「抗うつ薬」の版間の差分

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<font size="+1">上田 幹人、[http://researchmap.jp/read0043599/ 下田 和孝]</font><br>
<font size="+1">上田 幹人、[http://researchmap.jp/read0043599/ 下田 和孝]</font><br>
''獨協医科大学 精神神経科''<br>
''獨協医科大学 精神神経科''<br>
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年7月15日 原稿完成日:2013年2月4日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年7月15日 原稿完成日:2013年2月4日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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== 現在使用されている抗うつ薬  ==
== 現在使用されている抗うつ薬  ==


{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
{| class="wikitable"
|+'''主な抗うつ薬'''
|+'''表. 主な抗うつ薬'''
!分類!!化合物名
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| MAO阻害薬  
| [[MAO阻害薬]]
| フェネルジン、トラニルシプロミン、イソカルボキサジド
| [[フェネルジン]]、[[トラニルシプロミン]]、[[イソカルボキサジド]]
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| 三環系抗うつ薬  
| [[三環系抗うつ薬]]
| アミトリプチリン、イミプラミン、クロミプラミン、トリミプラミン、アモキサピン、ドスレピン、ロフェプラミン、ノルトリプチリン
| [[アミトリプチリン]]、[[イミプラミン]]、[[クロミプラミン]]、[[トリミプラミン]]、[[アモキサピン]]、[[ドスレピン]]、[[ロフェプラミン]]、[[ノルトリプチリン]]
|-
|-
| 四環系抗うつ薬  
| [[四環系抗うつ薬]]
| マプロチリン、ミアンセリン、セチプチリン
| [[マプロチリン]]、[[ミアンセリン]]、[[セチプチリン]]
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|-
| 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI)  
| [[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]] ([[SSRI]])  
| フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム
| [[フルボキサミン]]、[[パロキセチン]]、[[セルトラリン]]、[[エスシタロプラム]]
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| セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 (SNRI)  
| [[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]] ([[SNRI]])  
| ミルナシプラン、デュロキセチン
| [[ミルナシプラン]]、[[デュロキセチン]]
|-
|-
| ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬 (NaSSA)  
| [[ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬]] ([[NaSSA]])  
| ミルタザピン
| [[ミルタザピン]]
|}
|}


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 三環系および四環系抗うつ薬は、薬剤の分子中に含まれる環状構造の数の違いにより,それぞれ三環系および四環系抗うつ薬と分類されている。環状部位は、薬物の脳関門の通過等に影響を与えてはいるものの、抗うつ効果を発揮する薬理作用とは本質的には関係はなく、受容体およびトランスポーターへの作用の中心は、アミノ基と考えられており、三環系および四環系抗うつ薬は、同種の薬剤として考えられている。  
 三環系および四環系抗うつ薬は、薬剤の分子中に含まれる環状構造の数の違いにより,それぞれ三環系および四環系抗うつ薬と分類されている。環状部位は、薬物の脳関門の通過等に影響を与えてはいるものの、抗うつ効果を発揮する薬理作用とは本質的には関係はなく、受容体およびトランスポーターへの作用の中心は、アミノ基と考えられており、三環系および四環系抗うつ薬は、同種の薬剤として考えられている。  


 三環系抗うつ薬は、様々な神経伝達物質の受容体やトランスポーターへの作用を有している。ノルアドレナリンおよびセロトニントランスポーターを阻害することが中心的な薬理作用であるが、[[アセチルコリン]]受容体、[[アドレナリン]][[Α1受容体]]、[[ヒスタミン]][[H1受容体]]などへの作用も強く、抗うつ効果は強いものの、副作用の出現しやすさや過量服薬時の致死性の高さから、現在は使用される症例は限定的になってきている。  
 三環系抗うつ薬は、様々な神経伝達物質の受容体やトランスポーターへの作用を有している。ノルアドレナリンおよびセロトニントランスポーターを阻害することが中心的な薬理作用であるが、[[アセチルコリン]]受容体、[[アドレナリン]][[ノルアドレナリン#受容体|&alpha;1受容体]]、[[ヒスタミン]][[H1受容体]]などへの作用も強く、抗うつ効果は強いものの、副作用の出現しやすさや過量服薬時の致死性の高さから、現在は使用される症例は限定的になってきている。  


 [[wikipedia:ja:第3級アミン|第3級アミン]]の三環系抗うつ薬は、セロトニンおよびノルアドレナリントランスポーターの阻害作用を有するが、その活性代謝物の[[wikipedia:ja:第2級アミン|第2級アミン]]が、ノルアドレナリントランスポーターの阻害作用を有している。イミプラミンの代謝産物であるデシプラミン (desipramine)、クロミプラミンの代謝産物であるデスメチルクロミプラミン (desmethylclomipramine)、アミトリプチリンの代謝産物であるノルトリプチリン (nortriptyline)は、強力なノルアドレナリントランスポーター阻害作用を有している。三環系抗うつ薬は、セロトニン、ノルアドレナリン両者のトランスポーターを阻害するが、ノルアドレナリンに対する阻害効果が優位である薬剤が多い。また、前頭葉においては、ドパミントランスポーターが少なく、ノルアドレナリントランスポーターがドパミンの再取り込みを行っており、三環形抗うつ薬は、前頭葉のノルアドレナリントランスポーターに作用することによりドパミンを増加させる。  
 [[wikipedia:ja:第3級アミン|第3級アミン]]の三環系抗うつ薬は、セロトニンおよびノルアドレナリントランスポーターの阻害作用を有するが、その活性代謝物の[[wikipedia:ja:第2級アミン|第2級アミン]]が、ノルアドレナリントランスポーターの阻害作用を有している。イミプラミンの代謝産物であるデシプラミン (desipramine)、クロミプラミンの代謝産物であるデスメチルクロミプラミン (desmethylclomipramine)、アミトリプチリンの代謝産物であるノルトリプチリン (nortriptyline)は、強力なノルアドレナリントランスポーター阻害作用を有している。三環系抗うつ薬は、セロトニン、ノルアドレナリン両者のトランスポーターを阻害するが、ノルアドレナリンに対する阻害効果が優位である薬剤が多い。また、前頭葉においては、ドパミントランスポーターが少なく、ノルアドレナリントランスポーターがドパミンの再取り込みを行っており、三環形抗うつ薬は、前頭葉のノルアドレナリントランスポーターに作用することによりドパミンを増加させる。


=== 選択的セロトニン再取り込み阻害薬およびセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 ===
=== 選択的セロトニン再取り込み阻害薬およびセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 ===