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| | 同義語:脳血管性認知症、脳血管性痴呆、多発梗塞性認知症、多発梗塞性痴呆、脳動脈硬化症 |
| <font size="+1">冨本 秀和</font><br>
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| ''三重大学神経内科''<br>
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| DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年6月26日 原稿完成日:2013年10月4日<br>
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| 担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 脳神経内科)<br>
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| </div>
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| 英:vascular dementia 独:vaskuläre Demenz 仏:leucoaraiose
| | 血管性認知症(vascular dementia: VaD)はすべての脳血管障害に基因して生じる認知症の総称である。この範疇に属する用語として、古くは「脳動脈硬化症」がある。この用語は認知機能の低下をきたす責任病変が何かが明確でなく、現在学術用語として用いられることはなくなっている。それ以降、1970年にTomlinsonは空洞性の梗塞巣の容積が50 mlを超えると認知機能の低下が生じることを報告し、「多発梗塞性認知症」(旧来は多発梗塞性痴呆)の概念を提唱した[1]。このことは、老人斑や神経原線維変化などのAlzheimer病理以外に、血管病変が認知機能障害の責任病変となることを指摘した点で重要な意義があった。しかし一方では、脳血管障害に起因する認知機能障害=多発梗塞性認知症とする誤解が生じ、大きな空洞性変化をきたさない白質病変やラクナ梗塞などの小血管病変の重要性が看過される契機にもなった。 |
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| 同義語:脳血管性認知症、脳血管性痴呆、多発梗塞性認知症、多発梗塞性痴呆、脳動脈硬化症
| | == Binswanger病の位置づけ == |
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| {{box|text= 血管性認知症は脳血管障害に起因して生じる認知症の総称である。うち約半数は「認知症を伴う脳小血管病」が占め、それをさらに皮質に主病変が存在する[[アミロイド血管症]]、皮質下に主病変が存在する[[皮質下血管性認知症]]に大別し、後者でのうち白質病変優位型のものをBinswanger病またはBinswanger型脳梗塞とする理解が一般的である。臨床上、記憶、見当識、注意力、言語、視覚空間機能、行動機能、運動統御、行為などの障害が認められられる。神経学的診察で,脳卒中の際にみられる局所神経症候が認められ、脳画像診断でもそれが裏付けられる。アルツハイマー病とは臨床症状や画像診断上区別するが、危険因子を共通とし、また病態生理学的にも重なり合うことがある。治療には高血圧を伴う場合は、それを治療するのが優先である。}}
| | 白質病変を特徴とする血管性認知症として、Binswanger病(Binswanger型脳梗塞)がある。Binswanger病は1894年に報告され、その最初の記録はドイツの神経科医Otto Binswangerの講演録に見られる。梅毒による進行麻痺が認知症の多くを占めた当時、Binswangerは血管病変に起因する認知症が存在することを初めて指摘している。脳血管の動脈硬化、後頭葉・側頭葉白質の高度萎縮、側脳室後角・下角の開大など皮質下に血管病変が存在し、大脳皮質はほぼ正常であった症例の肉眼所見を提示し、動脈硬化に起因する病態として”encephalitis subcorticalis chronica progressive” の名称を提唱した。1964年、Jellingerらは本疾患を光顕的に検討し、progressive subcortical vascular encephalopathy of Binswanger typeとして概念をまとめている。さらに、1990年、Bennettらは画像所見を取り入れて、Binswanger型脳梗塞の臨床診断基準を提唱している[2]。彼らは本診断基準を用いて後方視的に剖検例を調べ、本診断基準を満たした症例の大部分が病理学的にBinswanger病であり、Alzheimer病で本基準を満たしたものは184名中3名のみに留まったと報告している。 |
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| ==血管性認知症とは==
| | 歴史的に記載されてきたBinswanger病であるが、現在では血管性認知症の約半数を占める「認知症を伴う脳小血管病」を、皮質に主病変が存在するアミロイド血管症、皮質下に主病変が存在する皮質下血管性認知症に大別し、後者でのうち白質病変優位型のものをBinswanger病またはBinswanger型脳梗塞とする理解が一般的である。頭部MRIのFLAIR画像, またはT2強調画像では、脳室周囲および深部白質にびまん性の高輝度を呈する.白質病変の程度・広がりはラクナ梗塞を主体とする「多発性ラクナ梗塞」より高度であり,脳梁萎縮,脳室拡大,海馬萎縮なども認められる.Binswanger病患者の半数は明らかな卒中発作を呈さずに緩徐進行性の経過をとり、海馬萎縮をともなう症例もあることから、アルツハイマー病との鑑別が重要である。白質病変を主体とする脳小血管病であり、血管性認知症の中核群として位置づけられる。 |
| 血管性認知症はすべての脳血管障害に起因して生じる[[認知症]]の総称である。この範疇に属する用語として、古くは「脳動脈硬化症」がある。この用語は認知機能の低下をきたす責任病変が何かが明確でなく、現在学術用語として用いられることはなくなっている。それ以降、1970年にTomlinsonは空洞性の[[梗塞]]巣の容積が50 mlを超えると認知機能の低下が生じることを報告し、「多発梗塞性認知症」(旧来は多発梗塞性痴呆)の概念を提唱した<ref name="ref1"><pubmed>5505685</pubmed></ref>。このことは、[[老人斑]]や[[神経原線維変化]]などの[[Alzheimer病]]理以外に、血管病変が認知機能障害の責任病変となることを指摘した点で重要な意義があった。しかし一方では、脳血管障害に起因する認知機能障害=多発梗塞性認知症とする誤解が生じ、大きな空洞性変化をきたさない[[白質病変]]や[[ラクナ梗塞]]などの小血管病変の重要性が看過される契機にもなった。
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| 白質病変を特徴とする血管性認知症として、Binswanger病(Binswanger型脳梗塞)がある。Binswanger病は1894年に報告され、その最初の記録はドイツの神経科医[[wikipedia:Otto Binswanger|Otto Binswanger]]の講演録に見られる。[[wikipedia:ja:梅毒|梅毒]]による[[進行麻痺]]が認知症の多くを占めた当時、Binswangerは血管病変に起因する認知症が存在することを初めて指摘している。脳血管の[[wikipedia:ja:動脈硬化|動脈硬化]]、[[後頭葉]]・[[側頭葉]]白質の高度萎縮、[[側脳室]]後角・下角の開大など皮質下に血管病変が存在し、[[大脳皮質]]はほぼ正常であった症例の肉眼所見を提示し、動脈硬化に起因する病態として”encephalitis subcorticalis chronica progressive” の名称を提唱した。1964年、Jellingerらは本疾患を光顕的に検討し、progressive subcortical vascular encephalopathy of Binswanger typeとして概念をまとめている。さらに、1990年、Bennettらは画像所見を取り入れて、Binswanger型脳梗塞の臨床診断基準を提唱している<ref name="ref2"><pubmed>2283526</pubmed></ref>。彼らは本診断基準を用いて後方視的に剖検例を調べ、本診断基準を満たした症例の大部分が病理学的にBinswanger病であり、Alzheimer病で本基準を満たしたものは184名中3名のみに留まったと報告している。
