「ホメオボックス」の版間の差分
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==ホメオボックスとは== | |||
180塩基対の塩基配列であり、DNAに結合する機能を有するヘリックスターンヘリックス構造モチーフである「ホメオドメイン」をコードする。ホメオドメインは60アミノ酸から成る。ホメオボックスを持つ遺伝子はホメオボックス遺伝子と呼ばれ、主に発生における形態形成、器官形成、細胞分化などに関わる[[転写因子]](transcription factor)をコードする。この発見により、発生生物学が大いに進展した。 | 180塩基対の塩基配列であり、DNAに結合する機能を有するヘリックスターンヘリックス構造モチーフである「ホメオドメイン」をコードする。ホメオドメインは60アミノ酸から成る。ホメオボックスを持つ遺伝子はホメオボックス遺伝子と呼ばれ、主に発生における形態形成、器官形成、細胞分化などに関わる[[転写因子]](transcription factor)をコードする。この発見により、発生生物学が大いに進展した。 | ||
==ファミリー== | ==ファミリー== | ||
ホメオボックス遺伝子は生物に普遍的に存在し、ゲノム中に特徴的なクラスターを形成しているHox遺伝子群と、Hox以外のゲノム中に散在するnon-Hox遺伝子に大別される。 | ホメオボックス遺伝子は生物に普遍的に存在し、ゲノム中に特徴的なクラスターを形成しているHox遺伝子群と、Hox以外のゲノム中に散在するnon-Hox遺伝子に大別される。 | ||
哺乳類では、Hox geneは異なった染色体上に4個のクラスターを形成しており、発生過程ではこの順番に対応して[[前後軸]]に沿って発現し、その位置に特徴的な[[体節]] | 哺乳類では、Hox geneは異なった染色体上に4個のクラスターを形成しており、発生過程ではこの順番に対応して[[前後軸]]に沿って発現し、その位置に特徴的な[[体節]]構造を誘導する(編集部コメント:この辺り、図があればと思います)。ホメオボックス遺伝子の変異により、多細胞生物体の一部の器官が本来の形をとらず他の相同な器官に転換する変化が起こることがあり、これをホメオティック突然変異と呼ぶ。ホメオティック突然変異の例として、1980年代に発見されたショウジョウバエの「[[Antennapedia]]([[アンテナペディア]])変異体」が有名である。脚を形成する遺伝子群の転写を活性化する蛋白質(転写因子)をコードするAntennapedia遺伝子の突然変異により、ショウジョウバエの触覚の代わりに、脚が生えてしまう。これに関連する研究「初期胚発生の遺伝子コントロールに関する研究」にて、1995年、 [[wikipedia:ja:クリスティアーネ・ニュスライン=フォルハルト|クリスチャーネ・ニュスライン=フォルハルト]](Christiane Nüsslein-Volhard)、 [[wikipedia:ja:エドワード・B・ルイス|エドワード・ルイス]](Edward B. Lewis)、 [[wikipedia:ja:エリック・ヴィーシャウス|エリック・ヴィーシャウス]](Eric Wieschaus)の3人が [[wikipedia:ja:ノーベル生理学・医学賞|ノーベル生理学・医学賞]]を受賞した。 | ||
==機能== | ==機能== | ||
ホメオティック遺伝子群Hox genesは、動物の[[胚発生]] | ホメオティック遺伝子群Hox genesは、動物の[[胚発生]]の初期において組織の前後軸および体節制を決定する遺伝子であり、胚段階で体節に関わる構造(例えば触覚、眼、翅、脚など)の適切な数量と配置について決定的な役割を持つ。ホメオティック遺伝子群により産生された蛋白質は転写因子として特定の配列「TAAT」のDNAに結合することにより、その下流の遺伝子の転写を制御する。ホメオティック蛋白質は[[エンハンサー]]と呼ばれる遺伝子の制御領域に結合し、特定の遺伝子の転写を活性化したり、抑制したりする。 | ||
同一のホメオティック蛋白質が、ある遺伝子では抑制的に働き、他の遺伝子では促進的に働くことがありえる。たとえば、先ほどの[[ショウジョウバエ]]の例では、ホメオティック遺伝子の産生蛋白質であるAntennapediaは、脚と翅を含む第2胸節の構造を規定している遺伝子群の転写を活性化させるが、眼と触覚の形成に関係している遺伝子群の転写を抑制する。従って、Antennapedia蛋白質が存在する部位では、どこであろうと眼と触覚ではなく脚と翅が形成されることになる。ホメオボックス蛋白質群で制御されている遺伝子群は、[[リアライゼーター遺伝子]] (realisator genes)と呼ばれており、これらが産生する蛋白質が、実際の組織や[[wikipedia:ja:細胞内小器官|細胞内小器官]]を構成する要素となっている。 | |||
==神経系における働き== | ==神経系における働き== | ||
神経系の発生においても、ホメオボックス遺伝子は重要な機能を果たすことが知られている。例えば、[[Otx2]]は[[前脳]]から[[中脳]]にかけて発現し、頭部の形態形成に機能している。[[En1]]は中脳と[[後脳]]の境界領域に発現し、その形成に必要である。様々なホメオボックス遺伝子が脳の形成、領域化、神経細胞の分化、生存など神経系の発生と維持の様々な局面で重要な役割を果たしている。 | |||
==関連項目== | ==関連項目== | ||
*[[エンハンサー]] | *[[エンハンサー]] | ||
(編集部コメント:ございましたらご指摘下さい) | |||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
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(執筆者:古川貴久 担当編集者:村上富士夫) |
