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<font size="+1">佐藤 弘美、[http://researchmap.jp/yukoyy 四本 裕子]</font><br> | |||
''東京大学 総合文化研究科''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年10月18日 原稿完成日:2012年11月7日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/atsushiiriki 入來 篤史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | |||
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英語名:source monitoring | |||
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ソース・モニタリングとは、ある特定の記憶について、その[[記憶]]がいつどこでどのように得られたかという情報源についての記憶・認識である<ref name=ref1><pubmed> 8346328 </pubmed></ref>。記憶の情報源は間違って判断されることも多く、そのことを[[ソース・モニタリング・エラー]]と呼ぶ。このエラーは、情報源の[[符号化]]の限界または情報源を特定する際の何らかの妨害によって、正常な[[知覚]]処理過程または参照過程が妨げられるために生じる。[[うつ]]状態や[[ストレス]]レベルの高い状態、または関連する脳の領野の損傷などがソース・モニタリング・エラーの原因と考えられている。 | |||
}} | |||
== 概要 == | |||
ソース・モニタリングの基本的な考え方は、人は記憶についての情報源を特定するようなタグやラベルをそのまま直接引き出しているのではなく、記憶を引き出す際の意思決定過程で記憶についてのある種の記録が活性化され、評価されて特定の情報源と関連づけされるというものである。そのためソース・モニタリングの精度は、その記憶についての記録をどれほどうまく活性化できるかに大きく依存する。もしある出来事の最中に何かがその出来事についての詳細の符号化を妨げれば、後にその記憶に関連する情報を完全に想起することができないためエラーが生じる。一方、ある記憶表象の特徴が他の特徴とはっきりと区別され、より鮮明に記憶されていればエラーは少なくなる。 | |||
ソース・モニタリングは、特徴を符号化しある出来事についての一貫した表象を形成するためにそれらの特徴を統合し、内的・外的な手がかりを用いてその統合された特徴を復元・呼び起こし、フレキシブルな基準をもとに文脈からそれらを評価し、その情報源の帰属について決定を行うという過程を含む。 | |||
=== 2つの処理過程 === | |||
ソース・モニタリングが行われる処理過程には、自動的に[[無意識]]に行われる[[ヒューリスティック処理]]と、逐次的で意図的な[[システマティック処理]]の2つの過程が存在すると考えられている<ref name=ref1 /> <ref>'''D S Lindsay, M K Johnson'''<br>Recognition memory and source monitoring.<br>''Psychological Bulletin,'':1991, 29(3), 203–205</ref>。 | |||
==== ヒューリスティック処理 ==== | |||
記憶についての量的な特徴を想起する場合のような、高速かつ無意識に行われる処理。この処理は効率的で“自動的に”処理される過程であるため、より頻繁に行われる。関連する情報がある程度の重要性を持ち、かつその記憶の生じた時間・場所が論理的におかしくなければ、情報源についての決定が行われる。 | |||
==== システマティック処理==== | |||
より戦略的で遅く、意図的に行われる処理。この処理では記憶と関連するすべての情報が想起され、その記憶がある情報源から来ていそうかどうか意図的に調べられる。この処理は遅く、かなりの労力を食うためそう頻繁には起こらない。 | |||
=== 分化=== | |||
Differentiation | |||