| | == 血管性認知症の診断基準 == |
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| 歴史的に記載されてきたBinswanger病であるが、現在では血管性認知症の約半数を占める「認知症を伴う脳小血管病」を、皮質に主病変が存在する[[アミロイド血管症]]、皮質下に主病変が存在する[[皮質下血管性認知症]]に大別し、後者でのうち白質病変優位型のものをBinswanger病またはBinswanger型脳梗塞とする理解が一般的である。頭部[[MRI]]の[[FLAIR画像]], または[[T2強調画像]]では、脳室周囲および深部白質にびまん性の高輝度を呈する.白質病変の程度・広がりはラクナ梗塞を主体とする「多発性ラクナ梗塞」より高度であり,[[脳梁]]萎縮,脳室拡大,[[海馬]]萎縮なども認められる.Binswanger病患者の半数は明らかな卒中発作を呈さずに緩徐進行性の経過をとり、海馬萎縮をともなう症例もあることから、アルツハイマー病との鑑別が重要である。白質病変を主体とする脳小血管病であり、血管性認知症の中核群として位置づけられる。
| | 米国国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)とAssociation Internationale pour la Recherché et l'Enseignement en Neurosciences(AIREN)による診断基準(NINDS-AIREN)は最も代表的な血管性認知症の診断基準である。この他にも米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(DSM-Ⅳ)、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第10版(ICD-10)、カリフォルニアのAlzheimer病診断・治療センター(ADDTC)による虚血性血管性認知症の診断基準などが知られている。また、Hachinskiの虚血スコアは臨床症候に基づいてAlzheimer病(AD)と鑑別することを目的に作成された簡便な血管性認知症の診断方法である。これらの診断基準を同一症例に適用した場合、診断の相互一致率は不十分であり、複数の診断基準を組み合わせても感度・特異度とも上昇しない。このため、血管性認知症の診断基準は、今後さらに改良が望まれている。 |
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| == 診断基準 ==
| | 表1は最も汎用されているNINDS-AIREN(National Institute of Neurological Disorders and Stroke and Association Internationale pur la Rechrche et l’Enseignement en Neurosciences)診断基準である。本診断基準は臨床試験に用いることを目的として作成されたものであり、最も厳密な基準である。診断の特異度は高いが、感度が低くなる欠点がある。 |
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| [[wikipedia:National Institute of Neurological Disorders and Stroke|米国国立神経疾患・脳卒中研究所]](NINDS)と[[wikipedia:ja:Association Internationale pour la Recherché et l'Enseignement en Neurosciences|Association Internationale pour la Recherché et l'Enseignement en Neurosciences]](AIREN)による診断基準(NINDS-AIREN)は最も代表的な血管性認知症の診断基準である。この他にも米国精神医学会による[[精神疾患の診断・統計マニュアル第4版]](DSM-Ⅳ)、[[wikipedia:ja:世界保健機関|世界保健機関]](WHO)の[[国際疾病分類第10版]](ICD-10)、カリフォルニアの[[wikipedia:ja:Alzheimer病診断・治療センター|Alzheimer病診断・治療センター]](ADDTC)による虚血性血管性認知症の診断基準などが知られている。また、Hachinskiの虚血スコアは臨床症候に基づいてAlzheimer病(AD)と鑑別することを目的に作成された簡便な血管性認知症の診断方法である。これらの診断基準を同一症例に適用した場合、診断の相互一致率は不十分であり、複数の診断基準を組み合わせても感度・特異度とも上昇しない。このため、血管性認知症の診断基準は、今後さらに改良が望まれている。
| | 表1 |
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| 表1は最も汎用されているNINDS-AIREN(National Institute of Neurological Disorders and Stroke and Association Internationale pur la Rechrche et l’Enseignement en Neurosciences)診断基準である。本診断基準は臨床試験に用いることを目的として作成されたものであり、最も厳密な基準である。診断の特異度は高いが、感度が低くなる欠点がある。
| | 本診断基準では血管性認知症を以下の6型に分類している(表2)。多発梗塞性認知症は血管性認知症の亜型であり、わが国では認知症を伴う脳小血管病が最も多く約半数を占め、多発梗塞性認知症は2-3割を占める。NINDS-AIREN診断基準の作成委員会メンバーのひとりであったErkinjunti Tは血管性認知症の比較的多数を占め、均質な徴候を呈する皮質下血管性認知症に焦点をあて、画像所見を含めた詳細な診断基準を提唱している(表3)。 |
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| <br>
| | 表2 |
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| {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" style="width: 949px; height: 494px;"
| | 表3 |
| |-
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| | style="background-color:#dfd" | 1.Probable VaDの診断基準
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| |-
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| | A. 認知症
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| a) 記憶障害と,次の認知機能のうち2つ以上の障害がある.[[見当識]],[[注意力]],[[言語]],[[視覚]]空間機能,[[行動機能]],[[運動統御]],[[行為]]。<br> b) 臨床的診察と神経心理学的検査の両方で確認することが望ましい。 <br> c) 機能障害は,日常生活に支障をきたすほど重症である.しかし,これは脳卒中に基づく身体障害によるものを除く。 <br> 【除外基準】<br> a) 神経心理検査を妨げる[[意識障害]],[[せん妄]],[[精神病]],重症[[失語]],著明な感覚運動障害がない<br> b) [[記憶]]や認知機能を障害する全身性疾患や他の脳疾患がない<br>
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| |-
| | 表4 |
| | B. 脳血管障害
