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相互共分散関数の形状から、神経回路の機能的結合関係を推定することができると考えられている<ref name=perkel /><ref name=ostojic><pubmed> 19692598 </pubmed></ref>。例えば、ある二つの細胞の活動から計算した相互共分散関数が時間差0に幅の狭い大きなピークを持つ場合(図2)、二つの細胞は共通の興奮性入力を受け取っていると考えられる<ref><pubmed> 1000297 </pubmed></ref><ref name=toyama><pubmed> 6267211 </pubmed></ref>。相互共分散関数のピークの位置、幅を分析することにより、細胞間の興奮性結合や抑制性結合を推定することも可能である<ref name=perkel /><ref name=toyama /><ref><pubmed> 14711977 </pubmed></ref>。細胞 <math>X</math> から細胞 <math>Y</math> への興奮性結合の強度を定量化するために、細胞 <math>X</math> のスパイクの後どのくらいの割合で細胞 <math>Y</math> がスパイクを発射したか(efficacy)や、細胞 <math>Y</math> が発射したスパイクのうちどのくらいの割合が細胞 <math>X</math> のスパイクの後に発生したか(contribution)といった指標が用いられる<ref><pubmed> 5028229 </pubmed></ref>。 | |||
相互相関解析は機能的結合を間接的に推定する方法であるため、結果の解釈には曖昧性が残る可能性が指摘されている<ref name=perkel /><ref name=ostojic /><ref name=brody><pubmed> 10490937 </pubmed></ref>。例えばシミュレーションによって、異なるメカニズムで働く神経回路から同じようなピーク位置、幅を持つ相互相関関数が得られる場合があることが示されている<ref name=brody />。 | 相互相関解析は機能的結合を間接的に推定する方法であるため、結果の解釈には曖昧性が残る可能性が指摘されている<ref name=perkel /><ref name=ostojic /><ref name=brody><pubmed> 10490937 </pubmed></ref>。例えばシミュレーションによって、異なるメカニズムで働く神経回路から同じようなピーク位置、幅を持つ相互相関関数が得られる場合があることが示されている<ref name=brody />。 |
2013年7月12日 (金) 15:32時点における版
塩崎 博史
独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年5月14日 原稿完成日:2012年8月16日
担当編集委員:藤田 一郎(大阪大学 大学院生命機能研究科)
英語名:cross-correlation analysis
相互相関解析とは、二つの時系列信号の類似度を評価することで、信号間の関係(同期している、片方が遅れている、無関係である等)を検討する方法である。類似度の評価に相互相関関数を用いることから、その名がついた。神経科学の分野においては、主に細胞間の機能的結合を推定する目的で、同時計測した二つの神経細胞の活動に対して相互相関解析が行われる。
解析方法
相互相関関数の定義は学問分野、研究者によって異なる。ここでは神経科学の分野でしばしば用いられる定義について述べる。
ある二つの神経細胞の活動(例えば活動電位の発生タイミング)を同時に計測したとする。計測期間を 個のビンに区切り、 番目のビンにおけるある細胞の活動を で、もう一つの細胞の活動を で表す。このとき と の相互相関関数(相互相関ヒストグラム) は、次のように定義される。
ここで は と の間の時間差(time-lag)を表す。相互相関関数は、細胞 の活動と細胞 の活動との時間的関係性を反映する(図1)。
神経活動はしばしば確率過程としてモデル化される。この場合、相互相関関数の値は複数の統計量(細胞活動の平均や共分散)を反映する。例えば、二つの細胞の活動が独立、つまり共分散が0であっても、両細胞の活動の平均が時間的に同じように変化すると、相互相関関数は時間差0で最大となる場合がある。実験データから計算した相互相関関数と、二つの細胞の活動が独立である場合に期待される相互相関関数(帰無仮説)の差を取ることで、(いくつかの仮定のもとに)二つの細胞の活動が独立かどうかを統計的に検討することができる[1]。この差は相互共分散関数 と呼ばれる。
ここで と は 番目のビンにおける細胞 と細胞 の活動の平均を表す。相互共分散関数は、細胞 の活動と細胞 の活動の間の相関(共分散)の度合いを表す(図2)。関数 のことを相互相関関数と呼ぶ場合もあるので、注意が必要である。細胞活動の平均の変化が感覚入力によって引き起こされている場合、細胞活動の平均の積(帰無仮説)を信号相関、相互共分散関数をノイズ相関と呼ぶ。なお、上のように定義した相互共分散関数の値は計測時間や平均活動度の違いによって変化する。異なる実験間で結果を比較するために、相互共分散関数を総スパイク数、細胞活動の平均、分散等で割ることで正規化する場合がある[2]。
実際の実験においては、細胞活動の平均 、 は未知であるので、帰無仮説は計測した細胞活動をもとに設定しなければならない[1]。帰無仮説の設定は、同じ感覚刺激を繰り返し与えることで得た細胞活動データを用いて行う。通常、片方の細胞活動データの試行番号をランダムに並べ替えたり、試行番号を1つずらすことで、細胞活動が独立であった場合に得られるであろう相互相関関数を計算する。前者の帰無仮説設定法により得た相互共分散関数をシャッフル補正相互相関ヒストグラム(shuffle-corrected cross-correlogram)、後者の方法により得た相互共分散関数をシフト補正相互相関ヒストグラム(shift-corrected cross-correlogram)と呼ぶ。なお、スパイク活動の相関の有意性検定については、上記以外にも数多くの帰無仮説設定方法が考案されている[3]。
相互相関解析はスパイク活動の他、膜電位、膜電流、カルシウム応答などに適用されている。
解釈
相互共分散関数の形状から、神経回路の機能的結合関係を推定することができると考えられている[1][4]。例えば、ある二つの細胞の活動から計算した相互共分散関数が時間差0に幅の狭い大きなピークを持つ場合(図2)、二つの細胞は共通の興奮性入力を受け取っていると考えられる[5][6]。相互共分散関数のピークの位置、幅を分析することにより、細胞間の興奮性結合や抑制性結合を推定することも可能である[1][6][7]。細胞 から細胞 への興奮性結合の強度を定量化するために、細胞 のスパイクの後どのくらいの割合で細胞 がスパイクを発射したか(efficacy)や、細胞 が発射したスパイクのうちどのくらいの割合が細胞 のスパイクの後に発生したか(contribution)といった指標が用いられる[8]。
相互相関解析は機能的結合を間接的に推定する方法であるため、結果の解釈には曖昧性が残る可能性が指摘されている[1][4][9]。例えばシミュレーションによって、異なるメカニズムで働く神経回路から同じようなピーク位置、幅を持つ相互相関関数が得られる場合があることが示されている[9]。
参考文献
- ↑ 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4
Perkel, D.H., Gerstein, G.L., & Moore, G.P. (1967).
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