「RNA干渉」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
(2人の利用者による、間の4版が非表示)
1行目: 1行目:
<div align="right"> 
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0079791 塩見 美喜子]</font><br>
''慶應義塾大学 医学部 分子生物学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年4月30日 原稿完成日:2015年1月9日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0080380 上口 裕之](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> 
</div>
英語名:RNA interference 独:RNA-Interferenz 仏:Interférence par ARN
英語名:RNA interference 独:RNA-Interferenz 仏:Interférence par ARN


英略名:RNAi
英略名:[[RNAi]]


{{box|text=
 RNA干渉とはmRNAに対して相補的な配列をもつ一本鎖RNA([[wikipedia:ja:アンチセンス鎖|アンチセンス鎖]])、その逆鎖である一本鎖RNA([[wikipedia:ja:センス鎖|センス鎖]])からなる二本鎖RNAによって、遺伝子発現抑制効果を示す現象である。当初、[[線虫]]の遺伝子[[Lin-4]]遺伝子産物が、タンパク質をコードせずに遺伝子発現を制御することから示されたが、その後、[[wikipedia:ja:単細胞生物|単細胞生物]]から[[wikipedia:ja:哺乳動物|哺乳動物]]に至る様々な生物で内在性の小分子RNAがRNA干渉のメカニズムにより遺伝子制御に関わることが見いだされ、[[wikipedia:ja:発生|発生]]や[[wikipedia:ja:代謝|代謝]]、[[wikipedia:ja:感染|感染]]防御など生命維持に欠かせない多くの現象を制御し、生体の[[wikipedia:ja:恒常性|恒常性]]を維持する働きを有することが分かっている。RNA干渉関連分子の機能異常が発症原因となる疾患も見つかってきている。またさらに外来に二本鎖RNAを投与することによっても同様のメカニズムによって遺伝子発現を制御することができることから、RNA干渉は、遺伝子機能探索の技術として細胞や個体でも応用が可能で、創薬に繋がる大きな可能性を秘めている。
 RNA干渉とはmRNAに対して相補的な配列をもつ一本鎖RNA([[wikipedia:ja:アンチセンス鎖|アンチセンス鎖]])、その逆鎖である一本鎖RNA([[wikipedia:ja:センス鎖|センス鎖]])からなる二本鎖RNAによって、遺伝子発現抑制効果を示す現象である。当初、[[線虫]]の遺伝子[[Lin-4]]遺伝子産物が、タンパク質をコードせずに遺伝子発現を制御することから示されたが、その後、[[wikipedia:ja:単細胞生物|単細胞生物]]から[[wikipedia:ja:哺乳動物|哺乳動物]]に至る様々な生物で内在性の小分子RNAがRNA干渉のメカニズムにより遺伝子制御に関わることが見いだされ、[[wikipedia:ja:発生|発生]]や[[wikipedia:ja:代謝|代謝]]、[[wikipedia:ja:感染|感染]]防御など生命維持に欠かせない多くの現象を制御し、生体の[[wikipedia:ja:恒常性|恒常性]]を維持する働きを有することが分かっている。RNA干渉関連分子の機能異常が発症原因となる疾患も見つかってきている。またさらに外来に二本鎖RNAを投与することによっても同様のメカニズムによって遺伝子発現を制御することができることから、RNA干渉は、遺伝子機能探索の技術として細胞や個体でも応用が可能で、創薬に繋がる大きな可能性を秘めている。
}}


== RNA干渉とは ==
== RNA干渉とは ==
10行目: 19行目:
 1993年、[[wikipedia:Victor Ambros|Victor Ambros]]博士らは、[[線虫|''C. elegans'']]のlin-4遺伝子産物がタンパク質をコードしないのにもかかわらず、[[lin-14]]遺伝子産物である[[LIN-14]]タンパク質の発現を負に調節する因子であることを見出した<ref name=ref5><pubmed>8252621</pubmed></ref>。この遺伝子産物は、ヘアピン型の小分子RNAであり、標的遺伝子と結合することにより機能すると考えられた(図1)。その後、[[microRNA]]([[miRNA]])と呼ばれるようになり、現在までに単細胞生物から哺乳動物に至る様々な生物で内在性の小分子RNAがRNA干渉のメカニズムにより遺伝子制御に関わることが見いだされ、発生や代謝、ウイルス感染防御など生命維持に欠かせない多くの現象を制御し、生体の恒常性を維持する働きを有することが分かっている<ref name=ref2 /> <ref name=ref3 /> <ref name=ref4 />。RNAi関連分子の機能異常が発症原因となる疾患も見つかってきている<ref name=ref6><pubmed>20735434</pubmed></ref>。
 1993年、[[wikipedia:Victor Ambros|Victor Ambros]]博士らは、[[線虫|''C. elegans'']]のlin-4遺伝子産物がタンパク質をコードしないのにもかかわらず、[[lin-14]]遺伝子産物である[[LIN-14]]タンパク質の発現を負に調節する因子であることを見出した<ref name=ref5><pubmed>8252621</pubmed></ref>。この遺伝子産物は、ヘアピン型の小分子RNAであり、標的遺伝子と結合することにより機能すると考えられた(図1)。その後、[[microRNA]]([[miRNA]])と呼ばれるようになり、現在までに単細胞生物から哺乳動物に至る様々な生物で内在性の小分子RNAがRNA干渉のメカニズムにより遺伝子制御に関わることが見いだされ、発生や代謝、ウイルス感染防御など生命維持に欠かせない多くの現象を制御し、生体の恒常性を維持する働きを有することが分かっている<ref name=ref2 /> <ref name=ref3 /> <ref name=ref4 />。RNAi関連分子の機能異常が発症原因となる疾患も見つかってきている<ref name=ref6><pubmed>20735434</pubmed></ref>。


 一方、1998年に、線虫の発生遺伝学者[[wikipedia:ja:クレイグ・メロー|Craig Mello]]と[[wikipedia:ja:アンドリュー・ファイアー|Andrew Fire]]両博士らは、発生に関わる遺伝子の機能解析を目的として、線虫体内に、標的[[wikipedia:ja:mRNA|mRNA]]に対して相補的な配列をもつ一本鎖RNA(アンチセンス鎖)、その逆鎖である一本鎖RNA(センス鎖)、その両者からなる二本鎖RNAを別途投与することによって、二本鎖RNAが高い遺伝子発現抑制効果を示すことを見出した<ref name=ref1><pubmed>9486653</pubmed></ref>。この発見は、小分子RNAを外来性に投与することにより、任意の遺伝子の発現を調節する可能性を示唆した。
 一方、1998年に、線虫の発生遺伝学者[[wikipedia:ja:クレイグ・メロー|Craig Mello]]と[[wikipedia:ja:アンドリュー・ファイアー|Andrew Fire]]両博士らは、発生に関わる遺伝子の機能解析を目的として、線虫体内に、標的[[wikipedia:ja:mRNA|mRNA]]に対して相補的な配列をもつ一本鎖RNA(アンチセンス鎖)、その逆鎖である一本鎖RNA(センス鎖)、その両者からなる二本鎖RNAを別途投与することによって、二本鎖RNAが高い遺伝子発現抑制効果を示すことを見出した<ref name=ref1><pubmed>9486653</pubmed></ref>。この発見は、小分子RNAを外来性に投与することにより、任意の遺伝子の発現を調節する可能性を示唆した(図2)。


 これらの発見をきっかけにRNA干渉の研究は飛躍的にすすみ、現在では二本鎖RNA が[[short interfering RNA]]([[siRNA]])に変換されて遺伝子発現を調節するプロセスが明らかとなっている<ref name=ref2><pubmed>19148191</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>19165215</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>19158785</pubmed></ref>。siRNAもmiRNAもその生合成に[[Dicer]]を必要とする、また遺伝子の発現を抑制するには[[Argonaute]]タンパク質と[[RNA induced silencing complex]] ([[RISC]])を形成する必要がある、などお互い類似したメカニズムで起こることなどが明らかにされている<ref name=ref2 /> <ref name=ref3 /> <ref name=ref4 />。
 これらの発見をきっかけにRNA干渉の研究は飛躍的にすすみ、現在では二本鎖RNA が[[short interfering RNA]]([[siRNA]])に変換されて遺伝子発現を調節するプロセスが明らかとなっている<ref name=ref2><pubmed>19148191</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>19165215</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>19158785</pubmed></ref>。siRNAもmiRNAもその生合成に[[Dicer]]を必要とする、また遺伝子の発現を抑制するには[[Argonaute]]タンパク質と[[RNA induced silencing complex]] ([[RISC]])を形成する必要がある、などお互い類似したメカニズムで起こることなどが明らかにされている<ref name=ref2 /> <ref name=ref3 /> <ref name=ref4 />。
28行目: 37行目:


==外来小分子RNAによるもの==
==外来小分子RNAによるもの==
 RNA干渉を用いて、任意の遺伝子の発現を抑制することが可能である。ヘアピン状になったshort hairpin RNA (shRNA)を用いることが多い。配列は[http://sidirect2.rnai.jp/ SiDirect 2.0]などでデザインするが、実際には複数個作成して効果を確認することが推奨される。shRNAはRNAとして合成して導入するほか、[[ウイルスベクター]]や[[プラスミドベクター]]として導入することも可能である。
 RNA干渉を用いて、任意の遺伝子の発現を抑制することが可能である。ヘアピン状になったshort hairpin RNA ([[shRNA]])を用いることが多い。配列は[http://sidirect2.rnai.jp/ SiDirect 2.0]などでデザインするが、実際には複数個作成して効果を確認することが推奨される。shRNAはRNAとして合成して導入するほか、[[ウイルスベクター]]や[[プラスミドベクター]]として導入することも可能である。


 細胞内に導入された二本鎖RNAは、21塩基長程度の一本鎖RNAであるsiRNAへと変換され、標的RNAへの対合及び発現抑制が可能になる<ref name=ref2 /> <ref name=ref3 /> <ref name=ref4 />。二本鎖RNAのプロセシングにはRNaseIIIドメインをもったDicerタンパク質が働く。Dicerは二本鎖RNAの端から21塩基長程度の二本鎖RNAを切り出す。Dicer切断による産物は、5'末端にリン酸基を有し、3'末端が反対鎖より2塩基突出していることを特徴とする。切り出された二本鎖RNA はArgonauteタンパク質に取り込まれ、Argonauteタンパク質がもつRNA切断活性([[Slicer活性]]と呼ぶ)によって一方鎖の中央が切断され一本鎖RNAとなる。残った一本鎖siRNAとArgonauteタンパク質からなる複合体をRISCとよぶ。二本鎖siRNAのうち、どちらの鎖がArgonauteによって切られるかは、二本鎖siRNAの両端の対合性の強弱によって決定される。
 細胞内に導入された二本鎖RNAは、21塩基長程度の一本鎖RNAであるsiRNAへと変換され、標的RNAへの対合及び発現抑制が可能になる<ref name=ref2 /> <ref name=ref3 /> <ref name=ref4 />。二本鎖RNAのプロセシングにはRNaseIIIドメインをもったDicerタンパク質が働く。Dicerは二本鎖RNAの端から21塩基長程度の二本鎖RNAを切り出す。Dicer切断による産物は、5'末端にリン酸基を有し、3'末端が反対鎖より2塩基突出していることを特徴とする。切り出された二本鎖RNA はArgonauteタンパク質に取り込まれ、Argonauteタンパク質がもつRNA切断活性([[Slicer活性]]と呼ぶ)によって一方鎖の中央が切断され一本鎖RNAとなる。残った一本鎖siRNAとArgonauteタンパク質からなる複合体をRISCとよぶ。二本鎖siRNAのうち、どちらの鎖がArgonauteによって切られるかは、二本鎖siRNAの両端の対合性の強弱によって決定される。
45行目: 54行目:
==参考文献==
==参考文献==
<references />
<references />
(執筆者:塩見美喜子 担当編集委員:岡野栄之)