「低分子量Gタンパク質」の版間の差分

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<div align="right"> 
英:small G protein 独:kleine G-Protein 仏:petites protéines G
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0133550 力武 良行]、[http://researchmap.jp/hirake5ma 高井 義美]</font><br>
''神戸大学 大学院 医学研究科''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年7月23日 原稿完成日:2012年9月18日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br>
</div>


{{Pfam_box
同義語:small GTP-binding protein、低分子量GTPアーゼ、small GTPase
| Symbol = Ras
| Name =
| image = Hras surface colored by conservation.png
| width =
| caption = [[HRAS|H-Ras]] structure [[Protein Data Bank|PDB]] 121p, surface colored by conservation in [[Pfam]] seed alignment: gold, most conserved; dark cyan, least conserved.
| Pfam= PF00071
| InterPro= IPR013753
| SMART=
| PROSITE = PDOC00017
| SCOP = 5p21
| TCDB =
| CDD = cd00882
| OPM family=
| OPM protein= 1uad
| PDB=
{{PDB3|2fol}}A:13-174    {{PDB3|1ukv}}Y:10-171    {{PDB3|1yzn}}A:10-171
{{PDB3|2bcg}}Y:10-171    {{PDB3|1g17}}B:22-182    {{PDB3|1g16}}C:22-182
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{{PDB3|2atv}}A:8-169
}}


英:small G protein 独:kleine G-Protein 仏:petites protéines G
 低分子量Gタンパク質とは、分子量20-30kDaのグアノシン三リン酸(GTP)結合タンパク質である。グアノシン二リン酸(GDP)結合型からGTP結合型への転換により活性型となり、特異的な標的分子に結合して細胞内シグナルを伝達する分子スイッチとして機能する<ref name=ref1><pubmed>22270915</pubmed></ref>。活性調節は時間的、空間的に制御されており、バイオタイマーとしても機能する<ref name=ref2><pubmed>11152757</pubmed></ref>。5つのファミリーに分類され、増殖、分化、遺伝子発現、運動、小胞輸送などの細胞機能を制御する。


同義語:低分子量GTPアーゼ (small GTPase)
== 低分子量Gタンパク質とは ==


{{box|text=
 三量体Gタンパク質に対して、分子量20-30kDaのサブユニット構造を持たないGTP結合タンパク質を低分子量Gタンパク質という。酵母からヒトまでの真核生物に存在する。ヒトやマウスでは150以上の分子からなり<ref name=ref1><pubmed>22270915</pubmed></ref>、5つのファミリーに分類される。不活性型のGDP結合型と活性型のGTP結合型が存在し、両者の転換により細胞内シグナルを伝達する分子スイッチとして機能する。なお、低分子量Gタンパク質は低分子量GTPアーゼ(small GTPase)とも表記されるが、GTPase活性のない分子もあることや、他のGTPaseとは異なり、GTPase活性は標的分子への作用には必要なく、作用の終了後に必要であることから、低分子量GTPアーゼよりも低分子量Gタンパク質と表記する方がより適切である。
[[Image:低分子量Gタンパク質1.png|thumb|240px|<b>図.低分子量Gタンパク質の活性調節と作用機構</b><br>GDIと複合体を形成しているGDP結合型(不活性型)の低分子量Gタンパク質はGDF によりGDI が遊離すると、GFFによりGTP結合型(活性型)となり、標的タンパク質に作用する。一方、GTP結合型の低分子量Gタンパク質はGAPによりGTPが加水分解されてGDP結合型(不活性型)となる。<br>GDI:GDP解離阻害因子<br>GDF:GDI置換因子<br>GEF:GDP/GTP交換因子<br>GAP:GTPase活性化タンパク質 ]]


