「大脳皮質」の版間の差分

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 霊長類を含む哺乳動物の大脳皮質は大別して前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉に分けられる。ヒトを含む高等な霊長類の脳では、前頭葉と頭頂葉を隔てる中心溝直前の中心前回(Brodmannの4野)には一次運動野が、中心溝直後の中心後回(Brodmannの3a, 3b, 1, 2野)には一次体性感覚野が存在しており、ヒト脳のこれら領域の中には大脳半球に対して反体側の体を支配するホムンクルスと呼ばれる体部位局在がそれぞれ存在している。後頭葉のBrodmannの17野には一次視覚野が存在しており、大脳半球に対して反体側の視野情報が空間的に配列されており、網膜地図(retinotopy)が形成されている。また、側頭葉のBrodmannの41野には一次聴覚野があり、音の周波数に対応するマップ(tonotopy)が存在している。これらの一次領域と呼ばれる脳領域はげっ歯類に至る哺乳類に存在しているが、より高等な動物には一次領域以外の連合野と呼ばれる領域が多くを占めるようになり、ヒトの前頭葉でその傾向が著しい。このような一次野以外の大脳皮質領域を一般に連合野という。連合野には運動機能と同時に感覚機能もあるなど、多彩な機能連合を有していることが多く、これが連合野と呼ばれる理由である。連合野にもまたブロードマン分類にそって機能局在があることが知られてきた。
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0168034 蔵田 潔]</font><br>
''弘前大学 大学院医学研究科 統合機能生理学講座''<br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/masahikowatanabe 渡辺 雅彦]</font><br>
''北海道大学大学院医学研究科解剖学講座''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年12月6日 改訂版原稿受付日:2021年7月26日 原稿完成日:2021年8月2日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/keijitanaka 田中 啓治](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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英:cerebral cortex 独:Großhirnrinde 仏:cortex cérébral
 連合野の機能局在は大別して感覚・運動・記憶・意思決定などさまざまな機能があり、個別にはそれぞれの項を参照されたい。ここでは、大脳皮質の機能局在とそれにもとづく脳の動作原理について概説する。大脳皮質では基本的に同じ構造有しながら、部分ごとに独自の機能があること、すなわち機能局在があることである。しかし、ひとつの脳の中に多数の機能局在があっても、それらがばらばらに働くのではなく、一個体の脳として統率がとれるよう、脳の機能が連関しているものと考えられる。脳が全体として機能するため、ふたつの基本原理があると考えられる。ひとつは、機能局在を有し機能的関連性を有する領域間に階層構造(ヒエラルヒー)があること、もうひとつは並列分散処理である。
{{box|text= ヒトの大脳半球の表面を覆う大脳皮質には、脳回とよばれる脳のシワと脳溝が観察される。外側溝、中心溝、頭頂後頭溝の3つの脳溝を基準に、大脳半球は脳葉に分けられる。大脳皮質の特徴は、6層からなる垂直方向の細胞構築と水平方向の機能局在である。さらに、機能局在が明瞭な皮質領域の間には連合野が広がり、情報の高度な統合による認知、随意運動、情動行動、言語機能、精神機能、作業記憶などの高次な脳機能を具現している。}}


== 旧皮質/古皮質/中間皮質/新皮質 ==
 例えば「赤いりんごが落ちる」という情景を目にした時、脳はその機能局在により「赤い」という色認識、「りんご」という物体認知、そして「落ちる」という視覚運動情報処理を、それぞれ脳の異なる機能局在を有するさまざまな領域でほぼ同時に行なっている。大脳皮質一次感覚野では感覚入力の特徴抽出などすでに相当の情報処理が行われているが、それらの情報は一般には隣接する大脳皮質領域に投射され、その領域ではより広範な入力を統合するなどしてさらなる特徴抽出が行われている。このように、それぞれの感覚には一次感覚野と、そこから順に投射を受け、より高度な情報処理が行われる二次、三次、さらにそれ以降の多数の感覚野が大脳皮質に存在しており、それぞれが機能特異性を有している。またより高次の感覚野では複数の感覚が統合され「連合野」と呼ばれるゆえんである。下位から上位への階層構造は脳内に複数存在しており、それらが同時並列的に機能することにより、複雑な情報を短時間で処理することが可能になっている。このことは、例えば宇宙飛行士が月面で興味深い月の石をサンプルとして拾い上げるといった行動に有効に機能していると考えられる。同じ機能を再現しようとすると巨大なスーパーコンピューターが必要かもしれない。
 [[発生学]]的な観点から、大脳皮質を[[等皮質]][[isocortex]]と[[不等皮質]][[allocortex]]に分類する。等皮質は発生過程において一度は6層形成を行う大脳皮質を指し、6層構造を一度もとらないものを不等皮質という。等皮質は発生学的に新しく、新皮質neocortexともよばれる。不等皮質は、[[古皮質]][[paleocortex]]([[嗅球]]、[[梨状葉前皮質]]など)と[[原皮質]][[archicortex]]([[アンモン角]]、[[歯状回]]、[[海馬台]]、[[脳梁灰白層]]、[[中隔]]など)に分類される。等皮質と不等皮質の中間的性質をもつ皮質を[[中間皮質]][[mesocortex]]([[帯状回]]、[[帯状回峡]]、[[海馬傍回]]など)といい、両者の移行部に存在する。


[[ファイル:Watanabe Cortex Fig1.png|サムネイル|'''図1. 新皮質の6層構造と線維連絡''']]
[[ファイル:Watanabe Cortex Fig2.png|サムネイル|150px|'''図2. マウス新皮質のニッスル染色像'''<br>I~VIは各層、WMは白質を示す。]]


== 層構造 ==
(執筆者:蔵田潔 担当編集委員:伊佐正)
 新皮質の6層構造は以下の層からなり、それぞれ特徴的な細胞構築と線維連絡を有している('''図1、2''')。
* 第1層([[分子層]])は、主に[[神経線維]]と[[樹状突起]]からなる層で、第2、3、5層の[[錐体細胞]]の[[頂上樹状突起]]の末端分枝がここで広がり、[[視床非特殊核]]([[髄板内核]])からくる[[汎性視床皮質投射線維]]や、皮質間を連絡する[[連合線維|連合]]・[[交連線維]]との間に多数の[[シナプス]]を形成する。
* 第2層([[外顆粒層]])は[[顆粒細胞]]と小型[[錐体細胞]]の[[細胞体]]からなる。
* 第3層([[外錐体層]])は中型錐体細胞の細胞体からなる。
 第2層と第3層のニューロンは大脳新皮質の中で最も遅く発達する層で、これらの層のニューロンは同側や対側の大脳皮質へ出力し、皮質間の連絡に関わる。同側皮質に向かう軸索を[[連合線維]][[association fiber]]、対側皮質に投射するものを[[交連線維]][[commissural fiber]]といい、それぞれの起始ニューロンを[[連合ニューロン]]、[[交連ニューロン]]という。
* 第4層([[内顆粒層]]):小型の[[星状細胞]]からなり、[[視床]]からの入力層である。[[視覚野]]、[[聴覚野]]、[[体性感覚野]]、[[運動野]]などの[[一次中枢]]では、[[視床特殊核]]([[中継核]])からの入力線維がこの層に終わる。
* 第5層([[内錐体層]]):大型錐体細胞からなる層で、[[線条体]]、[[赤核]]、[[橋核]]、[[オリーブ核]]、[[脊髄]]など皮質下核へ出力する。運動野の第5層から、[[脳幹]]の[[運動性脳神経核]]([[皮質核路]][[corticobulbar tract]])や[[脊髄]][[前角]]([[皮質脊髄路]][[corticospinal tract]])に投射する。視覚野の第5層からは[[上丘]]([[皮質視蓋路]])へ、聴覚野の第5層からは[[下丘]]([[皮質下丘路]])へ投射する。
* 第6層([[多形細胞層]]):さまざまな形と大きさの[[紡錘形細胞]]からなる。この層のニューロンは軸索を視床へ投射する視床への出力層である。
[[ファイル:Watanabe Cortex Fig3.png|サムネイル|'''図3. ヒトの脳回と脳溝'''<br>脳の外側面(上)と内側面(下)を示す。]]
 
