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====   受容体と細胞内シグナル  ====
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 Nogo受容体はGPIアンカー型蛋白であり、細胞内ドメインを持っていない。したがってNogo受容体は神経細胞内にシグナルを伝達することができないため、シグナル伝達を担う別の受容体がNogo受容体と共受容体を形成しているのではないかと考えられた。<br>その頃、私たちはニューロトロフィンの研究を行っていた。ニューロトロフィンとは神経成長因子と訳されるとおり、神経の発生段階において分化や機能発現に重要な役割を担っている。ニューロトロフィンの受容体は2種類存在するが、当時私たちは機能の良く分かっていなかったp75受容体に興味をもっていた。P75受容体は細胞死を引き起こす一方で生存に働くことがあり、また神経軸索の伸展を促すなど多彩な機能を使い分けている不思議な受容体であったからである。特に発生時においてp75は、主として末梢神経の軸索伸展を促進している20)。その後私たちは、このp75がMAGのシグナルを神経細胞に伝える受容体であることを見い出した(図5)21)。P75を欠失しているマウスの神経細胞はMAGに対する反応性を失ったのである。<br>p75がMAGのシグナルを伝える因子であれば、p75とNogo受容体は共受容体を形成し、MAGのみならずNogoとOMgpのシグナルも伝えていることが予測される。その仮説は直ちに検証され、Heらによって正しいことが証明された22)。こうしてp75は再生阻害のキープレーヤーであると考えられるようになった(図5)。<br>それではp75を介してどのような細胞内シグナルが形成されるのだろうか。 ニューロトロフィンがp75に作用して軸索の伸展を促すメカニズムは、Rhoの不活性化である20)。Rhoはアクチン骨格系あるいはチューブリンを制御することによって、細胞の形態形成の鍵となる蛋白である(図5)。Rhoがミエリン由来蛋白の効果に関わっているだろうとは以前から予想されていた。Rhoを不活性化するボツリヌス毒C3により、ミエリンの再生阻害作用は消失する。事実MAGにより神経細胞内でRhoが活性化されることが証明された21)。さらにメカニズム解析がなされ、p75によりRhoとRhoの活性化阻害蛋白であるRho guanine nucleotide dissociation inhibitor(Rho GDI)が解離することでRhoが活性化に導かれる事実が判明した23)。<br>しかしながらp75/Nogo受容体のみでは、ある種の細胞ではリガンドで刺激してもRhoが活性化しない。必要ではあるが十分ではないということである。そこでLingo-1が新しいp75/Nogo受容体コンポーネントの仲間入りした24)。この受容体がどのようにシグナル伝達に関わっているかについては明らかではないが、p75/Nogo受容体/Lingo-1という受容体複合によりRhoが活性化されて、軸索伸展が阻止されるという基本モデルが完成した(図5)。  
 Nogo受容体はGPIアンカー型蛋白であり、細胞内ドメインを持っていない。したがってNogo受容体は神経細胞内にシグナルを伝達することができないため、シグナル伝達を担う別の受容体がNogo受容体と共受容体を形成しているのではないかと考えられた。<br> その頃、山下(現大阪大学教授)らは機能の良く分かっていなかった神経栄養因子の受容体であるp75受容体の発生時にける役割を明らかにした。p75は、主として末梢神経の軸索伸展を促進していることが報告された<ref>Yamashita, T., Tucker, K.L., Barde, Y.A.: Neuron, 24: 585-593 (1999)</ref>。その後、山下等はこのp75が軸索伸展阻害因子の一つMAG(Myelin Associated Glycoprotein)のシグナルを神経細胞に伝える受容体であることを見い出した<ref>Yamashita, T., Higuchi, H., Tohyama, M.: J. Cell Biol., 157, 565-570 (2002)</ref>。P75を欠失しているマウスの神経細胞はMAGに対する反応性を失ったのである。<br>p75がMAGのシグナルを伝える因子であれば、p75とNogo受容体は共受容体を形成し、MAGのみならずNogoとOMgpのシグナルも伝えていることが予測される。その仮説は直ちに検証され、Heらによって正しいことが証明された<ref>Wang, K.C., et al.: Nature, 420, 72-78  (2002)</ref>。こうしてp75は再生阻害のキープレーヤーであると考えられるようになった。<br>それではp75を介してどのような細胞内シグナルが形成されるのだろうか。 ニューロトロフィンがp75に作用して軸索の伸展を促すメカニズムは、Rhoの不活性化である<ref>Yamashita, T., Tucker, K.L., Barde, Y.A.: Neuron, 24: 585-593 (1999)</ref>。Rhoはアクチン骨格系あるいはチューブリンを制御することによって、細胞の形態形成の鍵となる蛋白である(図5)。Rhoがミエリン由来蛋白の効果に関わっているだろうとは以前から予想されていた。Rhoを不活性化するボツリヌス毒C3により、ミエリンの再生阻害作用は消失する。事実MAGにより神経細胞内でRhoが活性化されることが証明された21)。さらにメカニズム解析がなされ、p75によりRhoとRhoの活性化阻害蛋白であるRho guanine nucleotide dissociation inhibitor(Rho GDI)が解離することでRhoが活性化に導かれる事実が判明した23)。<br>しかしながらp75/Nogo受容体のみでは、ある種の細胞ではリガンドで刺激してもRhoが活性化しない。必要ではあるが十分ではないということである。そこでLingo-1が新しいp75/Nogo受容体コンポーネントの仲間入りした24)。この受容体がどのようにシグナル伝達に関わっているかについては明らかではないが、p75/Nogo受容体/Lingo-1という受容体複合によりRhoが活性化されて、軸索伸展が阻止されるという基本モデルが完成した(図5)。  


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