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英: electric | 英: electric fish 独:elektrische Fische 仏:poisson électrique | ||
{{box|text= 電気器官から放電する魚の総称。弱電気魚と強電気魚とがあり、電気を使った定位行動やコミュニケーション等を行う。}} | |||
== 電気魚 == | == 電気魚 == | ||
電気を体外に放電するための電気器官<ref name=ref1>'''菅原美子'''<br>電気器官と発電機構の多様性<br>比較生理生化学 vol.13; p.34:1996</ref>を持つ魚。電気を受容するための電気受容器<ref name=ref2>'''菅原美子'''<br>電気受容器と電気受容機構<br>比較生理生化学 vol.13; p.129:1996</ref>を併せ持つ([[wikipedia:ja:ミシマオコゼ|ミシマオコゼ]] | 電気を体外に放電するための電気器官<ref name=ref1>'''菅原美子'''<br>電気器官と発電機構の多様性<br>比較生理生化学 vol.13; p.34:1996</ref>を持つ魚。電気を受容するための電気受容器<ref name=ref2>'''菅原美子'''<br>電気受容器と電気受容機構<br>比較生理生化学 vol.13; p.129:1996</ref>を併せ持つ([[wikipedia:ja:ミシマオコゼ|ミシマオコゼ]]を除く)。放電電圧が数V以下の弱電気魚と、数十〜数百Vの強電気魚とがある。弱電気魚は、放電により体の周りに設定される[[wj:電場|電場]]を用い環境の様子を知る電気定位行動<ref>'''J Bastian'''<br>Electrolocation<br>In ''Electroreception'' p.577, Wiley : 1986 </ref>や、放電を同種あるいは異種間でのコミュニケーションに利用する電気コミュニケーション<ref><pubmed>10210663</pubmed></ref>などの電気的行動を行う。これらの行動を司る中枢神経機構は、[[wikipedia:ja:神経行動学|神経行動学]] (neuroetholgy)の分野で盛んに研究されている<ref>''Electroreception''<br>Springer:2005</ref>。強電気魚は弱電気魚を元に[[wikipedia:ja:進化|進化]]したもので、弱電気魚と同じ弱い電気の発電と受容の能力も併せ持ち、強力な放電で被食魚を麻痺させたり捕食者を威嚇したりする<ref>''Electric Fishes''<br>Chapman & Hall: 1995</ref><ref><pubmed>25477462</pubmed></ref>。 | ||
== 電気器官 == | == 電気器官 == | ||
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[[Image:electric_field.jpg|thumb|280px|'''図2.電気器官放電による電場''']] | [[Image:electric_field.jpg|thumb|280px|'''図2.電気器官放電による電場''']] | ||
発電細胞 (electrocyte) から成る興奮性の器官で、電気魚の種類によって様々な部位にある<ref name=ref1 />(図1)。発電細胞は[[wikipedia:ja:筋|筋]]繊維由来の興奮性細胞であるが、収縮機能は個体発生の過程で失われる。電気的興奮を示す部位が[[細胞膜]] | 発電細胞 (electrocyte) から成る興奮性の器官で、電気魚の種類によって様々な部位にある<ref name=ref1 />(図1)。発電細胞は[[wikipedia:ja:筋|筋]]繊維由来の興奮性細胞であるが、収縮機能は個体発生の過程で失われる。電気的興奮を示す部位が[[細胞膜]]上に偏って分布することで、細胞外に電場が発生する(図2)。 | ||
発電の指令は延髄にある[[ペースメーカー]]核(またはコマンド核)で生じ、[[脊髄]]の電気運動ニューロンを経てすべての発電細胞に同時に伝達される<ref>'''M Kawasaki''' <br>Generation of Electric Signals<br>In ''Encyclopedia of Fish Physiology'' p.398, Academic Press:2011</ref>。直列に配置された発電細胞が同時発火するために電気器官全体で高い電圧を得る。[[wikipedia:ja:デンキウナギ|デンキウナギ]]では, 多数の発電細胞が直列に配置され約600Vの高電圧を、また[[wikipedia:ja:シビレエイ|シビレエイ]]では発電細胞が並列に配置されることにより約20A の大電流を発生する。一回の電気器官放電 (electric organ discharge) は、持続時間が 0.1 ~ 数ミリ秒の短いパルスであるが、このパルスが10 ~ 1500 Hz の頻度で昼夜休みなく連続的に発生する。電気コミュニケーションに使われる電気信号は、発電波形や発電頻度の変化として現れる。 | |||
== 電気受容器 == | == 電気受容器 == | ||