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| a) 神経学的診察で,脳卒中の際にみられる局所神経症候([[片麻痺]]・下部[[顔面神経麻痺]]・[[Babinski徴候]]・[[感覚障害]]・[[半盲]]・[[構音障害]])がみられる。<br> b) 脳画像(CT・MRI)で明らかな多発性の大梗塞,重要な領域の単発梗塞,多発性の基底核ないし白質の小梗塞あるいは広範な脳室周囲白質の病変を認める。
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| |-
| | == 血管性認知症の病態 == |
| | C. AとBの間隔が3カ月以内<br>
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| 1)明らかな脳血管障害後3か月以内に認知症が起こる。<br> 2)認知機能が急激に低下するか,認知機能障害が動揺性ないし段階的に進行する。<br>
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| |-
| | 近年、アルツハイマー病の危険因子として中年期の血管因子が指摘されている。アルツハイマー病と血管性認知症は共通の危険因子を有しており、両者の合併の頻度は偶然の期待値より高い。また、両疾患の病理変化、すなわちアルツハイマー病理と脳血管病変の合併は認知機能を相加的に増悪させる。さらに、アルツハイマー病でほぼ必発のアミロイド血管症はさまざまな脳血管病変の原因となる。以上から推測されるように、混合型認知症、すなわちアルツハイマー病と血管性認知症の合併は稀ならず存在する。 |
| | style="background-color:#dfd" | 2.血管性認知症の臨床的特徴
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| |-
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| | A. 早期からの歩行障害<br>B. 不安定性および頻回の転倒<br>C. [[wikipedia:ja:泌尿器|泌尿器]]疾患で説明困難な[[wikipedia:ja:尿失禁|尿失禁]]などの[[wikipedia:ja:排尿障害|排尿障害]]<br>D. [[偽性球麻痺]]<br>E. [[人格障害]]および[[情緒障害]]([[感情失禁]])
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| |-
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| | style="background-color:#dfd" | 3.血管性認知症らしくない症状
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| |-
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| | A. 局所神経徴候や画像異常を伴わない記憶障害・認知機能障害の悪化。<br>B. 認知機能障害以外に局所神経徴候を欠く。<br>C. 画像上、脳血管障害が確認できない。
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| |}
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| '''表1:血管性認知症のNINDS-AIREN診断基準'''
| | しかし、アルツハイマー病理の存在を抽出することは臨床的には困難なであり、この問題を回避する意味で脳血管障害が関与する認知機能障害として血管性認知障害(Vascular cognitive impairment; VCI)が提唱されている。血管性認知障害は血管性認知症を中核として、混合型認知症、脳卒中後認知症、血管性軽度認知障害までを包含する概念であり、2011年、その診断基準(案)がアメリカ心臓病・脳卒中協会から発表されている(表5)[4]。 |
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| <br> 本診断基準では血管性認知症を以下の6型に分類している(表2)。多発梗塞性認知症は血管性認知症の亜型であり、わが国では認知症を伴う脳小血管病が最も多く約半数を占め、多発梗塞性認知症は2-3割を占める。NINDS-AIREN診断基準の作成委員会メンバーのひとりであったErkinjunti Tは血管性認知症の比較的多数を占め、均質な徴候を呈する皮質下血管性認知症に焦点をあて、画像所見を含めた詳細な診断基準を提唱している(表3)。
| | 表5 |
| | VCI, vascular cognitive impairment; VaD, vascular dementia; MCI, mild cognitive impairment; CADASIL, cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy; CT/MRI, computed tomography/magnetic resonance imaging; PET, positron emission tomography; CSF, cerebrospinal fluid; VaMCI, vascular mild cognitive impairment. |
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| <br>
| | == 血管性認知症の診断 == |
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| {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" style="width: 372px; height: 266px;"
| | 診断は臨床経過、神経症状、神経画像をに基づき、診断基準を参考にして行う。白質病変、海馬萎縮は血管性認知症、アルツハイマー病のいずれでも認められるが、白質病変は血管性認知症で顕著であり、海馬萎縮はアルツハイマー病で高度となる。血管性認知症は、アルツハイマー病と比較すると、階段状の増悪、発症早期から歩行障害、排尿障害、構音・嚥下障害などの偽性球麻痺を伴いやすい。血管性認知症の記憶障害の程度は、アルツハイマー病に比べ軽度で、記憶の喚起障害が主体である。その他の認知機能障害として、前頭葉機能低下を反映した精神緩慢、アパシー、抑うつなどがある。意識障害による夜間せん妄が見られることがあるが、人格は比較的保たれる。 |
| |-
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| | 1. 多発梗塞性認知症
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| 皮質・皮質下領域に大きな完全梗塞が多発するもの。
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| |-
| | サブタイプ別にみると、多発梗塞性認知症は階段状の進行、増悪を示すが、皮質下血管性認知症では約半数の患者が緩徐進行性の経過をとる。多発梗塞性認知症は頭部MRIで皮質、皮質下領域の大小の脳梗塞を特徴とし、特に皮質領域に病変が多発する。皮質下血管性認知症はラクナ梗塞、白質病変が主体であり、これらの小血管病変が皮質下に分布する。脳機能画像では脳血管病変の分布に一致して斑状の血流低下域を呈するが、一般的には前頭葉中心に血流低下を示す傾向がある。 |
| | 2. Strategic single-infarct dementia<br>
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| A.皮質領域<br> [[角回]]<br> [[前大脳動脈]]領域<br> [[中大脳動脈]]領域<br> [[後大脳動脈]]領域<br>B. 皮質下領域<br> [[視床]]<br> [[前脳基底部]]
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| |-
| | == 血管性認知症の治療 == |
| | 3. 認知症を伴う脳小血管病
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| A. 皮質下領域 多発ラクナ梗塞 Binswanger病<br>B. 皮質領域 脳アミロイド血管症
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| |-
