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'''H.'''その恐怖、不安、もしくは回避は、物質使用(例:[[薬物乱用]]、服薬)または他の医学的状況の生理学的効果によるものではない。 | '''H.'''その恐怖、不安、もしくは回避は、物質使用(例:[[薬物乱用]]、服薬)または他の医学的状況の生理学的効果によるものではない。 | ||
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'''I.''' | '''I.'''その恐怖、不安、もしくは回避は、他の精神障害、例えば、パニック症、[[自閉症]]スペクトラム、醜形恐怖症、の症状により説明することはできない。 | ||
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'''J.'''他の医学的状況(例:[[パーキンソン病]]、[[wikipedia:肥満|肥満]]、[[wikipedia:火傷|火傷]]や[[wikipedia:外傷|外傷]]により容姿が損なわれている状態)が存在している場合、この恐怖、不安、もしくは回避は、明らかにそれらとは関連がないか過剰である。 | '''J.'''他の医学的状況(例:[[パーキンソン病]]、[[wikipedia:肥満|肥満]]、[[wikipedia:火傷|火傷]]や[[wikipedia:外傷|外傷]]により容姿が損なわれている状態)が存在している場合、この恐怖、不安、もしくは回避は、明らかにそれらとは関連がないか過剰である。 | ||
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平成26年2月 貝谷久宣訳 | 平成26年2月 貝谷久宣訳 | ||
===重症度尺度=== | ===重症度尺度=== | ||
社交不安症の重症度を検討する尺度<ref name=ref3>'''横山知加・貝谷久宣'''<br>精神科臨床評価-特定の精神障害に関連したもの11.不安障害 2)社会不安障害<br>''臨床精神医学'' 増刊号,262-266,2004.</ref>として、治療者による評価尺度ではLiebowitz Social Anxiety Scale日本語版<ref>'''朝倉聡・井上誠志郎・佐々木史・佐々木幸哉・北川信樹・井上猛・傳田健三・伊藤ますみ・松原良次・小山司'''<br>Liebowits Social Anxiety Scale(LSAS)日本語版の信頼性および妥当性の検討<br>''精神医学''、p.1079、2002</ref>、自記式評価尺度ではBrief Social Phobia Scale<ref><pubmed>1757457</pubmed></ref> | 社交不安症の重症度を検討する尺度<ref name=ref3>'''横山知加・貝谷久宣'''<br>精神科臨床評価-特定の精神障害に関連したもの11.不安障害 2)社会不安障害<br>''臨床精神医学'' 増刊号,262-266,2004.</ref>として、治療者による評価尺度ではLiebowitz Social Anxiety Scale日本語版<ref>'''朝倉聡・井上誠志郎・佐々木史・佐々木幸哉・北川信樹・井上猛・傳田健三・伊藤ますみ・松原良次・小山司'''<br>Liebowits Social Anxiety Scale(LSAS)日本語版の信頼性および妥当性の検討<br>''精神医学''、p.1079、2002</ref>、自記式評価尺度ではBrief Social Phobia Scale<ref><pubmed>1757457</pubmed></ref>を参考にして身体症状も評価できるように作成された東大式社会不安尺度<ref name=ref4>'''貝谷久宣・金井嘉宏・熊野宏明・坂野雄二・久保木富房'''<br>東大式社会不安尺度の開発と信頼性・妥当性の検討<br>''心身医学''、44(4),279-287,2004.</ref>がある。その他の自記式評価尺度としてFear of Negative Evaluationの日本語版<ref>'''石川利江、佐々木和義、福井至'''<br>社会的不安尺度FNE SADSの日本版標準化の試み<br>''[[行動療法]]研究'' 18:10-17,1992</ref>がある。 | ||
=== 鑑別診断 === | === 鑑別診断 === | ||
