「細胞系譜」の版間の差分

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 興味深いことに、発生学における細胞系譜(個体発生)のダイアグラムは、[[wikipedia:ja:進化生物学|進化生物学]]の系統樹(進化ダイアグム:系統発生)と形状が似通っている。しかしながら、進化生物学者(Evolutionary Biologist)は10年から10億年の時間を考え、発生生物学者(Developmental Biologist)は秒単位からせいぜい1ヶ月くらいに起こる生物現象を扱う。進化学と発生学との研究とは、ものの見方が大きく違う、似て非なるものと従来考えられてきた。ところが近年、発生に関わる遺伝子の働きの生物間の共通性が発見されると、両学問が合体して、進化発生学(Evo-Devo)という革命的な学問分野の発展が生じた。
 興味深いことに、発生学における細胞系譜(個体発生)のダイアグラムは、[[wikipedia:ja:進化生物学|進化生物学]]の系統樹(進化ダイアグム:系統発生)と形状が似通っている。しかしながら、進化生物学者(Evolutionary Biologist)は10年から10億年の時間を考え、発生生物学者(Developmental Biologist)は秒単位からせいぜい1ヶ月くらいに起こる生物現象を扱う。進化学と発生学との研究とは、ものの見方が大きく違う、似て非なるものと従来考えられてきた。ところが近年、発生に関わる遺伝子の働きの生物間の共通性が発見されると、両学問が合体して、進化発生学(Evo-Devo)という革命的な学問分野の発展が生じた。


 哺乳類の中枢神経系の細胞分化に関して、神経細胞とグリア細胞が同一の前駆細胞から分化してくるという一元説(一元論)(Schaper, 1897)と、両者が異なる前駆細胞に由来するという二元説(二元論)(His, 1989)が19世紀より提唱され議論されてきた。近年では、網膜においてレトロウイルス(Turner and Cepko, 1987)や蛍光物質(Wetts and Fraser, 1988)を用いた細胞系譜解析(cell lineage analysis)により、神経細胞とグリア細胞が共通の多能性前駆細胞(multipotential progenitor cell)から分化することが明らかとなり、引き続き脳でも同様の細胞系譜解析の結果(Walsh and Cepko)が報告されたことから、基本的には一元説が支持されている。最近の遺伝子組換えマウスを用いた大脳皮質の細胞系譜解析からも一元説が支持されている(Gao et al., 2014)。発生過程において、多能性前駆細胞は複数種類の神経細胞やグリア細胞を生み出しつつも次第に多分化能を喪失し、発生後期のステージではグリア細胞のみが分化する状態になると考えられている。
 哺乳類の中枢神経系の細胞分化に関して、神経細胞とグリア細胞が同一の前駆細胞から分化してくるという一元説(一元論)(Schaper, 1897)と、両者が異なる前駆細胞に由来するという二元説(二元論)(His, 1989)が19世紀より提唱され議論されてきた。近年では、網膜においてレトロウイルス(Turner and Cepko, 1987)や蛍光物質(Wetts and Fraser, 1988)を用いた細胞系譜解析(cell lineage analysis)により、神経細胞とグリア細胞が多能性の共通前駆細胞(multipotential common progenitor cell)から分化することが明らかとなり、引き続き脳の細胞系譜に関しても同様の結果(Walsh and Cepko; Williams et al., 1991)が報告されたことから、一元説が支持されるようになった。最近の遺伝子組換えマウスを用いた大脳皮質の細胞系譜解析からも一元説が支持されている(Gao et al., 2014)。発生過程において、多能性共通前駆細胞は複数種類の神経細胞やグリア細胞を生み出しつつも次第に多分化能を喪失し、発生後期のステージではグリア細胞のみが分化する状態になると考えられている。





2015年3月6日 (金) 14:16時点における版

古川 貴久
大阪大学蛋白質研究所 分子発生学教室
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年1月24日 原稿完成日:2013年月日
担当編集委員:村上 富士夫(大阪大学 大学院生命機能研究科)

英語名:cell lineage 独:Zelllinie 仏:lignée cellulaire

 細胞系譜は、一個の受精卵が分裂して成体になるまでの細胞の系図である。この系図を用いて、発生の因果関係を表す。例えば、線虫 (C. elegans)の胚は、最初の1個の細胞(受精卵)が分裂すると、2個の細胞はABとP1と名付けられ、さらに4細胞期には、ABはABaとABpに、P1はP2とEMSと2つの娘細胞に分裂する。それぞれの細胞は、将来が運命づけられており、成体のどの器官になるか決定されている。EMS細胞は、2つの娘細胞に分裂すると、一方のMS細胞は筋肉などになり、もうひとつのE細胞は元祖細胞となって腸のすべての細胞を作り出すが、別の組織にはならない。

 受精卵が成体の各器官を正しく構成する仕組みは、細胞間の相互作用によってコントロールされる。例えば上述のP2細胞が、シグナル分子のWntタンパク質を発現し、EMS細胞のWnt受容体に作用して、EMS細胞はP2と接触した場所に基づいて極性化し、有糸分裂紡錘体の向きを制御する。その結果、P1に近い娘細胞がE細胞になり、遠い娘細胞がMS細胞になる。このように、発生学の顕微手術で発生の仕組みを調べ、遺伝子クローニングと配列決定で分子機構を明らかにすることによって、発生の機構の解明が飛躍的に進歩している。(線虫の細胞系譜に関する図があれば一層分かり易くなると思いました。村上富士夫)

 興味深いことに、発生学における細胞系譜(個体発生)のダイアグラムは、進化生物学の系統樹(進化ダイアグム:系統発生)と形状が似通っている。しかしながら、進化生物学者(Evolutionary Biologist)は10年から10億年の時間を考え、発生生物学者(Developmental Biologist)は秒単位からせいぜい1ヶ月くらいに起こる生物現象を扱う。進化学と発生学との研究とは、ものの見方が大きく違う、似て非なるものと従来考えられてきた。ところが近年、発生に関わる遺伝子の働きの生物間の共通性が発見されると、両学問が合体して、進化発生学(Evo-Devo)という革命的な学問分野の発展が生じた。

 哺乳類の中枢神経系の細胞分化に関して、神経細胞とグリア細胞が同一の前駆細胞から分化してくるという一元説(一元論)(Schaper, 1897)と、両者が異なる前駆細胞に由来するという二元説(二元論)(His, 1989)が19世紀より提唱され議論されてきた。近年では、網膜においてレトロウイルス(Turner and Cepko, 1987)や蛍光物質(Wetts and Fraser, 1988)を用いた細胞系譜解析(cell lineage analysis)により、神経細胞とグリア細胞が多能性の共通前駆細胞(multipotential common progenitor cell)から分化することが明らかとなり、引き続き脳の細胞系譜に関しても同様の結果(Walsh and Cepko; Williams et al., 1991)が報告されたことから、一元説が支持されるようになった。最近の遺伝子組換えマウスを用いた大脳皮質の細胞系譜解析からも一元説が支持されている(Gao et al., 2014)。発生過程において、多能性共通前駆細胞は複数種類の神経細胞やグリア細胞を生み出しつつも次第に多分化能を喪失し、発生後期のステージではグリア細胞のみが分化する状態になると考えられている。


関連項目

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参考文献


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