ある情報が活性化されるほど、情報同士や特定の記憶特徴(ジョーの声とジョーの顔)がまとまり、定着するという考え方<ref name=ref1 />。ある情報と他の情報との結びつきが弱い場合や、強く活性化していても単独の特徴しか活性化していない場合には情報同士がまとまらず分化しにくい。2つ以上の特徴がまとまってある出来事と他の出来事を分けるような基盤が形成されると分化が最大になる。<ref name=Mitchell><pubmed> 19586165 </pubmed></ref>。 | |||
== 種類 == | |||
[ | ソース・モニタリングには大きく分けて、[[外的ソース・モニタリング]]、[[内的ソース・モニタリング]]、[[現実性モニタリング]]の3つの種類がある。どれも上記2つの判断過程(ヒューリスティック処理とシステマティック処理)を利用しており、エラーに陥りやすい<ref name=ref1 /> 。 | ||
=== 外的ソース・モニタリング === | |||
自分の周囲の世界で生じた出来事など、外部からの情報源を判別する。 例:どちらの友人が下品なことを言ったかを決める。 | |||
=== 内的ソース・モニタリング === | |||
個人の記憶など、内部から導かれた情報源を判別する。 例;頭の中の考えと言葉として発した考えを区別する。 | |||
=== 現実性モニタリング === | |||
[ | [[内的ー外的リアリティ・モニタリング]]ともいう。上記2つのタイプから導かれるもので、情報源が内的なものなのか外的なものなのかを判別する。 例;ビルに激突した飛行機は現実の世界の話なのか紙上での話なのかを判別する。 | ||
== 神経基盤 == | |||
Journal of | [[前頭野]]とソース・モニタリング・エラーの関連を示唆する観測がいくつかある。このエラーは[[健忘症]]の患者や高齢者、器質性脳疾患患者に見られる。ソース・モニタリングにとって重要な前頭野では多くのプロセスが生じており、その中には特徴や構造を統合し戦略的な想起を行う海馬と関連する回路も含まれている。情報の符号化や想起時に物理的、認知的に特徴を統合しまとめるのを推進する過程は記憶の情報源をたどるのにとても重要である<ref name=ref1 />。 | ||
=== fMRI研究 === | |||
==== 側頭葉内側部==== | |||
[[側頭葉内側部]]([[Medial Temporal Lobes]];MTL)は[[歯状回]]、[[海馬]]、[[鉤状回]]、[[内嗅皮質]]、[[扁桃体]]を含んだ領域で、一般に[[エピソード記憶]]と関係していると考えられている。ソース・モニタリングにとって大事なのは特徴や特徴群を統合する過程であるが、これらの過程は、回想・親近性といった記憶と関連する感情とともに、とくに海馬や[[海馬傍回]]で生じると考えられている。[[DRMパラダイム]]([[Deese-Roediger-McDermott paradigm]]<ref name=ref8>'''H L Roediger III, K B McDermott'''<br>Creating False Memories: Remembering Words not Presented in Lists<br>''Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition,'':1995, 21(4), 803–814</ref>) などにおいて、海馬は、「覚えている」かをテストするときの方が「知っている」かをテストするときより、また既出かどうかを正しく同定できたアイテムを符号化するときの方が間違って符号化するときよりも活動が活発になることが知られている<ref name=Davachi><pubmed> 17097284 </pubmed></ref>。これはアイテムを符号化し記憶している最中に、海馬が記憶特徴と複雑なエピソード記憶を結びつけるのに関わっていることを示している。 | |||
海馬の周辺に存在する海馬傍回は海馬とは異なり、新しいアイテムを既出だとしてしまう不正解やフォールス・アラームのときに活動が活発になるが、既出のアイテムをミスしてしまうときには活発にはならない。また、同じドメイン(言葉-言葉、顔-顔など)に類するアイテムをまとめるときには海馬傍回の活動が活発になっていることなどから、海馬傍回は同じドメインに所属する特徴の関連づけに関わっていると考えられる<ref name=Davachi /><ref><pubmed> 17270487 </pubmed></ref>。 | |||