2013年1月24日 (木) 21:20時点における版
Homeobox domain | |||||||||
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The Antennapedia homeodomain protein from Drosophila melanogaster bound to a fragment of DNA[1]. The recognition helix and unstructured N-terminus are bound in the major and minor grooves respectively. | |||||||||
Identifiers | |||||||||
Symbol | Homeobox | ||||||||
Pfam | PF00046 | ||||||||
Pfam clan | CL0123 | ||||||||
InterPro | IPR001356 | ||||||||
SMART | SM00389 | ||||||||
PROSITE | PS50071 | ||||||||
SCOP | 1ahd | ||||||||
SUPERFAMILY | 1ahd | ||||||||
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英語名:homeobox
ホメオボックスとは
180塩基対の塩基配列であり、DNAに結合する機能を有するヘリックスターンヘリックス構造モチーフである「ホメオドメイン」をコードする。ホメオドメインは60アミノ酸から成る。ホメオボックスを持つ遺伝子はホメオボックス遺伝子と呼ばれ、主に発生における形態形成、器官形成、細胞分化などに関わる転写因子(transcription factor)をコードする。この発見により、発生生物学が大いに進展した。
ファミリー
ホメオボックス遺伝子は生物に普遍的に存在し、ゲノム中に特徴的なクラスターを形成しているHox遺伝子群と、Hox以外のゲノム中に散在するnon-Hox遺伝子に大別される。
哺乳類では、Hox geneは異なった染色体上に4個のクラスターを形成しており、発生過程ではこの順番に対応して前後軸に沿って発現し、その位置に特徴的な体節構造を誘導する(編集部コメント:この辺り、図があればと思います)。ホメオボックス遺伝子の変異により、多細胞生物体の一部の器官が本来の形をとらず他の相同な器官に転換する変化が起こることがあり、これをホメオティック突然変異と呼ぶ。ホメオティック突然変異の例として、1980年代に発見されたショウジョウバエの「Antennapedia(アンテナペディア)変異体」が有名である。脚を形成する遺伝子群の転写を活性化する蛋白質(転写因子)をコードするAntennapedia遺伝子の突然変異により、ショウジョウバエの触覚の代わりに、脚が生えてしまう。これに関連する研究「初期胚発生の遺伝子コントロールに関する研究」にて、1995年、 クリスチャーネ・ニュスライン=フォルハルト(Christiane Nüsslein-Volhard)、 エドワード・ルイス(Edward B. Lewis)、 エリック・ヴィーシャウス(Eric Wieschaus)の3人が ノーベル生理学・医学賞を受賞した。
機能
ホメオティック遺伝子群Hox genesは、動物の胚発生の初期において組織の前後軸および体節制を決定する遺伝子であり、胚段階で体節に関わる構造(例えば触覚、眼、翅、脚など)の適切な数量と配置について決定的な役割を持つ。ホメオティック遺伝子群により産生された蛋白質は転写因子として特定の配列「TAAT」のDNAに結合することにより、その下流の遺伝子の転写を制御する。ホメオティック蛋白質はエンハンサーと呼ばれる遺伝子の制御領域に結合し、特定の遺伝子の転写を活性化したり、抑制したりする。
同一のホメオティック蛋白質が、ある遺伝子では抑制的に働き、他の遺伝子では促進的に働くことがありえる。たとえば、先ほどのショウジョウバエの例では、ホメオティック遺伝子の産生蛋白質であるAntennapediaは、脚と翅を含む第2胸節の構造を規定している遺伝子群の転写を活性化させるが、眼と触覚の形成に関係している遺伝子群の転写を抑制する。従って、Antennapedia蛋白質が存在する部位では、どこであろうと眼と触覚ではなく脚と翅が形成されることになる。ホメオボックス蛋白質群で制御されている遺伝子群は、リアライゼーター遺伝子 (realisator genes)と呼ばれており、これらが産生する蛋白質が、実際の組織や細胞内小器官を構成する要素となっている。
神経系における働き
神経系の発生においても、ホメオボックス遺伝子は重要な機能を果たすことが知られている。例えば、Otx2は前脳から中脳にかけて発現し、頭部の形態形成に機能している。En1は中脳と後脳の境界領域に発現し、その形成に必要である。様々なホメオボックス遺伝子が脳の形成、領域化、神経細胞の分化、生存など神経系の発生と維持の様々な局面で重要な役割を果たしている。
関連項目
(編集部コメント:ございましたらご指摘下さい)
参考文献
- ↑
Billeter, M., Qian, Y.Q., Otting, G., Müller, M., Gehring, W., & Wüthrich, K. (1993).
Determination of the nuclear magnetic resonance solution structure of an Antennapedia homeodomain-DNA complex. Journal of molecular biology, 234(4), 1084-93. [PubMed:7903398] [WorldCat] [DOI]
(編集部コメント:参考文献をお願いいたします)
(執筆者:古川貴久 担当編集者:村上富士夫)