「マイクロニューログラム」の版間の差分

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== 記録方法 ==
== 記録方法 ==


 マイクロニューログラムに用いる金属微小電極は、直径約200μm、先端直径は1-15μmであり、先端から5-15μm以外をエポキシ樹脂で絶縁コーティングしたものを使う。通常、神経発射活動は、タングステン製の電極を用い(記録電極)、その近傍に設置する基準電極(皮膚表面に貼付する場合と皮膚下に刺入する場合とがある)との電位差を生体アンプで増幅し、記録する。記録電極は、末梢神経内に無麻酔で、皮膚上から微小電極を刺入し、神経線維の発射活動を得る。電極の刺入位置は、あらかじめ、ターゲットとなる神経束に経皮的に電気刺激を行うことにより探査する。この方法により、被験者が1. 明確に当該神経束の支配領域に拡散する感覚を生起していること、や2. 支配筋に単縮張力および誘発筋電図(M波およびH反射)が最も低い刺激強度で誘発できる部位を確認し、刺入ポイントを決定する。記録電極については、同心型双極電極を用いる場合もある<ref name=ref11><pubmed>7348041</pubmed></ref>。得られる神経発射活動は、その振幅が非常に小さく(最大40μV程度<ref name=ref1/ >)、生体アンプは低雑音・高入力インピーダンス用のものを用いるとよい。
 マイクロニューログラムに用いる金属微小電極は、直径約200μm、先端直径は1-15μmであり、先端から5-15μm以外をエポキシ樹脂で絶縁コーティングしたものを使う。通常、神経発射活動は、タングステン製の電極を用い(記録電極)、その近傍に設置する基準電極(皮膚表面に貼付する場合と皮膚下に刺入する場合とがある)との電位差を生体アンプで増幅し、記録する。記録電極は、末梢神経内に無麻酔で、皮膚上から微小電極を刺入し、神経線維の発射活動を得る。電極の刺入位置は、あらかじめ、ターゲットとなる神経束に経皮的に電気刺激を行うことにより探査する。この方法により、被験者が1. 明確に当該神経束の支配領域に拡散する感覚を生起していること、や2. 支配筋に単縮張力および誘発筋電図(M波およびH反射)が最も低い刺激強度で誘発できる部位を確認し、刺入ポイントを決定する。記録電極については、同心型双極電極を用いる場合もある<ref name=ref11><pubmed>7348041</pubmed></ref>。得られる神経発射活動は、その振幅が非常に小さく(最大40μV程度<ref name=ref1 />)、生体アンプは低雑音・高入力インピーダンス用のものを用いるとよい。


 なお、微小電極使用に際しては、あらかじめ電極をガス滅菌し、消毒用エタノール等による皮膚ならびに電極の消毒を十分行い、感染症に対する予防措置を十分に行う必要がある。また、稀な例ではあるが、実験後、被験者に生じる有害事象(筋や皮膚の感覚異常や虚脱感等)についても報告されており<ref name=ref13><pubmed>2690582</pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed>7301915</pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>、実験者はそのことに留意し、事前に対応策を講じておく必要がある。実際には、実験時間や電極刺入による神経の探索時間をできるだけ短くし、神経自身を傷つける可能性を低くすることが重要である<ref name=ref10/ >。また、同じ神経束への実験頻度も低くする(最低2週間程度空ける等)など工夫することが提案されている。
 なお、微小電極使用に際しては、あらかじめ電極をガス滅菌し、消毒用エタノール等による皮膚ならびに電極の消毒を十分行い、感染症に対する予防措置を十分に行う必要がある。また、稀な例ではあるが、実験後、被験者に生じる有害事象(筋や皮膚の感覚異常や虚脱感等)についても報告されており<ref name=ref13><pubmed>2690582</pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed>7301915</pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>、実験者はそのことに留意し、事前に対応策を講じておく必要がある。実際には、実験時間や電極刺入による神経の探索時間をできるだけ短くし、神経自身を傷つける可能性を低くすることが重要である<ref name=ref10/ >。また、同じ神経束への実験頻度も低くする(最低2週間程度空ける等)など工夫することが提案されている。

