「シナプス後肥厚」の版間の差分

14行目: 14行目:


== 生化学的性質  ==
== 生化学的性質  ==
{| style="float:right" width="200" border="1" cellpadding="1" cellspacing="1"
 de RobertisらはPSDが界面活性剤に耐性があることを利用し、PSDを生化学的に単離することに成功した<ref><pubmed>4292059</pubmed></ref>。今日では、Siekevitzらによる界面活性剤に非連続蔗糖密度勾配遠心法を組み合わせた方法がよく用いられている<ref name=Carlin_J_Cell_Biol><pubmed>7410481</pubmed></ref>。単離したPSDの電子顕微鏡像は組織中のPSDと大きさや形状がよく似ており、直径が平均360 nm(面積で0.1 µm<sup>2</sup>)、分子量が1.10±0.36 GDaであった<ref><pubmed>16061821</pubmed></ref>。走査型電子顕微鏡観察では、不定形の網目状の構造が認められおり、その構造がPSDを形作る構成基盤である可能性がある<ref><pubmed>14657186</pubmed></ref>。
 
 これによりPSDを構成する分子を同定することが可能となった。 さらに順により強い界面活性剤処理を行うことにより、PSD I、II、IIIとしてPSDに強固に結合している分子を分別していくことも可能である。 ただし、標品には通常シナプス後部にはあまり存在しない分子(例えば塩基性ミエリン蛋白質)も混入することも知られており、取れてきた標品の中に含まれている分子が本当にPSD由来であるかは、別に免疫染色などで確認する必要が有る。
[[ファイル:PSD_proteins2.png|thumb|right|'''PSD蛋白質'''<ref name=sheng_ann_rev_biochem><pubmed> 17243894 </pubmed></ref><ref name=peng_mol_cell_proteomics><pubmed>15020595</pubmed></ref>]]
 
 Pengらは、質量分析計を用い、数百種に及ぶ分子を同定している<ref name=peng_mol_cell_proteomics><pubmed>15020595</pubmed></ref>。その構成要素はシナプス伝達に関与する分子(受容体など)のほか、細胞内情報伝達分子(蛋白質リン酸化酵素、小分子GTP結合蛋白質など)、細胞骨格系分子(アクチン、スペクトリンなど)、足場蛋白質(PSD-95、Shank、Homerなど)、細胞接着分子(カドヘリン、ニューロリギンなど)が見いだされている。
 
{| style="float:left" width="200" border="1" cellpadding="1" cellspacing="1"
|+ align=bottom |'''1個のPSDあたりに存在する蛋白質分子数'''<br>*PSD-95、SAP97、SAP102、PSD-93を含めたMAGUKs全体  
|+ align=bottom |'''1個のPSDあたりに存在する蛋白質分子数'''<br>*PSD-95、SAP97、SAP102、PSD-93を含めたMAGUKs全体  
|-
|-
65行目: 72行目:
| 310
| 310
|}[[ファイル:PSD_proteins.png|thumb|right|'''PSD画分のSDS-PAGE像'''<br>Major 51000はCaMKIIである事が後に判明する。Siekevitzらによる<ref name=Carlin_J_Cell_Biol><pubmed>7410481</pubmed></ref>。]]
|}[[ファイル:PSD_proteins.png|thumb|right|'''PSD画分のSDS-PAGE像'''<br>Major 51000はCaMKIIである事が後に判明する。Siekevitzらによる<ref name=Carlin_J_Cell_Biol><pubmed>7410481</pubmed></ref>。]]
 de RobertisらはPSDが界面活性剤に耐性があることを利用し、PSDを生化学的に単離することに成功した<ref><pubmed>4292059</pubmed></ref>。今日では、Siekevitzらによる界面活性剤に非連続蔗糖密度勾配遠心法を組み合わせた方法がよく用いられている<ref name=Carlin_J_Cell_Biol><pubmed>7410481</pubmed></ref>。単離したPSDの電子顕微鏡像は組織中のPSDと大きさや形状がよく似ており、直径が平均360 nm(面積で0.1 µm<sup>2</sup>)、分子量が1.10±0.36 GDaであった<ref><pubmed>16061821</pubmed></ref>。走査型電子顕微鏡観察では、不定形の網目状の構造が認められおり、その構造がPSDを形作る構成基盤である可能性がある<ref><pubmed>14657186</pubmed></ref>。
 これによりPSDを構成する分子を同定することが可能となった。 さらに順により強い界面活性剤処理を行うことにより、PSD I、II、IIIとしてPSDに強固に結合している分子を分別していくことも可能である。 ただし、標品には通常シナプス後部にはあまり存在しない分子(例えば塩基性ミエリン蛋白質)も混入することも知られており、取れてきた標品の中に含まれている分子が本当にPSD由来であるかは、別に免疫染色などで確認する必要が有る。
[[ファイル:PSD_proteins2.png|thumb|right|'''PSD蛋白質'''<ref name=sheng_ann_rev_biochem><pubmed> 17243894 </pubmed></ref><ref name=peng_mol_cell_proteomics><pubmed>15020595</pubmed></ref>]]
 Pengらは、質量分析計を用い、数百種に及ぶ分子を同定している<ref name=peng_mol_cell_proteomics><pubmed>15020595</pubmed></ref>。その構成要素はシナプス伝達に関与する分子(受容体など)のほか、細胞内情報伝達分子(蛋白質リン酸化酵素、小分子GTP結合蛋白質など)、細胞骨格系分子(アクチン、スペクトリンなど)、足場蛋白質(PSD-95、Shank、Homerなど)、細胞接着分子(カドヘリン、ニューロリギンなど)が見いだされている。


 Shengらは一個のPSDの分子量が判るとその要素の構成比から、一個のPSDの中にある分子の数を推定した<ref name=sheng_ann_rev_biochem><pubmed> 17243894 </pubmed></ref><ref><pubmed>16507876</pubmed></ref>。それによると多い蛋白質で数百個の単位で存在することが判った。 この数値は、杉山らが独立にGFP融合蛋白質、免疫染色と蛍光標準ビーズを組み合わせた実験から得られた数字と驚くほど一致している<ref name=sugiyama_nature_method><pubmed> 16118638 </pubmed></ref>。また、電気生理学的な雑音解析によっても一つのシナプスに存在する受容体数は数十から数百個であり、妥当な数字である。  
 Shengらは一個のPSDの分子量が判るとその要素の構成比から、一個のPSDの中にある分子の数を推定した<ref name=sheng_ann_rev_biochem><pubmed> 17243894 </pubmed></ref><ref><pubmed>16507876</pubmed></ref>。それによると多い蛋白質で数百個の単位で存在することが判った。 この数値は、杉山らが独立にGFP融合蛋白質、免疫染色と蛍光標準ビーズを組み合わせた実験から得られた数字と驚くほど一致している<ref name=sugiyama_nature_method><pubmed> 16118638 </pubmed></ref>。また、電気生理学的な雑音解析によっても一つのシナプスに存在する受容体数は数十から数百個であり、妥当な数字である。