「上皮成長因子」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0191450 若松 義雄]</font><br>
''東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月9日 原稿完成日:2012年7月5日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br>
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{{PBB|geneid=1950}}
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英語名:epidermal growth factor 英語略称名:EGF 独:epidermaler Wachstumsfaktor 仏:le facteur de croissance épidermique
英語名:epidermal growth factor 英語略称名:EGF 独:epidermaler Wachstumsfaktor 仏:le facteur de croissance épidermique


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 [[wikipedia:epidermal_growth_factor|EGF]]は、1962年にCohenによって[[wikipedia:JA:マウス|マウス]]新生仔に注射すると早く目が開き[[wikipedia:JA:切歯|切歯]]が生えてくる[[wikipedia:JA:唾液|唾液]]腺抽出物に含まれる活性として報告された<ref><pubmed> 13880319 </pubmed></ref>。その後、[[wikipedia:JA:胃酸|胃酸]]の分泌を抑制する[[wikipedia:JA:小腸|小腸]]粘膜由来の物質として[[ウロガストロン]]という名前で分子として同定された<ref><pubmed> 1161035 </pubmed></ref>。53アミノ酸からなる[[wikipedia:JA:ポリペプチド|ポリペプチド]]で、1217アミノ酸という大きな[[wikipedia:JA:グリコシル化|グリコシル化]]された膜貫通型[[wikipedia:JA:前駆体|前駆体]]タンパク質から切り出されて分泌される。この前駆体自身も後述の[[上皮成長因子受容体]]に結合することができ、細胞間の接触によっても[[シグナル]]の活性化をおこなうことが可能である。
 [[wikipedia:epidermal_growth_factor|EGF]]は、1962年にCohenによって[[wikipedia:JA:マウス|マウス]]新生仔に注射すると早く目が開き[[wikipedia:JA:切歯|切歯]]が生えてくる[[wikipedia:JA:唾液|唾液]]腺抽出物に含まれる活性として報告された<ref><pubmed> 13880319 </pubmed></ref>。その後、[[wikipedia:JA:胃酸|胃酸]]の分泌を抑制する[[wikipedia:JA:小腸|小腸]]粘膜由来の物質として[[ウロガストロン]]という名前で分子として同定された<ref><pubmed> 1161035 </pubmed></ref>。53アミノ酸からなる[[wikipedia:JA:ポリペプチド|ポリペプチド]]で、1217アミノ酸という大きな[[wikipedia:JA:グリコシル化|グリコシル化]]された膜貫通型[[wikipedia:JA:前駆体|前駆体]]タンパク質から切り出されて分泌される。この前駆体自身も後述の[[上皮成長因子受容体]]に結合することができ、細胞間の接触によっても[[シグナル]]の活性化をおこなうことが可能である。
}}


==シグナル伝達 ==
==シグナル伝達 ==
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== 神経系における活性 ==
== 神経系における活性 ==


 多くの受容体チロシンキナーゼに対するリガンドと同様、EGFは細胞増殖や細胞の生存を促進する活性を持つ<ref name=ref3/>。EGFRのノックアウトマウスでは[[大脳皮質]]の[[神経新生]]が低下することから、EGFRシグナルが[[神経前駆細胞]]の増殖や生存に重要な役割を持っていることが示されている。また、成体[[wikipedia:JA:ラット|ラット]]脳へのEGF投与は[[側脳室]]の[[脳室下帯]](subventricular zone(SVZ))における前駆細胞の増加をうながす。しかし、TGFαの[[ノックアウトマウス]]でSVZの前駆細胞の増殖が大きく損なわれることから、正常時にSVZの前駆細胞の増殖を活性化しているのは、TGFα/EGFRの組み合わせかもしれない。
 多くの受容体チロシンキナーゼに対するリガンドと同様、EGFは[[細胞増殖]]や細胞の生存を促進する活性を持つ<ref name=ref3/>。EGFRのノックアウトマウスでは[[大脳皮質]]の[[神経新生]]が低下することから、EGFRシグナルが[[神経前駆細胞]]の増殖や生存に重要な役割を持っていることが示されている。また、成体[[wikipedia:JA:ラット|ラット]]脳へのEGF投与は[[側脳室]]の[[脳室下帯]](subventricular zone(SVZ))における前駆細胞の増加をうながす。しかし、TGFαの[[ノックアウトマウス]]でSVZの前駆細胞の増殖が大きく損なわれることから、正常時にSVZの前駆細胞の増殖を活性化しているのは、TGFα/EGFRの組み合わせかもしれない。


 一方で、[[ドーパミン]]作動性ニューロンの投射がSVZ前駆細胞にコンタクトしており、ドーパミン受容体の活性化によって前駆細胞細胞の増殖を促進していること、SVZの神経前駆細胞自体がEGFを発現しており、EGFRの[[阻害剤]]によってドーパミンによる増殖促進効果が抑制されることから、ドーパミンがEGFの発現誘導を介してSVZ神経前駆細胞の増殖を促進している可能性が示唆されている<ref><pubmed> 19713754 </pubmed></ref>。
 一方で、[[ドーパミン]]作動性ニューロンの投射がSVZ前駆細胞にコンタクトしており、ドーパミン受容体の活性化によって前駆細胞細胞の増殖を促進していること、SVZの神経前駆細胞自体がEGFを発現しており、EGFRの[[阻害剤]]によってドーパミンによる増殖促進効果が抑制されることから、ドーパミンがEGFの発現誘導を介してSVZ神経前駆細胞の増殖を促進している可能性が示唆されている<ref><pubmed> 19713754 </pubmed></ref>。
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<references/>
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(執筆者:若松義雄 担当編集委員:大隅典子)