[[ | [[パニック症]]でも人前でパニック発作に対する予期不安と当惑で社交を回避することがある。しかし、パニック症の恐怖の本質は身体的生命の喪失であり、社交不安症のそれは社会的生命の喪失である。[[広場恐怖]]は人前で気分が悪くなったときすぐ逃げだせないかまたは助けを求めることが出来ない不安・恐怖のために社交状況を恐れ回避する。[[自閉症スペクトラム]]ではコミュニケーションや対人的相互反応の質的障害により人間関係が円滑に進まない点で社交不安症とは異なる。[[醜形恐怖症]]は自分の容貌の想像上の欠陥にこだわり対人関係が障害された状況である。従来日本で言われていた対人恐怖は社交不安症の病態以外に、[[自己臭恐怖]]、[[自己視線恐怖]]や[[身体醜形恐怖]]などの自分の身体的状況が他人に不快感・緊張感を引き起こすと確信し、他人を回避する状況も含まれる。しかし、DSM-5ではこれらの状態は[[妄想性障害]]または醜形恐怖症と診断される。[[統合失調症]]も社会恐怖を持ち、人付き合いを好まないことがあるが、社交不安症には統合失調症のような精神病症状([[幻覚]]・[[妄想]])はない。うつ病でも社交を恐れ嫌う場合があるが、[[うつ病]]が[[寛解]]すれば消失する。 | ||
== 病因・病態生理 == | == 病因・病態生理 == | ||
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[[クロナゼパム]]などの[[ベンゾジアゼピン]]系[[抗不安薬]]も有効である。[[認知行動療法]]([[CBT]])とりわけ暴露療法の効果は十分に認められており、その平均効果量は1.8と薬物療法より高い。一般に、SSRIでは効果発現がより速く、CBTでは効果がより持続的である。両者の併用療法が単独療法より勝るかどうかは検証されていない。[[恐怖学習]]の消去作用を有する[[D-サイクロセリン|<small>D</small>-サイクロセリン]]の暴露療法での併用が注目されている。[[モノアミン酸化酵素阻害薬]]の効果は検証されているが、副作用が出やすいので本邦では使用されていない。 | [[クロナゼパム]]などの[[ベンゾジアゼピン]]系[[抗不安薬]]も有効である。[[認知行動療法]]([[CBT]])とりわけ暴露療法の効果は十分に認められており、その平均効果量は1.8と薬物療法より高い。一般に、SSRIでは効果発現がより速く、CBTでは効果がより持続的である。両者の併用療法が単独療法より勝るかどうかは検証されていない。[[恐怖学習]]の消去作用を有する[[D-サイクロセリン|<small>D</small>-サイクロセリン]]の暴露療法での併用が注目されている。[[モノアミン酸化酵素阻害薬]]の効果は検証されているが、副作用が出やすいので本邦では使用されていない。 | ||
[[image:不安障害4.png|thumb|300px|''' | [[image:不安障害4.png|thumb|300px|'''図1.社交不安症の生涯有病率と他の不安症および気分障害との生涯併発率'''<br>社交不安症の発症年齢は10歳前後、その生涯有病率は5.0%、何らかの不安症の併発は55.0%、特定の恐怖症の併発は36.4%、全般性不安症の併発は21.6%、パニック症の併発は20.4%、大うつ病の併発は33.4%、何らかの気分障害の併発は55.0% ]] | ||
==疫学 == | ==疫学 == | ||
[[wikipedia:世界精神保健|世界精神保健]](WMH)日本調査2002-2006(最終データ4134名)<ref name=ref7>'''川上憲人'''<br>平成18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)こころの健康についての疫学調査に関する研究</ref>における社交不安症の重みづけ後の12ヶ月有病率は0.7で、生涯有病率は1.4であった。この生涯有病率は米国(6.8)や欧州(7. | [[wikipedia:世界精神保健|世界精神保健]](WMH)日本調査2002-2006(最終データ4134名)<ref name=ref7>'''川上憲人'''<br>平成18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)こころの健康についての疫学調査に関する研究</ref>における社交不安症の重みづけ後の12ヶ月有病率は0.7で、生涯有病率は1.4であった。この生涯有病率は米国(6.8)や欧州(7.7)に比べ著しく低い。また同じ調査で、社交不安症がその後の大うつ病障害発症に及ぼすハザード比は7.2と顕著に高い。米国の[[アルコール症]]とその関連疾患の疫学調査<ref name=ref8><pubmed>16420070</pubmed></ref>では社交不安症は男性より女性に多く(約1.5倍)、平均発症年齢は15.1歳、平均罹病期間16.3年で、80%以上は治療を受けず、初診時平均年齢は27.2歳であった。 | ||
社交不安症の他の不安症および気分障害との生涯併発率は図1を参照。その他の注目すべき合併しやすい精神障害は、[[双極I型障害]]、[[回避性パーソナリティ障害]]及び[[依存性パーソナリティ障害]]であった。また、平均7つの恐怖対象状況があり、多くはパーフォーマンス場面であった。欧米では社交不安症は[[wikipedia:不登校|不登校]]の大きな原因とされている。 | |||
==関連項目== | ==関連項目== | ||
*[[ | *[[不安症]] | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == |