「小胞アセチルコリントランスポーター」の版間の差分

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中枢・末梢神経系のコリン作動性神経に限局して発現している。細胞内では機能から予測されるようにシナプス小胞に局在する<br><ref><pubmed> 8601799 </pubmed></ref>
<font size="+1">奥田 隆志</font><br>
''慶應義塾大学薬学部''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2014年2月27日 原稿完成日:2014年3月24日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br>
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英語名:[[vesicular acetylcholine transporter]] 英語略名:VAChT
同義語:小胞性アセチルコリントランスポーター、小胞型アセチルコリントランスポーター
{{box|text= 小胞アセチルコリントランスポーターVAChTは12回膜貫通タンパク質で、小胞[[神経伝達物質]][[トランスポーター]]の一つである。[[コリン作動性神経]]末端において[[wj:プロトン|プロトン]][[電気化学的勾配]]を利用して[[シナプス小胞]]内へ[[アセチルコリン]]を輸送する。シナプス小胞内へのアセチルコリン充填は、神経末端からのアセチルコリン放出における重要な制御機構である。VAChTはコリン作動性神経に特異的に発現しており、コリン作動性神経の分子マーカーとして頻用される。
}}
{{PBB|geneid=6572}}
== 構造とサブファミリー ==
 1993年に[[線虫]]''[[Caenorhabditis elegans]]''から運動異常変異体の一つである''[[unc-17]]''の原因遺伝子として最初にクローニングされ<ref><pubmed> 8342028 </pubmed></ref>、その相同分子として他の生物種から同定されることにより一次構造が明らかとなった。VAChTは約530のアミノ酸からなる約70 kDaのタンパク質で、12回膜貫通領域を持つと推定されており、N末端、C末端ともに[[wj:細胞質|細胞質]]側に位置する。VAChTは[[SLC18]]ファミリーに属し、[[SLC18A3]]と呼ばれる。同じファミリーの他のメンバーは[[小胞モノアミントランスポーター]]([[VMAT1]], [[VMAT2|2]])の二つのみで、VAChTと約40%の相同性がある。
== 発現分布 ==
 [[中枢神経系|中枢]]・[[末梢神経系]]のコリン作動性神経に限局して発現しており、[[コリンアセチルトランスフェラーゼ]](ChAT)や[[高親和性コリントランスポーター]]とともにコリン作動性神経の分子マーカーである。細胞内では機能から予測されるように[[シナプス小胞]]に局在する<ref><pubmed> 8601799 </pubmed></ref>。VAChTの細胞質側C末端領域に存在する[[ジロイシンモチーフ]]が細胞内局在に重要である<ref><pubmed> 9651318 </pubmed></ref>。
== 遺伝子発現制御機構 ==
 VAChT遺伝子はChAT遺伝子の第1[[wj:イントロン|イントロン]]内にあり、両者はほぼ共通の[[転写制御]]を受ける。この遺伝子入れ子構造は種間でよく保存されており、コリン作動性遺伝子座と呼ばれる<ref><pubmed> 9603187 </pubmed></ref>。線虫''[[C. elegans]]''においてはVAChTやChATなどのコリン作動性機能分子群の遺伝子発現は、[[COE型転写因子|COE (Collie, Olf, EBF)型転写因子]]である[[UNC-3]]によって共通に制御される<ref><pubmed> 22119902 </pubmed></ref>。COE認識配列は[[wj:脊椎動物|脊椎動物]]のコリン作動性遺伝子座の上流領域にも存在することから、COEによる転写制御はVAChTの遺伝子発現に重要な機構である可能性がある。
== アセチルコリン輸送機構 ==
 [[シナプス]]小胞内は[[液胞型プロトンポンプ]]によってプロトンの電気化学的勾配が形成されている。VAChTはシナプス小胞膜のプロトン電気化学的勾配に依存してアセチルコリン(ACh)を輸送する。正電荷のAChを輸送するため、主にプロトンの濃度勾配(&Delta;pH)に依存することになる。1分子のAChに対して、2分子のプロトンが[[逆輸送]]される<ref><pubmed> 9748347 </pubmed></ref>。他の小胞神経伝達物質トランスポーターと比較して、輸送速度は遅く(〜1 s<sup>-1</sup>)、基質親和性は低い(''K''<sub>m</sub>: 〜1 mM)<ref name=ref1><pubmed> 8910293 </pubmed></ref>。この輸送により、シナプス小胞内のACh濃度は、細胞質側に対して約100倍に濃縮される<ref><pubmed> 11099460 </pubmed></ref>。この輸送は[[ベサミコール]]によって[[非競合的]]に阻害される(''K''<sub>d</sub>: 〜5 nM)<ref name=ref1 />。
== 遺伝子改変マウスと生理的機能 ==
 [[アフリカツメガエル]]の脊髄ニューロンにVAChT を過剰発現させると、[[神経筋接合部]]における[[微小終板電流]]の頻度や振幅が増加する<ref><pubmed> 9182805 </pubmed></ref>。また、VAChT 発現量を増加させた[[トランスジェニックマウス]]ではAChの放出量も増加している<ref><pubmed> 22641085 </pubmed></ref>。一方、VAChTノックアウト[[マウス]]では、脳[[シナプトソーム画分]]における脱分極刺激後のACh放出が消失している<ref name=ref2><pubmed> 19635813 </pubmed></ref>。これらのことから、シナプス小胞膜におけるVAChT発現量は、小胞内のACh濃度を規定する重要な因子であると考えられる。
 VAChTの[[ノックアウトマウス]]は[[wj:チアノーゼ|チアノーゼ]]により生後数分で致死となる。ノックアウトマウスの神経筋接合部においては[[運動ニューロン]]や筋肉の形態異常が観察される<ref name=ref2 />。また、VAChTのタンパク発現量を減弱させた[[ノックダウン]]マウスが作製され、生理的機能が解析されている<ref><pubmed> 16950158 </pubmed></ref>。このマウスのヘテロ型とホモ型ではVAChT発現量がそれぞれ45%、65%減少しており、ホモ型では野生型と比べて筋力や運動能が低下している。また、ヘテロ型では筋力などは野生型と同程度に保たれているものの、物体認識[[記憶]]や[[社会性行動]]の障害などの中枢症状が認められる。中枢と末梢では、機能異常を示すに至るまでのVAChT発現量低下の[[閾値]]が異なると考えられる。
== 関連語 ==
*[[アセチルコリン]]
*[[高親和性コリントランスポーター]]
*[[小胞モノアミントランスポーター]]
*[[小胞GABAトランスポーター]]
*[[小胞グルタミン酸トランスポーター]]
== 参考文献 ==
<references/>
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2012年7月15日 (日) 14:05時点における版

中枢・末梢神経系のコリン作動性神経に限局して発現している。細胞内では機能から予測されるようにシナプス小胞に局在する
[1]

  1. Gilmor, M.L., Nash, N.R., Roghani, A., Edwards, R.H., Yi, H., Hersch, S.M., & Levey, A.I. (1996).
    Expression of the putative vesicular acetylcholine transporter in rat brain and localization in cholinergic synaptic vesicles. The Journal of neuroscience : the official journal of the Society for Neuroscience, 16(7), 2179-90. [PubMed:8601799] [WorldCat]