 低分子量Gタンパク質とは、分子量20-30kDaの[[wj:グアノシン三リン酸|グアノシン三リン酸]](GTP)結合タンパク質である。[[wj:グアノシン二リン酸|グアノシン二リン酸]](GDP)結合型からGTP結合型への転換により活性型となり、特異的な標的分子に結合して[[細胞内シグナル]]を伝達する分子スイッチとして機能する('''図''')<ref name="ref1"><pubmed>22270915</pubmed></ref>。活性調節は時間的、空間的に制御されており、バイオタイマーとしても機能する<ref name="ref2"><pubmed>11152757</pubmed></ref>。5つのファミリーに分類され、[[細胞増殖|増殖]]、[[分化]]、[[遺伝子発現]]、[[運動]]、[[小胞輸送]]などの細胞機能を制御する('''表1''')。神経系においては、低分子量Gタンパク質は、神経細胞の軸索や樹状突起の伸長といった形態形成、神経細胞間の情報伝達など様々な機能を制御する('''表2''')。
== 分類と機能 ==
}}
 低分子量Gタンパク質は、Ras<ref name=ref3><pubmed>18568040</pubmed></ref>、Rho<ref name=ref4><pubmed>16212495</pubmed></ref>、Rab<ref name=ref5><pubmed>21248164</pubmed></ref>、Ran<ref name=ref6><pubmed>16931595</pubmed></ref>、Sar/Arf<ref name=ref7><pubmed>21587297</pubmed></ref>の5つのファミリーに分類される。


== 低分子量Gタンパク質とは  ==
=== Rasファミリー ===
 [[三量体Gタンパク質]]に対して、分子量20-30kDaのサブユニット構造を持たないGTP結合タンパク質を低分子量Gタンパク質という。[[wj:酵母|酵母]]から[[wj:ヒト|ヒト]]までの[[wj:真核生物|真核生物]]に存在する。ヒトや[[マウス]]では150以上の分子からなり<ref name="ref1"><pubmed>22270915</pubmed></ref>、主に5つのファミリーに分類される('''表1、2''')。不活性型のGDP結合型と活性型のGTP結合型が存在し、両者の転換により細胞内シグナルを伝達する分子スイッチとして機能する('''図''')。なお、低分子量Gタンパク質は低分子量GTPアーゼ(small GTPase)とも表記されるが、GTPase活性のない分子もあることや、他のGTPaseとは異なり、GTPase活性は標的分子への作用には必要なく、作用の終了後に必要であることから、低分子量GTPアーゼよりも低分子量Gタンパク質と表記する方がより適切である。
 ラットの肉腫から発見されたRas (Rat sarcoma)やRap (Ras-related protein)、Ral (Ras-like)などのサブファミリーからなる。Rasサブファミリーの分子にはH-Ras、K-Ras、N-Rasなど、RapサブファミリーにはRap1A、Rap1B、Rap2A、Rap2B、Rap2C、RalサブファミリーにはRalAとRalBがある。細胞の増殖や分化、遺伝子発現、細胞間接着などを制御する。ras遺伝子の変異はoncogeneとして機能し、細胞のがん化に関与する。


== 分類と機能  ==
=== Rhoファミリー ===
 Rho (Ras homologous)、Rac (Ras-related C3 botulinum toxin substrate)、Cdc42 (cell division cycle42)のサブファミリーからなる。Rhoサブファミリーの分子にはRhoA、RhoB、RhoCなど、RacサブファミリーにはRac1、Rac2、Rac3、Cdc42サブファミリーにはCdc42、TC10、TCLなどがある。細胞骨格の形成を調節して、細胞の運動を制御する。例えば、線維芽細胞の運動時には、Cdc42はフィロポディアの形成を、Rac はラメリポディアとラッフルの形成を、Rhoはストレスファイバーの形成を制御する。RacはNADPHオキシダーゼの活性化を調節して活性酸素種 (reactive oxygen species: ROS)の産生も制御する。


 低分子量Gタンパク質は、[[Ras]]<ref name="ref3"><pubmed>18568040</pubmed></ref>、[[Rho]]<ref name="ref4"><pubmed>16212495</pubmed></ref>、[[Rab]]<ref name="ref5"><pubmed>21248164</pubmed></ref>、[[Ran]]<ref name="ref6"><pubmed>16931595</pubmed></ref>、[[Sar]]/[[Arf]]<ref name="ref7"><pubmed>21587297</pubmed></ref>の5つのファミリーに分類される('''表1''')。
=== Rabファミリー ===
 Rab (Rat brain)は、Rab4、Rab5、Rab7、Rab11などの多数の分子からなるファミリーを形成する。ヒトでは約70ものRab分子が同定されている。トランスゴルジネットワーク−エンドソーム間、エンドソーム−細胞膜間、細胞膜−エンドソーム間、エンドソーム−リソソーム間など、細胞内の小胞輸送を制御する。