これらのMTLと回想や親近性を結びつける研究の多くは「誤った情報源の判断は親近性を反映している」という仮定を前提にしているが、この想定自体が正しいかは議論の余地が残る。さらに、記憶の想起中にfMRIでMTLの活動を記録するには技術的に難しい点もあるため、回想や親近性といった感情的なものとMTLの関係はさらに詳しく見ていく必要がある。 | |||
c.f. DRMパラダイム:学習時に実際には呈示されない単語であるルアー項目(例えば、太陽) の連想語(例えば、月、光)をから成り立つリスト(以下DRMリスト)を呈示する。そして[[テスト]]時には学習項目とルアー項目、その他の未学習項目からなるDRMリストを用いて再認判断を求める。すると、ルアー項目は他の未学習項目と比較して高い確率で再認される。 | |||
==== 前頭前野==== | |||
[[前頭前野]](Prefrontal Cortex: PFC)は、記憶(とくにエピソード記憶)の想起・符号化の両方に関わっていると考えられている。以前より、前頭前野におけるエピソード記憶の処理は左右半球で機能が非対称だと考えられてきた(hemispheric encoding/retrival asymmetry [HERA] model<ref><pubmed> 8134342 </pubmed></ref>)。近年では、[[想起]]と符号化の左右半球での非対称性についてより詳しい分析がなされている。たとえば、右の前頭前野がヒューリスティックな評価処理を、左の前頭前野、または左右両方の前頭前野がシステマティック処理を担っているとする見解<ref><pubmed> 21227255 </pubmed></ref>、左半球が記憶の想起と生成に、右半球が記憶のモニタリングに関わっているとする見解(production-monitoring hypothesis<ref><pubmed> 12676062 </pubmed></ref>)がある。どちらもより[[分化]]していない情報は右半球でモニタされ、システマティックな想起は左半球で行われているとする点は共通しているが、異なる点もあり、左右半球の非対称性については未だ議論の余地が残っている。また、[[前頭前野背外側部]](dorsolateral PFC)と[[前頭前野外側部]](lateral anterior PFC)は情報源を記憶する際に、特徴によらずさまざまなカテゴリ一般の処理に関係しているのに対し、[[前頭前野腹外側部]](ventrolateral PFC)はより特定の特徴に特化した処理を行っていると考えられている<ref><pubmed> 18787230 </pubmed></ref>。 | |||
==== 頭頂葉と後頭葉==== | |||
[[後頭葉]]ではエピソード記憶の符号化の際にカテゴリ特異な活動を行っていると考えられており、例えば異なる種類の材質や言葉を符号化する場合には、[[紡錘状回]]の異なる部位が活性化される。このような後頭葉の活動は前頭前野からのトップダウンの変調を受けているとされている<ref><pubmed> 16605307 </pubmed></ref>。後頭葉のいくつかの領域が符号化の際に特徴やカテゴリに選択的な活動を見せるのに対し、[[頭頂葉]]は特徴(位置、色など)に関わらず、一般に符号化や想起に関わっていると考えられている。例えば[[頭頂間溝]](intraparietal sulcus)はいくつかの特徴を統合する際に活動が活発になる領域であるが、同時にある一つの特徴ではなくさまざまな特徴を符号化する際にも活発になることが知られている<ref><pubmed> 17088219 </pubmed></ref>。 | |||
このような特徴一般の処理と、その他の領域で行われている特徴に特異な処理が前頭前野からどのような変調を受けているかを調べることは、ソース記憶の主観的経験の理解につながると考えられている。 | |||
== 関連事象 == | |||
=== Old-new recognition === | |||
認識記憶を検査するのに用いられる測定法。被験者はアイテムが新しいか古いかをyesかnoで答える。この時、エラーはソース・モニタリングで生じるのと同様の認識プロセスで生じる。対象がとても似ているときや、情報源を想起するのが難しい環境(気が散る、ストレスなど)、または何らかの理由で判断過程が機能していないときにエラーが頻繁に生じる<ref name=ref1 />。 | |||
