「せん妄」の版間の差分

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英語名:delirium
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<font size="+1">[http://www.sumitomo-hp.or.jp/about/shinryoka/doctor.php?did=10601&d=70 宇高 不可思]</font><br>
''住友病院''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月13日 原稿完成日:2013年3月15日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ryosuketakahashi 高橋 良輔](京都大学 大学院医学研究科)<br>
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英語名:delirium 独:Delirium 仏:syndrome confusionnel, confusion mentale


同義語:急性錯乱状態(acute confusional stateまたはdisorder)、急性脳症候群(acute brain syndrome)
同義語:急性錯乱状態(acute confusional stateまたはdisorder)、急性脳症候群(acute brain syndrome)


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 せん妄(譫妄)は急性の脳機能障害で、[[意識狭窄]]・[[変容]]の一型である。高齢者ではしばしばみられ、[[器質性脳疾患]]、身体疾患、薬物などが原因となる。短期間のうちに現れる軽度から中等度の[[意識障害]]に、特徴的な[[幻覚]]、[[錯覚]]、[[不安]]、[[精神運動興奮]]、[[失見当識]]などを伴う。発症は急激で日内変動が目立ち、夜間に悪化することが多い([[夜間せん妄]])。[[認知症]]とは異なるが、症状は似ており、認知症にしばしば合併する。精神活動と覚醒レベルに基づき、過活動型型、低活動型、混合型に分類される。低活動型は見過ごされやすく予後も悪い。せん妄があると協力が得られず医療事故のリスクが高まるとともに治療継続にも支障を来たすため、予防ならびに薬物・非薬物療法が重要である。  
 せん妄(譫妄)は急性の脳機能障害で、[[意識狭窄]]・[[変容]]の一型である。高齢者ではしばしばみられ、[[器質性脳疾患]]、身体疾患、薬物などが原因となる。短期間のうちに現れる軽度から中等度の[[意識障害]]に、特徴的な[[幻覚]]、[[錯覚]]、[[不安]]、[[精神運動興奮]]、[[失見当識]]などを伴う。発症は急激で日内変動が目立ち、夜間に悪化することが多い([[夜間せん妄]])。[[認知症]]とは異なるが、症状は似ており、認知症にしばしば合併する。精神活動と覚醒レベルに基づき、過活動型型、低活動型、混合型に分類される。低活動型は見過ごされやすく予後も悪い。せん妄があると協力が得られず医療事故のリスクが高まるとともに治療継続にも支障を来たすため、予防ならびに薬物・非薬物療法が重要である。  
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==せん妄とは==
==せん妄とは==
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 せん妄が発症したら、まずは原因を可能な限り除去する。予防手段と共通の環境調整、日中の覚醒状態の維持などに加え、医療や看護に支障が大きい場合は対症療法としての薬物療法を行う。[[ベンゾジアゼピン]]系の睡眠薬や抗不安薬は増悪の恐れがあるので使用を控える。
 せん妄が発症したら、まずは原因を可能な限り除去する。予防手段と共通の環境調整、日中の覚醒状態の維持などに加え、医療や看護に支障が大きい場合は対症療法としての薬物療法を行う。[[ベンゾジアゼピン]]系の睡眠薬や抗不安薬は増悪の恐れがあるので使用を控える。


 使用する薬物としては、[[非定型精神病薬]]である[[リスペリドン]]、[[オランザピン]]、[[クエチアピン]]、抗うつ薬の[[ミアンセリン]]などの内服、抗精神病薬[[ハロペリドール]]の静脈内投与などである。
 使用する薬物としては、[[非定型抗精神病薬]]である[[リスペリドン]]、[[オランザピン]]、[[クエチアピン]]、抗うつ薬の[[ミアンセリン]]などの内服、抗精神病薬[[ハロペリドール]]の静脈内投与などである。


 使用に際しては、禁忌、副作用に十分留意しつつ少量より開始し、改善傾向を示したら数日~2週間かけて漸減、中止する。なお、患者本人の判断力は失われているので、家族に副作用の可能性や保険適応外であることを十分説明し、同意を得る必要がある。  
 使用に際しては、禁忌、副作用に十分留意しつつ少量より開始し、改善傾向を示したら数日~2週間かけて漸減、中止する。なお、患者本人の判断力は失われているので、家族に副作用の可能性や保険適応外であることを十分説明し、同意を得る必要がある。  


 回復後、本人はせん妄状態のときのことを殆ど覚えていないので、十分な説明、不安の解消を図る。看護のリスクマネジメントの上でもせん妄対策は重要で、不要なルート類は可能な限り抜去し、ベッド柵を高くする、転倒防止マットを使用するなどで転倒・転落を未然に予防する。[[wikipedia:ja:点滴|点滴]]や各種チューブ類の抜去対策としてやむを得ずミトンなど最小限の拘束が必要なこともある。せん妄への対策は精神科医、神経内科医、専門看護師などによるチーム医療で行うべきであり、病院内にせん妄対策チームの設置が望まれる。  
 回復後、本人はせん妄状態のときのことを殆ど覚えていないので、十分な説明、不安の解消を図る。看護のリスクマネジメントの上でもせん妄対策は重要で、不要なルート類は可能な限り抜去し、ベッド柵を高くする、転倒防止マットを使用するなどで転倒・転落を未然に予防する。[[wikipedia:ja:点滴|点滴]]や各種チューブ類の抜去対策としてやむを得ずミトンなど最小限の拘束が必要なこともある。せん妄への対策は精神科医、神経内科医、専門看護師などによるチーム医療で行うべきであり、病院内にせん妄対策チームの設置が望まれる。


==関連項目==
==関連項目==
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== 参考文献  ==
== 参考文献  ==
<references/>
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(執筆者:宇高不可思 担当編集者:高橋良輔)