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Masatoshiyoshida (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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ヒトでの[[第一次視覚野]]損傷後の残存視覚については1973年のPoppelらの仕事<ref><pubmed> 4774871 </pubmed></ref>によって最初に報告された。ひきつづきWeiskrantzらがBrainに詳細な報告を行い<ref><pubmed> 4434190 </pubmed></ref>、"blindsight" (盲視)と呼ばれるようになった<ref><pubmed> 4132425 </pubmed></ref>。 | ヒトでの[[第一次視覚野]]損傷後の残存視覚については1973年のPoppelらの仕事<ref><pubmed> 4774871 </pubmed></ref>によって最初に報告された。ひきつづきWeiskrantzらがBrainに詳細な報告を行い<ref><pubmed> 4434190 </pubmed></ref>、"blindsight" (盲視)と呼ばれるようになった<ref><pubmed> 4132425 </pubmed></ref>。 | ||
歴史的にいえば、[[第一次視覚野]]損傷後の残存視覚についてはじつはヒトでの知見の前にすでにサルでの知見がWeiskrantzらの研究グループから報告されていた<ref><pubmed> 4963569 </pubmed></ref>。しかし、厳密な意味で盲視の存在を証明するためには、「残存視覚があること」を証明するだけでなく、「現象的な視覚意識がない」ことを証明しなければならない。これは言語報告を使えないサルなどの動物の場合には原理的な問題となる。ヒト盲視で見られる現象と同様な行動の乖離を示した実験は、Weiskrantzの同僚であるAlan Coweyらによって1995年に報告された<ref><pubmed> 7816139 </pubmed></ref>。 | 歴史的にいえば、[[第一次視覚野]]損傷後の残存視覚についてはじつはヒトでの知見の前にすでにサルでの知見がWeiskrantzらの研究グループから報告されていた<ref><pubmed> 4963569 </pubmed></ref>。しかし、厳密な意味で盲視の存在を証明するためには、「残存視覚があること」を証明するだけでなく、「現象的な視覚意識がない」ことを証明しなければならない。これは言語報告を使えないサルなどの動物の場合には原理的な問題となる。ヒト盲視で見られる現象と同様な行動の乖離を示した実験は、Weiskrantzの同僚であるAlan Coweyらによって1995年に報告された<ref name=ref7><pubmed> 7816139 </pubmed></ref>。 | ||
包括的なレビューとしてはPetra StoerigとAlan CoweyによるBrain 1997<ref><pubmed> 9126063 </pubmed></ref>がある。また、日本語で読むことができる総説としては<ref>'''吉田 正俊'''<br>盲視の神経科学<br>''Clinical Neuroscience'': 30(8): 955-957</ref><ref>'''吉田 正俊'''<br>盲視の神経機構<br>''BRAIN and NERVE'': (In press)</ref>などがある。 | 包括的なレビューとしてはPetra StoerigとAlan CoweyによるBrain 1997<ref><pubmed> 9126063 </pubmed></ref>がある。また、日本語で読むことができる総説としては<ref>'''吉田 正俊'''<br>盲視の神経科学<br>''Clinical Neuroscience'': 30(8): 955-957</ref><ref>'''吉田 正俊'''<br>盲視の神経機構<br>''BRAIN and NERVE'': (In press)</ref>などがある。 | ||
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色情報の検出、弁別は可能であるとする報告<ref><pubmed> 8058800 </pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed> 11703461 </pubmed></ref>がある。しかし一方で、V1損傷または半球皮質切除によるヒト盲視患者では青-黄の色チャネル(koniocellular経路)の刺激を検出することが出来ないという報告もある<ref><pubmed> 19320547 </pubmed></ref><ref><pubmed> 12176359 </pubmed></ref><ref><pubmed> 17156217 </pubmed></ref>。 | 色情報の検出、弁別は可能であるとする報告<ref><pubmed> 8058800 </pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed> 11703461 </pubmed></ref>がある。しかし一方で、V1損傷または半球皮質切除によるヒト盲視患者では青-黄の色チャネル(koniocellular経路)の刺激を検出することが出来ないという報告もある<ref><pubmed> 19320547 </pubmed></ref><ref><pubmed> 12176359 </pubmed></ref><ref><pubmed> 17156217 </pubmed></ref>。 | ||
顔の表情の弁別においては、二択で偶然以上の成績で正解した<ref><pubmed> 10716205 </pubmed></ref>。このような表情の認知は"affective blindsight"と呼ばれる。一方で、おなじ患者は誰の顔であるか(identity)の弁別では偶然のレベルの成績であった。 | |||
