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DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2014年9月24日 原稿完成日:2014年月日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/okanolab 岡野 栄之](慶應義塾大学 医学部)<br> | |||
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学名:Callithrix jacchus 英名:common marmoset | |||
== 分類、形態、生態 == | |||
コモンマーモセット(以下マーモセットと略す)は、霊長目([[サル]]目)−真猿類亜目−広鼻猿下目(新世界ザル類)−オマキザル科−マーモセット亜科に属する。原産地は南米のブラジルの北東部であり、半乾燥熱帯林に生息し、樹上生活性である。二次林や林縁部など人間の生活環境に近い地域にも分布しており、人為的な導入や逃亡により都市周辺の林にも生息域を広げていることが知られている。小型の[[霊長類]]であり、成熟個体で体長25〜35cm、体重300-500gと[[ヒト]]が扱いやすい大きさである。長い尾を持ち、顔や手のひら以外は毛で覆われ、左右の耳の脇に白くて大きい毛ブサを有するのが特徴である。顔の表情はとても豊かで、さまざまな表情を持つ。他のマーモセット類と同様に爪は足の親指だけが平爪で、その他の指は鉤爪である。野生での食物は樹脂・樹液、果実、[[昆虫]]などであるが、飼育下では専用配合飼料を中心とした給餌で飼育できる。樹脂・樹液を得るために木に穴を開けるのに適した、犬歯と同じくらい長い下顎切歯を有する。また、腺からの[[分泌]]物で採食樹に匂いづけをすることが知られている。寿命は飼育下で10年〜15年である。 | |||
== 繁殖 == | == 繁殖 == | ||
性成熟まで約1年半と他の実験用サル類(3~4年)に比べて短い。飼育下では1回の出産で2〜3仔を出産する。周年繁殖で1年間に2回出産し、年間4~6匹、生涯に1匹の雌が産む子の数は40~80匹となり、非常に高い繁殖力を持つ。また、同腹の仔は胎盤を共有するため、血液キメラとなるユニークな生物学的特性を持つ。 | |||
== 社会性 == | == 社会性 == | ||
野生では繁殖ペアとその仔からなるファミリー単位で生活する。父親や兄姉が[[子育て]] | 野生では繁殖ペアとその仔からなるファミリー単位で生活する。父親や兄姉が[[子育て]]に協力するという社会構造上の特徴を持つ。このような社会性は、社会行動の研究でも注目される。ファミリーにおいて、繁殖雌以外の雌は性周期が抑制されることが知られている。また、マーモセットは、小鳥のさえずりに似た独特の鳴き声や威嚇の鳴き声などいくつかの異なった音声を発し、特徴的な音声コミュニケーションを行う。 | ||
== 実験動物コロニー == | == 実験動物コロニー == | ||
日本、米国、ドイツ、イギリス、オランダ、オーストラリアなどに実験動物としての室内繁殖コロニーが存在し、実験動物として供給されている。このため、微生物学的にもコントロールされた動物を実験に使用することができる。これまで実験動物コロニー由来のマーモセットにおいて重篤な人獣共通感染症の報告はなく、その危険性は低い。マカクサル類で注意が必要なBウイルスのマーモセットの自然感染例はない。日本では1970年代から導入され、繁殖コロニーが維持されている。 | |||
== 実験医学 == | == 実験医学 == | ||
近年、脳科学や再生医療を中心にバイオメディカル研究でのマーモセットの使用が急増している。2009年には世界初となる霊長類での遺伝子改変動物の作製と継代(導入遺伝子の生殖系への伝達)が報告され、[[脳神経]]疾患モデルや脳機能解析などに遺伝子改変マーモセットが応用され始めている。 | |||
ヒトに近縁な真猿類であるマーモセットは実験結果のヒトへの外挿性が高い。代謝経路、生理学的、解剖学的特徴がヒトと類似しているため、古くから神経学、繁殖学、感染症の研究、行動学などに多く使われてきた。マーモセットは1970年前後に欧米で使用され始め、ヒトおよび[[チンパンジー]] | ヒトに近縁な真猿類であるマーモセットは実験結果のヒトへの外挿性が高い。代謝経路、生理学的、解剖学的特徴がヒトと類似しているため、古くから神経学、繁殖学、感染症の研究、行動学などに多く使われてきた。マーモセットは1970年前後に欧米で使用され始め、ヒトおよび[[チンパンジー]]以外では報告されなかったA 型肝炎に対する感受性や[[げっ歯類]]やウサギではみられなかったサリドマイド剤による催奇形性が注目された。 | ||
