「辺縁帯」の版間の差分

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== 脊髄を形成する神経管領域==
== 脊髄を形成する神経管領域==


 神経管は、その発生当初には神経上皮細胞からなる層のみを持つが、神経上皮細胞の分裂によって、徐々にその厚みを増していき、脊髄を形成する領域の神経管領域ではやがて3層の構造を持つようになる。(神経管の前端からは脳が形成されるが、脳の発生についてはそれぞれの関連項目を参照されたい。)神経管の持つ3層構造は、内側から外側にかけてそれぞれ[[脳室帯]] ventricular zone、[[外套層]] mantle zone([[中間層]] intermediate zone)、辺縁帯 marginal zoneと呼ぶ。
[[ファイル:図1神経管の辺縁帯.jpg|thumb|right|250px|図1 神経管の辺縁帯]]
 神経管は、その発生当初には神経上皮細胞からなる層のみを持つが、神経上皮細胞の分裂によって、徐々にその厚みを増していき、脊髄を形成する領域の神経管領域ではやがて3層の構造を持つようになる。(神経管の前端からは脳が形成されるが、脳の発生についてはそれぞれの関連項目を参照されたい。)神経管の持つ3層構造は、内側から外側にかけてそれぞれ[[脳室帯]] ventricular zone、[[外套層]] mantle zone([[中間層]] intermediate zone)、辺縁帯 marginal zoneと呼ぶ(図1)。


 辺縁帯は神経管の最も外側の層で、発生の後期には[[ニューロン]]の[[軸索]]が豊富に分布する一方、[[神経細胞体]]の分布はまばらである<ref name=Sanes>''' Dan H. Sanes, Thomas A. Reh, William A. Harris '''<br> Development of the Nervous System, 2nd Ed. <br>'' Academic Press (Oxford)'':2006</ref>。脳室帯は神経上皮細胞から成り、外套層はニューロンの細胞体に富む。これら3層とも発生過程で見られる一過的な組織構造であり、神経管が脊髄へと成熟するにしたがい、辺縁帯は[[白質]] [[white matter]]を、外套層は[[灰白質]] [[grey matter]]を、脳室帯は[[上衣層]] [[ependymal layer]]を形成する。
 辺縁帯は神経管の最も外側の層で、発生の後期には[[ニューロン]]の[[軸索]]が豊富に分布する一方、[[神経細胞体]]の分布はまばらである<ref name=Sanes>''' Dan H. Sanes, Thomas A. Reh, William A. Harris '''<br> Development of the Nervous System, 2nd Ed. <br>'' Academic Press (Oxford)'':2006</ref>。脳室帯は神経上皮細胞から成り、外套層はニューロンの細胞体に富む。これら3層とも発生過程で見られる一過的な組織構造であり、神経管が脊髄へと成熟するにしたがい、辺縁帯は[[白質]] [[white matter]]を、外套層は[[灰白質]] [[grey matter]]を、脳室帯は[[上衣層]] [[ependymal layer]]を形成する。
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 発生過程における、[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]の大脳皮質の最表層を指す。成熟した哺乳類の大脳皮質は6層の構造を持っており、辺縁帯はそのうちの最表層である第Ⅰ層Layer I(分子層molecular layer)を形成する。第Ⅰ層はニューロンをほとんど含まず、主な構成要素は、下層のⅡ・Ⅲ・Ⅴ層にある[[錐体細胞]]が伸ばす[[樹状突起]]と、それに入力する線維([[交連線維]]・[[連合線維]]・[[視床]][[非特殊核]]からの視床皮質投射線維)である。ただし、第Ⅰ層は[[カハール・レチウス細胞]] [[Cajal-Retzius cells]]を含んでおり、この細胞はニューロンの移動に極めて重要な[[リーリン]]タンパク質を産生する<ref name=Terashima/>。
 発生過程における、[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]の大脳皮質の最表層を指す。成熟した哺乳類の大脳皮質は6層の構造を持っており、辺縁帯はそのうちの最表層である第Ⅰ層Layer I(分子層molecular layer)を形成する。第Ⅰ層はニューロンをほとんど含まず、主な構成要素は、下層のⅡ・Ⅲ・Ⅴ層にある[[錐体細胞]]が伸ばす[[樹状突起]]と、それに入力する線維([[交連線維]]・[[連合線維]]・[[視床]][[非特殊核]]からの視床皮質投射線維)である。ただし、第Ⅰ層は[[カハール・レチウス細胞]] [[Cajal-Retzius cells]]を含んでおり、この細胞はニューロンの移動に極めて重要な[[リーリン]]タンパク質を産生する<ref name=Terashima/>。


 大脳皮質の発生初期には内側の[[脳室帯]] [[ventricular zone]]と、外側の[[プレプレート]] [[preplate]]だけしかみられないが、やがて脳室帯で産まれたニューロンがプレプレートに入り込み、プレプレートを2層に分割する。分割されたもののうち表層側は辺縁帯となり、深層側は[[サブプレート]] [[subplate]]となる。辺縁帯とサブプレートの間に移動したニューロンは[[皮質板]] [[cortical plate]]を形成する。辺縁帯は将来の第Ⅰ層を、皮質板は将来の[[第Ⅱ層]]〜[[第Ⅵ層]]を形成する<ref><pubmed> 22492350</pubmed></ref>。
[[ファイル:図2大脳皮質の辺縁帯.jpg|thumb|right|250px|図2 大脳皮質の辺縁帯]]
 大脳皮質の発生初期には内側の[[脳室帯]] [[ventricular zone]]と、外側の[[プレプレート]] [[preplate]]だけしかみられないが、やがて脳室帯で産まれたニューロンがプレプレートに入り込み、プレプレートを2層に分割する。分割されたもののうち表層側は辺縁帯となり、深層側は[[サブプレート]] [[subplate]]となる。辺縁帯とサブプレートの間に移動したニューロンは[[皮質板]] [[cortical plate]]を形成する。辺縁帯は将来の第Ⅰ層を、皮質板は将来の[[第Ⅱ層]]〜[[第Ⅵ層]]を形成する(図2)<ref><pubmed> 22492350</pubmed></ref>。


