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線条体は細胞化学的にパッチ・マトリックスコンパートメントに分けられ、マトリックスは運動感覚系、連合野系のループ連絡に、パッチは辺縁系のループ連絡に関与しているようである。 | |||
== 定義 == | == 定義 == | ||
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パッチ・マトリックス構造の概念図<br /> | |||
文献3より改変して転載]] | |||
線条体は大脳基底核の入力部位であり、小脳とともに錐体路の運動系を修飾し運動をスムーズに遂行するための大脳核である。この線条体のニューロンは大脳皮質や小脳と違って、層構造をなしているわけではない。一見ランダムに存在しているのであるが、実は発生学的に異なるパッチ(齧歯類ではストリオソームと呼ばれることが多い)とマトリックスという名の二つのコンパートメントの中に散在している。パッチは発生学的に古くドーパミン入力を受けながら出現してくるのでドーパミンアイランドとも呼ばれるが、マトリックスはその後に発生し結果的に線条体全体の85%程度を占めるようになる。 | |||
== | == パッチ・マトリックス構造と分子マーカー == | ||
線条体にはパッチとマトリックスという発現する分子を異にするコンパートメント構造が存在する。 | |||
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マトリックス領域はアセチルコリンエステラーゼにより濃染され、カルビンディンやソマトスタチンの発現が相対的に高い。パッチ領域には μ-オピオイド受容体が濃密に存在する。 | |||
また著者らは間接路に多く発現しているエンケファリンの前駆体である preproenkephalin (PPE) の発現量がパッチ領域に少ないことも報告しており | |||
<ref name="ref3">'''藤山文乃'''<br>基底核ニューロンの分子マーカー.<br>''Clinical Neuroscience'': 2010,vol28.No12, '' | <ref name="ref3">'''藤山文乃'''<br>基底核ニューロンの分子マーカー.<br> | ||
''Clinical Neuroscience'': 2010,vol28.No12, ''医学書院''</ref> | |||
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、同じ線条体の構造でありながら別個に論じられてきた直接路・間接路とパッチ・マトリックスというコンセプトが分子マーカーを媒体として統一されたスキームで語られる日も近いのではないかと考えている。 | |||
== 入力パターン == | == 入力パターン == | ||
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線条体パッチ・マトリックス領域と興奮性入力<br /> | |||
文献7より改変して転載]] | |||
入力に関しては大脳皮質からパッチへの入力は主として眼窩前頭皮質や島などの辺縁系大脳皮質に由来するのに対し、マトリックスへの入力は運動系皮質・体性感覚野・頭頂葉など広範囲な大脳新皮質に由来すると言われている。もっと明確な違いは大脳皮質の層構造であり、ラットでは大脳皮質のⅢ層とⅤa層はマトリックスに、Ⅴb層とⅥ層はパッチに投射していることが報告されている | |||
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。視床からの入力に関しては束傍核からの入力は主にマトリックスに終止するという報告がサルやラットでなされている。一方、パッチに特異的に投射する視床核はネコでは中心線核が報告されているものの | |||
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他の動物種では明らかにされていない。筆者らは視床から線条体への興奮性入力はマトリックスに比べるとパッチへの入力は3分の1程度であること(図2)やシナプス構造が違うことなどから | |||
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中枢神経ネットワークにおけるシナプス小胞性グルタミン酸トランスポーター.<br> | |||
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<ref>'''藤山文乃、金子武嗣'''<br> | |||
大脳基底核の解剖.<br> | |||
''Clinical Neuroscience'': 2007, 25(1); 22〜24, ''中外医学社''</ref> | |||
、大脳皮質のみならず視床線条体入力においてもパッチとマトリックス各々に特徴的なネットワークがあると考え単一ニューロントレースで解析中である。一方、ドーパミンニューロンはシングルニューロンレベルでもパッチおよびマトリックス領域の両方に投射していることを証明した | |||
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== 出力パターン == | == 出力パターン == | ||