=== Rasファミリー  ===
=== Ranファミリー ===
 Ran (Ras-related nuclear protein)は細胞質−核間の輸送、有糸分裂の紡錘体集合、核膜形成を制御する。最近では、細胞増殖やがん化との関連も報告されている。


 ラットの肉腫から発見されたRas (Rat sarcoma)や[[Rap]] (Ras-related protein)、[[Ral]] (Ras-like)などのサブファミリーからなる。Rasサブファミリーの分子には[[H-Ras]]、[[K-Ras]]、[[N-Ras]]など、Rapサブファミリーには[[Rap1A]]、[[Rap1B]]、[[Rap2A]]、[[Rap2B]]、[[Rap2C]]、Ralサブファミリーには[[RalA]]と[[RalB]]がある。細胞の増殖や分化、遺伝子発現、[[細胞間接着]]などを制御する。ras遺伝子の変異は[[wj:癌遺伝子|癌遺伝子]]として機能し、細胞のがん化に関与する。
=== Sar/Arfファミリー ===
 Sar (Secretion-associated and Ras-related)/Arf (ADP-ribosylation factor: ARF)は細胞内の小胞輸送、アクチン線維のリモデリングの制御のほか、NADPHオキシダーゼ、ホスホリパーゼD、ホスファチジルイノシトールキナーゼなどを活性化する。


=== Rhoファミリー  ===


 Rho (Ras homologous)、[[Rac]] (Ras-related C3 botulinum toxin substrate)、[[Cdc42]] (cell division cycle42)のサブファミリーからなる。Rhoサブファミリーの分子には[[RhoA]]、[[RhoB]]、[[RhoC]]など、Racサブファミリーには[[Rac1]]、[[Rac2]]、[[Rac3]]、Cdc42サブファミリーにはCdc42、[[TC10]]、[[TCL]]などがある。[[細胞骨格]]の形成を調節して、細胞の運動を制御する。例えば、[[wj:ヒト|ヒト]]線維芽細胞の運動時には、Cdc42は[[フィロポディア]]の形成を、Rac は[[ラメリポディア]]と[[ラッフル]]の形成を、Rhoは[[wj:ストレスファイバー|ストレスファイバー]]の形成を制御する。Racは[[wj:NADPHオキシダーゼ|NADPHオキシダーゼ]]の活性化を調節して[[wj:活性酸素種|活性酸素種]] (reactive oxygen species: ROS)の産生も制御する。
== 活性調節機構 ==
=== GFFとGAPによる活性調節 ===
 低分子量Gタンパク質は、GDP/GTP交換因子(GDP/GTP exchange factor: GFF)によってGDPとGTPが交換され、GDP結合型からGTP結合型となる結果、活性化される。一方、GTPase活性化タンパク質(GTPase activating protein: GAP)によって低分子量Gタンパク質自身の有するGTPase活性が亢進して、結合しているGTPが加水分解されてGDPとなる結果、不活性化される。


 ''詳細は[[Rhoファミリー低分子量GTP結合タンパク質]]の項目参照。''
=== GDFとGDIによる活性調節 ===
 Rasを除く低分子量Gタンパク質は、通常、不活性型のGDP結合型の時には、GDP解離阻害因子(GDP dissociation inhibitor: GDI)と複合体を形成して細胞質に存在する。これにより、GDPが解離して活性型に変換されるのが阻害されている。GDI置換因子(GDI displacement factor: GDF)により、GDIが遊離するとGFFによる活性化が可能となる。


=== Rabファミリー  ===
=== プレニル化 ===
 低分子量Gタンパク質が細胞膜で活性化されるためには、細胞質から細胞膜に移行して結合する必要がある。低分子量Gタンパク質はC末端側のCys残基がプレニル化されて細胞膜に結合する。プレニル化には、ファルネシル基が結合するファルネシル化とゲラニルゲラニル基が結合するゲラニルゲラニル化がある。Rasはファルネシル化を受けるのに対し、RhoやRabなど多くの低分子量Gタンパク質はゲラニルゲラニル化を受ける。


