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==アポトーシス==
==アポトーシス==
 1972年、Kerr, Wyllie, Currieは、生理的条件下でおこる細胞死には[[細胞壊死]](necrosis)とは異なる、[[wikipedia:ja:|細胞小器官]]が正常な形態を保ちつつ、核の染色体が凝縮し、細胞全体が萎縮、断片化する死細胞があることを見いだした。そしてこの細胞死を、葉が木から落ちることを意味するギリシャ語から、アポトーシス(apoptosis)と命名した<ref name=ref1 />。
 1972年、Kerr, Wyllie, Currieは、生理的条件下でおこる細胞死には[[細胞壊死]](necrosis)とは異なる、[[wikipedia:ja:細胞小器官|細胞小器官]]が正常な形態を保ちつつ、核の染色体が凝縮し、細胞全体が萎縮、断片化する死細胞があることを見いだした。そしてこの細胞死を、葉が木から落ちることを意味するギリシャ語から、アポトーシス(apoptosis)と命名した<ref name=ref1 />。


 アポトーシス細胞は、組織切片上では[[ピクノーシス]](pyknosis)と呼ばれる細胞の縮小と[[クロマチン]]の凝縮、断片化を特徴とする。さらにアポトーシスが進行すると、細胞に大小の膜で囲まれたくびれが生じて(blebbing)、細胞は球状の小体([[アポトーシス小体]]: apoptotic body)に分かれて断片化する。このように、アポトーシスは元来形態学的分類から定義された言葉である。
 アポトーシス細胞は、組織切片上では[[ピクノーシス]](pyknosis)と呼ばれる細胞の縮小と[[クロマチン]]の凝縮、断片化を特徴とする。さらにアポトーシスが進行すると、細胞に大小の膜で囲まれたくびれが生じて(blebbing)、細胞は球状の小体([[アポトーシス小体]]: apoptotic body)に分かれて断片化する。このように、アポトーシスは元来形態学的分類から定義された言葉である。
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 一方、アポトーシスはその実行に能動的な遺伝子プログラム(後述)が関与するため、しばしば「プログラム細胞死」と同一視されることがある。しかし、「プログラム細胞死」とは、正常発生で発生プログラム依存的に生じる細胞死のことを指した用語であり、アポトーシスとプログラム細胞死を同じ意味で用いるのは混同であり正しくない<ref name=ref2 />。こうした誤用を避けるためにも、細胞内在の遺伝子プログラムを用いる細胞死を「制御された細胞死(RCD)」と呼ぶことが提唱されている<ref name=ref3><pubmed>21760595</pubmed></ref>。
 一方、アポトーシスはその実行に能動的な遺伝子プログラム(後述)が関与するため、しばしば「プログラム細胞死」と同一視されることがある。しかし、「プログラム細胞死」とは、正常発生で発生プログラム依存的に生じる細胞死のことを指した用語であり、アポトーシスとプログラム細胞死を同じ意味で用いるのは混同であり正しくない<ref name=ref2 />。こうした誤用を避けるためにも、細胞内在の遺伝子プログラムを用いる細胞死を「制御された細胞死(RCD)」と呼ぶことが提唱されている<ref name=ref3><pubmed>21760595</pubmed></ref>。


 アポトーシスは、タンパク質すなわち遺伝子産物の制御による能動的な細胞死である。[[wikipedia:ja:|Horvitz]]らの[[線虫]]を用いた遺伝学的な研究によって、プログラム細胞死に影響のある変異体、中でも、全ての細胞死実行が抑制される[[ced-3]]、[[ced-4]]変異体や、これらの遺伝子の作用を抑制する変異体[[ced-9]]等が得られた<ref name=ref4><pubmed>838129</pubmed></ref> <ref name=ref5><pubmed>1560823</pubmed></ref>。CED-3は[[カスパーゼ]] (caspase)、CED-4はカスパーゼ活性化に働く[[アダプタータンパク質]][[Apaf-1]] (apoptotic protease activating factor-1)、CED-9はアポトーシス抑制活性を有する[[wikipedia:ja:|がん遺伝子]][[bcl-2]]に相当する。