電気受容器は電気抵抗の高い皮膚に埋め込まれるように体皮に広く分布し、皮膚内外の電位差に応じて神経信号を発生する。直流 ~ 50 Hz | 電気受容器は電気抵抗の高い皮膚に埋め込まれるように体皮に広く分布し、皮膚内外の電位差に応じて神経信号を発生する。直流 ~ 50 Hz 程度の低周波に応じる[[アンプラ型電気受容器|アンプラ型]]と、数百ヘルツ以上の周波数に応じる[[結節型電気受容器|結節型]]がある。 | ||
*'''アンプラ型電気受容器'''は、[[wikipedia:ja:ヤツメウナギ|ヤツメウナギ]]、[[wikipedia:ja:シーラカンス|シーラカンス]]、[[wikipedia:ja:軟骨魚|軟骨魚]]等の下等魚類とすべての電気魚に見られ、感度が高い (約10<sup>-6</sup>V/cm)。電気魚以外の生物(主に被食者)の微弱な生物電気を受容するために発達したものと考えられる。入力電圧が出力インパルスの頻度で符号化される<ref>'''D Bodznick, J C Montgomery'''<br>The Physiology of low-frequency electrosensory systems.<br>In ''Electroreception'' p.132, Springer: 2005</ref>。 | |||
*'''結節型電気受容器'''は電気魚だけに見られ、感度は低く、電気器官からの比較的強い電場 (約10<sup>-3</sup>V/cm)に応じる。入力信号の強度をインパルス頻度で符号化する振幅型と、信号発生のタイミングをインパルスの発生時間で符号化する位相型に分けられる<ref>'''M Kawasaki'''<br>Physiology of tuberous electrosensory systems.<br>In ''Electroreception'' p.154, Springer: 2005</ref>。 | |||
== 電気的行動 == | == 電気的行動 == | ||
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#和信号の位相(マジェンタ線)の経時的変化を検出。 | #和信号の位相(マジェンタ線)の経時的変化を検出。 | ||
#A点ーB点間の位相''差''(青色線)を検出。 | #A点ーB点間の位相''差''(青色線)を検出。 | ||
# | #2.-4.間の時間パタン(下図のリサージュグラフの回転方向)を読み出す。リサージュグラフの回転方向が相手魚の周波数の高低によって変わることに注意。 | ||
# | #5.の計算結果が示す空間的曖昧さを (2) の結果と空間加重することによって解決する<ref name=neuralnets>''Neural Nets in Electric Fish''<br>MIT Press:1991</ref><ref name=''JCP1993''><pubmed>8366474</pubmed></ref>。 | ||
====混信回避行動(ウエーヴ種)の神経機構==== | ====混信回避行動(ウエーヴ種)の神経機構==== | ||
1.の過程は振幅型と位相型の電気受容器、2.は発火頻度が振幅によって変わる興奮型と抑制型の中枢ニューロン, 3.は感覚信号1周期でインパルスを一つ発火する中枢のフェーズロックニューロンによってコードされる<ref><pubmed>9030634</pubmed></ref>。4.の過程は3.のニューロン間の[[活動電位]]の発生時間差(青色線)に感受性のある符合一致検出回路が実行する<ref><pubmed>8613805</pubmed></ref>。5.の過程は 2.と 4.を実行するニューロンの出力を入力とするニューロンが、上図のリサージュグラフの回転方向を読み出すことにより実行される<ref><pubmed>17005607</pubmed></ref><ref><pubmed>9736677</pubmed></ref><ref><pubmed>15048683</pubmed></ref>。これら神経計算の最終結果はペースメーカー前核のニューロンによりペースメーカーへ伝達され、相手の周波数によって自己の発電周波数を上下させる混信回避行動が起こる。<ref><pubmed>3397919</pubmed></ref>。[[延髄]]の電気感覚側線葉 (electrosensory lateral line lobe) と[[中脳]]の半円堤 (torus semicircularis) に分布するこれらの神経回路は 6.に対応するものを除いて神経生理学的解剖学的によく理解されている<ref name=baifukan /><ref name=neuralnets />。系統的に遠い電気魚 ''[[wikipedia:Eigenmannia|Eigenmannia]] ''と''[[wikipedia:Gymnarchus|Gymnarchus]] ''は、混信回避行動を独立に進化させたにも関わらず、そのアルゴリズムと神経回路には強い類似性がある<ref><pubmed>19799509</pubmed></ref><ref><pubmed>22606250</pubmed></ref>。 | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references /> |