 Rab (Rat brain)は、[[Rab4]]、[[Rab5]]、[[Rab7]]、[[Rab11]]などの多数の分子からなるファミリーを形成する。ヒトでは約70ものRab分子が同定されている。[[トランスゴルジネットワーク]]−[[エンドソーム]]間、エンドソーム−[[細胞膜]]間、細胞膜−エンドソーム間、エンドソーム−[[リソソーム]]間など、細胞内の小胞輸送を制御する。
== 参考文献 ==  
 
<references />
 ''詳細は[[Rabファミリー低分子量GTP結合タンパク質]]の項目参照。''
 
=== Ranファミリー  ===
 
 Ran (Ras-related nuclear protein)は細胞質−[[wj:核|核]]間の輸送、[[wj:有糸分裂|有糸分裂]]の[[wj:紡錘体|紡錘体]]集合、微小管構築、[[wj:核膜|核膜]]形成を制御する。最近では、[[細胞増殖]]やがん化との関連も報告されている。
 
=== Sar/Arfファミリー  ===
 
 Sar (Secretion-associated and Ras-related)/Arf (ADP-ribosylation factor: ARF)は細胞内の小胞輸送、[[アクチン]]線維のリモデリングの制御のほか、[[wj:NADPHオキシダーゼ|NADPHオキシダーゼ]]、[[wj:ホスホリパーゼD|ホスホリパーゼD]]、[[ホスファチジルイノシトール#.E3.83.9B.E3.82.B9.E3.83.95.E3.82.A1.E3.83.81.E3.82.B8.E3.83.AB.E3.82.A4.E3.83.8E.E3.82.B7.E3.83.88.E3.83.BC.E3.83.AB.E3.82.AD.E3.83.8A.E3.83.BC.E3.82.BC|ホスファチジルイノシトールキナーゼ]]などを活性化する。
 
{|cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
|+'''表1.低分子量Gタンパク質の分類と主な機能'''
|-
| style="background-color:#b0c4de" | ファミリー
| style="background-color:#b0c4de" | サブファミリー
| style="background-color:#b0c4de" | 主な機能
|-
| Ras
| Ras, Rap, Ral
| 細胞の増殖や分化、遺伝子発現
|-
| Rho
| Rho, Rac, Cdc42
| 細胞の運動、細胞骨格
|-
| Rab
|
| 小胞輸送
|-
| Ran
|
| 細胞質−核間の輸送、有糸分裂の紡錘体集合、微小管構築
|-
| Sar/Arf
|
| 小胞輸送
|}
 
