「神経筋接合部」の版間の差分

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== 無脊椎動物の神経筋接合部  ==
== 無脊椎動物の神経筋接合部  ==


&nbsp;&nbsp;神経筋接合部を用いた研究において、無脊椎動物の神経筋接合部は優れた研究対象となっている。特に、遺伝学的手法・分子生物学的手法が容易に用いることができ、機能分子の同定が容易に行えるキイロショウジョウバエ幼虫の神経筋接合部を用いての研究が盛んになった。 室温(25度)の下、卵内において産卵後約13時間までに、筋肉細胞の融合が完成し、運動神経の成長円錐が、筋組織の表面に到達し、接触を開始する。産卵後約14-15時間には、機能的なシナプスが、筋肉細胞上に形成され初め、産卵後約21時間で孵化し、1齢幼虫となる。その後、2齢幼虫、3齢幼虫期を経て、蛹化する。幼虫期は、全体で、約6日間である。 どの神経細胞がどの筋肉細胞に接合部を形成するかが同定されており、シナプス形成機構研究の良いモデル系となっている. 半体節に30本の筋肉細胞が規則正しく配列しており、各体節ごとに、この構造が繰り返されている。 約35個の運動神経細胞がこの30本の筋肉細胞を支配している<ref><pubmed>8833454</pubmed></ref>。  
&nbsp;神経筋接合部を用いた研究において、無脊椎動物の神経筋接合部は優れた研究対象となっている。特に、遺伝学的手法・分子生物学的手法が容易に用いることができ、機能分子の同定が容易に行えるキイロショウジョウバエ幼虫の神経筋接合部を用いての研究が盛んになった。 室温(25度)の下、卵内において産卵後約13時間までに、筋肉細胞の融合が完成し、運動神経の成長円錐が、筋組織の表面に到達し、接触を開始する。産卵後約14-15時間には、機能的なシナプスが、筋肉細胞上に形成され初め、産卵後約21時間で孵化し、1齢幼虫となる。その後、2齢幼虫、3齢幼虫期を経て、蛹化する。幼虫期は、全体で、約6日間である。 半体節に30本の筋肉細胞が規則正しく配列しており、各体節ごとに、この構造が繰り返されている。 約35個の運動神経細胞がこの30本の筋肉細胞を支配している<ref><pubmed>8833454</pubmed></ref>。 どの神経細胞がどの筋肉細胞に接合部を形成するかが同定されており、シナプス形成機構研究の良いモデル系となっている. また、1齢幼虫から3齢幼虫まで、体は10倍以上伸張し、筋肉細胞も成長する。そして、神経終末もそれに合わせて成長するため、標的細胞に合わせたシナプス形成・成熟機構の良いモデルとなっている。''' '''


'''脊椎動物の神経筋接合部との共通点'''  
'''脊椎動物の神経筋接合部との共通点'''  


''' '''基本的なシナプス構造、シナプス前細胞内での、シナプス小胞の集積、シナプス後細胞における伝達物質受容体の集積などは共通である。シナプスを構成する多くのタンパク質も共通もしくは類似している。発生過程における、神経伝達物質受容体の集積と発現が神経細胞の支配に依存しておこることも共通である。また、脊椎動物の神経筋接合部とは異なり、発生過程において、最初から、決まった神経繊維が特定の筋肉細胞にシナプスを形成し、シナプス除去の機構はあまり必要ないと考えられていたが、近年では、神経活動を抑制すると、多シナプス状態が見られる<ref><pubmed>8613752</pubmed></ref>ことから、不要なシナプスを作らないようにする機構も存在している可能性も考えられるている。  
基本的なシナプス構造、シナプス前細胞内での、シナプス小胞の集積、シナプス後細胞における伝達物質受容体の集積などは共通である。シナプスを構成する多くのタンパク質も共通もしくは類似している。発生過程における、神経伝達物質受容体の集積と発現が神経細胞の支配に依存しておこることも共通である。また、脊椎動物の神経筋接合部とは異なり、発生過程において、最初から、決まった神経繊維が特定の筋肉細胞にシナプスを形成し、シナプス除去の機構はあまり必要ないと考えられていたが、近年では、神経活動を抑制すると、多シナプス状態が見られる<ref><pubmed>8613752</pubmed></ref>ことから、不要なシナプスを作らないようにする機構も存在している可能性も考えられるている。  


'''脊椎動物の神経筋接合部との異なる点'''  
'''脊椎動物の神経筋接合部との異なる点'''  


 幼虫の筋肉は単一の多核の細胞であり、脊椎動物のような、多数の筋繊維が1つの機能ユニットとして束になっている状態は見られない。神経伝達物質としてはアセチルコリンではなく、[[グルタミン酸]]が用いられている。脊椎動物の骨格筋とは異なり、幼虫の筋肉細胞には電位依存性ナトリウムチャンネルの存在が報告されておらず<ref><pubmed>2454072</pubmed></ref>、脱分極が広がらないため、筋肉細胞の大きさに合わせた神経終末の拡大がみられる。また、前述のように、脊椎動物の神経筋接合部においては、神経伝達物質受容体の集積にアグリンが関与しているが、ショウジョウバエでは、ホモログが見つかっていない。
幼虫の筋肉は単一の多核の細胞であり、脊椎動物のような、多数の筋繊維が1つの機能ユニットとして束になっている状態は見られない。神経伝達物質としてはアセチルコリンではなく、[[グルタミン酸]]が用いられている。脊椎動物の神経筋接合部は筋肉繊維上にまた、前述のように、脊椎動物の神経筋接合部においては、神経伝達物質受容体の集積にアグリンが関与しているが、ショウジョウバエでは、ホモログが見つかっていない。


'''シナプス形成機構に関わる分子機構の同定'''  
'''シナプス形成機構に関わる分子機構の同定'''  
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<br>'''シナプス成熟機構・可塑性に関わる分子機構の同定'''  
<br>'''シナプス成熟機構・可塑性に関わる分子機構の同定'''  


 幼虫の成長に伴い、筋肉細胞の成長に合わせたシナプス終末の成長が見られる。このため、筋肉細胞の大きさに合わせたシナプス成熟・大きさの調節に関わる分子機構解明のための良いモデルともなっている。この過程には、筋肉細胞からの逆行性因子が関わっていると考えられ、成長因子、[[骨形成因子]] (bone morphogenetic protein, BMP)シグナル系<ref><pubmed>12873382</pubmed></ref>や[[CaMKII]]<ref><pubmed>12873383</pubmed></ref>, <ref><pubmed>12617966</pubmed></ref>が関与している可能性が示唆されている。  
幼虫の成長に伴い、筋肉細胞の成長に合わせた神経終末の成長が見られるため、筋肉細胞の大きさに合わせたシナプス成熟・大きさの調節に関わる分子機構の研究が進められた。この過程には、筋肉細胞からの逆行性因子が関わっていると考えられ、成長因子、[[骨形成因子]] (bone morphogenetic protein, BMP)シグナル系<ref><pubmed>12873382</pubmed></ref>や[[CaMKII]]<ref><pubmed>12873383</pubmed></ref>, <ref><pubmed>12617966</pubmed></ref>が関与している可能性が示唆されている。  


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==
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