2013年2月12日 (火) 16:58時点における版

 マイクロニューログラムとは、タングステンなどの金属微小電極をヒト末梢神経内に刺入し、単一あるいは複合神経線維の発射活動を記録する電気生理学的手法である[1] [2] [3]。この手法は、ヒトにおける求心性および遠心性の単一神経発射活動を測定できる唯一の方法であり、一般的に1.各種感覚受容器からの求心性神経活動(筋や皮膚および関節受容器由来の発射活動等)や2. 筋および皮膚支配の交感神経節後遠心性線維の活動を導出することが可能である。またこの方法は、神経発射活動の記録ばかりでなく、各種神経束の種類を同定したのち、記録電極を刺激電極に切り替えて電気刺激を行う、微小神経刺激法(マイクロスティムレーション法)による知覚研究[4]や、単一発射活動の脊髄反射誘発に関わる研究等にも利用されている[5] [6]

 古くから臨床研究も行われており、各種疾患別の神経活動記録も報告されている[7] [8] [9]。このように、マイクロニューログラムは、ヒト神経生理学の基礎研究から臨床応用まで幅広く利用されている電気生理学的手法である[1] [10]

記録方法

 マイクロニューログラムに用いる金属微小電極は、直径約200μm、先端直径は1-15μmであり、先端から5-15μm以外をエポキシ樹脂で絶縁コーティングしたものを使う。通常、神経発射活動は、タングステン製の電極を用い(記録電極)、その近傍に設置する基準電極(皮膚表面に貼付する場合と皮膚下に刺入する場合とがある)との電位差を生体アンプで増幅し、記録する。記録電極は、末梢神経内に無麻酔で、皮膚上から微小電極を刺入し、神経線維の発射活動を得る。電極の刺入位置は、あらかじめ、ターゲットとなる神経束に経皮的に電気刺激を行うことにより探査する。この方法により、被験者が1. 明確に当該神経束の支配領域に拡散する感覚を生起していること、や2. 支配筋に単縮張力および誘発筋電図(M波およびH反射)が最も低い刺激強度で誘発できる部位を確認し、刺入ポイントを決定する。記録電極については、同心型双極電極を用いる場合もある[11]。得られる神経発射活動は、その振幅が非常に小さく(最大40μV程度[1])、生体アンプは低雑音・高入力インピーダンス用のものを用いるとよい。

 なお、微小電極使用に際しては、あらかじめ電極をガス滅菌し、消毒用エタノール等による皮膚ならびに電極の消毒を十分行い、感染症に対する予防措置を十分に行う必要がある。また、稀な例ではあるが、実験後、被験者に生じる有害事象(筋や皮膚の感覚異常や虚脱感等)についても報告されており[12] [13] [14]、実験者はそのことに留意し、事前に対応策を講じておく必要がある。実際には、実験時間や電極刺入による神経の探索時間をできるだけ短くし、神経自身を傷つける可能性を低くすることが重要である引用エラー: <ref> タグに対応する </ref> タグが不足していますや皮膚上からの神経電気刺激([15];最大上電気刺激)による筋単収縮力の位相(収縮相および弛緩相)とその発射活動動態から、さらにゴルジ腱器官と筋紡錘由来の活動の分類が可能である。

 また、受動的な筋伸張(例えば、三角波型やランプアンドホールド型の筋伸張等)による発射動態から、筋紡錘の錘内筋に終止する1. 一次終末(Ia群線維)および2. 二次終末(II群線維)由来の活動、についても分類できる[16]。一次終末とは、筋紡錘を構成する錘内筋の核袋線維と核鎖線維の両者にらせん状に絡みつく線維であり、筋が伸張される位相でその発射活動が一過性に増える(動的反応)。いわば、筋の長さが変わる速さを検知する終末である。また、二次終末は核鎖線維にらせん状に絡みつく線維であるが、動的反応はほとんど見られない。これらの発射動態と照らし合わせ、得られた各終末の活動を分類する。両終末ともに筋を伸張して新しい長さに保持すると持続的に発射活動が生じる(静的反応)。