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線条体パッチ・マトリックス領域からの出力<br /> | |||
文献13より改変して転載]] | |||
従来線条体の出力パターンはこのコンパートメント構造により違いがあると言われて来た。直接路の投射ニューロンはパッチのものはドーパミンニューロンに直接投射していると言われているが、マトリックスの直接路の投射ニューロンは淡蒼球内節と黒質網様部のGABAニューロンに投射していると言われていた | |||
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''Brain and Nerve'': 2009, 61(4); 341-349, ''医学書院''</ref> | |||
。著者らはシングルニューロントレースを用いてマトリックスの直接路の投射ニューロンはGABAニューロンが存在する淡蒼球内節と黒質網様部に投射しており、パッチの直接路の投射ニューロンはこれに加えて黒質ドーパミンニューロンが存在する黒質緻密部に直接投射していることを明らかにした | |||
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== 機能 == | == 機能 == | ||
強化学習アルゴリズムの中でパッチのニューロンがstate valueを、マトリックスのニューロンがaction valueを担っていると考えられている | |||
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行動の動機づけの側面に深く関係するドーパミンニューロンが、辺縁系大脳皮質と強い神経連絡を持つパッチのニューロンの神経支配を受けているというのは極めて興味深く、学習と運動の両面において、今後さらなる機能的な解析が期待される。 | 行動の動機づけの側面に深く関係するドーパミンニューロンが、辺縁系大脳皮質と強い神経連絡を持つパッチのニューロンの神経支配を受けているというのは極めて興味深く、学習と運動の両面において、今後さらなる機能的な解析が期待される。 | ||
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(執筆者:藤山文乃 執筆協力:赤沢年一 担当編集委員:渡辺 大) |
2012年8月7日 (火) 19:07時点における版
英:Patch and Matrix Compartments
同義語:ストリオソーム・マトリックス構造
線条体は細胞化学的にパッチ・マトリックスコンパートメントに分けられ、マトリックスは運動感覚系、連合野系のループ連絡に、パッチは辺縁系のループ連絡に関与しているようである。
定義
線条体は大脳基底核の入力部位であり、小脳とともに錐体路の運動系を修飾し運動をスムーズに遂行するための大脳核である。この線条体のニューロンは大脳皮質や小脳と違って、層構造をなしているわけではない。一見ランダムに存在しているのであるが、実は発生学的に異なるパッチ(齧歯類ではストリオソームと呼ばれることが多い)とマトリックスという名の二つのコンパートメントの中に散在している。パッチは発生学的に古くドーパミン入力を受けながら出現してくるのでドーパミンアイランドとも呼ばれるが、マトリックスはその後に発生し結果的に線条体全体の85%程度を占めるようになる。
パッチ・マトリックス構造と分子マーカー
線条体にはパッチとマトリックスという発現する分子を異にするコンパートメント構造が存在する。 [1] [2](図1)。 マトリックス領域はアセチルコリンエステラーゼにより濃染され、カルビンディンやソマトスタチンの発現が相対的に高い。パッチ領域には μ-オピオイド受容体が濃密に存在する。
また著者らは間接路に多く発現しているエンケファリンの前駆体である preproenkephalin (PPE) の発現量がパッチ領域に少ないことも報告しており [3] [4] 、同じ線条体の構造でありながら別個に論じられてきた直接路・間接路とパッチ・マトリックスというコンセプトが分子マーカーを媒体として統一されたスキームで語られる日も近いのではないかと考えている。
入力パターン
入力に関しては大脳皮質からパッチへの入力は主として眼窩前頭皮質や島などの辺縁系大脳皮質に由来するのに対し、マトリックスへの入力は運動系皮質・体性感覚野・頭頂葉など広範囲な大脳新皮質に由来すると言われている。もっと明確な違いは大脳皮質の層構造であり、ラットでは大脳皮質のⅢ層とⅤa層はマトリックスに、Ⅴb層とⅥ層はパッチに投射していることが報告されている [5] 。視床からの入力に関しては束傍核からの入力は主にマトリックスに終止するという報告がサルやラットでなされている。一方、パッチに特異的に投射する視床核はネコでは中心線核が報告されているものの [6] 他の動物種では明らかにされていない。筆者らは視床から線条体への興奮性入力はマトリックスに比べるとパッチへの入力は3分の1程度であること(図2)やシナプス構造が違うことなどから [7] [8] [9] 、大脳皮質のみならず視床線条体入力においてもパッチとマトリックス各々に特徴的なネットワークがあると考え単一ニューロントレースで解析中である。一方、ドーパミンニューロンはシングルニューロンレベルでもパッチおよびマトリックス領域の両方に投射していることを証明した [10]。
