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<font size="+1">[http://researchmap.jp/atsushinambu 南部 篤]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/atsushinambu 南部 篤]</font><br> | ||
''自然科学研究機構 生理学研究所''<br> | ''自然科学研究機構 生理学研究所''<br> | ||
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年2月4日 原稿完成日:2013年月日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadashiisa 伊佐 正](自然科学研究機構 生理学研究所)<br> | ||
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IUPAC名:1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine <br> | |||
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疾患モデルを作成するため、長年、パーキンソン病を発症させる[[神経毒]]の探索が続いていたが、良い候補は見つかっていなかった。しかし、以下のような皮肉な事件によりMPTPが「発見」されることになった。 | 疾患モデルを作成するため、長年、パーキンソン病を発症させる[[神経毒]]の探索が続いていたが、良い候補は見つかっていなかった。しかし、以下のような皮肉な事件によりMPTPが「発見」されることになった。 | ||
[[麻薬]]常習者の大学院生が、合成[[ヘロイン]]である[[ | [[麻薬]]常習者の大学院生が、合成[[ヘロイン]]である[[wikipedia: Desmethylprodine|1-methyl-4-phenyl-propionoxy-piperidine]] (MPPP)を自宅の実験室で合成し、自分で注射していたところ、1976年、重篤なパーキンソン病を発症した。ある時から、合成段階でいくつかの手抜きをしたため、副生成物質が混入したためと思われる。症状は典型的なパーキンソン病で、[[L-ドーパ]]が著効を示した。その後、麻薬過剰摂取で死亡したため剖検したところ、[[黒質細胞]]脱落、[[レビー小体]]陽性など病理的にもパーキンソン病であった。しかし原因物質を特定するまでには至らず、この報告は注目されなかった<ref><pubmed> 298352</pubmed></ref>。 | ||
その後、1982年、北カリフォルニアで4人の若い麻薬常習者が、新しい合成ヘロインを入手し連用したところ、重度の無動を示すパーキンソン病を発症した。この合成ヘロインを分析したところMPTPが発見され、これを実験動物([[ | その後、1982年、北カリフォルニアで4人の若い麻薬常習者が、新しい合成ヘロインを入手し連用したところ、重度の無動を示すパーキンソン病を発症した。この合成ヘロインを分析したところMPTPが発見され、これを実験動物([[wikipedia:ja:サル|サル]])に投与したところ、パーキンソン病様症状を呈したため、MPTPが原因物質として確定した<ref><pubmed>6823561</pubmed></ref><ref> '''J William Langston, Jon Palfreman'''<br>The Case of the Frozen Addicts 309 pp. <br>''New York, Pantheon,'' 1996</ref>。 | ||
==作用機序== | ==作用機序== | ||
MPTPが脳内に入ると、[[ | MPTPが脳内に入ると、[[グリア細胞]]内で[[モノアミン酸化酵素]]B (MAO-B)によって酸化されMPP<sup>+</sup>になり、これがドーパミン作動性ニューロンに取り込まれ、[[ミトコンドリア]]の代謝を阻害するため、細胞が変性すると考えられる(図)。 | ||
==意義== | ==意義== | ||
このMPTPの「発見」により、ドーパミン作動性ニューロンが変性・脱落するメカニズムの解明が進んだ。また、主に[[ | このMPTPの「発見」により、ドーパミン作動性ニューロンが変性・脱落するメカニズムの解明が進んだ。また、主に[[wikipedia:ja:霊長類|霊長類]]にMPTPを投与しパーキンソン病モデルを作成することにより、パーキンソン病の病態の解明<ref name=ref4><pubmed>1695404</pubmed></ref>、[[定位脳手術]]や[[脳深部刺激療法]](DBS)などの治療法の開発<ref><pubmed>2402638</pubmed></ref>などにつながった。さらには、パーキンソン病の原因として、内在性・外来性のMPTP類似物質、例えば[[wikipedia:ja:除草剤|除草剤]]などによる原因説も復興した。 | ||
==毒性== | ==毒性== | ||
ヒトを含む霊長類は感受性が高く、[[ラット]]は低く、[[マウス]]、[[ネコ]] | ヒトを含む霊長類は感受性が高く、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]は低く、[[wikipedia:ja:マウス|マウス]]、[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]]は、その中間の感受性を示す。MPTPが揮発性・脂溶性であることから、[[wikipedia:ja:皮膚|皮膚]]、[[wikipedia:ja:呼吸器|呼吸器]]などから吸収され易く[[血液脳関門]]も通過し易い、さらに動物に投与した場合、一部、代謝されないまま排泄されるなど、取り扱いに注意を要する<br><ref><pubmed> 11238711</pubmed></ref>。 | ||
==関連語== | ==関連語== | ||
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==外部リンク== | ==外部リンク== | ||
*[http://www.youtube.com/watch?v= | *[http://www.youtube.com/watch?v=QJIMC9d9l2o BBC Horizon Awakening the Frozen Addicts (1993)] | ||
==参考文献 == | ==参考文献 == | ||
<references/> | <references/> | ||