「脳神経倫理学」の版間の差分

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===基礎的・哲学的問題===
===基礎的・哲学的問題===
====人間の概念の変容====
====人間の概念の変容====
 脳神経科学技術を用いることで、本来の人間とはいかなるものかという概念が変容することに関する問題。哲学的議論の中では、拡張された心の理論(extended mind theory)などによって議論が展開されており、例えば、脳神経科学技術を用いた外部機器を用いて記憶を行うことは、当人の脳を延長した一部として捉えることが出来るのではないか、ということが問題となる<ref name=ref16>'''樋口範雄'''編<br>ケース・スタディ生命倫理と法 第2版<br>''有斐閣''、2012</ref>。つまり、このような外部機器が記憶の補助を行うことで、どこからどこまでが人間の脳(心)なのかという線引きが曖昧になり、本来の人間の脳(心)の位置づけや意味合いに変容がもたらされる可能性がある。
 脳神経科学技術を用いることで、本来の人間とはいかなるものかという概念が変容することに関する問題。哲学的議論の中では、拡張された心の理論(extended mind theory)などによって議論が展開されており、例えば、脳神経科学技術を用いた外部機器が、記憶などの人間の精神活動に関わる高次脳機能の補助的役割を担うことは、当人の脳を延長した一部として捉えることが出来るのではないか、ということが問題となる<ref name=ref16>'''樋口範雄'''編<br>ケース・スタディ生命倫理と法 第2版<br>''有斐閣''、2012</ref>。つまり、このような外部機器が記憶の補助を行うことで、どこからどこまでが人間の脳(心)なのかという線引きが曖昧になり、本来の人間の脳(心)の位置づけや意味合いに変容がもたらされる可能性がある。


====エンハンスメント<ref name=ref12>'''信原幸弘, 原塑'''編<br>脳神経倫理学の展望<br>''勁草書房''、2008.</ref> ====
====エンハンスメント<ref name=ref12>'''信原幸弘, 原塑'''編<br>脳神経倫理学の展望<br>''勁草書房''、2008.</ref> ====
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 マインドリーディングとも密接に関わる問題であり、外部から当人の考えや意志決定などを操作することを意味する。特に、当人の望まない状況下での心や思考の操作が問題となる。
 マインドリーディングとも密接に関わる問題であり、外部から当人の考えや意志決定などを操作することを意味する。特に、当人の望まない状況下での心や思考の操作が問題となる。


====自由意志と責任帰属<ref>'''Garland, B.''' ed.<br>Neuroscience and the Law: Brain, Mind, and the Scales of Justice. <br>''Dana Press'', New York, 2004<br>(古谷和, 久村典子訳:脳科学と倫理と法―神経倫理学入門、''みすず書房''、2007)</ref>====
====自由意志と責任帰属====
 人間が自由意志を有しているのかについては哲学史上、長い議論の歴史がある。脳神経科学の発展によって、自由意志と責任帰属の問題は日常生活にまで影響を及ぼす可能性がある。これは、当人自体と当人の脳状態によってどこまで責任が当人自体に帰属されるのかということに関わる問題であり、特に裁判過程などにおいて被疑者の脳状態によって責任帰属の問題が生じるなど、法的な諸手続の際に具体的な問題が生じる可能性がある。
 人間が自由意志を有しているのかについては哲学史上、長い議論の歴史がある。脳神経科学の発展によって、自由意志と責任帰属の問題は日常生活にまで影響を及ぼす可能性がある。これは、当人自体と当人の脳状態によってどこまで責任が当人自体に帰属されるのかということに関わる問題であり、特に裁判過程などにおいて被疑者の脳状態によって責任帰属の問題が生じるなど、法的な諸手続の際に具体的な問題が生じる可能性がある。


=== 臨床・応用的問題===
=== 臨床・応用的問題===
====研究参加における偶発的所見<ref><pubmed> 22436882 </pubmed></ref>====
====研究参加における偶発的所見====
 [[wj:臨床検査|臨床検査]]や治療の過程ではなく研究段階の被験者の脳画像に異変が偶然発見されることを指し、どこまで被験者にその結果をフィードバックするのか、とくに実験者が医師でない場合の判断基準が難しいとされる。現在では、[[MRI]]画像読影時にこの問題が生じる可能性が高く、どのような対処が妥当なのか検討されている。また関連して、被験者が研究に参加していることで検査や治療の機会だと誤解し、そのことを過剰に期待する「治療的誤認(therapeutic misconception )」も問題となっている。
 [[wj:臨床検査|臨床検査]]や治療の過程ではなく研究段階の被験者の脳画像に異変が偶然発見されることを指し、どこまで被験者にその結果をフィードバックするのか、とくに実験者が医師でない場合の判断基準が難しいとされる。現在では、[[MRI]]画像読影時にこの問題が生じる可能性が高く、どのような対処が妥当なのか検討されている。また関連して、被験者が研究に参加していることで検査や治療の機会だと誤解し、そのことを過剰に期待する「治療的誤認(therapeutic misconception )」も問題となっている。


====被験者・患者保護とインフォームド・コンセント(IC)<ref name=ref3>'''Illess, J.''' ed.<br>Neuroethics: Defining the Issues in Theory, Practice And Policy. <br>''Oxford University Press'', Oxford, 2005.<br>(高橋隆雄、粂和彦監訳:脳神経倫理学―理論・実践・政策上の諸問題、''篠原出版新社''、2009.)</ref><ref><pubmed> 22436882 </pubmed></ref>====
====被験者・患者保護とインフォームド・コンセント(IC)====
 被験者や患者にどのように事前説明を行い、彼/彼女らを保護するのかに関わる問題である。被験者保護の問題は、生命倫理学や研究倫理などでも長年議論されており、研究・臨床問わず、被験者や患者へどのように事前説明を行い承諾を得るのか、またICによって被験者や患者はどのように保護されるべきかに関する問題である。
 被験者や患者にどのように事前説明を行い、彼/彼女らを保護するのかに関わる問題である。被験者保護の問題は、生命倫理学や研究倫理などでも長年議論されており、研究・臨床問わず、被験者や患者へどのように事前説明を行い承諾を得るのか、またICによって被験者や患者はどのように保護されるべきかに関する問題である。


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