| | 降圧療法には脳梗塞と同様にACE阻害薬・ARB、カルシウム拮抗薬、利尿薬が適用される。カルシウム拮抗薬のニトレンジピンを用いたSyst-Eur試験では、高血圧患者の認知症の発症抑制が示されている。80歳以上の高齢者を対象とするHYVET -cog試験では、ACE阻害薬、利尿薬の認知症抑制効果は認めなかったが、HYVET -cog試験を含む過去4試験のメタ解析では認知症が13%減少している [5]。アンギオテンシンIIはアセチルコリンの遊離抑制に作用するため、レニンアンギオテンシン系(RAS)抑制薬にはコリン系の賦活効果があり、認知症への効果も期待される。血管性認知症では微小出血(Microbleeds)を伴い易く、特にその多発例では出血性リスクが危惧される。大血管の高度狭窄を伴う場合は別にして、抗血小板を行う場合は厳格な血圧管理下のもとでシロスタゾールのような出血性合併症の少ない薬剤が望ましい。 |
| | 4. 低灌流によるもの
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| |-
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| | 5. 出血性認知症
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| |-
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| | 6. その他の機序によるもの
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| |}
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| '''表2:血管性認知症の分類(NINDS-AIREN診断基準)'''
| | アセチルコリンエステラーゼ阻害薬のドネペジル、ガランタミン、リバススチグミン、NMDA受容体拮抗薬のメマンチンが有効とする報告があるが、わが国では認められていない。釣藤散は血管性認知症の認知機能改善効果がある。また、八味地黄丸で血管性認知症や混合型認知症、アルツハイマー病患者に対して認知機能とADLの改善が報告されている。意欲・自発性の低下には塩酸アマンタジン、ニセルゴリンが有用である。三環系抗うつ薬は血圧変動のため白質病変を増悪する可能性や抗コリン作用の問題があり、抑うつにはSSRI(selective serotonin reuptake inhibitor)やSNRI (serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor)を用いる。脳血管障害後遺症によるめまいにはイブジラストが有効である。血管性認知症の進行期には、嚥下障害が進行して誤嚥性肺炎をきたし易くなる。ACE阻害薬は咳漱反射を亢進させ誤嚥性肺炎の予防に有効である。また、塩酸アマンタジン、シロスタゾールも脳内ドーパミン、サブスタンスPを増加させるため、誤嚥性肺炎の予防に用いられる。 |
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| <br>
| | == 参考文献 == |
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| {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" style="width: 866px; height: 529px;"
| | <references /> |
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| | style="background-color:#dfd" | I. 次のすべてを満たす
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| |-
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| | 1. 認知機能障害として以下の両者
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| A. 遂行機能障害<br>B. 記銘力障害(おそらく軽度)
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| |-
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| | 2.脳血管障害として以下の両者
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| A. 支持的な神経画像所見<br> 1)CTによる基準<br> [[脳脊髄液]]と正常白質の中間密度の脳室周囲または深部白質病変で、半卵円中心に伸びる境界不鮮明なもの+最低ひとつのラクナ梗塞。<br> 2)MRIによる基準<br>
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| *主に白質病変によるもの(Binswanger type)<br>幅10 mm以上のPVH、幅25mmを超える融合性の深部白質病変、広汎白質病変+深部灰白質のラクナ梗塞
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| *主にラクナ梗塞によるもの(Lacunar state type)<br>深部灰白質の多発(たとえば5個以上)ラクナ梗塞+中等度以上の白質病変<br>
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| B. 皮質下血管病変を支持する神経徴候の存在、または既往
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| |-
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| | style="background-color:#dfd" | II. 診断を支持する所見
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| |-
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| | 1. [[上位運動ニューロン]]障害のエピソード
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| | 2. 早期からの歩行障害の存在
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| |-
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| | 3. ふらつきや原因不明の頻繁な意識消失
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| |-
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| | 4. 早期からの頻尿、尿意促迫、その他の泌尿器症状
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| |-
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| | 5. 構音障害、[[嚥下障害]]、[[錐体外路症状]]
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| |-
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| | 6. 行動症状、心理症状
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| |-
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| | style="background-color:#dfd" | III. 診断を支持しないあるいは否定する特徴
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| |-
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| | 1. 記憶障害や他の認知機能障害の早期からの発症、あるいは進行性の悪化
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| |-
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| | 2. CTやMRIで脳血管障害がない。
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| |}
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| '''表3:皮質下血管性認知症の臨床診断基準'''
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| <br>
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| {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" style="width: 866px; height: 231px;"
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| |-
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| | A. 多彩な認知機能障害の発現.以下の2項目がある
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| 1. 記憶障害(新しい情報を学習したり,以前に学習した情報を想起する能力の障害)
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| 2. 以下の認知機能障害が一つ(またはそれ以上)ある
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| (a) 失語(言語の障害)
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| (b) [[失行]](運動機能は障害されていないのに,運動行為が障害される)
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| (c) [[失認]](感覚機能が障害されていないのに,対象を認識または同定できない)
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| (d) [[実行機能]](計画を立てる,組織化する,順序立てる,抽象化する)の障害
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| |-
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| | B. A1およびA2の認知機能障害は,その各々が,社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こし,病前の機能水準からの著しい低下を示す
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| |-
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| | C. 局所的神経徴候や症状(例:[[腱反射]]の亢進,[[病的反射]],偽性球麻痺,[[歩行障害]],一肢の筋力低下),または臨床検査上その障害に病因的関連があると判断される脳血管障害(CVD)(例:皮質や皮質下白質を含む多発性梗塞)を示す
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| |-
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| | D. 認知機能障害はせん妄の経過中にのみ現れるものではない
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| |}
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| '''表4:DSM-Ⅳによる血管性認知症の診断基準'''
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| ==病態 ==
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| 近年、アルツハイマー病の危険因子として中年期の血管因子が指摘されている。アルツハイマー病と血管性認知症は共通の危険因子を有しており、両者の合併の頻度は偶然の期待値より高い。また、両疾患の病理変化、すなわちアルツハイマー病理と脳血管病変の合併は認知機能を相加的に増悪させる。さらに、アルツハイマー病でほぼ必発のアミロイド血管症はさまざまな脳血管病変の原因となる。以上から推測されるように、混合型認知症、すなわちアルツハイマー病と血管性認知症の合併は稀ならず存在する。
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| | |
| しかし、アルツハイマー病理の存在を抽出することは臨床的には困難なであり、この問題を回避する意味で脳血管障害が関与する認知機能障害として血管性認知障害(Vascular cognitive impairment; VCI)が提唱されている。血管性認知障害は血管性認知症を中核として、[[混合型認知症]]、[[脳卒中後認知症]]、[[血管性軽度認知障害]]までを包含する概念であり、2011年、その診断基準(案)がアメリカ心臓病・脳卒中協会から発表されている(表5)<ref name="ref4"><pubmed>21778438</pubmed></ref>。
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| <br>
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| {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" style="width: 875px; height: 1137px;"
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| |-
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| | 1. VCIの用語は血管性認知症(VaD)から血管障害に起因する軽度認知障害(MCI)など全ての認知機能障害を含む。
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| 2. 以下の基準は薬物やアルコールの乱用、または依存と診断される患者には適応されない。患者は過去3カ月間、上記のいずれの影響にも曝されていないことが必要である。
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| 3.以下の基準はせん妄の患者には適用されない。
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| 認知症
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| 1. 認知症の診断は、少なくとも2つ以上の認知領域において認知機能の増悪や検査結果の低下が認められ、その結果、患者の日常生活が損なわれていると判断されることが必要である。
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| 2. 認知症の診断は、認知機能検査の結果に基づいて判断される。認知に関する少なくとも4領域(実行機能、記憶、言語、視空間認知機能)を検査する。
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| 3. 患者の日常生活障害は、血管障害の結果生じる運動麻痺や知覚障害とは無関係である。
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| | <u>Probable VaD</u>
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| 1. 認知障害と脳血管障害の画像所見が認められ、
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| a. 血管障害(例えば卒中発作)と認知障害の発症の間に明確な時間的関連が存在すること、または
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| b. 認知障害と程度やタイプと、び慢性または皮質下性の脳血管病理(例えばCADASIL)の間に明確な関連性が認められること。
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| 2. 卒中発作の前後で、非血管性の神経変性疾患を示唆する緩徐進行性の認知記障害の病歴が存在しない。
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| | <u>Possible VaD</u>
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| 認知障害と脳血管障害の画像所見が認められるが、
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| 1. 血管障害(例えば無症候性脳梗塞や皮質下の小血管病変)と認知障害の間に明確な時間、重症度やタイプの整合性が存在しない場合。
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| 2. VaDの診断に関する十分な情報が得られない場合(例えば、臨床症状から血管障害が疑われるが、CT/MRI検査結果が得られない、など)。
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| 3. 重度の失語のために正確な認知機能の評価が困難である場合。ただし、失語の原因となった卒中発作の以前は認知機能正常の記録がある患者(例えば例年実施される認知機能検査など)についてはprobable VaDと診断しうる。
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| 4. 認知機能に影響しうる脳血管疾患に加え、以下のような他の神経変性疾患や病態を疑う根拠が存在する場合。
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| a. 神経変性疾患の病歴がある(例えば、[[パーキンソン病]]、[[進行性核上性麻痺]]、[[レビー小体型認知症]])、または、
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| b. バイオマーカー(例えば[[PET]]、髄液でのアミロイド変化)や遺伝子検査(例えばPS1変異)からアルツハイマー病理の存在が示される、または、
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| c. 認知機能に影響しうる活動性の[[wikipedia:ja:がん|がん]]、[[精神疾患]]、[[wikipedia:ja:代謝性疾患|代謝性疾患]]の病歴がある。
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| | <u>VaMCI(血管性軽度認知障害) </u>
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| 1. VaMCIはMCIの4亜型、すなわち健忘型(amnestic type)、他の認知領域障害を伴う健忘型、非健忘型の単一認知領域の障害、非健忘型の多認知領域の障害、を含む。
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| 2. VaMCIの分類は認知機能検査に基づいて行うこととし、少なくとも4つの認知領域、すなわち実行機能/注意、記憶、言語、視空間認知を評価する。分類は以前の水準からの低下で認知機能の低下を判断し、少なくとも1つの認知領域が障害されているものとする。
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| 3. 運動、知覚障害の程度に関わらず、手段的日常生活動作(IADL)は正常あるいは軽度の障害がありうる。
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| | <u>Probable VaMCI</u>
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| 1. 認知障害と脳血管障害の画像所見が認められ、
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| a. 血管障害(例えば卒中発作)と認知障害の発症の間に明確な時間的関連が存在すること、または
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| b. 認知障害と程度やタイプと、び慢性または皮質下性の脳血管病理(例えばCADASIL)の間に明確な関連性が認められること。
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| 2. 卒中発作の前後で、非血管性の神経変性疾患を示唆する緩徐進行性の認知記障害の病歴が存在しない。
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| | <u>Possible VaMCI </u>
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| 認知障害と脳血管障害の画像所見が認められるが、
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| 1. 血管障害(例えば無症候性脳梗塞や皮質下小血管病変)と認知障害の間に明確な時間、重症度やタイプの整合性が存在しない場合。
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| 2. VaMCIの診断に関する十分な情報が得られない場合(例えば、臨床症状から血管障害が疑われるが、[[wikipedia:ja:CT|CT]]/MRI検査結果が得られない、など)。
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| 3. 重度の失語のために正確な認知機能の評価が困難である場合。ただし、失語の原因となった卒中発作の以前は認知機能正常の記録がある患者(例えば例年実施される認知機能検査など)についてはprobable VaMCIと診断しうる。
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| 4. 認知機能に影響しうる脳血管疾患に加え、以下のような他の神経変性疾患や病態を疑う根拠が存在する場合。
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| a. 神経変性疾患の病歴がある(例えば、パーキンソン病、進行性核上性麻痺、レビー小体型認知症)、または、
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| b. バイオマーカー(例えばPET、髄液でのアミロイド変化)や遺伝子検査(例えばPS1変異)からアルツハイマー病理の存在が示される、または、
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| c. 認知機能に影響しうる活動性のがん、精神疾患、代謝性疾患の病歴がある。
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| | <u>Unstable VaMCI </u>
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| probable VaMCI またはpossible VaMCIと診断され正常に復した患者はunstable VaMCIと分類する。
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| '''表5:血管性認知障害(Vascular cognitive impairment;VCI)の診断基準(案)'''