== 脳葉と機能局在 ==
 [[ヒト]]では大脳皮質の表面にある明瞭な3つの[[脳溝]]である[[外側溝]][[lateral sulcus]]、[[中心溝]][[central sulcus]]、[[頭頂後頭溝]] [[parieto-occipital sulcus]]を基準に、[[大脳半球]]を[[前頭葉]]、[[頭頂葉]]、[[後頭葉]]、[[側頭葉]]の4葉と、これらの奥に隠れている[[島]]が区分される。さらに大脳半球の内側面には[[脳梁]][[corpus callosum]]があり、これを取り囲むように[[帯状溝]][[cingulate sulcus]]や[[側副溝]][[collateral sulcus]]などの脳溝が走行している。これらの溝と脳梁の間の大脳皮質を[[辺縁葉]]と呼ぶ。それぞれの脳葉の脳回には名称が与えられ、機能局在との関連でしばしば用いられる('''図3''')。
* [[前頭葉]][[frontal lobe]]は中心溝の前部で、その先端部を[[前頭極]]という。他の動物種に比べてヒトで著しく発達している脳葉である。中心前回に[[一次運動野]]があり、下前頭回の[[弁蓋部]]に発話を司る[[言語中枢#ブローカ野|ブローカの運動性言語中枢]]がある。一次運動野の前方には[[運動前野]]、[[補足運動野]]、[[帯状皮質運動野]]からなる[[高次運動野]]があり、一次運動野に投射して運動の開始、企画、作業手順を制御する。
* [[頭頂葉]][[parietal lobe]]は中心溝と頭頂後頭溝の間の領域で、その前縁にあたる[[中心後回]]に[[一次体性感覚野]]がある。頭頂間溝を境に[[上頭頂小葉]]と[[下頭頂小葉]]が分けられる。下頭頂小葉の前方は[[縁上回]]、後方は[[角回]]で、これらの領域は[[語彙]]や[[意味処理]]などの[[言語処理]]に関わり、その障害により[[失読]]・[[失書]]が起こる。[[上頭頂小葉]]は、自己周囲の[[空間定位|空間の定位]]に関わる。
* [[後頭葉]][[occipital lobe]]は頭頂後頭溝の後部で、その先端部を[[後頭極]]という。[[鳥距溝]]を挟む上下の脳回は[[有線領]]ともよばれ、ここに一次視覚野が存在する。
* [[側頭葉]][[temporal lobe]]は外側溝より下部で、先端部を[[側頭極]]という。外側溝に面する側頭葉の上面に[[横側頭回]]があり、ここに[[一次聴覚野]]が存在する。上側頭回の後部には言語理解を司る[[感覚性言語中枢]]([[ウェルニッケ野]])がある。側頭葉の内側面には[[海馬傍回]]とその先端の膨らんだ[[鈎]][[uncus]]を観察できる。[[海馬傍回]]の奥に[[海馬]]([[海馬体]])があり、海馬ではアンモン角と歯状回が海馬台に乗っている。鈎の内部には[[扁桃体]]が存在する。
* 島[[insula]]は外側溝の深部に隠れた皮質で、外側溝を広げて奥を観察すると縦に走る[[島皮質]][[insular cortex]]が見える。
* [[辺縁葉]][[limbic lobe]]は脳梁と帯状溝や側副溝の間に位置する古い皮質で、帯状回や海馬傍回を含む。
 