γ運動線維活動に由来した筋の求心性活動

 被験者に筋の長さが変化しない筋収縮(等尺性筋収縮、例えば負荷(錘)に抗して肢の位置を変えずにそれを維持するなど)を行わせると、筋が伸張されていないにも関わらず、筋由来の求心性神経活動が生じる[17]。筋紡錘は他の感覚受容器とは異なり、γ運動ニューロンにより遠心性支配を受けるが、この現象は一般的に、γ運動系の活動により筋紡錘が収縮し、結果求心性Ia群線維の発射活動を生じさせていると考えられている。事実、ネコγ運動線維への電気刺激は、Ia群線維の求心性発射頻度を増大させる[18]。γ運動線維とは、錘内筋の(中央部を除いた)両極部に終止し、収縮させる運動神経であり、その起始細胞をγ運動ニューロンという。等尺性収縮の場合、両極が収縮することで、感覚線維が終止する中央部が引き延ばされ、求心性活動電位が発生する。γ運動系は、運動中の筋の長さ変化に対して最適な筋紡錘の感度に調節する機能的意義をもつ。

 古くから、この手法を用いて、随意運動中のヒトγ運動ニューロンの制御動態について検討が行われている[19]。また、この生理学的背景を利用し、末梢神経への電気刺激による神経活動の発火確率変化を観察する方法(ペリ・スティムラスタイムヒストグラム法(PSTH法))を使い、ヒトγ運動ニューロンへの反射性結合についても検討が行われている[20]。近年では、表面筋電図活動とIa群線維に由来した求心性活動の相互相関解析を行うことで、錘外筋と錘内筋両方を支配するヒトβ運動ニューロンの存在についても提案されている[21]

 多くの研究では、観察したい求心性神経活動について、複数の同定基準やそれを調べるための各種テストを行っており(例えば[22]など)、その同定方法についての信頼性は高いと考えられる。しかしながら、筋由来の神経活動同定法について、不明瞭な点を指摘する研究グループもあり[23]、今後も信頼できる同定方法の開発や複数の同定方法の併用などを行っていくことが重要であると考えられる。

皮膚に由来した求心性神経活動

 皮膚由来の感覚に関わる求心性神経線維の場合、皮膚表面に圧を加え(フォンフレイの毛や先の尖っていないプローブ等)、皮膚の変形刺激に対する発射応答と順応の様子を観察すると、遅順応型(SA)と速順応型(FA)の活動を同定することが可能である[2]。例えば、矩形波状に刺激が加わった場合、FAは刺激のオンとオフのタイミングにしかその発火活動が生じず、SAは圧刺激中持続的にその発火活動が生じる。この2つのタイプは、さらに、受容野(単一神経活動が機械刺激によって反応しうる皮膚領域)の大きさとその境界の明瞭さ、持続的発火活動の規則性などの違いによって、I型(FAI、SAI)とII型(FAII、SAII)に分類できるといわれている[2]。FAI,およびSAIは受容野が小さく、その境界についても明瞭である。しかしながら、FAIIおよびSAIIでは受容野が広く、その境界も不明瞭である。この理由の一つとして、II型は、その受容器が皮下深部に分布し、I型は皮膚表層に分布していることにあると考えられている。これらの活動は、動物実験等で形態学的に同定されたマイスナー小体(FA I)、メルケル盤(SA I)、パチニ小体 (FA IIまたPCと分類される)、ルフィニ終末(SAII)等に当てはまる[24] [7]。例えば皮膚表面に物体が触れたとき、上述した数種の触覚受容器由来の神経活動が、同期または非同期的に起こり、それが符号化され、脳に伝達することにより物体の形状等を知覚することができると考えられる。

