「動眼神経副交感核」の版間の差分

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同義語:Edinger-Westphal核、EW核
同義語:Edinger-Westphal核、EW核


 動眼神経副交感核は眼の[[wikipedia:ja|焦点]]調節(ピント調節)、[[wikipedia:ja|瞳孔]]縮小([[wikipedia:ja|縮瞳]])に関わる副交感動眼ニューロン(副交感節前ニューロン)の座である。副交感動眼ニューロンは[[毛様神経節]]([[副交感神経節]])を介し[[毛様筋]]/[[瞳孔括約筋]]([[内眼筋]])を支配する。
 動眼神経副交感核は眼の[[wikipedia:ja:焦点|焦点]]調節(ピント調節)、[[wikipedia:ja瞳孔|瞳孔]]縮小([[wikipedia:ja:縮瞳|縮瞳]])に関わる副交感動眼ニューロン(副交感節前ニューロン)の座である。副交感動眼ニューロンは[[毛様神経節]]([[副交感神経節]])を介し[[毛様筋]]/[[瞳孔括約筋]]([[内眼筋]])を支配する。


 毛様筋(特に[[輪状筋]])収縮により、[[水晶体]](レンズ)にかかる張力(結合線維による)が緩み、扁平だった水晶体が膨らみ、表面の曲率が増加、近くにピントが合う(焦点調節)。一方、瞳孔括約筋の収縮により縮瞳する。[[縮瞳反射]]には光の強さに対する[[対光反射]]と、焦点調節と協働して起こる[[近見反射]]がある。
 毛様筋(特に[[輪状筋]])収縮により、[[水晶体]](レンズ)にかかる張力(結合線維による)が緩み、扁平だった水晶体が膨らみ、表面の曲率が増加、近くにピントが合う(焦点調節)。一方、瞳孔括約筋の収縮により縮瞳する。[[縮瞳反射]]には光の強さに対する[[対光反射]]と、焦点調節と協働して起こる[[近見反射]]がある。


 近年、HRP法を用いた解剖学的研究を発端として、EW核=動眼神経副交感核という従来の考え方が再検討された。[[wikipedia:ja|霊長類]]では副交感動眼ニューロンは、ほぼEW核に存在することが確かめられ、従来の理解に修正は必要でない。ただし、機能は不明であるが、EW核に一部、副交感動眼ニューロンと異なるニューロンが共存、脊髄や脳幹・小脳に投射する。[[wikipedia:ja|ネコ]]では副交感動眼ニューロンはEW核に一部存在するが、むしろ、その外側で背腹側に延びている。一方、EW核の主なニューロンは[[脊髄]]/[[脳幹]]/[[小脳]]に投射する細胞である。すなわち、比較解剖学的には、単純にはEW核=動眼神経副交感核の図式は成り立たない。[[wikipedia:ja|サル]]・ネコ・[[wikipedia:ja|げっ歯類]]を通して、脊髄・脳幹に投射する細胞は[[wikipedia:ja|ウロコルチン]]陽性であるが、その機能は不明である。
 近年、HRP法を用いた解剖学的研究を発端として、EW核=動眼神経副交感核という従来の考え方が再検討された。[[wikipedia:ja:霊長類|霊長類]]では副交感動眼ニューロンは、ほぼEW核に存在することが確かめられ、従来の理解に修正は必要でない。ただし、機能は不明であるが、EW核に一部、副交感動眼ニューロンと異なるニューロンが共存、脊髄や脳幹・小脳に投射する。[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]]では副交感動眼ニューロンはEW核に一部存在するが、むしろ、その外側で背腹側に延びている。一方、EW核の主なニューロンは[[脊髄]]/[[脳幹]]/[[小脳]]に投射する細胞である。すなわち、比較解剖学的には、単純にはEW核=動眼神経副交感核の図式は成り立たない。[[wikipedia:ja:サル|サル]]・ネコ・[[wikipedia:ja:げっ歯類|げっ歯類]]を通して、脊髄・脳幹に投射する細胞は[[wikipedia:ja:ウロコルチン|ウロコルチン]]陽性であるが、その機能は不明である。


== 研究の歴史 ==
== 研究の歴史 ==
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 瞳孔の対光反射は光が当たった時に縮瞳する反射である。網膜からの入力は両側性であるが、動眼神経副交感核の出力は同側性であるので、対光反射路の障害部位が推定できる。なお、[[瞳孔散大筋]]は[[交感神経]]支配で、瞳孔括約筋と拮抗関係にある。例えば、散瞳は交感神経緊張の増加によっても、副交感神経緊張の減少によっても起こり、逆に縮瞳は交感神経緊張減少によっても、副交感神経緊張増加によっても起こる。
 瞳孔の対光反射は光が当たった時に縮瞳する反射である。網膜からの入力は両側性であるが、動眼神経副交感核の出力は同側性であるので、対光反射路の障害部位が推定できる。なお、[[瞳孔散大筋]]は[[交感神経]]支配で、瞳孔括約筋と拮抗関係にある。例えば、散瞳は交感神経緊張の増加によっても、副交感神経緊張の減少によっても起こり、逆に縮瞳は交感神経緊張減少によっても、副交感神経緊張増加によっても起こる。


