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<font size="+1">森 達也、[http://researchmap.jp/read0080380 上口 裕之]</font><br> | |||
''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年4月20日 原稿完成日:2012年5月17日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br> | |||
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成長円錐は伸長中の[[神経突起]]の先端部に見られるアメーバ状の構造物である(図1)。19世紀にスペインの神経科学者[[wikipedia:ja: サンティアゴ・ラモン・イ・カハール|Ramón y Cajal]]により、固定染色した神経組織において[[神経軸索]]先端部に円錐状の構造が発見され、growth cone=成長円錐と名付けられた。2次元基質上で培養した場合は薄く扁平な形態をとり、多くが伸長中の神経軸索の先端に存在するが[[樹状突起]]の先端にも存在する。また、PC12細胞やN1E-115細胞のような[[細胞株|株化細胞]]から伸びる神経突起様構造物の先端にも見られる。軸索の成長円錐の場合、標的神経細胞の樹状突起や組織へと到達した後は形態変化を起こし[[シナプス前部]]となる。成長円錐は極めて高い運動性を示し、[[細胞骨格]]や[[接着分子]]、[[膜輸送]]経路の制御を通じて前方へと移動し、神経突起を牽引することで伸長させる。また、成長円錐の形質膜には[[軸索ガイダンス因子]]に対する受容体が多数発現しており、軸索の成長円錐は細胞外環境に存在する軸索ガイダンス因子に応じてその運動性と進行方向を変化させ、神経軸索を正しい標的細胞へと投射させる。 | |||
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[[Image:成長円錐全体.png|thumb|250px|'''図1 2次元基質上で培養したニワトリ胚後根神経節神経細胞の微分干渉顕微鏡像''']] | [[Image:成長円錐全体.png|thumb|250px|'''図1 2次元基質上で培養したニワトリ胚後根神経節神経細胞の微分干渉顕微鏡像''']] | ||
英語名: Growth cone 独:Wachstumskegel 仏:cône axonique、cône d'émergence de l'axone | 英語名: Growth cone 独:Wachstumskegel 仏:cône axonique、cône d'émergence de l'axone | ||
== 構造 == | == 構造 == | ||
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== 成長円錐前進運動の分子メカニズム == | == 成長円錐前進運動の分子メカニズム == | ||
[[Image:軸索伸長.png|thumb|400px| | [[Image:軸索伸長.png|thumb|400px|'''図3 成長円錐の前方移動'''<br>成長円錐は①糸状仮足の形成、②葉状仮足の伸展による周辺部の拡大、③中心部の後方からの侵入、という過程を経て前方移動を行う。]] | ||
成長円錐は①周辺部先端での糸状仮足の形成・伸長、②糸状仮足間への葉状仮足の流れ込みによる周辺部の拡大、③後方からの中心部の侵入、という3つの過程を繰り返すことで前方へと移動していく(図3)。この成長円錐の前方移動の分子メカニズムとして、[[クラッチ仮説]]が有力なものとして提唱されている<ref><pubmed> 10934316 </pubmed></ref>。クラッチ仮説ではアクチン線維の後方移動と成長円錐形質膜上に発現する接着分子、接着分子とアクチン線維をつなぐ[[クラッチ分子]]、接着分子のリサイクリングが協調して働き、成長円錐が前方に移動すると説明される。 | 成長円錐は①周辺部先端での糸状仮足の形成・伸長、②糸状仮足間への葉状仮足の流れ込みによる周辺部の拡大、③後方からの中心部の侵入、という3つの過程を繰り返すことで前方へと移動していく(図3)。この成長円錐の前方移動の分子メカニズムとして、[[クラッチ仮説]]が有力なものとして提唱されている<ref><pubmed> 10934316 </pubmed></ref>。クラッチ仮説ではアクチン線維の後方移動と成長円錐形質膜上に発現する接着分子、接着分子とアクチン線維をつなぐ[[クラッチ分子]]、接着分子のリサイクリングが協調して働き、成長円錐が前方に移動すると説明される。 | ||
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=== 接着分子のリサイクリング === | === 接着分子のリサイクリング === | ||