== 盲視で出来ること、出来ないこと(2) 動物モデル == | == 盲視で出来ること、出来ないこと(2) 動物モデル == | ||
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この項では、マカクザルの片側の第一次視覚野を損傷させた盲視動物モデルでの知見をまとめる。 | この項では、マカクザルの片側の第一次視覚野を損傷させた盲視動物モデルでの知見をまとめる。 | ||
視覚誘導性サッカード課題において、損傷部位に対応した視野に提示した視覚標的に向けてサッカードすることが可能であることが示された<ref name=ref3><pubmed> 401874 </pubmed></ref>。また、レバープレス課題によって提示された刺激を検出することも可能であった。 | |||
視覚誘導性のリーチング課題によって、ディプレーに提示された視覚刺激の位置を二択で正しく選択することが可能だった<ref name=ref7></ref>。一方で、視覚刺激があるか無いかを報告させる課題においては、視覚刺激が提示されていても、視覚刺激が提示されていないことを示す選択肢を選んだ。 | |||
視覚誘導性サッカード課題において、損傷視野に提示した視覚標的の輝度コントラストに対する閾値は正常視野と比べて上昇していた<ref name=ref1><pubmed> 18923028 </pubmed></ref>。また、サッカードの終止点は不正確であり、軌道も正常視野へのサッカードと比べてより直線的になっていた。このことはV1損傷が視覚だけでなく運動コントロールにも影響を与えていることが示唆している。また、応答潜時は分布が狭くなっており、計算論的解析から、V1損傷が意志決定の過程にも影響を与えていることが示唆している。 | 視覚誘導性サッカード課題において、損傷視野に提示した視覚標的の輝度コントラストに対する閾値は正常視野と比べて上昇していた<ref name=ref1><pubmed> 18923028 </pubmed></ref>。また、サッカードの終止点は不正確であり、軌道も正常視野へのサッカードと比べてより直線的になっていた。このことはV1損傷が視覚だけでなく運動コントロールにも影響を与えていることが示唆している。また、応答潜時は分布が狭くなっており、計算論的解析から、V1損傷が意志決定の過程にも影響を与えていることが示唆している。 | ||
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Huxlinらによる報告<ref><pubmed> 19339594 </pubmed></ref>では、5人の患者でランダムドットモーション刺激の方向弁別のトレーニングを行ったところ、9-18ヶ月後には正常レベルに近いところまで感度が向上していた。これらの研究での被験者は成人であり、脳損傷を受けてから年月が経っている。よって、これらの研究は、成人の脳でも大規模な構造的な変化によって機能回復が起こっている可能性を示唆している。 | Huxlinらによる報告<ref><pubmed> 19339594 </pubmed></ref>では、5人の患者でランダムドットモーション刺激の方向弁別のトレーニングを行ったところ、9-18ヶ月後には正常レベルに近いところまで感度が向上していた。これらの研究での被験者は成人であり、脳損傷を受けてから年月が経っている。よって、これらの研究は、成人の脳でも大規模な構造的な変化によって機能回復が起こっている可能性を示唆している。 | ||
マカクザルを動物モデルとして用いた研究では、第一次視覚野の切除後にも視覚弁別能力が残存する、つまりマカクザルでも盲視が起こることが明らかになっている<ref><pubmed> 4963569 </pubmed></ref><ref name=ref3 | マカクザルを動物モデルとして用いた研究では、第一次視覚野の切除後にも視覚弁別能力が残存する、つまりマカクザルでも盲視が起こることが明らかになっている<ref><pubmed> 4963569 </pubmed></ref><ref name=ref3></ref><ref name=ref1></ref>。機能回復トレーニングとして視覚誘導性サッカード課題も用いて、成績の時間経過を調べたところ、術後1週間では、損傷の反対側の視野へのサッカードは上下の2カ所を弁別できなくなっていた。継続的にトレーニングを行ったところ、およそ8週間程度で損傷視野の成績はほぼ正常視野と同等のレベルまで回復した。つまり、動物モデルにおいても数ヶ月の機能回復トレーニングによって、盲視の能力が回復することが明らかになった<ref name=ref1></ref>。 | ||
拡散テンソルイメージング(DTI)を用いることによって、盲視の患者では脳損傷によって投射経路の可塑的変化が起こっていることが示唆されている。たとえばLGNからMTへの結合がより強くなっている<ref><pubmed> 18469021 </pubmed></ref>。また、上丘から視床枕を経由して扁桃体へと入力する結合がより強くなっている<ref><pubmed> 22748315 </pubmed></ref>。また、半球皮質切除を受けた患者のうち盲視の能力を持つ患者では、通常では見られないような、切除側の上丘から反対側の大脳皮質へと投射する経路が同定されている<ref><pubmed> 16714319 </pubmed></ref>。 | 拡散テンソルイメージング(DTI)を用いることによって、盲視の患者では脳損傷によって投射経路の可塑的変化が起こっていることが示唆されている。たとえばLGNからMTへの結合がより強くなっている<ref><pubmed> 18469021 </pubmed></ref>。また、上丘から視床枕を経由して扁桃体へと入力する結合がより強くなっている<ref><pubmed> 22748315 </pubmed></ref>。また、半球皮質切除を受けた患者のうち盲視の能力を持つ患者では、通常では見られないような、切除側の上丘から反対側の大脳皮質へと投射する経路が同定されている<ref><pubmed> 16714319 </pubmed></ref>。 |
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