「アンチセンス法」の版間の差分

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''東京大学大学院薬学系研究科 遺伝学教室''<br>
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DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年5月7日 原稿完成日:2015年X月XX日<br>
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担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0080380 上口 裕之](国立研究法人理化学研究所脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0080380 上口 裕之](国立研究法人理化学研究所脳科学総合研究センター)<br>
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英語名:antisense method
英語名:antisense method


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 アンチセンス法とは、標的遺伝子RNAに対して相補鎖の一本鎖RNA(アンチセンスRNA)を用いて遺伝子発現を抑制する方法である<ref name=ref1><pubmed>6201848</pubmed></ref>。
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==概要==
 アンチセンス法とは、標的遺伝子RNAにハイブリダイズすることのできるアンチセンス核酸(RNAもしくはDNA)を用いて遺伝子機能発現を抑制する方法である<ref name=ref1><pubmed>6201848</pubmed></ref>。アンチセンス阻害(antisense inhibition)ともいう。標的とする遺伝子RNAの全長もしくは一部に対する一本鎖アンチセンス核酸を細胞内に導入することで効果を発揮する。標的遺伝子RNAにハイブリダイズしたアンチセンス核酸は、標的遺伝子RNAの[[スプライシング]]阻害、および[[翻訳]]阻害を引き起こす。生物研究においては化学的に安定な[[モルフォリノ]]アンチセンスオリゴを用いることが多い。近年、[[siRNA]]や[[shRNA]]などの[[RNA干渉]] (RNA interference)技術<ref name=ref2><pubmed>18221853</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>11373684</pubmed></ref>、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術<ref name=ref04><pubmed>23287718</pubmed></ref> <ref name=ref05><pubmed>23287722</pubmed></ref>が開発された後は使用頻度が落ちてきている。
===原理===
 アンチセンス法とは、標的遺伝子RNAにハイブリダイズすることのできるアンチセンスRNA(相補鎖RNA)を用いて遺伝子機能発現を抑制する方法である<ref name=ref1 />。アンチセンス阻害(antisense inhibition)ともいう。標的とする遺伝子RNAの全長もしくは一部に対する一本鎖アンチセンスRNAを細胞内に導入することで効果を発揮する。標的遺伝子RNAにハイブリダイズしたアンチセンスRNAは、標的遺伝子RNAのスプライシング阻害、および[[翻訳]]阻害を引き起こす。生物研究においては化学的に安定なモルフォリノアンチセンスオリゴを用いることが多い。近年、[[siRNA]]や[[shRNA]]などの[[RNA干渉]] (RNA interference)技術<ref name=ref2><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed></pubmed></ref>が開発された後は使用頻度が落ちてきている。


===アンチセンス治療===
 アンチセンス法を用いて遺伝性疾患や感染性疾患に関わる遺伝子機能発現を抑制する治療形態の一種をアンチセンス治療(antisense therapy)と呼ぶ<ref name=ref4><pubmed>10228554</pubmed></ref> <ref name=ref5><pubmed>21748630</pubmed></ref> <ref name=ref6><pubmed>20055705</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>22069063</pubmed></ref>。これまでに[[]][[糖尿病]]、[[筋萎縮性側索硬化症]]の治療などへの使用が検討されている。2014年にはアンチセンス法を用いた薬として[[w:fomivirsen|fomivirsen]]や[[w:mipomersen|mipomersen]]などが[[wj:アメリカ食品医薬品局|アメリカ食品医薬品局]]によって認可されている。
 アンチセンス治療(Antisense therapy)とは、アンチセンス法を用いて遺伝性疾患や感染性疾患に関わる遺伝子機能発現を抑制する治療形態の一種である<ref name=ref4><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref>。これまでに癌、糖尿病、筋萎縮性側索硬化症の治療などへの使用が検討されている。2014年にはアンチセンス法を用いた薬としてfomivirsenやmipomersenなどがアメリカ食品薬品局によって認可されている。
 
===モルフォリノオリゴヌクレオチド===
 モルフォリノオリゴヌクレオチド(単にモルフォリノともいう Morpholino oligonucleotide)は、RNA, [[DNA]]のリボース、デオキシリボースの代わりにモルフォリン環を持つオリゴヌクレオチドであり、一般的なアンチセンスの問題点(安定性、特異性、細胞毒性など)を克服した第3世代のアンチセンスである<ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref>。遺伝子の機能解析に利用されており、特に、[[アフリカツメガエル]]、[[ゼブラフィッシュ]]、ウニなどを用いた発生学分野の研究において頻繁に利用されている。一方、2015年、モルフォリノオリゴヌクレオチドは標的遺伝子以外の遺伝子機能も抑制する可能性が高いことが報告された(オフターゲット効果)<ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref>。ゼブラフィッシュにおいてモルフォリノオリゴヌクレオチドによる表現型と突然変異体の表現型を体系的に調べた結果、70%以上の遺伝子に関して表現型が一致しなかった。このことから、モルフォリノオリゴヌクレオチドの使用には、突然変異体の表現型観察なども用いた慎重な解析が必要とされている<ref name=ref9 /> <ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref>。