 一方、眼の焦点調節は網膜像の「ぼけ」によって引き起こされるが、誤差信号が偶誤差(近すぎるか、遠すぎるか「ぼけ」だけでは分からない)であるため、初期には[[大脳]]を介した予測制御が必要である。ちなみに、これらの予想制御は、像の「ぼけ」以外に明るさや大きさの変化、[[wikipedia:ja|パースペクティブ]](見え方)、[[wikipedia:ja|色収差]]など複数の視覚的な手がかりに基づく。
 一方、眼の焦点調節は網膜像の「ぼけ」によって引き起こされるが、誤差信号が偶誤差(近すぎるか、遠すぎるか「ぼけ」だけでは分からない)であるため、初期には[[大脳]]を介した予測制御が必要である。ちなみに、これらの予想制御は、像の「ぼけ」以外に明るさや大きさの変化、[[wikipedia:ja:パースペクティブ|パースペクティブ]](見え方)、[[wikipedia:ja:色収差|色収差]]など複数の視覚的な手がかりに基づく。


=== 近見反応 ===
=== 近見反応 ===
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=== 脊髄・小脳への投射 ===
=== 脊髄・小脳への投射 ===


 副交感動眼ニューロンの側枝が脊髄を支配するのか、あるいは別のニューロン群が脊髄へ投射するのかが検討された。Burdeらはサルとネコで、2種類の[[蛍光色素]](nuclear yellow、fast blue)を各々、毛様神経節と脊髄に注入し、2重染色されないことから、副交感動眼ニューロンと脊髄へ投射するニューロンは別の細胞であることを確かめた<ref name=ref13 /> <ref name=ref16><pubmed>2451977</pubmed></ref>。サルでは脊髄へ投射するニューロン群は副交感動眼ニューロンより外側/腹側に分布した。さらに、脊髄・脳幹・小脳へ線維を送るEW核ニューロンは、免疫染色的にウロコルチン(urocortin)というペプチド陽性であった<ref name=ref17><pubmed>18186029</pubmed></ref>。一方、副交感動眼細胞はコリン作動性で、コリントランスフェラーゼ(choline transferase)陽性(ChAT+)である<ref name=ref18><pubmed>2445447</pubmed></ref>。これらの染色を同時に行っても2重染色されるニューロンが見られなかった。
 副交感動眼ニューロンの側枝が脊髄を支配するのか、あるいは別のニューロン群が脊髄へ投射するのかが検討された。Burdeらはサルとネコで、2種類の[[wikipedia:ja:蛍光色素|蛍光色素]](nuclear yellow、fast blue)を各々、毛様神経節と脊髄に注入し、2重染色されないことから、副交感動眼ニューロンと脊髄へ投射するニューロンは別の細胞であることを確かめた<ref name=ref13 /> <ref name=ref16><pubmed>2451977</pubmed></ref>。サルでは脊髄へ投射するニューロン群は副交感動眼ニューロンより外側/腹側に分布した。さらに、脊髄・脳幹・小脳へ線維を送るEW核ニューロンは、[[免疫染色]]的にウロコルチン(urocortin)ペプチド陽性であった<ref name=ref17><pubmed>18186029</pubmed></ref>。一方、副交感動眼細胞は[[コリン作動性]]で、[[コリンアセチルトランスフェラーゼ]](choline transferase)陽性(ChAT+)である<ref name=ref18><pubmed>2445447</pubmed></ref>。これらの染色を同時に行っても2重染色されるニューロンが見られなかった。


=== 提案された命名法 ===
=== 提案された命名法 ===


 EW核には機能の異なる細胞群が含まれ、EW核=動眼神経副交感核として扱うと、誤解を招く可能性がある。副交感動眼ニューロンをEWPG(PGはpreganglionic)あるいはpIIIPG(pIIIはperi-oculomotor)、脊髄等に線維を送るニューロンをEWU(Uはウロコルチン)あるいはpIIIUと呼ぶという提案もされた<ref name=ref17 />。また、種によってはウロコルチン以外のペプチド、例えばP物質、CCKなども含むので、pIIIP(Pはペプチド)という命名法も提案された。しかし、今のところ、特定のグループが提案した段階で、一般的とはいえない。特に霊長類では、EW核の主たるニューロンは副交感動眼ニューロンであり、機能的な意味で用いるには細分されすぎており、ペプチド含有ニューロンの機能も不明である。今後の検討が必要であろう。
 EW核には機能の異なる細胞群が含まれ、EW核=動眼神経副交感核として扱うと、誤解を招く可能性がある。副交感動眼ニューロンをEWPG(PGはpreganglionic)あるいはpIIIPG(pIIIはperi-oculomotor)、脊髄等に線維を送るニューロンをEWU(Uはウロコルチン)あるいはpIIIUと呼ぶという提案もされた<ref name=ref17 />。また、種によってはウロコルチン以外のペプチド、例えば[[P物質]]、コレシストキニンなども含むので、pIIIP(Pはペプチド)という命名法も提案された。しかし、今のところ、特定のグループが提案した段階で、一般的とはいえない。特に霊長類では、EW核の主たるニューロンは副交感動眼ニューロンであり、機能的な意味で用いるには細分されすぎており、ペプチド含有ニューロンの機能も不明である。今後の検討が必要であろう。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==