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細 (→母親以外による養育行動) |
細 (→養育本能の神経回路機構) |
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== 養育本能の神経回路機構 == | == 養育本能の神経回路機構 == | ||
養育行動発現に必要な脳内情報処理の過程を便宜上、3段階に分け、関与する脳部位を挙げる(詳細は<ref><pubmed> 21338647 </pubmed></ref>参照)。 | |||
=== 仔の認識 === | === 仔の認識 === | ||
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=== 行動選択 === | === 行動選択 === | ||
子を認識しても必ず養育するわけではない。上述のようにオスマウスでは交尾の前後で子に対し正反対の行動を取る。また、季節性[[wikipedia:JA:繁殖|繁殖]] | 子を認識しても必ず養育するわけではない。上述のようにオスマウスでは交尾の前後で子に対し正反対の行動を取る。また、季節性[[wikipedia:JA:繁殖|繁殖]]をする哺乳類では、繁殖期になると突然子どもの世話をやめ、巣から追い出したり攻撃したりする場合もある。従って動物は、子からの知覚刺激と、自分や周囲の状況に関する情報を統合して、子に対する行動を選択すると考えられる。養育とくにレトリービング行動の制御を担うもっとも重要な領域は、[[視床下部]](hypothalamus)の吻側に位置する[[内側視索前野]](medial preoptic area、MPOA)(図1、赤線部)である<ref><pubmed>3555225</pubmed></ref>。その根拠は次の3点で、MPOAよりもこれらの条件をよく満たす脳領域はほかに見つかっていない。 | ||
# MPOAの選択的破壊はレトリービングを特異的に阻害する。 | # MPOAの選択的破壊はレトリービングを特異的に阻害する。 | ||
# | # レトリービングを行っているラット・マウスでは、MPOAの神経細胞の[[wikipedia:ja:転写|転写]]活性が有意に上昇する。 | ||
# | # [[エストロゲン]]、[[プロラクチン]]など出産・授乳に重要なホルモンの[[受容体]]がMPOAに発現しており、これらのホルモン投与によりレトリービングが促進される。 | ||
養育を抑止する方向に働く脳領域として、[[視床下部前核]]や[[腹内側核]]などが知られている。これらの脳領域の破壊はレトリービングに要する馴化時間を短縮させる。前核は[[摂食行動]]、[[腹内側核]]はメスの[[性行動]] | 養育を抑止する方向に働く脳領域として、[[視床下部前核]]や[[腹内側核]]などが知られている。これらの脳領域の破壊はレトリービングに要する馴化時間を短縮させる。前核は[[摂食行動]]、[[腹内側核]]はメスの[[性行動]]などを促進する機能を持つ。親が非常に空腹なとき、また性行動が活性化されているときには、逆に[[養育行動]]が抑制されると考えれば理にかなっている。また[[扁桃体]] (amygdala)の破壊や[[分界条]](stria terminalis、扁桃体からの主要な出力路)の切断も養育行動を促進する。[[扁桃体内側]]核・[[中心核]]は新奇な仔からの知覚入力に対する忌避反応をMPOAに伝え、養育を抑制していると考えられる。 | ||
[[Image:Fig1.png|thumb|300px|'''図1 養育行動に必要な脳内情報処理の作業仮説と内側視索前野(MPOA)の機能'''<br>視索前野(preoptic area, | [[Image:Fig1.png|thumb|300px|'''図1 養育行動に必要な脳内情報処理の作業仮説と内側視索前野(MPOA)の機能'''<br>視索前野(preoptic area, POA)は視床下部の吻側、[[前交連]]と[[視交叉]]にはさまれた領域であり、[[終脳]]と[[間脳]]の境界部分に位置する。POAは外側部(LPOA)と内側部(MPOA、斜線部)に分けられる。]] | ||
=== 行動計画 === | === 行動計画 === | ||
養育という選択を行った後、具体的に何をするか計画する必要がある。実験的に新生仔と同居させると、子育て経験のあるメスマウスであれば、まず安全な場所に巣を確保することを一番に行う。次に、仔を一匹ずつ口にくわえて巣に連れて行く。最後の一匹を巣に入れた後、もう一度ケージを一周して、残っている仔がいないか確認する。それから改めて巣に戻り、なめて清潔にする、哺乳する、保温するなどを順次、効率よく行う。最終的には、適切な巣材があれば、一人でいる時よりもはるかに大きく精巧な巣を作る。母親はこの一連の行動計画に基づいて[[運動系]]を制御し、最終的な養育行動が発現すると考えられる。経験の浅いマウスでは、仔を集めず巣の外で1匹だけを保温したり、一部の仔を巣につれていった後残りを放置していたり、また巣作りの過程で仔が巣からはみ出したのに気づかないといったことも起こる。したがって養育は[[本能]]であるとはいえ、このような一連の行動をスムーズに行うためには、ある程度経験による[[学習]]が必要であると考えられる。 | |||
ラットやハムスターにおいて、[[中隔]](septum)・[[海馬]](hippocampus)・[[帯状回]](cingulate cortex)のいずれかの外科的破壊は養育行動を非効率的にする。すなわち、複数の巣に一匹ずつ仔を置いたり、仔をくわえて走り回ったり、いったん巣に入れた仔をまた巣から出したりといった行動を繰り返す。この場合、養育本能自体は正常であるが、巣づくりやレトリービングを正しく行うために必要な空間認識が傷害されていると考えられる。その他にも、[[中脳被蓋]]野や[[腹側淡蒼球]]などの関与も指摘されている。 | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == |