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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0123657 脇 紀彦]、早坂 孝宏、[http://researchmap.jp/setou 瀬藤 光利]</font><br> | |||
''浜松医科大学 解剖学講座 細胞生物学分野''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月30日 原稿完成日:2012年8月6日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br> | |||
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英:mass spectrometer 英略語:MS 独:Massenspektrometrie 仏:spectrométrie de masse | 英:mass spectrometer 英略語:MS 独:Massenspektrometrie 仏:spectrométrie de masse | ||
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質量分析計は[[wikipedia:ja:気相イオン|気相イオン]]の[[wikipedia:ja:質量電荷比|質量電荷比]](''m/z'')と存在量を測定する装置である<ref>'''J H Gross (日本質量分析学会出版委員会訳)'''<br>マススペクトロメトリー<br>シュプリンガー:2007</ref>。質量分析計はイオン源、質量分析部、検出部から構成される。イオン源で化合物は[[wikipedia:ja:イオン化|イオン化]]され、質量分析部方向に加速される。イオンは質量分析部で''m/z''に従い分離され、検出部で検出される。質量分析計の装置構成を表記する際に特に重要となるのは、イオン源と質量分析部の種類である。ここではそれぞれの代表的な動作原理について説明する。 | 質量分析計は[[wikipedia:ja:気相イオン|気相イオン]]の[[wikipedia:ja:質量電荷比|質量電荷比]](''m/z'')と存在量を測定する装置である<ref>'''J H Gross (日本質量分析学会出版委員会訳)'''<br>マススペクトロメトリー<br>シュプリンガー:2007</ref>。質量分析計はイオン源、質量分析部、検出部から構成される。イオン源で化合物は[[wikipedia:ja:イオン化|イオン化]]され、質量分析部方向に加速される。イオンは質量分析部で''m/z''に従い分離され、検出部で検出される。質量分析計の装置構成を表記する際に特に重要となるのは、イオン源と質量分析部の種類である。ここではそれぞれの代表的な動作原理について説明する。 | ||
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==質量分析計とは== | ==質量分析計とは== | ||
世界初の質量分析計は、約100年前に[[wikipedia:J._J._Thomson|J. J. Thomson]]により作られた放物線型質量分析計である。日本では質量分析計は大阪大学の緒方と浅田らにより1930年代に初めて作られた。質量分析計は1950年代まで主に原子質量の精密測定に用いられていたが、1960年代以降、有機化合物や生体高分子などをイオン化する方法が開発されたことにより、今日では様々な分野で必要不可欠な分析機器のひとつとなっている。<br> | 世界初の質量分析計は、約100年前に[[wikipedia:J._J._Thomson|J. J. Thomson]]により作られた放物線型質量分析計である。日本では質量分析計は大阪大学の緒方と浅田らにより1930年代に初めて作られた。質量分析計は1950年代まで主に原子質量の精密測定に用いられていたが、1960年代以降、有機化合物や生体高分子などをイオン化する方法が開発されたことにより、今日では様々な分野で必要不可欠な分析機器のひとつとなっている。<br> | ||
ペプチドや代謝物等の生体分子が測定可能となってから、脳科学を初めとする生命科学分野における質量分析計の利用は著明に増加してきた。質量分析計を応用することで開発された2DE/MSやLC/MS/ | ペプチドや代謝物等の生体分子が測定可能となってから、脳科学を初めとする生命科学分野における質量分析計の利用は著明に増加してきた。質量分析計を応用することで開発された2DE/MSやLC/MS/MSは、プロテオームプロファイル解析<ref><pubmed>15114355</pubmed></ref>や疾患バイオマーカー探索<ref><pubmed>19079648</pubmed></ref>に中心的な役割を果たしてきた。質量分析計はNMR、X線構造解析に比べ極めて高い感度を持つことから、脳組織だけでなく血液や脳脊髄液中の微量分子を試料とした解析にも多用されている<ref><pubmed>20971518</pubmed></ref>。質量分析計が解析対象とする分子は幅広く、ペプチドを初めとして<ref><pubmed>17901869</pubmed></ref><ref><pubmed>21649502</pubmed></ref>、グルタミン酸、GABA等のアミノ酸系神経伝達物質<ref><pubmed>18433876</pubmed></ref>や、モノアミン類<ref><pubmed>22512797</pubmed></ref>、アセチルコリン<ref><pubmed>19802332</pubmed></ref><ref><pubmed>22526660</pubmed></ref>等の神経伝達物質、[[wikipedia:Ja:環状アデノシン一リン酸|サイクリックAMP]]、[[wikipedia:Ja:環状グアノシン一リン酸|サイクリックGMP]]のような環状ヌクレオチド<ref><pubmed>22001223</pubmed></ref>の解析にも利用されてきた。 | ||