 
{|cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
|+'''表2. 低分子量Gタンパク質ファミリー'''(Wikipediaより一部改変)
|-
! style="background-color:#b0c4de" | サブファミリー
! style="background-color:#b0c4de" | メンバー
|-
| [[Ras Subfamily|Ras]]
| Align="Left" | [[Diras1]]; [[Diras2]]; [[Diras3]]; [[Eras]]; [[Gem]]; [[Hras]]; [[Kras]]; [[Mras]]; [[Nkiras1]]; [[Nkiras2]]; [[Nras]]; [[Rala]]; [[Ralb]]; [[Rap1a]]; [[Rap1b]]; [[Rap2a]]; [[Rap2b]]; [[Rap2c]]; [[Rasd1]]; [[Rasd2]]; [[Rasl10a]]; [[Rasl10b]]; [[Rasl11a]]; [[Rasl11b]]; [[Rasl12]]; [[Rem1]]; [[Rem2]]; [[Rerg]]; [[Rergl]]; [[Rrad]]; [[Rras]]; [[Rras2]]
|-
| [[Rhoファミリー低分子量Gタンパク質|Rho]]
| Align="Left" | [[RhoA]]; [[RhoB]]; [[RhoBTB1]]; [[RhoBTB2]]; [[RhoBTB3]]; [[RhoC]]; [[RhoD]]; [[RhoF]]; [[RhoG]]; [[RhoH]]; [[RhoJ]]; [[RhoQ]]; [[RhoU]]; [[RhoV]]; [[Rnd1]]; [[Rnd2]]; [[Rnd3]]; [[Rac1]]; [[Rac2]]; [[Rac3]]; [[Cdc42]]
|-
| [[Rab]]
| Align="Left" | [[Rab1a]]; [[Rab1b]]; [[Rab2]]; [[Rab3a]]; [[Rab3b]]; [[Rab3c]]; [[Rab3d]]; [[Rab4a]]; [[Rab4b]]; [[Rab5a]]; [[Rab5b]]; [[Rab5c]]; [[Rab6a]]; [[Rab6b]]; [[Rab6c]]; [[Rab7a]]; [[Rab7b]]; [[Rab7l1]]; [[Rab8a]]; [[Rab8b]]; [[Rab9]]; [[Rab9b]]; [[Rabl2a]]; [[Rabl2b]]; [[Rabl4]]; [[Rab10]]; [[Rab11a]]; [[Rab11b]]; [[Rab12]]; [[Rab13]]; [[Rab14]]; [[Rab15]]; [[Rab17]]; [[Rab18]]; [[Rab19]]; [[Rab20]]; [[Rab21]]; [[Rab22a]]; [[Rab23]]; [[Rab24]]; [[Rab25]]; [[Rab26]]; [[Rab27a]]; [[Rab27b]]; [[Rab28]]; [[Rab2b]]; [[Rab30]]; [[Rab31]]; [[Rab32]]; [[Rab33a]]; [[Rab33b]]; [[Rab34]]; [[Rab35]]; [[Rab36]]; [[Rab37]]; [[Rab38]]; [[Rab39]]; [[Rab39b]]; [[Rab40a]]; [[Rab40al]]; [[Rab40b]]; [[Rab40c]]; [[Rab41]]; [[Rab42]]; [[Rab43]]
|-
| [[Rap]]
| Align="Left" | [[Rap1a]]; [[Rap1b]]; [[Rap2a]]; [[Rap2b]]; [[Rap2c]]
|-
| [[Arf]]
| Align="Left" | [[Arf1]]; [[Arf3]]; [[Arf4]]; [[Arf5]]; [[Arf6]]; [[Arl1]]; [[Arl2]]; [[Arl3]]; [[Arl4]]; [[Arl5]]; [[Arl5c]]; [[Arl6]]; [[Arl7]]; [[Arl8]]; [[Arl9]]; [[Arl10a]]; [[Arl10b]]; [[Arl10c]]; [[Arl11]]; [[Arl13a]]; [[Arl13b]]; [[Arl14]]; [[Arl15]]; [[Arl16]]; [[Arl17]]; [[Trim23]], [[Arl4d]]; [[Arfrp1]]; [[Arl13b]]
|-
| [[Ran]]
| Align="Left" | [[Ran]]
|-
| [[Rheb]]
| Align="Left" | [[Rheb]]; [[Rhebl1]]
|-
| [[Rrad|Rgk]]
| Align="Left" | [[Rrad]]; [[Gem]]; [[Rem]]; [[Rem2]]
|-
| ''Rit''
| Align="Left" | [[Rit1]]; [[Rit2]]
|-
| ''Miro''
| Align="Left" | [[Rhot1]]; [[Rhot2]]
 
|}


未分類:


*[[ARHGAP5]]
(執筆者:力武良行、高井義美 担当編集委員:河西春郎)
*[[DNAJC27]]
*[[GRLF1]]
*[[RASEF]]
 
== 活性調節機構  ==
 
=== GDP/GTP交換因子とGTPase活性化タンパク質による活性調節  ===
 
 低分子量Gタンパク質は、[[GDP/GTP交換因子]](GDP/GTP exchange factor: GEF)によってGDPとGTPが交換され、GDP結合型からGTP結合型となる結果、活性化される('''図''')。一方、[[GTPase活性化タンパク質]](GTPase activating protein: GAP)によって低分子量Gタンパク質自身の有するGTPase活性が亢進して、結合しているGTPが加水分解されてGDPとなる結果、不活性化される。
 
=== GDP解離阻害因子とGDI置換因子による活性調節  ===
 
 Rasを除く低分子量Gタンパク質は、通常、不活性型のGDP結合型の時には、[[GDP解離阻害因子]](GDP dissociation inhibitor: GDI)と複合体を形成して細胞質に存在する('''図''')。これにより、GDPが解離して活性型に変換されるのが阻害されている。[[GDI置換因子]](GDI displacement factor: GDF)により、GDIが遊離するとGFFによる活性化が可能となる。
 