特に、脳神経科学は、現在マーモセットの利用が最も多い分野である。マーモセットの脳は[[大脳皮質]] | 特に、脳神経科学は、現在マーモセットの利用が最も多い分野である。マーモセットの脳は[[大脳皮質]]の拡大で生じた霊長類に特異的な機能を持つ。よって認知機能、社会的行動などの脳高次機能に関してヒトと類似しており、認知科学などの脳高次機能の研究や、ヒト神経疾患研究のための動物モデルとして適している。ヒトの疾患モデルとしては、特にパーキンソン病、脊髄損傷、[[多発性硬化症]]などの神経変性疾患などのモデルとして用いられている。また、前述のとおり、霊長類では唯一次世代への導入遺伝子の伝達が認められた[[トランスジェニック動物]]が作製され、遺伝子改変技術を用いたモデル開発が行われている。 | ||
その他、感染症分野では、種々のヘルペスウイルス、GB virus BによるC型肝炎モデル、麻疹、デング熱などウイルス感染を中心に現在でも用いられている。新薬の開発では、薬物代謝酵素系のP450のヒトとの高い相同性が示されており、創薬、薬理・毒性学分野で多く使用されている。近年は、飼育法、採血、麻酔法、行動解析法など実験にまつわる種々の基盤技術も開発確立されており、また、全ゲノム配列解読、脳地図の作製、MRIアトラスなど多くの研究ツールがそろってきている。さらに、[[ES細胞]]、[[iPS細胞]]が樹立されており、これを追応用して脊髄損傷などの細胞移植治療実験が行われており、再生医療の有効性・安全性を評価するための前臨床試験系としてのマーモセットの有用性が示されている。 | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
< | 1. <pubmed>19478777</pubmed> | ||
2. '''伊藤豊志雄・森脇和郎'''<br>コモンマーモセットの歴史と展望-Biomedical Super Modelの期待<br>''実験医学'' 28(18):3029-3032(2010) | |||
3. '''谷岡功邦 編'''<br>マーモセットの飼育繁殖・実験手技・解剖組織<br>''アドスリー''(1996) | |||
4. '''谷岡功邦,野村達次 編'''<br>コモンマーモセットの特性と実験利用<br>''ソフトサイエンス社''(1989) |
2014年9月24日 (水) 22:04時点における版
Common marmoset[1][2] | |
---|---|
Conservation status | |
Scientific classification | |
Kingdom: | Animalia |
Phylum: | Chordata |
Class: | Mammalia |
Order: | Primates |
Family: | Callitrichidae |
Genus: | Callithrix |
Species: | C. jacchus |
Binomial name | |
Callithrix jacchus (Linnaeus, 1758)[4] | |
ファイル:Callithrix jacchus distribution.svg | |
Geographic range | |
Synonyms | |
|
井上 貴史、佐々木 えりか
公益財団法人実験動物中央研究所
DOI:10.14931/bsd.5421 原稿受付日:2014年9月24日 原稿完成日:2014年月日
担当編集委員:岡野 栄之(慶應義塾大学 医学部)
学名:Callithrix jacchus 英名:common marmoset
分類、形態、生態
コモンマーモセット(以下マーモセットと略す)は、霊長目(サル目)−真猿類亜目−広鼻猿下目(新世界ザル類)−オマキザル科−マーモセット亜科に属する。原産地は南米のブラジルの北東部であり、半乾燥熱帯林に生息し、樹上生活性である。二次林や林縁部など人間の生活環境に近い地域にも分布しており、人為的な導入や逃亡により都市周辺の林にも生息域を広げていることが知られている。小型の霊長類であり、成熟個体で体長25〜35cm、体重300-500gとヒトが扱いやすい大きさである。長い尾を持ち、顔や手のひら以外は毛で覆われ、左右の耳の脇に白くて大きい毛ブサを有するのが特徴である。顔の表情はとても豊かで、さまざまな表情を持つ。他のマーモセット類と同様に爪は足の親指だけが平爪で、その他の指は鉤爪である。野生での食物は樹脂・樹液、果実、昆虫などであるが、飼育下では専用配合飼料を中心とした給餌で飼育できる。樹脂・樹液を得るために木に穴を開けるのに適した、犬歯と同じくらい長い下顎切歯を有する。また、腺からの分泌物で採食樹に匂いづけをすることが知られている。寿命は飼育下で10年〜15年である。
繁殖
性成熟まで約1年半と他の実験用サル類(3~4年)に比べて短い。飼育下では1回の出産で2〜3仔を出産する。周年繁殖で1年間に2回出産し、年間4~6匹、生涯に1匹の雌が産む子の数は40~80匹となり、非常に高い繁殖力を持つ。また、同腹の仔は胎盤を共有するため、血液キメラとなるユニークな生物学的特性を持つ。
社会性
野生では繁殖ペアとその仔からなるファミリー単位で生活する。父親や兄姉が子育てに協力するという社会構造上の特徴を持つ。このような社会性は、社会行動の研究でも注目される。ファミリーにおいて、繁殖雌以外の雌は性周期が抑制されることが知られている。また、マーモセットは、小鳥のさえずりに似た独特の鳴き声や威嚇の鳴き声などいくつかの異なった音声を発し、特徴的な音声コミュニケーションを行う。