== イオン源の種類と動作原理 == | == イオン源の種類と動作原理 == | ||
質量分析の分析対象となるのはイオンである。試料化合物をイオン化する装置がイオン源であり、以下に示すような複数のイオン化原理に基づいている。とりわけ[[ | 質量分析の分析対象となるのはイオンである。試料化合物をイオン化する装置がイオン源であり、以下に示すような複数のイオン化原理に基づいている。とりわけ[[質量分析計#マトリックス支援レーザー脱離イオン化法|マトリックス支援レーザー脱離イオン化法]](matrix-assisted laser desorption/ionization、MALDI法)と[[質量分析計#エレクトロスプレーイオン化法|エレクトロスプレーイオン化法]](ESI法)は、それまでのイオン化法では断片化しやすかった高分子化合物のイオン化を可能にした<ref><pubmed>15458815</pubmed></ref><ref><pubmed>15362902</pubmed></ref>。このことにより医学生物学分野における[[wikipedia:ja:タンパク質|タンパク質]]、[[wikipedia:ja:ペプチド|ペプチド]]、[[wikipedia:ja:多糖|多糖]]等の[[wikipedia:ja:生体高分子|生体高分子]]の解析が大きく発展した。 | ||
=== マトリックス支援レーザー脱離イオン化法 === | === マトリックス支援レーザー脱離イオン化法 === | ||
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== 質量分析部の種類と動作原理 == | == 質量分析部の種類と動作原理 == | ||
質量分析部は、電磁気的相互作用を利用することにより、''m/z''に従いイオンを分離する部分である。分離方法は[[質量分析計#飛行時間型|飛行時間型]]、[[質量分析計#磁場型|磁場型]]、[[質量分析計#四重極型|四重極型]]、[[質量分析計#イオントラップ型|イオントラップ型]]、[[質量分析計#フーリエ変換型|フーリエ変換型]]等の動作原理に基づいている。複数の原理を組み合わせたハイブリッド型も最近では開発されている。ここでは代表的な動作原理に基づく装置について記述する。 | |||
質量分析部は、電磁気的相互作用を利用することにより、''m/z''に従いイオンを分離する部分である。分離方法は[[飛行時間型]]、[[磁場型]]、[[四重極型]]、[[イオントラップ型]]、[[ | |||
=== 飛行時間型=== | === 飛行時間型=== | ||
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2次元電気泳動によりタンパク質を分離し、個々のタンパク質を質量分析計を用いて同定する方法が2次元電気泳動質量分析法(2DE/MS)である。2DE/MSは脳科学を含む生命科学全般で用いられてきたが、現在のプロテオーム解析では分離能やスループット性で優るLC/MS/MSが使われることが多い。 | 2次元電気泳動によりタンパク質を分離し、個々のタンパク質を質量分析計を用いて同定する方法が2次元電気泳動質量分析法(2DE/MS)である。2DE/MSは脳科学を含む生命科学全般で用いられてきたが、現在のプロテオーム解析では分離能やスループット性で優るLC/MS/MSが使われることが多い。 | ||
===液相クロマトグラフィータンデム質量分析法=== | ===液相クロマトグラフィータンデム質量分析法=== | ||
質量分析計に[[高速液体クロマトグラフィー]]装置を接続し、溶液試料を解析する手法が液相クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)である。さらに、1回の測定で2段階以上の質量分析を組み合せる技術であるタンデムMSと組み合わせることにより、液相クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC/MS/MS)が開発された。LC/MS/MSにより特定の''m/z''の分子を選択しフラグメント化することができるため、夾雑物の影響を抑えた構造解析が可能である。 | |||
プロテオーム解析において、蛋白質混合溶液をプロテアーゼ処理し、得られたペプチド断片混合液をLC/MS/MSに供し、データベース検索により質量情報からペプチドを同定し、さらにそのペプチドが由来したタンパク質を同定する手法であるショットガン法が利用されてきた。 | プロテオーム解析において、蛋白質混合溶液をプロテアーゼ処理し、得られたペプチド断片混合液をLC/MS/MSに供し、データベース検索により質量情報からペプチドを同定し、さらにそのペプチドが由来したタンパク質を同定する手法であるショットガン法が利用されてきた。 | ||
===イメージング質量分析法、質量顕微鏡法=== | ===イメージング質量分析法、質量顕微鏡法=== | ||
イメージング質量分析法(IMS)とは、固体試料上の各点で直接分子のイオン化と質量分析を行うことで、分子を可視化する技術である。固体試料切片に対しレーザーによる二次元走査を行い、イオン化された分子を質量分析する。得られた質量スペクトルを再構成することにより、任意の''m/z''の分子の試料内分布情報を得ることができる。MADLI法の登場により、イメージング質量分析法は生体分子のイメージングに広く用いられるようになった。現在では顕微鏡レベルと言ってよい空間解像度での測定が可能となっており、肉眼解像度(100 μm)を超える解像度を持つイメージング質量分析法は特に質量顕微鏡法と呼ばれる<ref><pubmed>21109523</pubmed></ref>。乳児神経軸索性ジストロフィーモデルマウスにおけるシナプス構成分子の可視化を初めとして、脳科学における質量顕微鏡法の利用は増えている<ref><pubmed>21813701</pubmed></ref>。 | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references /> | ||