「痛覚」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/ryuusukekakigi 柿木 隆介]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/ryuusukekakigi 柿木 隆介]</font><br>
''自然科学研究機構生理学研究所 感覚運動調節研究部門''<br>
''自然科学研究機構生理学研究所 感覚運動調節研究部門''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年6月11日 原稿完成日:2015年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年6月11日 原稿完成日:2015年4月17日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noritakaichinohe 一戸 紀孝](国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noritakaichinohe 一戸 紀孝](国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)<br>
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{{box|text= サイトカインや神経ペプチドなどが肥満細胞、T細胞などから放出され、組織に炎症・瘢痕化を引き起こす。熱刺激や腫れによる機械刺激、炎症性分子による化学的刺激により、痛みに関連する高閾値機械受容器やポリモーダル受容器が活性化される。受容器の活性化によって発生するシグナルは痛覚伝導路(後述)を上行する。 針で刺されたような鋭い痛みは皮膚の高閾値機械受容器で受容され、A&delta;線維を上行する。これを一次痛と呼ぶ。内臓、癌痛、歯痛などのような痛みはポリモーダル受容器で受容され[[C線維]]を上行する。これを[[二次痛]]という。さらに脊髄視床路[[外側脊髄視床路]]と[[前脊髄視床路]]を上行し、それぞれ[[視床]][[腹側基底核群]]と[[髄板内核群]]に終始する。前者は[[第1次体性感覚野]](SI)に主に投射する中継点であり、皮膚、内臓、筋、関節からの(識別性の)感覚に関与している。後者は[[大脳辺縁系]]に投射し、情動等に関与するとされている。第1次体性感覚野に到達した後、[[第2次体性感覚野]](SII)と島に向かう経路と[[連合野]]([[5野]]および[[7野]])に向かう経路の2つが存在する。また、視床から直接、[[島]]、[[帯状回]]、[[扁桃体]]に向かう経路もあり、島には両方の経路を経由するシグナルが到達する。現在、島は痛覚認知の重要な部位であると考えられている。}}
英:pain sensation 独: Schmerzempfinden 仏:sensation de douleur
 
{{box|text= 痛みとは組織の実質的あるいは潜在的な傷害に結びつくか、このような傷害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚、情動体験であると定義されている。末梢組織が傷害されると、サイトカインや神経ペプチドなどが肥満細胞、T細胞などから放出され、組織に炎症・瘢痕化を引き起こす。熱刺激や腫れによる機械刺激、炎症性分子による化学的刺激により、痛みに関連する高閾値機械受容器やポリモーダル受容器が活性化される。受容器の活性化によって発生するシグナルは痛覚伝導路(後述)を上行する。 針で刺されたような鋭い痛みは皮膚の高閾値機械受容器で受容され、A&delta;線維を上行する。これを一次痛と呼ぶ。内臓、癌痛、歯痛などのような痛みはポリモーダル受容器で受容され[[C線維]]を上行する。これを[[二次痛]]という。さらに脊髄視床路[[外側脊髄視床路]]と[[前脊髄視床路]]を上行し、それぞれ[[視床]][[腹側基底核群]]と[[髄板内核群]]に終始する。前者は[[第一次体性感覚野]]に主に投射する中継点であり、皮膚、内臓、筋、関節からの(識別性の)感覚に関与している。後者は[[大脳辺縁系]]に投射し、情動等に関与するとされている。第1次体性感覚野に到達した後、[[第二次体性感覚野]]と島に向かう経路と[[連合野]]([[5野]]および[[7野]])に向かう経路の2つが存在する。また、視床から直接、[[島]]、[[帯状回]]、[[扁桃体]]に向かう経路もあり、島には両方の経路を経由するシグナルが到達する。現在、島は痛覚認知の重要な部位であると考えられている。}}


== 痛覚とは  ==
== 痛覚とは  ==
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*'''一次痛'''<br>針で刺されたような鋭い痛みは[[一次痛]](first pain, quick pain, sharp pain)などと称される。[[末梢神経]]の[[Adelta線維|A&delta;線維]]を上行し、その伝導速度は約10-20 m/secである。一次痛は、皮膚の[[高閾値機械受容器]]で受容される。「高閾値」とは、強い刺激だけに反応する、ということを意味する。「機械」というのは、例えば針のようなもので刺激される事を意味する。したがって、高閾値機械受容器とは、傷ができるほど強い刺激に対してだけ反応する受容体である。  
*'''一次痛'''<br>針で刺されたような鋭い痛みは[[一次痛]](first pain, quick pain, sharp pain)などと称される。[[末梢神経]]の[[Adelta線維|A&delta;線維]]を上行し、その伝導速度は約10-20 m/secである。一次痛は、皮膚の[[高閾値機械受容器]]で受容される。「高閾値」とは、強い刺激だけに反応する、ということを意味する。「機械」というのは、例えば針のようなもので刺激される事を意味する。したがって、高閾値機械受容器とは、傷ができるほど強い刺激に対してだけ反応する受容体である。  


*'''二次痛'''<br>[[wikipedia:ja:内臓|内臓]]痛、癌痛、歯痛などのような痛みは[[二次痛]](second pain, slow pain, burning pain)などと称され、末梢神経の[[C線維]]を上行する。[[無髄線維]]であるため伝導速度は非常に遅く、約0.5-2.0 m/secである。二次痛は、皮膚など局所に存在するのポリモーダル受容器で受容される。ポリモーダルとは多くの様式という意味である、すなわち、機械的刺激、化学刺激、熱による刺激など、多様な刺激に対して反応する受容体である。いずれにしても、[[触覚]]、[[振動覚]]などの伝導速度は50-70 m/secであり、痛覚の伝導速度が非常に遅い事がわかる。その理由は未だ明確にされていない。  
*'''二次痛'''<br>[[wikipedia:ja:内臓|内臓]]痛、癌痛、歯痛などのような痛みは[[二次痛]](second pain, slow pain, burning pain)などと称され、末梢神経の[[C線維]]を上行する。[[無髄線維]]であるため伝導速度は非常に遅く、約0.5-2.0 m/secである。二次痛は、皮膚など局所に存在するポリモーダル受容器で受容される。ポリモーダルとは多くの様式という意味である、すなわち、機械的刺激、化学刺激、熱による刺激など、多様な刺激に対して反応する受容体である。いずれにしても、[[触覚]]、[[振動覚]]などの伝導速度は50-70 m/secであり、痛覚の伝導速度が非常に遅い事がわかる。その理由は未だ明確にされていない。


==脊髄上行路==
==脊髄上行路==