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| VCI, vascular cognitive impairment; VaD, vascular dementia; MCI, mild cognitive impairment; CADASIL, cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy; CT/MRI, computed tomography/magnetic resonance imaging; PET, positron emission tomography; CSF, cerebrospinal fluid; VaMCI, vascular mild cognitive impairment.
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| ==診断 ==
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| 診断は臨床経過、神経症状、神経画像をに基づき、診断基準を参考にして行う。白質病変、海馬萎縮は血管性認知症、アルツハイマー病のいずれでも認められるが、白質病変は血管性認知症で顕著であり、海馬萎縮はアルツハイマー病で高度となる。血管性認知症は、アルツハイマー病と比較すると、階段状の増悪、発症早期から歩行障害、排尿障害、構音・嚥下障害などの偽性球麻痺を伴いやすい。血管性認知症の記憶障害の程度は、アルツハイマー病に比べ軽度で、記憶の喚起障害が主体である。その他の認知機能障害として、[[前頭葉]]機能低下を反映した精神緩慢、アパシー、抑うつなどがある。意識障害による夜間せん妄が見られることがあるが、人格は比較的保たれる。
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| サブタイプ別にみると、多発梗塞性認知症は階段状の進行、増悪を示すが、皮質下血管性認知症では約半数の患者が緩徐進行性の経過をとる。多発梗塞性認知症は頭部MRIで皮質、皮質下領域の大小の脳梗塞を特徴とし、特に皮質領域に病変が多発する。皮質下血管性認知症はラクナ梗塞、白質病変が主体であり、これらの小血管病変が皮質下に分布する。脳機能画像では脳血管病変の分布に一致して斑状の血流低下域を呈するが、一般的には前頭葉中心に血流低下を示す傾向がある。
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| ==治療 ==
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| 降圧療法には脳梗塞と同様に[[wikipedia:ja:ACE阻害薬|アンギオテンシン変換酵素 (ACE)阻害薬]]・[[wikipedia:ja:アンジオテンシンII受容体拮抗薬|アンジオテンシンII受容体拮抗薬]] (ARB)、[[wikipedia:ja:カルシウム拮抗薬|カルシウム拮抗薬]]、[[wikipedia:ja:利尿薬|利尿薬]]が適用される。カルシウム拮抗薬の[[wikipedia:ja:ニトレンジピン|ニトレンジピン]]を用いたSyst-Eur試験では、高血圧患者の認知症の発症抑制が示されている。80歳以上の高齢者を対象とするHYVET -cog試験では、ACE阻害薬、利尿薬の認知症抑制効果は認めなかったが、HYVET -cog試験を含む過去4試験のメタ解析では認知症が13%減少している<ref name="ref5"><pubmed>18614402</pubmed></ref>。[[アンギオテンシンII]]は[[アセチルコリン]]の遊離抑制に作用するため、[[レニンアンギオテンシン系]](RAS)抑制薬には[[コリン系]]の賦活効果があり、認知症への効果も期待される。血管性認知症では微小出血(Microbleeds)を伴い易く、特にその多発例では出血性リスクが危惧される。大血管の高度狭窄を伴う場合は別にして、抗[[wikipedia:ja:血小板|血小板]]を行う場合は厳格な血圧管理下のもとで[[wikipedia:ja:シロスタゾール|シロスタゾール]]のような出血性合併症の少ない薬剤が望ましい。
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| アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の[[ドネペジル]]、[[ガランタミン]]、[[リバススチグミン]]、[[NMDA型グルタミン酸受容体]]拮抗薬の[[メマンチン]]が有効とする報告があるが、わが国では認められていない。[[wikipedia:ja:釣藤散|釣藤散]]は血管性認知症の認知機能改善効果がある。また、[[wikipedia:ja:八味地黄丸|八味地黄丸]]で血管性認知症や混合型認知症、アルツハイマー病患者に対して認知機能とADLの改善が報告されている。意欲・自発性の低下には[[塩酸アマンタジン]]、[[ニセルゴリン]]が有用である。[[三環系抗うつ薬]]は血圧変動のため白質病変を増悪する可能性や抗コリン作用の問題があり、抑うつには[[選択的セロトニン再取り込み阻害剤]](selective serotonin reuptake inhibitor, SSRI)や[[セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害剤]](serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor, SNRI)を用いる。脳血管障害後遺症によるめまいには[[イブジラスト]]が有効である。血管性認知症の進行期には、嚥下障害が進行して誤嚥性肺炎をきたし易くなる。ACE阻害薬は咳漱反射を亢進させ誤嚥性肺炎の予防に有効である。また、塩酸アマンタジン、シロスタゾールも脳内[[ドーパミン]]、[[サブスタンスP]]を増加させるため、誤嚥性肺炎の予防に用いられる。
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| == 参考文献 ==
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| <references />
| | (執筆者:冨本秀和 担当編集委員:高橋良輔) |
同義語:脳血管性認知症、脳血管性痴呆、多発梗塞性認知症、多発梗塞性痴呆、脳動脈硬化症
血管性認知症(vascular dementia: VaD)はすべての脳血管障害に基因して生じる認知症の総称である。この範疇に属する用語として、古くは「脳動脈硬化症」がある。この用語は認知機能の低下をきたす責任病変が何かが明確でなく、現在学術用語として用いられることはなくなっている。それ以降、1970年にTomlinsonは空洞性の梗塞巣の容積が50 mlを超えると認知機能の低下が生じることを報告し、「多発梗塞性認知症」(旧来は多発梗塞性痴呆)の概念を提唱した[1]。このことは、老人斑や神経原線維変化などのAlzheimer病理以外に、血管病変が認知機能障害の責任病変となることを指摘した点で重要な意義があった。しかし一方では、脳血管障害に起因する認知機能障害=多発梗塞性認知症とする誤解が生じ、大きな空洞性変化をきたさない白質病変やラクナ梗塞などの小血管病変の重要性が看過される契機にもなった。
Binswanger病の位置づけ
白質病変を特徴とする血管性認知症として、Binswanger病(Binswanger型脳梗塞)がある。Binswanger病は1894年に報告され、その最初の記録はドイツの神経科医Otto Binswangerの講演録に見られる。梅毒による進行麻痺が認知症の多くを占めた当時、Binswangerは血管病変に起因する認知症が存在することを初めて指摘している。脳血管の動脈硬化、後頭葉・側頭葉白質の高度萎縮、側脳室後角・下角の開大など皮質下に血管病変が存在し、大脳皮質はほぼ正常であった症例の肉眼所見を提示し、動脈硬化に起因する病態として”encephalitis subcorticalis chronica progressive” の名称を提唱した。1964年、Jellingerらは本疾患を光顕的に検討し、progressive subcortical vascular encephalopathy of Binswanger typeとして概念をまとめている。さらに、1990年、Bennettらは画像所見を取り入れて、Binswanger型脳梗塞の臨床診断基準を提唱している[2]。彼らは本診断基準を用いて後方視的に剖検例を調べ、本診断基準を満たした症例の大部分が病理学的にBinswanger病であり、Alzheimer病で本基準を満たしたものは184名中3名のみに留まったと報告している。