== 末梢対応局在性 ==
 一次運動野と体性感覚野には、身体の部位との対応関係がマップとして描くことができる[[体部位局在性]][[somatotopy]]があり、手の指や発声器官のように精緻さが要求される運動には対応する運動野の領域も広く、手の指や口唇など感覚に敏感な体部に対応する[[体性感覚野]]の領域も広くなっている。視覚野には網膜の部位との間に[[網膜部位局在性]][[retinotopy]]、聴覚野には[[コルチ器]][[基底板]]に対応する[[周波数局在性]][[tonotopy]]が形成されている。ここでも、解像度の高い映像を取得する網膜の中心視野は、伝達する視覚情報量も多く、それを受ける一次視覚野に占める領域も広くなっている。これらの末梢部位表現における異なる皮質領域の配分は、神経活動に応じて拡大と縮小が起こる大脳皮質の可塑的な性質を反映し、その動物種や個体にとって重要となる感覚運動能力の向上に寄与している。
 
== 顆粒皮質/無顆粒皮質 ==
 [[感覚性皮質]]では、視床からの入力層である[[内顆粒層]]が発達し[[顆粒皮質]][[granular cortex]]と呼ばれる。一方、[[一次運動野]]や[[運動前野]]などの[[運動性皮質]]ではこの層の発達が悪く、[[無顆粒皮質]][[agranular cortex]]と呼ばれる。
 
== 連合野 ==
 上記の機能局在な明瞭な皮質領域を除くと、ヒトでは大脳皮質の約2/3にも相当する広い領域が残され、これらの領域を[[連合野]][[association area]]という。連合野は、感覚情報の高度な統合による認知、複数の感覚の総合、感覚と運動の統合、過去の経験([[記憶]])と関連、[[随意運動]]、[[情動行動]]、[[言語機能]]、[[精神機能]]、[[作業記憶]]([[ワーキングメモリー]])などより高次な脳機能を具現化している皮質領域である。連合野の特徴は、[[髄鞘]]化が最も遅く始まり、進化するにつれて大脳皮質全体に占める比率が大きくなり、ヒトでその比率は最大となっている。
 
 ヒトでは[[前頭連合野]]が発達し、その中心となる[[前頭前野]]([[前頭前皮質]])は一次運動野と一次感覚性皮質以外の全ての新皮質と相互に連絡し、[[側頭連合野]]や[[頭頂連合野]]からの情報を統合して、前頭前野は行動の企画や順序立て、結果の予測と行動抑制、状況に応じた行動の切り替えなどの遂行機能から、観念的思考、推論、判断、評価などの高次な認知機能に関わる。前頭前野の背外側部はワーキングメモリーに関わる。腹側部の[[前頭眼窩皮質]]は、[[視床背内側核]]を介して扁桃体・中隔・側頭葉極などの大脳辺縁系と連絡し、[[情動]]・[[動機づけ]]機能とそれに基づく意思決定過程に関わる。前頭前野は理性が[[本能]](大脳辺縁系)を制御して逸脱した行動を抑制している。
 
== 大脳辺縁系 ==
 側脳室を取りまく古い辺縁葉([[帯状回]]、[[海馬傍回]]、[[内嗅領皮質]]、前頭眼窩野、側頭極など)と、これと線維結合を持つ皮質下核(海馬体、扁桃体、側坐核、中隔、[[視床前核]]、[[乳頭体]]などの[[視床下部]]、[[中心灰白質]]、[[網様体]])を合わせて[[大脳辺縁系]][[limbic system]]という。大脳辺縁系は、本能に結びついた行動([[飲食行動]]、[[性行動]]、[[群居本能]])や、[[恐怖]]、[[快・不快]]、[[攻撃]]、[[闘争]]、[[逃避]]などの情動(身体的・感情的な反応)に深く関与し、動物の生存維持に重要である。大脳辺縁系は、視床下部の[[自律神経機能]]や[[内分泌]]機能を介して[[情動反応]]を表出する。
 
