できるときには,前頭前野ニューロンにおいてワーキングメモリーに関係した活動が促進され、正解率も上昇することが示されている。 | 人の非侵襲的研究においては、刺激呈示前に視覚野や聴覚野で活動性の変容が見られるときには、前頭前野を含む前頭葉の多くの部位が活性化することが示されている。またサルの前頭前野を電気刺激すると、視覚関連領野の活動が促進されることも示されている。こうした大脳後部における活動性の変容は、前頭前野からのトップダウン信号top-down signalを受けた結果生じたのではないかと想定される。こうしたトップダウン信号は、課題に関係した刺激の処理を効率化することにより、適切な反応に導くという役割を担っていると考えられる。 認知と情動・動機づけは相互作用することが知られている。たとえば、被験者の情動を操作することにより,前頭前野の活動性が変化するとともに,ワーキングメモリー課題の成績も変化することが示されている。人の非侵襲的研究によると、このワーキングメモリーと情動・動機づけの統合に関係して、前頭前野の外側部、特にその前頭極でより顕著な活性化が見出されている。こうした前頭前野における活動は、トップダウン信号として脳の後ろの部位に伝えられ、行動制御に重要な役割を果たしていると考えられる。サルのニューロンレベルの研究でも、より好ましい報酬が期待できるときには,前頭前野ニューロンにおいてワーキングメモリーに関係した活動が促進され、正解率も上昇することが示されている。 | ||
7.前頭前野とドーパミン 前頭前野の高次機能は神経伝達物質のドーパミン,セロトニン、ノルエピネフリン,GABA(ガンマアミノ酪酸)などによって支えられている。これらの物質が欠乏すると,人はワーキングメモリー課題の遂行、プラニング、意思決定や反応抑制の障害を示したり、情動障害を示したりする。 | 7.前頭前野とドーパミン 前頭前野の高次機能は神経伝達物質のドーパミン,セロトニン、ノルエピネフリン,GABA(ガンマアミノ酪酸)などによって支えられている。これらの物質が欠乏すると,人はワーキングメモリー課題の遂行、プラニング、意思決定や反応抑制の障害を示したり、情動障害を示したりする。 ドーパミンは大脳皮質の中では前頭葉に最も多く分布しており、前頭前野の働きに最も重要な役割を果たす神経伝達物質である。ドーパミンの働きの異常に関係した病気であるパーキンソン病や統合失調症の患者は,前頭前野機能に関係した課題で成績が悪くなる。サルの前頭前野にドーパミンの阻害剤を投与してドーパミンを枯渇させると,サルは前頭前野が関係する色々な課題が出来なくなる。一方ドーパミンは欠乏だけでなく,多すぎてもこうした課題に障害を起こす。前頭前野のドーパミン量と認知課題の成績の間には逆U字関係が認められており、前頭前野が効率的に働くためには,ドーパミン量がある「最適レベル」にある必要があると考えられている。強い[[ストレス]]は前頭前野内のドーパミン濃度を上昇させる。一方、老化に伴って前頭前野内のドーパミン濃度は減少する。どちらの場合も認知機能は低下するが、濃度を適度に下げる,あるいは上げるような薬物を投与すると人でもサルでも前頭前野は効率的に働くようになる。またワーキングメモリー課題の成績が良くない人にドーパミンの働きを高める薬物を投与すると課題成績が良くなる一方、もともと成績のよい人にそうした薬物を投与すると課題成績が悪くなる、ということも見られる[4]。ドーパミンの受容体にはD1からD5の5種類があるが、認知課題に最も重要なのがD1受容体である。ニューロンレベルの研究で、このドーパミンD1受容体の作動薬を微量投与すると、投与量とワーキングメモリー関連ニューロン活動の間にも、逆U字の関数関係が認められる。すなわち適切な投与量ならS/N比がよくなることによりワーキングメモリー活動は促進されるが、投与量が少なすぎる、あるいは多すぎる場合はワーキングメモリー活動は阻害されるのである。サルの前頭前野の外側部にドーパミンD1受容体の作動薬を投与すると、視覚野連合野の刺激反応性が向上するという報告がある。これはさきに述べた前頭前野のトップダウン信号にドーパミンが重要な役割を果たすことを示す。 COMT (catechol-O-methyl transferase)は、ドーパミンやノルアドレナリンなどのカテコールアミンとよばれる神経伝達物質の代謝酵素である。ヒトのCOMTには遺伝子多型があり、最初のメチオニンから数えて158番目のアミノ酸がバリン(Val)の場合とメチオニン(Met)の場合がある。COMTの酵素活性は、Val型の方が高いので、前頭前野でのドーパミンの分解はVal型で早く、Met型の者は、Val型の者よりも、ドーパミン代謝が減弱している。その結果Val型の人は前頭前野活動が非効率的で認知課題の遂行が落ちる傾向にある。人にドーパミンの働きを高める薬物を投与すると、同じ量でもVal型の人ではワーキングメモリー課題成績が上昇するのに、Met型の人では課題成績が減少する、ということも見られる[4]。ここでも前頭前野におけるドーパミンと認知行動の間の逆U字関数関係が見られる。ただ、遺伝子多型と行動との関係は複雑であり、課題の条件やドーパミン量の操作法に関係して、いろいろな研究の結果は必ずしも一致しているわけではない。 | ||
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