=== プレニル化  ===
 
 低分子量Gタンパク質が細胞膜で活性化されるためには、細胞質から細胞膜に移行して結合する必要がある。低分子量Gタンパク質はC末端側の[[wj:システイン|Cys]]残基が[[プレニル化]]されて細胞膜に結合する。プレニル化には、[[ファルネシル基]]が結合する[[ファルネシル化]]と[[ゲラニルゲラニル基]]が結合する[[ゲラニルゲラニル化]]がある。Rasはファルネシル化を受けるのに対し、RhoやRabなど多くの低分子量Gタンパク質はゲラニルゲラニル化を受ける。
 
== 神経系における低分子量Gタンパク質の機能  ==
 
 低分子量Gタンパク質は、神経細胞の形態や神経細胞間のシグナル伝達など様々な機能を制御する('''表3''')。Rasファミリーは、前シナプスからのグルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質の放出や後シナプスでのグルタミン酸受容体のターンオーバーを調節し、シナプスの可塑性を制御する<ref name=ref8 />。RhoファミリーやRanファミリーは、神経細胞の軸索や樹状突起の伸長など、形態形成を制御する<ref name=ref9 /><ref name=ref10 />。Rabファミリーは、神経細胞の軸索突起の伸長、シナプス小胞のエクソサイトーシスとエンドサイトーシス、輸送を制御する<ref name=ref11 />。Sar/Arfファミリーは、形態形成およびシナプス小胞のエクソサイトーシスとエンドサイトーシスを調節し、シナプスの可塑性を制御する<ref name=ref12 />。
 
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
|+'''表3.神経系における低分子量Gタンパク質の主な機能'''
|-
| style="background-color:#b0c4de" | ファミリー
| style="background-color:#b0c4de" | 主な機能
| style="background-color:#b0c4de" | 参考文献
|-
| Ras
| 神経伝達物質の放出<br>シナプスの可塑性
| <ref name=ref8><pubmed>21040840</pubmed></ref>
|-
| Rho
| 神経軸索突起の伸長
| <ref name=ref9><pubmed>20182621</pubmed></ref>
|-
| Rab
| 神経軸索突起の伸長<br>シナプス小胞のエクソサイトーシス、エンドサートーシス、<br>輸送
| <ref name=ref11><pubmed>18485483</pubmed></ref>
|-
| Ran
| 神経軸索突起の伸長
| <ref name=ref10><pubmed>19225125</pubmed></ref>
|-
| Sar/Arf
| 神経突起の伸長<br>シナプスの可塑性
| <ref name=ref12><pubmed>17559968</pubmed></ref>
|}
 
== 参考文献  ==
 
<references />

2012年7月23日 (月) 10:34時点における版

英:small G protein 独:kleine G-Protein 仏:petites protéines G

同義語:small GTP-binding protein、低分子量GTPアーゼ、small GTPase

 低分子量Gタンパク質とは、分子量20-30kDaのグアノシン三リン酸(GTP)結合タンパク質である。グアノシン二リン酸(GDP)結合型からGTP結合型への転換により活性型となり、特異的な標的分子に結合して細胞内シグナルを伝達する分子スイッチとして機能する[1]。活性調節は時間的、空間的に制御されており、バイオタイマーとしても機能する[2]。5つのファミリーに分類され、増殖、分化、遺伝子発現、運動、小胞輸送などの細胞機能を制御する。

低分子量Gタンパク質とは

 三量体Gタンパク質に対して、分子量20-30kDaのサブユニット構造を持たないGTP結合タンパク質を低分子量Gタンパク質という。酵母からヒトまでの真核生物に存在する。ヒトやマウスでは150以上の分子からなり[1]、5つのファミリーに分類される。不活性型のGDP結合型と活性型のGTP結合型が存在し、両者の転換により細胞内シグナルを伝達する分子スイッチとして機能する。なお、低分子量Gタンパク質は低分子量GTPアーゼ(small GTPase)とも表記されるが、GTPase活性のない分子もあることや、他のGTPaseとは異なり、GTPase活性は標的分子への作用には必要なく、作用の終了後に必要であることから、低分子量GTPアーゼよりも低分子量Gタンパク質と表記する方がより適切である。