 単一神経線維活動がどのような知覚を生み出すのかいう問いに対して、神経線維の種類を同定後、刺激電極に切り替えて電気刺激(微小神経刺激)し、被験者からどのような感覚が生起したのかについて調べることも可能である。今までの報告では、速順応型のFAIおよびII型は“振動”のような感覚を生起させ、遅順応型のSAI型は持続的な“圧力”が加わる感覚を生み出すことが知られている[25] [26]。また、物体を持っているときの不意なスリップ時には、知覚が引き起こされる前に、反射反応が生じ、物体を握りなおす修正反応が起こる。これには、速順応型の神経活動(FAI型)が重要であることが知られており、スリップから約70から100ミリ秒に反射性の筋活動が生じ、その後の随意活動ともに修正反応に貢献していることが報告されている[27] [28]。興味深いことに、皮膚受容器は、自然刺激(皮膚表面などを擦る等)による単一神経線維の活動(FAI, IIおよびSAI型)でも強い反射応答を筋電図上に誘発するが[6]Resource not found in PubMed.</ref>、筋由来の単一神経活動では反射性反応はほとんど誘発されない[5]。しかしながら、神経束への電気刺激(Ia群線維を標的とした運動閾値の0.7-0.8倍程度の刺激強度)では、強い単シナプス性の伸張反射(Hoffmann 反射)が誘発される。これらのことを総合的に考えると、近由来の複数のIa線維の活動は同期して発生し、その斉射(Volley)が運動ニューロンに入力したとき、伸張反射が強く誘発されると考えられる。

関節受容器に由来した求心性神経活動

 ヒト関節受容器由来の神経線維の場合、1.関節上の皮膚への刺激(摩擦や皮膚の挙上等)や2.近隣筋の叩打によってその発火活動が生じないこと、さらに、3.硬いプローブ(直径1mm程度)で関節嚢への強い圧力によって神経発射活動が生じることにより、関節受容器に由来した発射活動として同定できると考えられている[29]。これらの活動は、安静状態での関節角度ですでに、持続的な発火活動を呈しているものもあり、関節の受動運動(屈曲伸展および内転外転)で発火頻度が変化するものも多い。また、運動の方向性(屈曲伸展方向および内転外転方向)に関わらず、その発火活動頻度が増大するものも多いとされている[29] [30]。しかしながら、これらの特徴を持つ発射活動動態が、機能的にどのような意味を持つのかについては、これからの検討が待たれる。興味深いことに、Macefieldら[26]は、得られた単一神経線維に電気刺激を与えると、関節がわずかに動く感覚や関節上に圧力が加わる感覚が生じると報告している。これら発射活動には、関節内に存在するルフィニ終末、ゴルジ終末、パチニ小体等が対応すると考えられる[31]

交感神経活動

 交感神経節後遠心性の神経線維の場合、筋および皮膚交感神経活動がその対象となるが、前者の場合、各種循環器系パラメータとの関係、後者の場合、皮膚血管と汗腺を支配する血管収縮神経と発汗運動神経活動を反映するパラメータとの関連によって同定可能である[19] [3]

筋交感神経活動

 マイクロニューログラムで記録される筋交感神経活動は、主に脈拍に同期する律動性の自発活動がその特徴である。血圧との関係性についても明確になっており、血圧値の上昇による抑制、下降により促通する。筋交感神経束の伝導速度は約1メートル/秒であるが、マイクロニューログラムを使った同一神経の2点同時記録法によってもそれに近似した値を記録している[1] [3] [32]。また、臨床応用として、交感神経活動の更新が著しい循環器疾患への応用と、その神経機序の解明に関する研究が行われている[3] [33]

皮膚交感神経活動

 皮膚交感神経活動は、バースト状の不規則な自発性活動後、皮膚血管の収縮または発汗を伴い、精神的ストレスや音、痛み、電気刺激により一定の潜時を持って誘発されることが特徴であるとされている[3]。また、皮膚交感神経活動の臨床応用として、岩瀬は、無汗症や多汗症の病態生理の解明と診断、さらには血管関連疾患、例えば異常血管収縮が手足の冷感、疼痛をきたす疾患等(Raynaud病やBuerger病)の神経ブロックや交感神経切除の効果判定等に有用であると述べている[32]

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(執筆者:大木紫 担当編集者:伊佐正)