 アポトーシスは、タンパク質すなわち遺伝子産物の制御による能動的な細胞死である。[[wikipedia:ja:ロバート・ホロビッツ|Horvitz]]らの[[線虫]]を用いた遺伝学的な研究によって、プログラム細胞死に影響のある変異体、中でも、全ての細胞死実行が抑制される[[ced-3]]、[[ced-4]]変異体や、これらの遺伝子の作用を抑制する変異体[[ced-9]]等が得られた<ref name=ref4><pubmed>838129</pubmed></ref> <ref name=ref5><pubmed>1560823</pubmed></ref>。CED-3は[[カスパーゼ]] (caspase)、CED-4はカスパーゼ活性化に働く[[アダプタータンパク質]][[Apaf-1]] (apoptotic protease activating factor-1)、CED-9はアポトーシス抑制活性を有する[[wikipedia:ja:がん遺伝子|がん遺伝子]][[bcl-2]]に相当する。


 アポトーシス刺激を受けた細胞では、カスパーゼの活性化、ミトコンドリア膜の透過性増大・膜電位低下、細胞膜のフォスファチジル[[セリン]](phosphatidylserine: PS)の細胞表面への露出、クロマチンの切断が見られる<ref name=ref6><pubmed>9422506</pubmed></ref>。これらはアポトーシス細胞で一般的に観察されるため、アポトーシスのよいマーカーとして用いられる。しかし、これら変化は生理的な変化や[[細胞分化]]に伴って引き起こされる場合や、アポトーシス以外の原因で生じることもあるため、一部のマーカー変化だけでアポトーシスと断定できない点に留意が必要である。
 アポトーシス刺激を受けた細胞では、カスパーゼの活性化、ミトコンドリア膜の透過性増大・膜電位低下、細胞膜のフォスファチジル[[セリン]](phosphatidylserine: PS)の細胞表面への露出、クロマチンの切断が見られる<ref name=ref6><pubmed>9422506</pubmed></ref>。これらはアポトーシス細胞で一般的に観察されるため、アポトーシスのよいマーカーとして用いられる。しかし、これら変化は生理的な変化や[[細胞分化]]に伴って引き起こされる場合や、アポトーシス以外の原因で生じることもあるため、一部のマーカー変化だけでアポトーシスと断定できない点に留意が必要である。
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===ネクロプトーシス===
===ネクロプトーシス===
 ネクロプトーシス(necroptosis)は、最もよく研究されている制御されたネクローシスである<ref name=ref7><pubmed>18408713</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>19109899</pubmed></ref>。ある種の細胞では[[TNFα]]刺激による外因性アポトーシス経路が阻害された場合にはネクローシス様の細胞死が代償的に生じるが、2005年にJunying Yuanらのグループがその阻害剤を同定し、[[Necrostatin-1|Necrostatin (Nec)-1]]と命名した<ref name=ref9><pubmed>16408008</pubmed></ref>。さらに [[Nec-1]]の標的因子のひとつとして[[receptor interacting protein kinase-1]]([[RIPK1]])と呼ばれる[[セリンスレオニンキナーゼ]]を同定したのを端緒に、その分子機構の解明に飛躍的な進歩がもたらされた<ref name=ref7 /> <ref name=ref8 />。ネクロプトーシスの実行には、RIPK1と相同性を有する[[RIPK3]]と呼ばれるキナーゼとその基質である[[mixed lineage kinase like]]([[MLKL]])が必須であるとされる<ref name=ref10><pubmed>25592536</pubmed></ref>。ネクロプトーシスに関与すると考えられてきたRIPK1は、ネクロプトーシスを促進する場合と抑制する場合があることが、最近の組織特異的なRIPK1[[遺伝子欠損マウス]]の解析から明らかになった。ネクロプトーシス実行時には、RIPK1、RIPK3、MLKLを含むNecrosomeと呼ばれるタンパク質複合体が形成される。