「視差エネルギーモデル」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/rtanaka 田中 宏喜]</font><br>
''京都産業大学 コンピュータ理工学部 インテリジェントシステム学科''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年7月31日 原稿完成日:2012年8月13日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ichirofujita 藤田 一郎](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
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英:disparity energy model  
英:disparity energy model  


同義語: binocular energy model  
同義語: binocular energy model  


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 奥行きや物体の立体構造を知るための手がかりである[[両眼視差]]は、[[網膜]]からの視覚経路において[[第一次視覚野]](V1野)ではじめて検出される。この両眼視差(正確には絶対視差)の検出に特化したV1野細胞の[[受容野]]モデルが視差エネルギーモデルであり、現在、脳における両眼視差検出機構の標準モデルとなっている。1990年[[wikipedia:ja:カリフォルニア大学バークレー校|カリフォルニア大学バークレー校]]の大澤五住らによって提案された<ref name="ref1"><pubmed> 2396096  </pubmed></ref>。 以降、視差エネルギーモデルを出発点にして、相対視差など様々なタイプの両眼視差を検出する神経機構や、両眼対応点問題を解決するための脳内機構を調べる研究が数多く行われている。  
 奥行きや物体の立体構造を知るための手がかりである[[両眼視差]]は、[[網膜]]からの視覚経路において[[第一次視覚野]](V1野)ではじめて検出される。この両眼視差(正確には絶対視差)の検出に特化したV1野細胞の[[受容野]]モデルが視差エネルギーモデルであり、現在、脳における両眼視差検出機構の標準モデルとなっている。1990年[[wikipedia:ja:カリフォルニア大学バークレー校|カリフォルニア大学バークレー校]]の大澤五住らによって提案された<ref name="ref1"><pubmed> 2396096  </pubmed></ref>。 以降、視差エネルギーモデルを出発点にして、相対視差など様々なタイプの両眼視差を検出する神経機構や、両眼対応点問題を解決するための脳内機構を調べる研究が数多く行われている。  
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== 両眼視差  ==
== 両眼視差  ==
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 われわれが両眼でものをみるとき、2つの眼が注視している点(注視点)と同じ奥行きにある刺激は、左右の網膜上の同じ位置に投影される(=いずれの網膜においても、網膜の中心である中心窩から同じ方向、量だけ離れた位置に投影される)のに対し、注視点と異なる奥行きにある刺激は水平方向にずれた位置に投影される(図1参照)。この網膜像の位置のずれのことを両眼視差という(単に視差ともいう)。両眼視差の量は刺激と注視点の奥行き距離に比例する。また刺激が注視点より手前にある場合と、奥にある場合とで両眼視差の方向(符号)は逆になる。慣習上、前者にはマイナス、後者にはプラスの符号をつけ、前者を交差視差 、後者を非交差視差とよぶ。  
 われわれが両眼でものをみるとき、2つの眼が注視している点(注視点)と同じ奥行きにある刺激は、左右の網膜上の同じ位置に投影される(=いずれの網膜においても、網膜の中心である中心窩から同じ方向、量だけ離れた位置に投影される)のに対し、注視点と異なる奥行きにある刺激は水平方向にずれた位置に投影される(図1参照)。この網膜像の位置のずれのことを両眼視差という(単に視差ともいう)。両眼視差の量は刺激と注視点の奥行き距離に比例する。また刺激が注視点より手前にある場合と、奥にある場合とで両眼視差の方向(符号)は逆になる。慣習上、前者にはマイナス、後者にはプラスの符号をつけ、前者を交差視差 、後者を非交差視差とよぶ。  


 われわれが両眼視差のみを手がかりにして奥行きを知覚できることは1838年にチャールズ・ホイートストン([[wikipedia:Charles Wheatstone|Wheatstone]])が葉プロスコープ(ミラー式両眼視システム)を考案して証明した。
 われわれが両眼視差のみを手がかりにして奥行きを知覚できることは1838年にチャールズ・ホイートストン([[wikipedia:Charles Wheatstone|Wheatstone]])がハプロスコープ(ミラー式両眼視システム)を考案して証明した。


== V1野にみられる両眼視差選択性  ==
== V1野にみられる両眼視差選択性  ==
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  <references />
  <references />
<br> (執筆者:田中宏喜 担当編集委員:藤田一郎)