=== Remember-know === | |||
"覚えているか"対"知っているか"は記憶のawarenessを評価する手続きである。覚えている場合にはその経験は追体験することができ、詳細が容易に浮かんでくる。単に知っている場合には追体験することは出来ないが親近感がわくため、誤った情報源の候補と自信を持って結びつけてしまうことが多くなる。どちらの判断を行う場合にもソース・モニタリング・エラーに陥りやすい。また、DRMパラダイムなどの特定の環境下では、誤って"覚えている"という判断されることが多くなる<ref name=ref8 />。 | |||
=== False fame === | |||
false fame 実験では、まず非著名人の名前のリストが提示され、その後、先に提示した非著名人と新たな非著名人と著名人の名前が提示される。課題は著名人の名前を選ぶことだが、その際先に提示した非著名人が誤って選ばれることが多い<ref name=ref9>'''L L Jacoby, C Kelly, J Brown'''<br>Becoming Famous Overnight: Limits on the Ability to Avoid Unconscious Influences of the Past<br>''Journal of Personality and Social Psychology,'': 56(3), 326–338</ref>。 | |||
前世の記憶のような普通でない出来事を信じる人たちが、ソース・モニタリング・エラーに陥りやすいとする研究がいくつか行われている。このような人は普通でない出来事を信じていない人よりもfalse fame課題でエラーを犯しやすい。前世の記憶においては、ある記憶の情報源が前世の記憶に貢献している。つまり、他人の話や映画、本、夢、想像上のシナリオが誤って前世から来た記憶だと認識される<ref name=ref10><pubmed> 16574433 </pubmed></ref>。 | |||
=== Cryptomnesia === | |||
Cryptomnesiaはわざとではない[[wikipedia:ja:剽窃|剽窃]]のことで、ある作品や考えが、本当は以前に自分で、もしくは外的情報源によって生み出されたものなのにもかかわらず、現在自分で作り出したものだと信じていること。最初にその情報にさらされたときに何らかの妨害があったことで生じる。その情報が無意識に得られたとしても、その情報に関連する脳の領域は短時間ではあるが活性化する。そのため、外から得られた情報や既に思いついていた考えが、今新たに生まれた考えのように思えてしまう。典型的にはこの情報源判断にはヒューリスティック過程が用いられる。初めに情報に触れたときに干渉があるため、ヒューリスティック過程では 情報源を内的に生み出されたものだと判断してしまいがちになる<ref name=ref1 />。 | |||
== 疾患との関連 == | |||
=== 統合失調症 === | |||
ソース・モニタリング・エラーは健常者よりも[[統合失調症]]の人に多く生じることがわかっている。これはおそらく遺伝子の表現型により生じる傾向で、この傾向は敵対心と関連している。研究によると、統合失調症においてソース・モニタリングが困難なのは自分で作り出したものの情報源をコードすることができないため、また新しいものと以前に提示されたものの情報源を区別しにくいためであると考えられている。また、内的な刺激を現実の出来事だと知覚してしまいがちなためだとの見解もある<ref name=ref12><pubmed> 9356560 </pubmed></ref>。患者はどこからが自分で作り出した思考かをモニタすることが出来ず、[[autonetic agnosia]]([[想起失認]]:自分で生み出した内的な出来事を識別できないこと)に陥りやすい<ref name=ref13><pubmed> 10473317 </pubmed></ref>。 | |||
=== 加齢の影響 === | |||
ソース・モニタリング・エラーに対する年齢の影響を調べるために多くの研究がなされている<ref><pubmed> 18808253 </pubmed></ref>。ソース・モニタリング・エラーは高齢者や幼い子供によく見られる<ref><pubmed> 2803602 </pubmed></ref>。 | |||