==関連項目==
* [[大脳皮質の局所神経回路]]
* [[大脳皮質の発生]]
* [[言語中枢]]
* [[優位半球・劣位半球]]
 
== 参考文献 ==
* '''渡辺雅彦 (2017).'''<br>脳神経ペディア:「解剖」と「機能」が見える・つながる事典、''羊土社''
* '''小林靖 (2003).'''<br>ヒトに至る脳の進化 伊藤正男監修 脳神経科学 42-52ページ、''三輪書店''

2012年12月6日 (木) 09:41時点における版

 霊長類を含む哺乳動物の大脳皮質は大別して前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉に分けられる。ヒトを含む高等な霊長類の脳では、前頭葉と頭頂葉を隔てる中心溝直前の中心前回(Brodmannの4野)には一次運動野が、中心溝直後の中心後回(Brodmannの3a, 3b, 1, 2野)には一次体性感覚野が存在しており、ヒト脳のこれら領域の中には大脳半球に対して反体側の体を支配するホムンクルスと呼ばれる体部位局在がそれぞれ存在している。後頭葉のBrodmannの17野には一次視覚野が存在しており、大脳半球に対して反体側の視野情報が空間的に配列されており、網膜地図(retinotopy)が形成されている。また、側頭葉のBrodmannの41野には一次聴覚野があり、音の周波数に対応するマップ(tonotopy)が存在している。これらの一次領域と呼ばれる脳領域はげっ歯類に至る哺乳類に存在しているが、より高等な動物には一次領域以外の連合野と呼ばれる領域が多くを占めるようになり、ヒトの前頭葉でその傾向が著しい。このような一次野以外の大脳皮質領域を一般に連合野という。連合野には運動機能と同時に感覚機能もあるなど、多彩な機能連合を有していることが多く、これが連合野と呼ばれる理由である。連合野にもまたブロードマン分類にそって機能局在があることが知られてきた。

 連合野の機能局在は大別して感覚・運動・記憶・意思決定などさまざまな機能があり、個別にはそれぞれの項を参照されたい。ここでは、大脳皮質の機能局在とそれにもとづく脳の動作原理について概説する。大脳皮質では基本的に同じ構造有しながら、部分ごとに独自の機能があること、すなわち機能局在があることである。しかし、ひとつの脳の中に多数の機能局在があっても、それらがばらばらに働くのではなく、一個体の脳として統率がとれるよう、脳の機能が連関しているものと考えられる。脳が全体として機能するため、ふたつの基本原理があると考えられる。ひとつは、機能局在を有し機能的関連性を有する領域間に階層構造(ヒエラルヒー)があること、もうひとつは並列分散処理である。

 例えば「赤いりんごが落ちる」という情景を目にした時、脳はその機能局在により「赤い」という色認識、「りんご」という物体認知、そして「落ちる」という視覚運動情報処理を、それぞれ脳の異なる機能局在を有するさまざまな領域でほぼ同時に行なっている。大脳皮質一次感覚野では感覚入力の特徴抽出などすでに相当の情報処理が行われているが、それらの情報は一般には隣接する大脳皮質領域に投射され、その領域ではより広範な入力を統合するなどしてさらなる特徴抽出が行われている。このように、それぞれの感覚には一次感覚野と、そこから順に投射を受け、より高度な情報処理が行われる二次、三次、さらにそれ以降の多数の感覚野が大脳皮質に存在しており、それぞれが機能特異性を有している。またより高次の感覚野では複数の感覚が統合され「連合野」と呼ばれるゆえんである。下位から上位への階層構造は脳内に複数存在しており、それらが同時並列的に機能することにより、複雑な情報を短時間で処理することが可能になっている。このことは、例えば宇宙飛行士が月面で興味深い月の石をサンプルとして拾い上げるといった行動に有効に機能していると考えられる。同じ機能を再現しようとすると巨大なスーパーコンピューターが必要かもしれない。


(執筆者:蔵田潔 担当編集委員:伊佐正)