アクチン線維と結合した接着分子は、アクチン線維の後方移動に伴って成長円錐中心部へと運ばれてしまう。成長円錐ではその前方移動を恒常的に維持するため、[[Image:クラッチメカニズム.png|thumb|500px| | アクチン線維と結合した接着分子は、アクチン線維の後方移動に伴って成長円錐中心部へと運ばれてしまう。成長円錐ではその前方移動を恒常的に維持するため、[[Image:クラッチメカニズム.png|thumb|500px|'''図4 成長円錐内における接着分子のリサイクリング機構'''<br>接着分子は①先端部での基質との接着、②中心部への移動、③細胞内への取り込み、④先端部への輸送、⑤先端部での形質膜への再挿入、という過程でリサイクリングされると考えられている。]]後方へ移動した接着分子を周辺環境から脱着し、再び成長円錐先端部へと輸送し再利用する機構が存在すると考えられている。例えば、アクチン線維の後方移動により中心部に到達したL1は、[[クラスリン]](clathrin)依存的[[エンドサイトーシス]]によって膜小胞に取り込まれた後、微小管のガイドによって細胞質内を成長円錐先端部まで輸送され、形質膜に再挿入される<ref><pubmed> 10804209</pubmed></ref><ref><pubmed> 11717353</pubmed></ref>。このように接着分子は、①成長円錐先端部での基質との接着、②アクチン線維の後方移動に伴う成長円錐中心部への移動、③基質からの脱着と成長円錐内への取り込み、④成長円錐先端部への輸送、⑤先端部での形質膜への再挿入、という過程でリサイクルされており、成長円錐の恒常的な前進運動の分子基盤となっていると考えられている(図4)。 | ||
== 成長円錐と軸索ガイダンス == | == 成長円錐と軸索ガイダンス == | ||
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==== モルフォゲン ==== | ==== モルフォゲン ==== | ||
初期発生における未分化な細胞に対しその発生運命を決定する因子を[[モルフォゲン]](morphogen)といい、代表的なものとして[[ヘジホッッグ]](hedgehog)、[[Wnt]]、[[TGF-β]]、[[ | 初期発生における未分化な細胞に対しその発生運命を決定する因子を[[モルフォゲン]](morphogen)といい、代表的なものとして[[ヘジホッッグ]](hedgehog)、[[Wnt]]、[[TGF-β]]、[[骨形成因子]] (BMP)などの分泌性タンパク質が知られている。近年、モルフォゲンが軸索ガイダンス因子として機能することが報告されている。例えば、[[脊髄蓋板]]から分泌され交連神経等の[[脊髄背側介在神経細胞]]への運命決定を司るBMPは、[[細胞分化|分化]]した交連神経の軸索に対しては反発性ガイダンス因子として機能する<ref><pubmed> 10677032 </pubmed></ref>。また、底板から分泌されるソニックヘッジホッグ(sonic hedgehog)は、ネトリン-1とともに交連軸索に対する誘因性ガイダンス因子としてはたらく<ref><pubmed> 12679031 </pubmed></ref>。 | ||
==== 神経栄養因子 ==== | ==== 神経栄養因子 ==== | ||
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==== 膜トラフィッキング ==== | ==== 膜トラフィッキング ==== | ||
[[Image:旋回方向決定.png|thumb|450px| | [[Image:旋回方向決定.png|thumb|450px|'''図5 成長円錐の転向方向を規定する要因の例''']] | ||
近年、エキソサイトーシスやエンドサイトーシスといった細胞膜トラフィッキングも軸索ガイダンス因子が誘導する成長円錐の転向運動に関与することが報告されている<ref><pubmed>21386859</pubmed></ref>。これまでの見解として、誘引性ガイダンス因子ではエキソサイトーシスが、反発性ガイダンス因子ではエンドサイトーシスがそれぞれ非対称に成長円錐内で活性化され、成長円錐は転向運動を呈すると考えられている。また、人為的にエンドサイトーシスやエキソサイトーシスを成長円錐の片側で促進あるいは阻害すると成長円錐の転向運動が誘導されるという報告もあり<ref><pubmed>20471350</pubmed></ref>、軸索ガイダンス因子は成長円錐内のエキソサイトーシス/エンドサイトーシスの空間的なバランスを制御することで、成長円錐の転向運動の方向性を規定すると考えられる(図5)。 | 近年、エキソサイトーシスやエンドサイトーシスといった細胞膜トラフィッキングも軸索ガイダンス因子が誘導する成長円錐の転向運動に関与することが報告されている<ref><pubmed>21386859</pubmed></ref>。これまでの見解として、誘引性ガイダンス因子ではエキソサイトーシスが、反発性ガイダンス因子ではエンドサイトーシスがそれぞれ非対称に成長円錐内で活性化され、成長円錐は転向運動を呈すると考えられている。また、人為的にエンドサイトーシスやエキソサイトーシスを成長円錐の片側で促進あるいは阻害すると成長円錐の転向運動が誘導されるという報告もあり<ref><pubmed>20471350</pubmed></ref>、軸索ガイダンス因子は成長円錐内のエキソサイトーシス/エンドサイトーシスの空間的なバランスを制御することで、成長円錐の転向運動の方向性を規定すると考えられる(図5)。 | ||
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