ソース・モニタリング・エラーが幼児で頻繁に起こるのは、彼らは現実と想像上の考えを分離することが苦手であるからだと考えられている。高齢者は目撃証言の際、記憶の情報源を特定するのに間違いを犯しがちである。これらは現実性モニタリングに問題があるためだと考えられてきた。内的な記憶が感覚情報を多分に含んでいれば、その記憶は外部から想起されたものだとして誤って認識されることが多くなる<ref><pubmed> 2803603 </pubmed></ref>。 | |||
== 今後の展望 == | |||
これまで盛んに行われてきた神経イメージング法を用いた研究は、ソース・モニタリングが脳のどのような領域でどのように行われているかについての知見を深めてきた。しかし、これらの研究はいまだ現象学的体験としての記憶がどのようなものかについてを解明するにいたっていない。記憶と関連する脳領域だけでなく、主観的経験と関連する領域がどこであり、記憶とどのように関係しているかが体系的に整理されることが期待される。 | |||
最近では、「親近性」と「回想」という、近いけれども異なった感覚を呼び起こす2つの概念が、現象学的経験への理解を深めるのに重要な概念として期待されている<ref name=Mitchell />。回想については多くの研究が進められ、どのようなプロセスにより回想の感覚が強められるかなどかなりのことが明らかとなってきている一方、親近性はより複雑な処理から生じる感覚であるため、多くのことがわかっていない。これらの概念を理解することでソース・モニタリングについてのより深い知見が得られると考えられる。 | |||
== 関連項目 == | |||
*[[メタ認知]] | |||
*[[想起・誤想起(記憶)]] | |||
== 参考文献 == | |||
<references/> |
2014年6月9日 (月) 15:43時点における最新版
佐藤 弘美、四本 裕子
東京大学 総合文化研究科
DOI:10.14931/bsd.2411 原稿受付日:2012年10月18日 原稿完成日:2012年11月7日
担当編集委員:入來 篤史(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
英語名:source monitoring
ソース・モニタリングとは、ある特定の記憶について、その記憶がいつどこでどのように得られたかという情報源についての記憶・認識である[1]。記憶の情報源は間違って判断されることも多く、そのことをソース・モニタリング・エラーと呼ぶ。このエラーは、情報源の符号化の限界または情報源を特定する際の何らかの妨害によって、正常な知覚処理過程または参照過程が妨げられるために生じる。うつ状態やストレスレベルの高い状態、または関連する脳の領野の損傷などがソース・モニタリング・エラーの原因と考えられている。
概要
ソース・モニタリングの基本的な考え方は、人は記憶についての情報源を特定するようなタグやラベルをそのまま直接引き出しているのではなく、記憶を引き出す際の意思決定過程で記憶についてのある種の記録が活性化され、評価されて特定の情報源と関連づけされるというものである。そのためソース・モニタリングの精度は、その記憶についての記録をどれほどうまく活性化できるかに大きく依存する。もしある出来事の最中に何かがその出来事についての詳細の符号化を妨げれば、後にその記憶に関連する情報を完全に想起することができないためエラーが生じる。一方、ある記憶表象の特徴が他の特徴とはっきりと区別され、より鮮明に記憶されていればエラーは少なくなる。
ソース・モニタリングは、特徴を符号化しある出来事についての一貫した表象を形成するためにそれらの特徴を統合し、内的・外的な手がかりを用いてその統合された特徴を復元・呼び起こし、フレキシブルな基準をもとに文脈からそれらを評価し、その情報源の帰属について決定を行うという過程を含む。
2つの処理過程
ソース・モニタリングが行われる処理過程には、自動的に無意識に行われるヒューリスティック処理と、逐次的で意図的なシステマティック処理の2つの過程が存在すると考えられている[1] [2]。
ヒューリスティック処理
記憶についての量的な特徴を想起する場合のような、高速かつ無意識に行われる処理。この処理は効率的で“自動的に”処理される過程であるため、より頻繁に行われる。関連する情報がある程度の重要性を持ち、かつその記憶の生じた時間・場所が論理的におかしくなければ、情報源についての決定が行われる。
