「電気魚」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
31行目: 31行目:
====混信回避行動(ウエーブ種)のアルゴリズム====  
====混信回避行動(ウエーブ種)のアルゴリズム====  


下図に混信回避行動が起こる際の電気感覚信号を示す。相手魚の周波数の高低は、次の6つのステップからなるアルゴリズムで決定される。(1) 自己と相手の発電の和信号を体表の各点でサンプルする。自己と相手魚の電場の幾何学的相違により、体表の位置によって相手の電場による攪乱の度合いが異なる(下図のA点とB点)。(2) 和信号の振幅変調の経時的変化を検出(橙色線)。(3) 和信号の位相(マジェンタ線)を検出。(4) 体の各部からの位相''差''(青色線)を検出。(5) 相手魚の周波数の高低によって異なる(2)(4)間の時間パタン(下図のリサージュグラフの回転方向)を読み出す。下図では相手魚の周波数の高低が変調の2周期ごとに切り替わるが、その時リサージュグラフの回転方向が変わることに注意。(6) (5)の計算結果が示す空間的曖昧さを (2) の結果と空間加重することによって解決する<ref name=''neuralnets''>''Neural Nets in Electric Fish''<br>MIT Press:1991</ref><ref><pubmed>8366474</pubmed></ref>。
下図に混信回避行動が起こる際の電気感覚信号を示す。相手魚の周波数の高低は、次の6つのステップからなるアルゴリズムで決定される。(1) 自己と相手の発電の和信号を体表の各点でサンプルする。自己と相手魚の電場の幾何学的相違により、体表の位置によって相手の電場による攪乱の度合いが異なる(下図のA点とB点)。(2) 和信号の振幅変調の経時的変化を検出(橙色線)。(3) 和信号の位相(マジェンタ線)を検出。(4) 体の各部からの位相''差''(青色線)を検出。(5) 相手魚の周波数の高低によって異なる(2)(4)間の時間パタン(下図のリサージュグラフの回転方向)を読み出す。下図では相手魚の周波数の高低が変調の2周期ごとに切り替わるが、その時リサージュグラフの回転方向が変わることに注意。(6) (5)の計算結果が示す空間的曖昧さを (2) の結果と空間加重することによって解決する<ref name=''neuralnets''>''Neural Nets in Electric Fish''<br>MIT Press:1991</ref><ref name=''JCP1993''><pubmed>8366474</pubmed></ref>。


<wikiflv height="350" width="601" position="center" autostart="true"  repeat="always">nokagaku2012d_1.flv‎</wikiflv>
<wikiflv height="350" width="601" position="center" autostart="true"  repeat="always">nokagaku2012d_1.flv‎</wikiflv>
37行目: 37行目:


====混信回避行動(ウエーヴ種)の神経機構====  
====混信回避行動(ウエーヴ種)の神経機構====  
(1)の過程は振幅型と位相型の電気受容器、(2) は発火頻度が振幅によって変わる興奮型と抑制型の中枢ニューロン, (3)は感覚信号1周期でインパルスを一つ発火する中枢のフェーズロックニューロンによってコードされる<ref><pubmed>9030634</pubmed></ref>。(4) の過程は (3) のニューロン間の活動電位の発生時間差(青色線)に感受性のある符合一致検出回路が実行する<ref><pubmed>8613805</pubmed></ref>。(5)の過程は (2) と (4) を実行するニューロンの出力を入力とするニューロンが、上図のリサージュグラフの回転方向を読み出すことにより実行される<ref><pubmed>17005607</pubmed></ref><ref><pubmed>9736677</pubmed></ref><ref><pubmed>15048683</pubmed></ref>。これら神経計算の最終結果はペースメーカー前核のニューロンによりペースメーカーへ伝達され、相手の周波数によって自己の発電周波数を上下させる混信回避行動が起こる。<ref><pubmed>3397919</pubmed></ref>。延髄の電気感覚側線葉と中脳の半円堤に分布するこれらの神経回路は (6)に対応するものを除いて神経生理学的解剖学的によく理解されている<ref>'''Neural Netsと21世紀の章'''</ref>。系統的に遠い電気魚 ''Eigenmannia ''と''Gymnarchus ''は、混信回避行動を独立に進化させたにも関わらず、そのアルゴリズムと神経回路には強い類似性がある<ref>19799509<pubmed></pubmed></ref>。
(1)の過程は振幅型と位相型の電気受容器、(2) は発火頻度が振幅によって変わる興奮型と抑制型の中枢ニューロン, (3)は感覚信号1周期でインパルスを一つ発火する中枢のフェーズロックニューロンによってコードされる<ref><pubmed>9030634</pubmed></ref>。(4) の過程は (3) のニューロン間の活動電位の発生時間差(青色線)に感受性のある符合一致検出回路が実行する<ref><pubmed>8613805</pubmed></ref>。(5)の過程は (2) と (4) を実行するニューロンの出力を入力とするニューロンが、上図のリサージュグラフの回転方向を読み出すことにより実行される<ref><pubmed>17005607</pubmed></ref><ref><pubmed>9736677</pubmed></ref><ref><pubmed>15048683</pubmed></ref>。これら神経計算の最終結果はペースメーカー前核のニューロンによりペースメーカーへ伝達され、相手の周波数によって自己の発電周波数を上下させる混信回避行動が起こる。<ref><pubmed>3397919</pubmed></ref>。延髄の電気感覚側線葉と中脳の半円堤に分布するこれらの神経回路は (6)に対応するものを除いて神経生理学的解剖学的によく理解されている<ref name='neralnets' />。系統的に遠い電気魚 ''Eigenmannia ''と''Gymnarchus ''は、混信回避行動を独立に進化させたにも関わらず、そのアルゴリズムと神経回路には強い類似性がある<ref>19799509<pubmed></pubmed></ref><ref><pubmed>22606250</pubmed></ ref>。


<br>  
<br>  
121

回編集