「視覚系の発生」の版間の差分

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[[Image:8 視覚系の発生.png|thumb|280px|<b>図8.眼形成領域は発生初期には前方神経板の正中部にあり(A)、脊索前板からのShhの作用により左右2つに分かれる (B)</b><br />ヒト胎生3週の頭部神経板を上から見たところ。文献<ref name=ref6 />の図を改変。<br> EFTFs: Eye Field Transcription Factors ]]
[[Image:8 視覚系の発生.png|thumb|280px|<b>図8.眼形成領域は発生初期には前方神経板の正中部にあり(A)、脊索前板からのShhの作用により左右2つに分かれる (B)</b><br />ヒト胎生3週の頭部神経板を上から見たところ。文献<ref name=ref6 />の図を改変。<br> Shh: Sonic hedgehog<br> PAX6: Paired homebox-6<br> EFTFs: Eye Field Transcription Factors<br> PAX2: Paired homebox-2]]


 これまでに眼形成領域に遺伝子発現する[[転写因子]]がPax6を含めていくつか同定されている(表2)<ref name="ref7">Retinal Development. <br>Edited by Sernagor E, Eglen S, Harris B, Wong R.<br>Cambridge University Press, Cambridge UK, 2006</ref>。発生初期において、これらの[[眼形成転写因子]]([[Eye Field Transcription Factors]], [[EFTFs]])は、神経管形成が始まる前の前方神経板に正中部から左右に帯状に遺伝子発現する(図8)。このように眼形成領域は、発生初期には中央部に一つで、発生が進むに従い左右2つの眼原基に分かれる。眼原基を2つに分けるためのシグナル分子は、[[脊索前板]]から分泌される[[ソニックヘッジホッグ]] ([[Sonic hedgehog]], [[Shh]])である。Shhは、眼形成領域の中央部でPax2の発現を増加させ、Pax6の発現を低下させる。[[Pax2]]発現領域は後に眼茎となり、Pax6などEFTFs発現領域は眼杯となる。Pax6は表皮外胚葉の予定水晶体・角膜領域にも発現するが[[Rax]]は眼胞とその系譜にのみに発現するなど、EFTFsの発現領域は互いに必ずしも全て一致するわけではない。Shh遺伝子変異やShhシグナル伝達阻害により[[wikipedia:ja:単眼症|単眼症]]がおこることからも、正中部からのShhシグナルが単一の眼形成領域を左右2つに分けることがわかる。  
 これまでに眼形成領域に遺伝子発現する[[転写因子]]がPax6を含めていくつか同定されている(表2)<ref name="ref7">Retinal Development. <br>Edited by Sernagor E, Eglen S, Harris B, Wong R.<br>Cambridge University Press, Cambridge UK, 2006</ref>。発生初期において、これらの[[眼形成転写因子]]([[Eye Field Transcription Factors]], [[EFTFs]])は、神経管形成が始まる前の前方神経板に正中部から左右に帯状に遺伝子発現する(図8)。このように眼形成領域は、発生初期には中央部に一つで、発生が進むに従い左右2つの眼原基に分かれる。眼原基を2つに分けるためのシグナル分子は、[[脊索前板]]から分泌される[[ソニックヘッジホッグ]] ([[Sonic hedgehog]], [[Shh]])である。Shhは、眼形成領域の中央部でPax2の発現を増加させ、Pax6の発現を低下させる。[[Pax2]]発現領域は後に眼茎となり、Pax6などEFTFs発現領域は眼杯となる。Pax6は表皮外胚葉の予定水晶体・角膜領域にも発現するが[[Rax]]は眼胞とその系譜にのみに発現するなど、EFTFsの発現領域は互いに必ずしも全て一致するわけではない。Shh遺伝子変異やShhシグナル伝達阻害により[[wikipedia:ja:単眼症|単眼症]]がおこることからも、正中部からのShhシグナルが単一の眼形成領域を左右2つに分けることがわかる。  
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[[Image:9 視覚系の発生.png|thumb|280px|<b>図9.眼杯のパターン形成と水晶体胞に分化に関わる分子の存在部位</b><br />A, 初期眼胞期; B, 後期眼胞期;C, 眼杯期。文献<ref name=ref6 />の図を改変。]]
[[Image:9 視覚系の発生.png|thumb|280px|<b>図9.眼杯のパターン形成と水晶体胞に分化に関わる分子の存在部位</b><br />A, 初期眼胞期; B, 後期眼胞期;C, 眼杯期。文献<ref name=ref6 />の図を改変。<br> CHX10(VSX2): Visual system homeobox 2 <br> MITF: Microphthalmia-associated transcription factor<br> PAX6: Paired homebox-6 <br>SOX2: SRY (sex determining region Y)-box 2 <br>LMAF:  ]]