システマティック処理
より戦略的で遅く、意図的に行われる処理。この処理では記憶と関連するすべての情報が想起され、その記憶がある情報源から来ていそうかどうか意図的に調べられる。この処理は遅く、かなりの労力を食うためそう頻繁には起こらない。
分化
Differentiation
ある情報が活性化されるほど、情報同士や特定の記憶特徴(ジョーの声とジョーの顔)がまとまり、定着するという考え方[1]。ある情報と他の情報との結びつきが弱い場合や、強く活性化していても単独の特徴しか活性化していない場合には情報同士がまとまらず分化しにくい。2つ以上の特徴がまとまってある出来事と他の出来事を分けるような基盤が形成されると分化が最大になる。[3]。
種類
ソース・モニタリングには大きく分けて、外的ソース・モニタリング、内的ソース・モニタリング、現実性モニタリングの3つの種類がある。どれも上記2つの判断過程(ヒューリスティック処理とシステマティック処理)を利用しており、エラーに陥りやすい[1] 。
外的ソース・モニタリング
自分の周囲の世界で生じた出来事など、外部からの情報源を判別する。 例:どちらの友人が下品なことを言ったかを決める。
内的ソース・モニタリング
個人の記憶など、内部から導かれた情報源を判別する。 例;頭の中の考えと言葉として発した考えを区別する。
現実性モニタリング
内的ー外的リアリティ・モニタリングともいう。上記2つのタイプから導かれるもので、情報源が内的なものなのか外的なものなのかを判別する。 例;ビルに激突した飛行機は現実の世界の話なのか紙上での話なのかを判別する。
神経基盤
前頭野とソース・モニタリング・エラーの関連を示唆する観測がいくつかある。このエラーは健忘症の患者や高齢者、器質性脳疾患患者に見られる。ソース・モニタリングにとって重要な前頭野では多くのプロセスが生じており、その中には特徴や構造を統合し戦略的な想起を行う海馬と関連する回路も含まれている。情報の符号化や想起時に物理的、認知的に特徴を統合しまとめるのを推進する過程は記憶の情報源をたどるのにとても重要である[1]。
fMRI研究
側頭葉内側部
側頭葉内側部(Medial Temporal Lobes;MTL)は歯状回、海馬、鉤状回、内嗅皮質、扁桃体を含んだ領域で、一般にエピソード記憶と関係していると考えられている。ソース・モニタリングにとって大事なのは特徴や特徴群を統合する過程であるが、これらの過程は、回想・親近性といった記憶と関連する感情とともに、とくに海馬や海馬傍回で生じると考えられている。DRMパラダイム(Deese-Roediger-McDermott paradigm[4]) などにおいて、海馬は、「覚えている」かをテストするときの方が「知っている」かをテストするときより、また既出かどうかを正しく同定できたアイテムを符号化するときの方が間違って符号化するときよりも活動が活発になることが知られている[5]。これはアイテムを符号化し記憶している最中に、海馬が記憶特徴と複雑なエピソード記憶を結びつけるのに関わっていることを示している。
海馬の周辺に存在する海馬傍回は海馬とは異なり、新しいアイテムを既出だとしてしまう不正解やフォールス・アラームのときに活動が活発になるが、既出のアイテムをミスしてしまうときには活発にはならない。また、同じドメイン(言葉-言葉、顔-顔など)に類するアイテムをまとめるときには海馬傍回の活動が活発になっていることなどから、海馬傍回は同じドメインに所属する特徴の関連づけに関わっていると考えられる[5][6]。
これらのMTLと回想や親近性を結びつける研究の多くは「誤った情報源の判断は親近性を反映している」という仮定を前提にしているが、この想定自体が正しいかは議論の余地が残る。さらに、記憶の想起中にfMRIでMTLの活動を記録するには技術的に難しい点もあるため、回想や親近性といった感情的なものとMTLの関係はさらに詳しく見ていく必要がある。
c.f. DRMパラダイム:学習時に実際には呈示されない単語であるルアー項目(例えば、太陽) の連想語(例えば、月、光)をから成り立つリスト(以下DRMリスト)を呈示する。そしてテスト時には学習項目とルアー項目、その他の未学習項目からなるDRMリストを用いて再認判断を求める。すると、ルアー項目は他の未学習項目と比較して高い確率で再認される。
前頭前野