歴史的に記載されてきたBinswanger病であるが、現在では血管性認知症の約半数を占める「認知症を伴う脳小血管病」を、皮質に主病変が存在するアミロイド血管症、皮質下に主病変が存在する皮質下血管性認知症に大別し、後者でのうち白質病変優位型のものをBinswanger病またはBinswanger型脳梗塞とする理解が一般的である。頭部MRIのFLAIR画像, またはT2強調画像では、脳室周囲および深部白質にびまん性の高輝度を呈する.白質病変の程度・広がりはラクナ梗塞を主体とする「多発性ラクナ梗塞」より高度であり,脳梁萎縮,脳室拡大,海馬萎縮なども認められる.Binswanger病患者の半数は明らかな卒中発作を呈さずに緩徐進行性の経過をとり、海馬萎縮をともなう症例もあることから、アルツハイマー病との鑑別が重要である。白質病変を主体とする脳小血管病であり、血管性認知症の中核群として位置づけられる。
血管性認知症の診断基準
米国国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)とAssociation Internationale pour la Recherché et l'Enseignement en Neurosciences(AIREN)による診断基準(NINDS-AIREN)は最も代表的な血管性認知症の診断基準である。この他にも米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(DSM-Ⅳ)、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第10版(ICD-10)、カリフォルニアのAlzheimer病診断・治療センター(ADDTC)による虚血性血管性認知症の診断基準などが知られている。また、Hachinskiの虚血スコアは臨床症候に基づいてAlzheimer病(AD)と鑑別することを目的に作成された簡便な血管性認知症の診断方法である。これらの診断基準を同一症例に適用した場合、診断の相互一致率は不十分であり、複数の診断基準を組み合わせても感度・特異度とも上昇しない。このため、血管性認知症の診断基準は、今後さらに改良が望まれている。
表1は最も汎用されているNINDS-AIREN(National Institute of Neurological Disorders and Stroke and Association Internationale pur la Rechrche et l’Enseignement en Neurosciences)診断基準である。本診断基準は臨床試験に用いることを目的として作成されたものであり、最も厳密な基準である。診断の特異度は高いが、感度が低くなる欠点がある。
表1
本診断基準では血管性認知症を以下の6型に分類している(表2)。多発梗塞性認知症は血管性認知症の亜型であり、わが国では認知症を伴う脳小血管病が最も多く約半数を占め、多発梗塞性認知症は2-3割を占める。NINDS-AIREN診断基準の作成委員会メンバーのひとりであったErkinjunti Tは血管性認知症の比較的多数を占め、均質な徴候を呈する皮質下血管性認知症に焦点をあて、画像所見を含めた詳細な診断基準を提唱している(表3)。
表2
表3
表4
血管性認知症の病態
近年、アルツハイマー病の危険因子として中年期の血管因子が指摘されている。アルツハイマー病と血管性認知症は共通の危険因子を有しており、両者の合併の頻度は偶然の期待値より高い。また、両疾患の病理変化、すなわちアルツハイマー病理と脳血管病変の合併は認知機能を相加的に増悪させる。さらに、アルツハイマー病でほぼ必発のアミロイド血管症はさまざまな脳血管病変の原因となる。以上から推測されるように、混合型認知症、すなわちアルツハイマー病と血管性認知症の合併は稀ならず存在する。
しかし、アルツハイマー病理の存在を抽出することは臨床的には困難なであり、この問題を回避する意味で脳血管障害が関与する認知機能障害として血管性認知障害(Vascular cognitive impairment; VCI)が提唱されている。血管性認知障害は血管性認知症を中核として、混合型認知症、脳卒中後認知症、血管性軽度認知障害までを包含する概念であり、2011年、その診断基準(案)がアメリカ心臓病・脳卒中協会から発表されている(表5)[4]。
表5
VCI, vascular cognitive impairment; VaD, vascular dementia; MCI, mild cognitive impairment; CADASIL, cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy; CT/MRI, computed tomography/magnetic resonance imaging; PET, positron emission tomography; CSF, cerebrospinal fluid; VaMCI, vascular mild cognitive impairment.
血管性認知症の診断
診断は臨床経過、神経症状、神経画像をに基づき、診断基準を参考にして行う。白質病変、海馬萎縮は血管性認知症、アルツハイマー病のいずれでも認められるが、白質病変は血管性認知症で顕著であり、海馬萎縮はアルツハイマー病で高度となる。血管性認知症は、アルツハイマー病と比較すると、階段状の増悪、発症早期から歩行障害、排尿障害、構音・嚥下障害などの偽性球麻痺を伴いやすい。血管性認知症の記憶障害の程度は、アルツハイマー病に比べ軽度で、記憶の喚起障害が主体である。その他の認知機能障害として、前頭葉機能低下を反映した精神緩慢、アパシー、抑うつなどがある。意識障害による夜間せん妄が見られることがあるが、人格は比較的保たれる。
サブタイプ別にみると、多発梗塞性認知症は階段状の進行、増悪を示すが、皮質下血管性認知症では約半数の患者が緩徐進行性の経過をとる。多発梗塞性認知症は頭部MRIで皮質、皮質下領域の大小の脳梗塞を特徴とし、特に皮質領域に病変が多発する。皮質下血管性認知症はラクナ梗塞、白質病変が主体であり、これらの小血管病変が皮質下に分布する。脳機能画像では脳血管病変の分布に一致して斑状の血流低下域を呈するが、一般的には前頭葉中心に血流低下を示す傾向がある。
血管性認知症の治療
降圧療法には脳梗塞と同様にACE阻害薬・ARB、カルシウム拮抗薬、利尿薬が適用される。カルシウム拮抗薬のニトレンジピンを用いたSyst-Eur試験では、高血圧患者の認知症の発症抑制が示されている。80歳以上の高齢者を対象とするHYVET -cog試験では、ACE阻害薬、利尿薬の認知症抑制効果は認めなかったが、HYVET -cog試験を含む過去4試験のメタ解析では認知症が13%減少している [5]。アンギオテンシンIIはアセチルコリンの遊離抑制に作用するため、レニンアンギオテンシン系(RAS)抑制薬にはコリン系の賦活効果があり、認知症への効果も期待される。血管性認知症では微小出血(Microbleeds)を伴い易く、特にその多発例では出血性リスクが危惧される。大血管の高度狭窄を伴う場合は別にして、抗血小板を行う場合は厳格な血圧管理下のもとでシロスタゾールのような出血性合併症の少ない薬剤が望ましい。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬のドネペジル、ガランタミン、リバススチグミン、NMDA受容体拮抗薬のメマンチンが有効とする報告があるが、わが国では認められていない。釣藤散は血管性認知症の認知機能改善効果がある。また、八味地黄丸で血管性認知症や混合型認知症、アルツハイマー病患者に対して認知機能とADLの改善が報告されている。意欲・自発性の低下には塩酸アマンタジン、ニセルゴリンが有用である。三環系抗うつ薬は血圧変動のため白質病変を増悪する可能性や抗コリン作用の問題があり、抑うつにはSSRI(selective serotonin reuptake inhibitor)やSNRI (serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor)を用いる。脳血管障害後遺症によるめまいにはイブジラストが有効である。血管性認知症の進行期には、嚥下障害が進行して誤嚥性肺炎をきたし易くなる。ACE阻害薬は咳漱反射を亢進させ誤嚥性肺炎の予防に有効である。また、塩酸アマンタジン、シロスタゾールも脳内ドーパミン、サブスタンスPを増加させるため、誤嚥性肺炎の予防に用いられる。
参考文献
(執筆者:冨本秀和 担当編集委員:高橋良輔)