「情動系神経回路」の版間の差分

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[[Image:情動系神経回路1.png|thumb|300px|'''図1.Papezの情動回路 ''']]
[[Image:情動系神経回路1.png|thumb|300px|'''図1.Papezの情動回路 ''']]


 [[wikipedia:Bard|Bard]]が唱えた情動体験における視床下部の重要性とともに、[[新皮質]]から視床下部に加えられていた抑制が解放されることによって情動が生じるとする[[wikipedia:Cannon|Cannon]]の視床説は、Cannon- Bardの中枢(視床)説と呼ばれている。
 [[wikipedia:Philip Bard|Bard]]が唱えた情動体験における視床下部の重要性とともに、[[新皮質]]から視床下部に加えられていた抑制が解放されることによって情動が生じるとする[[wikipedia:Walter Bradford Cannon|Cannon]]の視床説は、Cannon- Bardの中枢(視床)説と呼ばれている。


 そして、Papez は視床下部を含む情動回路(Papezの情動回路)を提唱した(図1)。Papezの情動回路では、情動表出の中枢は視床下部[[乳頭体]]が担い、情動表出は乳頭体から[[中脳]]への出力によりなされると考えられている。感覚刺激の情報は[[腹側視床]]を介して視床下部に入力され、その情報は[[視床前核]]を経て[[帯状回]]に伝達される。そして、Papezは視床前核から入力を受ける帯状回が大脳皮質における情動の受容野であり、主観的な情動体験の座であると考えた。また、海馬体はこの帯状回や他の領域からの入力を組織化し、中枢性の情動過程を形成して、[[脳弓]]を介して視床下部乳頭体に出力する。すなわち、帯状回-海馬体-視床下部の経路により、皮質レベルにおける情動体験が視床下部から出力される情動表出に統合される。
 そして、Papez は視床下部を含む情動回路(Papezの情動回路)を提唱した(図1)。Papezの情動回路では、情動表出の中枢は視床下部[[乳頭体]]が担い、情動表出は乳頭体から[[中脳]]への出力によりなされると考えられている。感覚刺激の情報は[[腹側視床]]を介して視床下部に入力され、その情報は[[視床前核]]を経て[[帯状回]]に伝達される。そして、Papezは視床前核から入力を受ける帯状回が大脳皮質における情動の受容野であり、主観的な情動体験の座であると考えた。また、海馬体はこの帯状回や他の領域からの入力を組織化し、中枢性の情動過程を形成して、[[脳弓]]を介して視床下部乳頭体に出力する。すなわち、帯状回-海馬体-視床下部の経路により、皮質レベルにおける情動体験が視床下部から出力される情動表出に統合される。


 その後、[[wikipedia:MacLean|MacLean]]はPapezの情動回路を“[[大脳辺縁系]](辺縁系:limbic system)”と名づけ、さらにこの辺縁系に視床下部の一部、扁桃体、[[前頭葉眼窩皮質]]、および、[[側坐核]]を付け加えている。
 その後、[[wikipedia:Paul D. MacLean|MacLean]]はPapezの情動回路を“[[大脳辺縁系]](辺縁系:limbic system)”と名づけ、さらにこの辺縁系に視床下部の一部、扁桃体、[[前頭葉眼窩皮質]]、および、[[側坐核]]を付け加えている。


 上記の提唱された情動系神経回路は、中枢神経である脳が、入力された感覚刺激を処理することによって情動が生じるという立場であり、情動の中枢起源説と呼ばれている。一方、刺激によって引き起こされた身体的反応の状態が脳に入力されることによって情動体験が生じるという立場もある(情動の末梢起源説)。この末梢起源説で有名な仮説としてはJames-Lange説があり、この流れをくむ最近注目されている仮説としては、Damasioのグループらが提唱しているsomatic marker仮説がある。彼らはリスクを引き起こす刺激や状況が自動的に身体の変化を生じさせるとともに、実際に身体の変化を引き起こす末梢からの中枢への回路とは別に、この身体ループをシュミレートした回路が[[前頭前野]]を中心とした中枢に存在していると仮定している。
 上記の提唱された情動系神経回路は、中枢神経である脳が、入力された感覚刺激を処理することによって情動が生じるという立場であり、情動の中枢起源説と呼ばれている。一方、刺激によって引き起こされた身体的反応の状態が脳に入力されることによって情動体験が生じるという立場もある(情動の末梢起源説)。この末梢起源説で有名な仮説としてはJames-Lange説があり、この流れをくむ最近注目されている仮説としては、Damasioのグループらが提唱しているsomatic marker仮説がある。彼らはリスクを引き起こす刺激や状況が自動的に身体の変化を生じさせるとともに、実際に身体の変化を引き起こす末梢からの中枢への回路とは別に、この身体ループをシュミレートした回路が[[前頭前野]]を中心とした中枢に存在していると仮定している。