多量体化し[[リン酸化]]により活性化したRIPK3はMLKLをリン酸化し、リン酸化MLKLは細胞膜上で膜孔を形成または細胞膜への[[イオンチャネル]]の配向を介して細胞膜の破裂を引き起こすというモデルが提唱されている<ref name=ref27><pubmed>25199831</pubmed></ref> <ref name=ref28><pubmed>23842495</pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed>16776578</pubmed></ref> <ref name=ref30><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref31><pubmed></pubmed></ref>。ネクロプトーシス実行はさまざまな経路を介して生じるが、アポトーシスの制御と密接な関連を持つ。外因性アポトーシス経路活性化刺激が入った際に、カスパーゼ8と[[FADD]]が存在すればアポトーシスが実行される。活性化されたカスパーゼ8はRIPK1、RIPK3、[[CYLD]]などのネクロプトーシス誘導に関与する分子を切断、不活性化することでネクロプトーシス誘導をブロックしていると考えられる。逆にカスパーゼ8活性が化合物や[[wikipedia:ja:|ウイルス]]由来の阻害タンパク質あるいは遺伝的欠損により失われた場合、ネクロプトーシスが実行される。同様に、[[wikipedia:ja:|自然免疫経路]]である[[Toll-like receptor4|Toll-like receptor(TLR)4]]や[[TLR3]]によってもRIPK3-MLKL依存的なネクロプトーシスが生じる場合があり、パイロトーシスとのクロストークも示唆される。このように、ネクロプトーシス実行は細胞種・状況依存度が高いといえる<ref name=ref10 />。
 ネクロプトーシス(necroptosis)は、最もよく研究されている制御されたネクローシスである<ref name=ref7><pubmed>18408713</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>19109899</pubmed></ref>。ある種の細胞では[[TNFα]]刺激による外因性アポトーシス経路が阻害された場合にはネクローシス様の細胞死が代償的に生じるが、2005年にJunying Yuanらのグループがその阻害剤を同定し、[[Necrostatin-1|Necrostatin (Nec)-1]]と命名した<ref name=ref9><pubmed>16408008</pubmed></ref>。さらに [[Nec-1]]の標的因子のひとつとして[[receptor interacting protein kinase-1]]([[RIPK1]])と呼ばれる[[セリンスレオニンキナーゼ]]を同定したのを端緒に、その分子機構の解明に飛躍的な進歩がもたらされた<ref name=ref7 /> <ref name=ref8 />。ネクロプトーシスの実行には、RIPK1と相同性を有する[[RIPK3]]と呼ばれるキナーゼとその基質である[[mixed lineage kinase like]]([[MLKL]])が必須であるとされる<ref name=ref10><pubmed>25592536</pubmed></ref>。ネクロプトーシスに関与すると考えられてきたRIPK1は、ネクロプトーシスを促進する場合と抑制する場合があることが、最近の組織特異的なRIPK1[[遺伝子欠損マウス]]の解析から明らかになった。ネクロプトーシス実行時には、RIPK1、RIPK3、MLKLを含むNecrosomeと呼ばれるタンパク質複合体が形成される。多量体化し[[リン酸化]]により活性化したRIPK3はMLKLをリン酸化し、リン酸化MLKLは細胞膜上で膜孔を形成または細胞膜への[[イオンチャネル]]の配向を介して細胞膜の破裂を引き起こすというモデルが提唱されている<ref name=ref27><pubmed>25199831</pubmed></ref> <ref name=ref28><pubmed>23842495</pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed>16776578</pubmed></ref> <ref name=ref30><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref31><pubmed></pubmed></ref>。