出力パターン
従来線条体の出力パターンはこのコンパートメント構造により違いがあると言われて来た。直接路の投射ニューロンはパッチのものはドーパミンニューロンに直接投射していると言われているが、マトリックスの直接路の投射ニューロンは淡蒼球内節と黒質網様部のGABAニューロンに投射していると言われていた [11] [12] 。著者らはシングルニューロントレースを用いてマトリックスの直接路の投射ニューロンはGABAニューロンが存在する淡蒼球内節と黒質網様部に投射しており、パッチの直接路の投射ニューロンはこれに加えて黒質ドーパミンニューロンが存在する黒質緻密部に直接投射していることを明らかにした [13](図3)。
機能
強化学習アルゴリズムの中でパッチのニューロンがstate valueを、マトリックスのニューロンがaction valueを担っていると考えられている [14]。 行動の動機づけの側面に深く関係するドーパミンニューロンが、辺縁系大脳皮質と強い神経連絡を持つパッチのニューロンの神経支配を受けているというのは極めて興味深く、学習と運動の両面において、今後さらなる機能的な解析が期待される。
関連項目
参考文献
- ↑
Johnston, J.G., Gerfen, C.R., Haber, S.N., & van der Kooy, D. (1990).
Mechanisms of striatal pattern formation: conservation of mammalian compartmentalization. Brain research. Developmental brain research, 57(1), 93-102. [PubMed:1965303] [WorldCat] [DOI] - ↑
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Fujiyama, F., Unzai, T., Nakamura, K., Nomura, S., & Kaneko, T. (2006).
Difference in organization of corticostriatal and thalamostriatal synapses between patch and matrix compartments of rat neostriatum. The European journal of neuroscience, 24(10), 2813-24. [PubMed:17156206] [WorldCat] [DOI] - ↑ 藤山文乃、日置寛之、金子武嗣
中枢神経ネットワークにおけるシナプス小胞性グルタミン酸トランスポーター.
脳21: 2005, 8(4); 37-42, 金芳堂 - ↑ 藤山文乃、金子武嗣
大脳基底核の解剖.
Clinical Neuroscience: 2007, 25(1); 22〜24, 中外医学社 - ↑
Matsuda, W., Furuta, T., Nakamura, K.C., Hioki, H., Fujiyama, F., Arai, R., & Kaneko, T. (2009).
Single nigrostriatal dopaminergic neurons form widely spread and highly dense axonal arborizations in the neostriatum. The Journal of neuroscience : the official journal of the Society for Neuroscience, 29(2), 444-53. [PubMed:19144844] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑
Graybiel, A.M. (1990).
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大脳基底核の構造(細胞構築と神経回路)
Brain and Nerve: 2009, 61(4); 341-349, 医学書院 - ↑
Fujiyama, F., Sohn, J., Nakano, T., Furuta, T., Nakamura, K.C., Matsuda, W., & Kaneko, T. (2011).
Exclusive and common targets of neostriatofugal projections of rat striosome neurons: a single neuron-tracing study using a viral vector. The European journal of neuroscience, 33(4), 668-77. [PubMed:21314848] [WorldCat] [DOI] - ↑
Doya, K. (2002).
Metalearning and neuromodulation. Neural networks : the official journal of the International Neural Network Society, 15(4-6), 495-506. [PubMed:12371507] [WorldCat]
(執筆者:藤山文乃 執筆協力:赤沢年一 担当編集委員:渡辺 大)