前頭前野(Prefrontal Cortex: PFC)は、記憶(とくにエピソード記憶)の想起・符号化の両方に関わっていると考えられている。以前より、前頭前野におけるエピソード記憶の処理は左右半球で機能が非対称だと考えられてきた(hemispheric encoding/retrival asymmetry [HERA] model[7])。近年では、想起と符号化の左右半球での非対称性についてより詳しい分析がなされている。たとえば、右の前頭前野がヒューリスティックな評価処理を、左の前頭前野、または左右両方の前頭前野がシステマティック処理を担っているとする見解[8]、左半球が記憶の想起と生成に、右半球が記憶のモニタリングに関わっているとする見解(production-monitoring hypothesis[9])がある。どちらもより分化していない情報は右半球でモニタされ、システマティックな想起は左半球で行われているとする点は共通しているが、異なる点もあり、左右半球の非対称性については未だ議論の余地が残っている。また、前頭前野背外側部(dorsolateral PFC)と前頭前野外側部(lateral anterior PFC)は情報源を記憶する際に、特徴によらずさまざまなカテゴリ一般の処理に関係しているのに対し、前頭前野腹外側部(ventrolateral PFC)はより特定の特徴に特化した処理を行っていると考えられている[10]。
頭頂葉と後頭葉
後頭葉ではエピソード記憶の符号化の際にカテゴリ特異な活動を行っていると考えられており、例えば異なる種類の材質や言葉を符号化する場合には、紡錘状回の異なる部位が活性化される。このような後頭葉の活動は前頭前野からのトップダウンの変調を受けているとされている[11]。後頭葉のいくつかの領域が符号化の際に特徴やカテゴリに選択的な活動を見せるのに対し、頭頂葉は特徴(位置、色など)に関わらず、一般に符号化や想起に関わっていると考えられている。例えば頭頂間溝(intraparietal sulcus)はいくつかの特徴を統合する際に活動が活発になる領域であるが、同時にある一つの特徴ではなくさまざまな特徴を符号化する際にも活発になることが知られている[12]。
このような特徴一般の処理と、その他の領域で行われている特徴に特異な処理が前頭前野からどのような変調を受けているかを調べることは、ソース記憶の主観的経験の理解につながると考えられている。
関連事象
Old-new recognition
認識記憶を検査するのに用いられる測定法。被験者はアイテムが新しいか古いかをyesかnoで答える。この時、エラーはソース・モニタリングで生じるのと同様の認識プロセスで生じる。対象がとても似ているときや、情報源を想起するのが難しい環境(気が散る、ストレスなど)、または何らかの理由で判断過程が機能していないときにエラーが頻繁に生じる[1]。
Remember-know
"覚えているか"対"知っているか"は記憶のawarenessを評価する手続きである。覚えている場合にはその経験は追体験することができ、詳細が容易に浮かんでくる。単に知っている場合には追体験することは出来ないが親近感がわくため、誤った情報源の候補と自信を持って結びつけてしまうことが多くなる。どちらの判断を行う場合にもソース・モニタリング・エラーに陥りやすい。また、DRMパラダイムなどの特定の環境下では、誤って"覚えている"という判断されることが多くなる[4]。
False fame
false fame 実験では、まず非著名人の名前のリストが提示され、その後、先に提示した非著名人と新たな非著名人と著名人の名前が提示される。課題は著名人の名前を選ぶことだが、その際先に提示した非著名人が誤って選ばれることが多い[13]。
前世の記憶のような普通でない出来事を信じる人たちが、ソース・モニタリング・エラーに陥りやすいとする研究がいくつか行われている。このような人は普通でない出来事を信じていない人よりもfalse fame課題でエラーを犯しやすい。前世の記憶においては、ある記憶の情報源が前世の記憶に貢献している。つまり、他人の話や映画、本、夢、想像上のシナリオが誤って前世から来た記憶だと認識される[14]。
Cryptomnesia
Cryptomnesiaはわざとではない剽窃のことで、ある作品や考えが、本当は以前に自分で、もしくは外的情報源によって生み出されたものなのにもかかわらず、現在自分で作り出したものだと信じていること。最初にその情報にさらされたときに何らかの妨害があったことで生じる。その情報が無意識に得られたとしても、その情報に関連する脳の領域は短時間ではあるが活性化する。そのため、外から得られた情報や既に思いついていた考えが、今新たに生まれた考えのように思えてしまう。典型的にはこの情報源判断にはヒューリスティック過程が用いられる。初めに情報に触れたときに干渉があるため、ヒューリスティック過程では 情報源を内的に生み出されたものだと判断してしまいがちになる[1]。
疾患との関連
統合失調症
ソース・モニタリング・エラーは健常者よりも統合失調症の人に多く生じることがわかっている。これはおそらく遺伝子の表現型により生じる傾向で、この傾向は敵対心と関連している。研究によると、統合失調症においてソース・モニタリングが困難なのは自分で作り出したものの情報源をコードすることができないため、また新しいものと以前に提示されたものの情報源を区別しにくいためであると考えられている。また、内的な刺激を現実の出来事だと知覚してしまいがちなためだとの見解もある[15]。患者はどこからが自分で作り出した思考かをモニタすることが出来ず、autonetic agnosia(想起失認:自分で生み出した内的な出来事を識別できないこと)に陥りやすい[16]。
加齢の影響
ソース・モニタリング・エラーに対する年齢の影響を調べるために多くの研究がなされている[17]。ソース・モニタリング・エラーは高齢者や幼い子供によく見られる[18]。
ソース・モニタリング・エラーが幼児で頻繁に起こるのは、彼らは現実と想像上の考えを分離することが苦手であるからだと考えられている。高齢者は目撃証言の際、記憶の情報源を特定するのに間違いを犯しがちである。これらは現実性モニタリングに問題があるためだと考えられてきた。内的な記憶が感覚情報を多分に含んでいれば、その記憶は外部から想起されたものだとして誤って認識されることが多くなる[19]。
今後の展望
これまで盛んに行われてきた神経イメージング法を用いた研究は、ソース・モニタリングが脳のどのような領域でどのように行われているかについての知見を深めてきた。しかし、これらの研究はいまだ現象学的体験としての記憶がどのようなものかについてを解明するにいたっていない。記憶と関連する脳領域だけでなく、主観的経験と関連する領域がどこであり、記憶とどのように関係しているかが体系的に整理されることが期待される。
最近では、「親近性」と「回想」という、近いけれども異なった感覚を呼び起こす2つの概念が、現象学的経験への理解を深めるのに重要な概念として期待されている[3]。回想については多くの研究が進められ、どのようなプロセスにより回想の感覚が強められるかなどかなりのことが明らかとなってきている一方、親近性はより複雑な処理から生じる感覚であるため、多くのことがわかっていない。これらの概念を理解することでソース・モニタリングについてのより深い知見が得られると考えられる。
関連項目
参考文献
- ↑ 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6
Johnson, M.K., Hashtroudi, S., & Lindsay, D.S. (1993).
Source monitoring. Psychological bulletin, 114(1), 3-28. [PubMed:8346328] [WorldCat] [DOI] - ↑ D S Lindsay, M K Johnson
Recognition memory and source monitoring.
Psychological Bulletin,:1991, 29(3), 203–205 - ↑ 3.0 3.1
Mitchell, K.J., & Johnson, M.K. (2009).
Source monitoring 15 years later: what have we learned from fMRI about the neural mechanisms of source memory? Psychological bulletin, 135(4), 638-77. [PubMed:19586165] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑ 4.0 4.1 H L Roediger III, K B McDermott
Creating False Memories: Remembering Words not Presented in Lists
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