分類と機能

 低分子量Gタンパク質は、Ras[3]、Rho[4]、Rab[5]、Ran[6]、Sar/Arf[7]の5つのファミリーに分類される。

Rasファミリー

 ラットの肉腫から発見されたRas (Rat sarcoma)やRap (Ras-related protein)、Ral (Ras-like)などのサブファミリーからなる。Rasサブファミリーの分子にはH-Ras、K-Ras、N-Rasなど、RapサブファミリーにはRap1A、Rap1B、Rap2A、Rap2B、Rap2C、RalサブファミリーにはRalAとRalBがある。細胞の増殖や分化、遺伝子発現、細胞間接着などを制御する。ras遺伝子の変異はoncogeneとして機能し、細胞のがん化に関与する。

Rhoファミリー

 Rho (Ras homologous)、Rac (Ras-related C3 botulinum toxin substrate)、Cdc42 (cell division cycle42)のサブファミリーからなる。Rhoサブファミリーの分子にはRhoA、RhoB、RhoCなど、RacサブファミリーにはRac1、Rac2、Rac3、Cdc42サブファミリーにはCdc42、TC10、TCLなどがある。細胞骨格の形成を調節して、細胞の運動を制御する。例えば、線維芽細胞の運動時には、Cdc42はフィロポディアの形成を、Rac はラメリポディアとラッフルの形成を、Rhoはストレスファイバーの形成を制御する。RacはNADPHオキシダーゼの活性化を調節して活性酸素種 (reactive oxygen species: ROS)の産生も制御する。

Rabファミリー

 Rab (Rat brain)は、Rab4、Rab5、Rab7、Rab11などの多数の分子からなるファミリーを形成する。ヒトでは約70ものRab分子が同定されている。トランスゴルジネットワーク−エンドソーム間、エンドソーム−細胞膜間、細胞膜−エンドソーム間、エンドソーム−リソソーム間など、細胞内の小胞輸送を制御する。

Ranファミリー

 Ran (Ras-related nuclear protein)は細胞質−核間の輸送、有糸分裂の紡錘体集合、核膜形成を制御する。最近では、細胞増殖やがん化との関連も報告されている。

Sar/Arfファミリー

 Sar (Secretion-associated and Ras-related)/Arf (ADP-ribosylation factor: ARF)は細胞内の小胞輸送、アクチン線維のリモデリングの制御のほか、NADPHオキシダーゼ、ホスホリパーゼD、ホスファチジルイノシトールキナーゼなどを活性化する。


活性調節機構

GFFとGAPによる活性調節

 低分子量Gタンパク質は、GDP/GTP交換因子(GDP/GTP exchange factor: GFF)によってGDPとGTPが交換され、GDP結合型からGTP結合型となる結果、活性化される。一方、GTPase活性化タンパク質(GTPase activating protein: GAP)によって低分子量Gタンパク質自身の有するGTPase活性が亢進して、結合しているGTPが加水分解されてGDPとなる結果、不活性化される。

GDFとGDIによる活性調節

 Rasを除く低分子量Gタンパク質は、通常、不活性型のGDP結合型の時には、GDP解離阻害因子(GDP dissociation inhibitor: GDI)と複合体を形成して細胞質に存在する。これにより、GDPが解離して活性型に変換されるのが阻害されている。GDI置換因子(GDI displacement factor: GDF)により、GDIが遊離するとGFFによる活性化が可能となる。

プレニル化

 低分子量Gタンパク質が細胞膜で活性化されるためには、細胞質から細胞膜に移行して結合する必要がある。低分子量Gタンパク質はC末端側のCys残基がプレニル化されて細胞膜に結合する。プレニル化には、ファルネシル基が結合するファルネシル化とゲラニルゲラニル基が結合するゲラニルゲラニル化がある。Rasはファルネシル化を受けるのに対し、RhoやRabなど多くの低分子量Gタンパク質はゲラニルゲラニル化を受ける。

参考文献

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(執筆者:力武良行、高井義美 担当編集委員:河西春郎)