==関連項目==
*[[モルフォリノ]]
*[[RNA干渉]]
==参考文献==
==参考文献==
<references />
<references />

2015年6月15日 (月) 13:16時点における最新版

千原 崇裕三浦 正幸
東京大学大学院薬学系研究科 遺伝学教室
DOI:10.14931/bsd.5864 原稿受付日:2015年5月7日 原稿完成日:2015年6月15日
担当編集委員:上口 裕之(国立研究法人理化学研究所脳科学総合研究センター)

英語名:antisense method

 アンチセンス法とは、標的遺伝子RNAに対して相補鎖の一本鎖RNA(アンチセンスRNA)を用いて遺伝子発現を抑制する方法である。

 アンチセンス法とは、標的遺伝子RNAにハイブリダイズすることのできるアンチセンス核酸(RNAもしくはDNA)を用いて遺伝子機能発現を抑制する方法である[1]。アンチセンス阻害(antisense inhibition)ともいう。標的とする遺伝子RNAの全長もしくは一部に対する一本鎖アンチセンス核酸を細胞内に導入することで効果を発揮する。標的遺伝子RNAにハイブリダイズしたアンチセンス核酸は、標的遺伝子RNAのスプライシング阻害、および翻訳阻害を引き起こす。生物研究においては化学的に安定なモルフォリノアンチセンスオリゴを用いることが多い。近年、siRNAshRNAなどのRNA干渉 (RNA interference)技術[2] [3]、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術[4] [5]が開発された後は使用頻度が落ちてきている。

 アンチセンス法を用いて遺伝性疾患や感染性疾患に関わる遺伝子機能発現を抑制する治療形態の一種をアンチセンス治療(antisense therapy)と呼ぶ[6] [7] [8] [9]。これまでに糖尿病筋萎縮性側索硬化症の治療などへの使用が検討されている。2014年にはアンチセンス法を用いた薬としてfomivirsenmipomersenなどがアメリカ食品医薬品局によって認可されている。

関連項目

参考文献

  1. Mizuno, T., Chou, M.Y., & Inouye, M. (1984).
    A unique mechanism regulating gene expression: translational inhibition by a complementary RNA transcript (micRNA). Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 81(7), 1966-70. [PubMed:6201848] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  2. Mahmood-ur-Rahman, Ali, I., Husnain, T., & Riazuddin, S. (2008).
    RNA interference: the story of gene silencing in plants and humans. Biotechnology advances, 26(3), 202-9. [PubMed:18221853] [WorldCat] [DOI]
  3. Elbashir, S.M., Harborth, J., Lendeckel, W., Yalcin, A., Weber, K., & Tuschl, T. (2001).
    Duplexes of 21-nucleotide RNAs mediate RNA interference in cultured mammalian cells. Nature, 411(6836), 494-8. [PubMed:11373684] [WorldCat] [DOI]
  4. Cong, L., Ran, F.A., Cox, D., Lin, S., Barretto, R., Habib, N., ..., & Zhang, F. (2013).
    Multiplex genome engineering using CRISPR/Cas systems. Science (New York, N.Y.), 339(6121), 819-23. [PubMed:23287718] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  5. Mali, P., Yang, L., Esvelt, K.M., Aach, J., Guell, M., DiCarlo, J.E., ..., & Church, G.M. (2013).
    RNA-guided human genome engineering via Cas9. Science (New York, N.Y.), 339(6121), 823-6. [PubMed:23287722] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  6. Weiss, B., Davidkova, G., & Zhou, L.W. (1999).
    Antisense RNA gene therapy for studying and modulating biological processes. Cellular and molecular life sciences : CMLS, 55(3), 334-58. [PubMed:10228554] [WorldCat] [DOI]
  7. Goodchild, J. (2011).
    Therapeutic oligonucleotides. Methods in molecular biology (Clifton, N.J.), 764, 1-15. [PubMed:21748630] [WorldCat] [DOI]
  8. Bennett, C.F., & Swayze, E.E. (2010).
    RNA targeting therapeutics: molecular mechanisms of antisense oligonucleotides as a therapeutic platform. Annual review of pharmacology and toxicology, 50, 259-93. [PubMed:20055705] [WorldCat] [DOI]
  9. Watts, J.K., & Corey, D.R. (2012).
    Silencing disease genes in the laboratory and the clinic. The Journal of pathology, 226(2), 365-79. [PubMed:22069063] [PMC] [WorldCat] [DOI]