 脳室帯で産まれたニューロンがどの層の形成に寄与するかは、それぞれの産まれた時期によって決まってくる。第Ⅱ層〜第Ⅵ層を形成するニューロンのうち、早くに産まれたニューロンほど深層の形成に寄与し、遅くに産まれた細胞ほど浅層の形成に寄与する。すなわち、遅くに産まれた細胞は、早くに産まれた細胞を追い越して、より表層に位置するようになる(inside-outパターン)。この移動様式の制御に深く関わるのが、第Ⅰ層に位置するカハール・レチウス細胞が産生する分泌性糖タンパク質のリーリンReelinである。リーリンを欠損するマウス変異体である[[リーラー]] [[Reeler]]では上述のinside-outパターンが崩れ、大まかにoutside-inのパターンを呈する<ref name=Terashima/>。なお、諸説あるもののリーリンの作用機序は不明である。大脳皮質の成熟とともに、細胞死によってカハール・レチウス細胞の数は著しく減少する。詳細はカハール・レチウス細胞の項を参照のこと。また、大脳皮質およびその発生についての詳細はそれぞれの項を参照されたい。  
 脳室帯で産まれたニューロンがどの層の形成に寄与するかは、それぞれの産まれた時期によって決まってくる。第Ⅱ層〜第Ⅵ層を形成するニューロンのうち、早くに産まれたニューロンほど深層の形成に寄与し、遅くに産まれた細胞ほど浅層の形成に寄与する。すなわち、遅くに産まれた細胞は、早くに産まれた細胞を追い越して、より表層に位置するようになる(inside-outパターン)。この移動様式の制御に深く関わるのが、第Ⅰ層に位置するカハール・レチウス細胞が産生する分泌性糖タンパク質のリーリンReelinである。リーリンを欠損するマウス変異体である[[リーラー]] [[Reeler]]では上述のinside-outパターンが崩れ、大まかにoutside-inのパターンを呈する<ref name=Terashima/>。なお、諸説あるもののリーリンの作用機序は不明である。大脳皮質の成熟とともに、細胞死によってカハール・レチウス細胞の数は著しく減少する。詳細はカハール・レチウス細胞の項を参照のこと。また、大脳皮質およびその発生についての詳細はそれぞれの項を参照されたい。  
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== 脊髄後角==
== 脊髄後角==


 脊髄の灰白質は蝶が羽根を広げたような形態をしており、背側部を後角 posterior horn, dorsal horn、腹側部を前角 [[anterior horn]], [[ventral horn]]という。その中間を[[中間帯]] [[intermediate zone]]([[側角]] [[lateral horn]])と呼ぶ。後角は層構造を呈し、背側から[[後角尖]] [[apex]]、[[後角頭]] [[head]]、[[後角頚部]] [[neck]]、[[後角底]] [[base]]からなる。後角尖は更に2層に分けることが出来、背側を[[海綿質]] [[substantia spongiosa]]または辺縁帯([[縁帯]])といい、腹側を[[膠様質]] [[substantia gelatinosa]]という。なお、脊髄灰白質はスウェーデンの神経学者[[wikipedia:Bror Rexed|Bror Rexed]]によってⅠ層からⅩ層に区分されている。Rexedの区分では辺縁帯はⅠ層にあたり、膠様質はⅡ層にあたる<ref>''' ジョン・H・マーティン=著、野村金子武嗣=監訳'''<br> マーティン 神経解剖学 テキストとアトラス 初版 <br>''西村書店(東京)'':2007</ref>。
[[ファイル:図3後角の辺縁帯.jpg|thumb|right|250px|図3 脊髄後角の辺縁帯]]
 脊髄の灰白質は蝶が羽根を広げたような形態をしており、背側部を後角 posterior horn, dorsal horn、腹側部を前角 [[anterior horn]], [[ventral horn]]という。その中間を[[中間帯]] [[intermediate zone]]([[側角]] [[lateral horn]])と呼ぶ。後角は層構造を呈し、背側から[[後角尖]] [[apex]]、[[後角頭]] [[head]]、[[後角頚部]] [[neck]]、[[後角底]] [[base]]からなる。後角尖は更に2層に分けることが出来、背側を[[海綿質]] [[substantia spongiosa]]または辺縁帯([[縁帯]])といい、腹側を[[膠様質]] [[substantia gelatinosa]]という(図3)。なお、脊髄灰白質はスウェーデンの神経学者[[wikipedia:Bror Rexed|Bror Rexed]]によってⅠ層からⅩ層に区分されている。Rexedの区分では辺縁帯はⅠ層にあたり、膠様質はⅡ層にあたる<ref>''' ジョン・H・マーティン=著、野村金子武嗣=監訳'''<br> マーティン 神経解剖学 テキストとアトラス 初版 <br>''西村書店(東京)'':2007</ref>。


 脊髄後角にあるニューロンは、[[後根神経節]]ニューロンからの[[体性感覚]]を受容する。辺縁帯では特に[[痛覚]]と[[温度覚]]を伝える神経線維([[A-δ線維]])の投射を受ける。  
 脊髄後角にあるニューロンは、[[後根神経節]]ニューロンからの[[体性感覚]]を受容する。辺縁帯では特に[[痛覚]]と[[温度覚]]を伝える神経線維([[A-δ線維]])の投射を受ける。  
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