 眼胞から眼杯が形成されるときに、将来、光を受容して情報処理を行う神経網膜領域と網膜色素上皮(Retinal Pigment Epithelium: RPE)の領域が決まってくる。これには、細胞非自律的な組織間相互作用によるしくみと細胞自律的なしくみの2つが関わっている。眼胞に隣接した表皮外胚葉からの[[線維芽細胞増殖因子]]([[Fibroblast Growth Factor]]: [[FGF]])が、神経網膜の分化を促し、眼周囲間葉から分泌される[[形質転換増殖因子β]]([[Transforming Growth Factor β]]:[[TGFβ]])ファミリー分子がRPEの分化を促す(図9)。これら分泌因子の作用を受けて、予定神経網膜領域にはChx10 ([[Vsx2]]と同じ)などの転写因子が遺伝子発現するようになり、一方、予定RPE領域には[[Mitf]]などが発現するようになり、それぞれの分化が細胞自律的なしくみで進行する。[[Chx10]]はocular retardation (or) 変異マウスの原因遺伝子であり、Mitfはmicrophthalmia (mi) 変異マウスの原因遺伝子である。最近、マウスの[[胚性幹細胞]]([[ES細胞]])由来の上皮シートから三次元培養により眼杯が形成された<ref name="ref8"><pubmed>21475194</pubmed></ref>。培養皿で形成された眼杯において、神経網膜とRPEとが分化することが示された。このことは、眼杯のパターン形成と網膜細胞の分化が周囲の組織の介在なしに自律的に進行することを示している。  
 眼胞から眼杯が形成されるときに、将来、光を受容して情報処理を行う神経網膜領域と網膜色素上皮(Retinal Pigment Epithelium: RPE)の領域が決まってくる。これには、細胞非自律的な組織間相互作用によるしくみと細胞自律的なしくみの2つが関わっている。眼胞に隣接した表皮外胚葉からの[[線維芽細胞増殖因子]]([[Fibroblast Growth Factor]]: [[FGF]])が、神経網膜の分化を促し、眼周囲間葉から分泌される[[形質転換増殖因子β]]([[Transforming Growth Factor β]]:[[TGFβ]])ファミリー分子がRPEの分化を促す(図9)。これら分泌因子の作用を受けて、予定神経網膜領域にはChx10 ([[Vsx2]]と同じ)などの転写因子が遺伝子発現するようになり、一方、予定RPE領域には[[Mitf]]などが発現するようになり、それぞれの分化が細胞自律的なしくみで進行する。[[Chx10]]はocular retardation (or) 変異マウスの原因遺伝子であり、Mitfはmicrophthalmia (mi) 変異マウスの原因遺伝子である。最近、マウスの[[胚性幹細胞]]([[ES細胞]])由来の上皮シートから三次元培養により眼杯が形成された<ref name="ref8"><pubmed>21475194</pubmed></ref>。培養皿で形成された眼杯において、神経網膜とRPEとが分化することが示された。このことは、眼杯のパターン形成と網膜細胞の分化が周囲の組織の介在なしに自律的に進行することを示している。