実験動物コロニー
日本、米国、ドイツ、イギリス、オランダ、オーストラリアなどに実験動物としての室内繁殖コロニーが存在し、実験動物として供給されている。このため、微生物学的にもコントロールされた動物を実験に使用することができる。これまで実験動物コロニー由来のマーモセットにおいて重篤な人獣共通感染症の報告はなく、その危険性は低い。マカクサル類で注意が必要なBウイルスのマーモセットの自然感染例はない。日本では1970年代から導入され、繁殖コロニーが維持されている。
実験医学
近年、脳科学や再生医療を中心にバイオメディカル研究でのマーモセットの使用が急増している。2009年には世界初となる霊長類での遺伝子改変動物の作製と継代(導入遺伝子の生殖系への伝達)が報告され、脳神経疾患モデルや脳機能解析などに遺伝子改変マーモセットが応用され始めている。
ヒトに近縁な真猿類であるマーモセットは実験結果のヒトへの外挿性が高い。代謝経路、生理学的、解剖学的特徴がヒトと類似しているため、古くから神経学、繁殖学、感染症の研究、行動学などに多く使われてきた。マーモセットは1970年前後に欧米で使用され始め、ヒトおよびチンパンジー以外では報告されなかったA 型肝炎に対する感受性やげっ歯類やウサギではみられなかったサリドマイド剤による催奇形性が注目された。
特に、脳神経科学は、現在マーモセットの利用が最も多い分野である。マーモセットの脳は大脳皮質の拡大で生じた霊長類に特異的な機能を持つ。よって認知機能、社会的行動などの脳高次機能に関してヒトと類似しており、認知科学などの脳高次機能の研究や、ヒト神経疾患研究のための動物モデルとして適している。ヒトの疾患モデルとしては、特にパーキンソン病、脊髄損傷、多発性硬化症などの神経変性疾患などのモデルとして用いられている。また、前述のとおり、霊長類では唯一次世代への導入遺伝子の伝達が認められたトランスジェニック動物が作製され、遺伝子改変技術を用いたモデル開発が行われている。
その他、感染症分野では、種々のヘルペスウイルス、GB virus BによるC型肝炎モデル、麻疹、デング熱などウイルス感染を中心に現在でも用いられている。新薬の開発では、薬物代謝酵素系のP450のヒトとの高い相同性が示されており、創薬、薬理・毒性学分野で多く使用されている。近年は、飼育法、採血、麻酔法、行動解析法など実験にまつわる種々の基盤技術も開発確立されており、また、全ゲノム配列解読、脳地図の作製、MRIアトラスなど多くの研究ツールがそろってきている。さらに、ES細胞、iPS細胞が樹立されており、これを追応用して脊髄損傷などの細胞移植治療実験が行われており、再生医療の有効性・安全性を評価するための前臨床試験系としてのマーモセットの有用性が示されている。
参考文献
1.
Sasaki, E., Suemizu, H., Shimada, A., Hanazawa, K., Oiwa, R., Kamioka, M., ..., & Nomura, T. (2009).
Generation of transgenic non-human primates with germline transmission. Nature, 459(7246), 523-7.
[PubMed:19478777]
[WorldCat]
[DOI]
2. 伊藤豊志雄・森脇和郎
コモンマーモセットの歴史と展望-Biomedical Super Modelの期待
実験医学 28(18):3029-3032(2010)
3. 谷岡功邦 編
マーモセットの飼育繁殖・実験手技・解剖組織
アドスリー(1996)
4. 谷岡功邦,野村達次 編
コモンマーモセットの特性と実験利用
ソフトサイエンス社(1989)
- ↑ テンプレート:MSW3 Groves
- ↑ Rylands AB and Mittermeier RA (2009). "The Diversity of the New World Primates (Platyrrhini)". In Garber PA, Estrada A, Bicca-Marques JC, Heymann EW, Strier KB (ed.). South American Primates: Comparative Perspectives in the Study of Behavior, Ecology, and Conservation. Springer. pp. 23–54. ISBN 978-0-387-78704-6.
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: CS1 maint: multiple names: editors list (link) - ↑ テンプレート:IUCN2008
- ↑ Linnaeus, Carl (1758). Systema naturæ. Regnum animale (10 ed.). pp. 27, 28. Retrieved 19 November 2012.