「高親和性コリントランスポーター」の版間の差分

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== コリン輸送とアセチルコリン合成 ==
== コリン輸送とアセチルコリン合成 ==
 CHT1はNa<sup>+</sup>濃度勾配に依存して細胞外からコリンを輸送する(''K''<sub>m</sub>: 1 – 5 &mu;M)。この輸送は起電性であるが、1分子のコリンに対して共輸送されるNa<sup>+</sup>の分子数は一義的に決まらず、膜電位に依存する <ref><pubmed> 17005849 </pubmed></ref>。コリン輸送はCl<sup>-</sup>やpHにも依存するが、Cl<sup>-</sup>はアロステリック因子として働くと考えられる。CHT1の特異的阻害剤はヘミコリニウム-3で、競合的に阻害する(''K''<sub>i</sub>: 1 – 10 nM)。CHT1によるコリン取り込みはアセチルコリン合成の律速段階である。アセチルコリンはコリン作動性神経末端でChATの触媒により合成されるが、ChATのコリンに対する親和性は低く(''K''<sub>m</sub>: 〜1 mM)、通常の細胞内コリン濃度で飽和しないのでアセチルコリン合成の律速因子にはならないと考えられる。実際にCHT1によって取り込まれたコリンは速やかにアセチルコリンに変換される。
 CHT1はNa<sup>+</sup>濃度勾配に依存して細胞外からコリンを輸送する(''K''<sub>m</sub>: 1 – 5 &mu;M)。この輸送は起電性であるが、1分子のコリンに対して共輸送されるNa<sup>+</sup>の分子数は一義的に決まらず、膜電位に依存する<ref><pubmed> 17005849 </pubmed></ref>。コリン輸送はCl<sup>-</sup>やpHにも依存するが、Cl<sup>-</sup>はアロステリック因子として働くと考えられる。CHT1の特異的阻害剤はヘミコリニウム-3で、競合的に阻害する(''K''<sub>i</sub>: 1 – 10 nM)。CHT1によるコリン取り込みはアセチルコリン合成の律速段階である。アセチルコリンはコリン作動性神経末端でChATの触媒により合成されるが、ChATのコリンに対する親和性は低く(''K''<sub>m</sub>: 〜1 mM)、通常の細胞内コリン濃度で飽和しないのでアセチルコリン合成の律速因子にはならないと考えられる。実際にCHT1によって取り込まれたコリンは速やかにアセチルコリンに変換される。


== 生理的機能と関連疾患 ==
== 生理的機能と関連疾患 ==
 CHT1遺伝子欠損マウスはアセチルコリン合成能を欠くことにより生後間もなく呼吸不全で致死となる <ref><pubmed> 15173594 </pubmed></ref>。CHT1遺伝子欠損のヘテロマウスでは、CHT1のタンパク量は野生型に比べて約半分に減少しているものの高親和性コリン取り込み活性は変化しておらず、通常の条件下では異常は観察されない。しかし、運動負荷を与えるなどアセチルコリン合成の需要が高まる条件下では、このヘテロマウスは野生型よりも易疲労性を示す<ref><pubmed> 17010154 </pubmed></ref>。また、中枢では大脳皮質のアセチルコリンが関与する注意行動に欠陥を示す<ref><pubmed> 23392663 </pubmed></ref>。ヘテロマウスではCHT1の形質膜発現量は野生型と同程度であるものの細胞内プール量が不足しているため、神経高頻度刺激時にはCHT1の形質膜移行量が野生型より少なく、結果的にコリン供給が不足することでアセチルコリンが枯渇しやすいと考えられる。
 CHT1遺伝子欠損マウスはアセチルコリン合成能を欠くことにより生後間もなく呼吸不全で致死となる<ref><pubmed> 15173594 </pubmed></ref>。CHT1遺伝子欠損のヘテロマウスでは、CHT1のタンパク量は野生型に比べて約半分に減少しているものの高親和性コリン取り込み活性は変化しておらず、通常の条件下では異常は観察されない。しかし、運動負荷を与えるなどアセチルコリン合成の需要が高まる条件下では、このヘテロマウスは野生型よりも易疲労性を示す<ref><pubmed> 17010154 </pubmed></ref>。また、中枢では大脳皮質のアセチルコリンが関与する注意行動に欠陥を示す<ref><pubmed> 23392663 </pubmed></ref>。ヘテロマウスではCHT1の形質膜発現量は野生型と同程度であるものの細胞内プール量が不足しているため、神経高頻度刺激時にはCHT1の形質膜移行量が野生型より少なく、結果的にコリン供給が不足することでアセチルコリンが枯渇しやすいと考えられる。


 ヒトCHT1遺伝子の翻訳領域内には人種差はあるものの比較的高頻度の単一塩基多型(SNP)が存在する。このSNPはアミノ酸置換(I89V)を伴い、培養細胞発現系における機能解析ではI89V変異体のコリン取り込み活性は約半分に減少している<ref><pubmed> 12237312 </pubmed></ref>。このSNPはうつ病や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの精神疾患と関連することが報告されている<ref><pubmed> 22483273 </pubmed></ref>。
 ヒトCHT1遺伝子の翻訳領域内には人種差はあるものの比較的高頻度の単一塩基多型(SNP)が存在する。このSNPはアミノ酸置換(I89V)を伴い、培養細胞発現系における機能解析ではI89V変異体のコリン取り込み活性は約半分に減少している<ref><pubmed> 12237312 </pubmed></ref>。このSNPはうつ病や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの精神疾患と関連することが報告されている<ref><pubmed> 22483273 </pubmed></ref>。
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