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<font size="+1">[http://researchmap.jp/mio_nonaka/?lang=japanese 野中美応]</font><br> | |||
''Centre for Cognitive and Neural Systems, The University of Edinburgh''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年1月8日 原稿完成日:2013年6月1日<br>担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi/?lang=japanese 林康紀](理化学研究所)<br> | |||
</div> | |||
英:Calcineurin 英略称:CaN, CN, caln, ccn1, cna1, calna1 | |||
同義語:Protein phosphatase 2B ([[PP2B]]), Protein phosphatase 3 (ppp3), calcium-dependent serine-threonine phosphatase | |||
{{box | |||
|text= カルシニューリンは、脳神経系に豊富に発現する[[カルシウム・カルモジュリン依存的セリン-スレオニン脱リン酸化酵素]]である。[[PP1]]/[[PP2A]]/カルシニューリンスーパーファミリーに属する<ref name=ref1><pubmed>11015619</pubmed></ref> 脳神経系においては、[[シナプス]]刺激などによる[[カルシウム]]により活性化され、[[NFAT]]、[[ダイナミンI]]、[[Inhibitor-1]]([[L-I]])/[[DARPP-32]]、[[Tau]]、[[CRTC]]、[[GluA1]]、[[FMRP]]、[[Bcl-2]]、[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]といった多様な基質を脱リン酸化する。[[長期抑制]]・[[長期増強]]などの[[シナプス可塑性]]、ひいては[[記憶]][[学習]]や、[[神経突起]]伸長・細胞内カルシウム・遺伝子発現調節・[[アポトーシス]]の制御に関わるとされている。}} | |||
== カルシニューリンとは == | |||
{{Infobox protein family | {{Infobox protein family | ||
| Symbol =CaN, CN, PP2B, ppp3, caln, ccn1, cna1, calna1 | | Symbol =CaN, CN, PP2B, ppp3, caln, ccn1, cna1, calna1 | ||
| Name = Calcineurin | | Name = Calcineurin | ||
| image = 3LL8. | | image = 3LL8.pdb | ||
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| caption = Crystal structure of calcineurin in complex with AKAP79 peptide | | caption = Crystal structure of calcineurin in complex with AKAP79 peptide | ||
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| CDD = | | CDD = | ||
}} | }} | ||
1978年にKleeらが初めて精製し<ref><pubmed>201280</pubmed></ref>、[[ホスホジエステラーゼ]]の調節サブユニットとして報告し、カルシニューリン(calcineurin)と名付けられたが、その後1982年にCohenらによって[[脱リン酸化酵素]]であると同定された<ref><pubmed>6279434</pubmed></ref>。[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]細胞においてCa<sup>2+</sup>により活性化される唯一の脱リン酸化酵素であり、[[脳神経]]系に豊富に発現する。進化的には、[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]から[[ショウジョウバエ|ハエ]]・哺乳類に至るまで保存されている。 | |||
1978年にKleeらが初めて精製し<ref><pubmed>201280</pubmed></ref>、[[ホスホジエステラーゼ]]の調節サブユニットとして報告し、カルシニューリン(calcineurin)と名付けられたが、その後1982年にCohenらによって[[脱リン酸化酵素]]であると同定された<ref><pubmed>6279434</pubmed></ref>。[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]細胞においてCa<sup>2+</sup> | |||
==構造== | ==構造== | ||
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== 発現分布 == | == 発現分布 == | ||
{|style="float:right; width:350px; border: 1px solid darkgray;" | |||
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{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
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|遺伝子名はAllen Brain Atlasの[[in situハイブリダイゼーション]]データーへリンクしている。 | |遺伝子名はAllen Brain Atlasの[[in situハイブリダイゼーション|''in situ''ハイブリダイゼーション]]データーへリンクしている。 | ||
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[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/69817252 PPP3R2]は精巣特異的発現とされているが、その他はubiquitousに発現する<ref name=ref1 />。[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/70784994 PPP3CC]も精巣特異的とされていたが、脳における発現が確認されている。 | |||
マウス全脳の[[in situハイブリダイゼーション|''in situ''ハイブリダイゼーション]]で[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/69817246 PPP3CA], [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/71325360 PPP3CB] および [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/70812895 PPP3R1]は脳のほぼ全域における発現が確認されているが、特に[[大脳皮質]]・[[海馬]]・[[線条体]]に豊富に発現する。カルシニューリン A においては、ラット脳内ではPPP3CAの方がPPP3CBよりも豊富に発現しており、PPP3CAの酵素活性がほぼ9割を占める。 | |||
細胞内局在としては、主に細胞質に局在するが、NFATと共に核に移行し、また、精細胞においては主に核に局在するなど、核への分布も報告されている。脳の分画においては、細胞質および[[シナプトソーム]]に豊富に検出される。 | |||
== 酵素活性 == | == 酵素活性 == | ||
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=== 小胞の内在化 === | === 小胞の内在化 === | ||
カルシニューリンはダイナミン I と結合し、[[エンドサイトーシス]]小胞を構成するタンパク質であるダイナミン、[[アンフィフィジン]]、[[シナプトジャニン]]らを脱リン酸化することで[[シナプス小胞]]のエンドサイトーシスを促進する<ref><pubmed>9651678</pubmed></ref>。 | カルシニューリンはダイナミン I と結合し、[[エンドサイトーシス]]小胞を構成するタンパク質であるダイナミン、[[アンフィフィジン]]、[[シナプトジャニン]]らを脱リン酸化することで[[シナプス小胞]]のエンドサイトーシスを促進する<ref><pubmed>9651678</pubmed></ref>。 また、NMDA型[[グルタミン酸]]受容体依存的な[[AMPA型グルタミン酸受容体]]の内在化を担う。 | ||
== 脳神経疾患とのかかわり == | == 脳神経疾患とのかかわり == | ||
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== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references /> | ||