ネクロプトーシス実行はさまざまな経路を介して生じるが、アポトーシスの制御と密接な関連を持つ。外因性アポトーシス経路活性化刺激が入った際に、カスパーゼ8と[[FADD]]が存在すればアポトーシスが実行される。活性化されたカスパーゼ8はRIPK1、RIPK3、[[CYLD]]などのネクロプトーシス誘導に関与する分子を切断、不活性化することでネクロプトーシス誘導をブロックしていると考えられる。逆にカスパーゼ8活性が化合物や[[wikipedia:ja:ウイルス|ウイルス]]由来の阻害タンパク質あるいは遺伝的欠損により失われた場合、ネクロプトーシスが実行される。同様に、[[wikipedia:ja:自然免疫経路|自然免疫経路]]である[[Toll-like receptor4|Toll-like receptor(TLR)4]]や[[TLR3]]によってもRIPK3-MLKL依存的なネクロプトーシスが生じる場合があり、パイロトーシスとのクロストークも示唆される。このように、ネクロプトーシス実行は細胞種・状況依存度が高いといえる<ref name=ref10 />。


===パイロトーシス===
===パイロトーシス===
 [[wikipedia:ja:|細菌]]などに感染した[[wikipedia:ja:|マクロファージ]]は、しばしば[[カスパーゼ1]]依存的 で[[インターロイキン1β]]([[IL-1β]])などの産生を伴うネクローシス様の細胞死を起こす。Cooksonら は、そのような細胞死をパイロトーシス(pyroptosis)と呼ぶことを提唱した<ref name=ref11><pubmed>11303500</pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed>19148178</pubmed></ref> 。パイロトーシスの特徴は当初、
 [[wikipedia:ja:細菌|細菌]]などに感染した[[wikipedia:ja:マクロファージ|マクロファージ]]は、しばしば[[カスパーゼ1]]依存的 で[[インターロイキン1β]]([[IL-1β]])などの産生を伴うネクローシス様の細胞死を起こす。Cooksonら は、そのような細胞死をパイロトーシス(pyroptosis)と呼ぶことを提唱した<ref name=ref11><pubmed>11303500</pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed>19148178</pubmed></ref> 。パイロトーシスの特徴は当初、
#カスパーゼ-1依存的であること
#カスパーゼ-1依存的であること
#速やかな細胞の膨潤・破裂・細胞膜バリア機能の喪失を伴うこと
#速やかな細胞の膨潤・破裂・細胞膜バリア機能の喪失を伴うこと
#[[wikipedia:ja:|染色体]]の部分的断片化([[wikipedia:ja:|TUNEL]]陽性)が生じるがアポトーシスほど核の凝集も生じず[[カスパーゼ-3]]活性化も生じないこと
#[[wikipedia:ja:染色体|染色体]]の部分的断片化([[wikipedia:TUNEL assay|TUNEL]]陽性)が生じるがアポトーシスほど核の凝集も生じず[[カスパーゼ-3]]活性化も生じないこと


等が挙げられている<ref name=ref13><pubmed>11029008</pubmed></ref>。その後、カスパーゼ-1の活性化は[[インフラマソーム]]と呼ばれるタンパク質複合体を介して生じることや、刺激の種類によってはカスパーゼ1と類似の構造を持つカスパーゼ11がパイロトーシス様の細胞死を引き起こすこと、さらにカスパーゼ1活性非依存的なパイロトーシス様の細胞死が存在することも明らかとなった。パイロトーシスにこれらパイロトーシス様の細胞死まで含むべきか否か、その定義は未だ確定していない。あまりに細かい分類や名称の定義はかえって混乱を呼ぶ可能性もある。現状では、上記2、3の形態変化を示し、カスパーゼ-1と類似の構造を持つ[[カスパーゼ-4]]/[[カスパーゼ-5|5]]/[[カスパーゼ-11|11]]依存的な細胞死や、カスパーゼ-1依存的ではないがその活性化を伴う細胞死を、広い意味でパイロトーシスとみなす考えもある<ref name=ref14><pubmed>25879289</pubmed></ref>。パイロトーシスは感染応答を示す免疫系細胞で研究が進んでいるが、神経細胞が示すカスパーゼ-1依存的細胞死もパイロトーシスとみなせるとの報告がある<ref name=ref15><pubmed>24398937</pubmed></ref>。
等が挙げられている<ref name=ref13><pubmed>11029008</pubmed></ref>。その後、カスパーゼ-1の活性化は[[インフラマソーム]]と呼ばれるタンパク質複合体を介して生じることや、刺激の種類によってはカスパーゼ1と類似の構造を持つカスパーゼ11がパイロトーシス様の細胞死を引き起こすこと、さらにカスパーゼ1活性非依存的なパイロトーシス様の細胞死が存在することも明らかとなった。パイロトーシスにこれらパイロトーシス様の細胞死まで含むべきか否か、その定義は未だ確定していない。あまりに細かい分類や名称の定義はかえって混乱を呼ぶ可能性もある。現状では、上記2、3の形態変化を示し、カスパーゼ-1と類似の構造を持つ[[カスパーゼ-4]]/[[カスパーゼ-5|5]]/[[カスパーゼ-11|11]]依存的な細胞死や、カスパーゼ-1依存的ではないがその活性化を伴う細胞死を、広い意味でパイロトーシスとみなす考えもある<ref name=ref14><pubmed>25879289</pubmed></ref>。パイロトーシスは感染応答を示す免疫系細胞で研究が進んでいるが、神経細胞が示すカスパーゼ-1依存的細胞死もパイロトーシスとみなせるとの報告がある<ref name=ref15><pubmed>24398937</pubmed></ref>。


===フェロプトーシス===
===フェロプトーシス===
 フェロプトーシス(ferroptosis)は、[[Ras|RAS]]変異型がん選択的[[wikipedia:ja:|抗がん剤]]である[[wikipedia:ja:|erastin]]により誘導される非アポトーシス性細胞死として報告され、[[wikipedia:ja:|脂質]]の[[wikipedia:ja:|過酸化]]および[[wikipedia:ja:|鉄]]イオン要求性を特徴とする<ref name=ref16><pubmed>22632970</pubmed></ref>。フェロプトーシスは、[[p53]]依存的な癌細胞の細胞死、[[グルタミン酸]][[興奮毒性]]神経細胞死、[[虚血]]再灌流時の細胞死において生じ、その阻害によりこれら細胞死を止めうるとの報告がある<ref name=ref16 /> <ref name=ref17><pubmed>25402683</pubmed></ref> <ref name=ref18><pubmed>25799988</pubmed></ref>。
 フェロプトーシス(ferroptosis)は、[[Ras|RAS]]変異型がん選択的[[wikipedia:ja:抗がん剤|抗がん剤]]である[[wikipedia:ja:エラスチン|erastin]]により誘導される非アポトーシス性細胞死として報告され、[[wikipedia:ja:脂質|脂質]]の[[wikipedia:ja:過酸化|過酸化]]および[[wikipedia:ja:|鉄]]イオン要求性を特徴とする<ref name=ref16><pubmed>22632970</pubmed></ref>。フェロプトーシスは、[[p53]]依存的な癌細胞の細胞死、[[グルタミン酸]][[興奮毒性]]神経細胞死、[[虚血]]再灌流時の細胞死において生じ、その阻害によりこれら細胞死を止めうるとの報告がある<ref name=ref16 /> <ref name=ref17><pubmed>25402683</pubmed></ref> <ref name=ref18><pubmed>25799988</pubmed></ref>。


==オートファジー細胞死==
==オートファジー細胞死==
 細胞死実行過程でオートファジーが誘導され、かつオートファジーの実行が細胞死に必須な細胞死のことを指す<ref name=ref3 />。実際に[[ショウジョウバエ]]の[[wikipedia:ja:|変態]]時に[[wikipedia:ja:|中腸]][[wikipedia:ja:|上皮細胞]]において生じることが遺伝学的・形態学的観察により示されている<ref name=ref19><pubmed>18083103</pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed>19818615</pubmed></ref>。歴史的には、「オートファジー細胞死」(autophagic cell death)という名称は、単に「形態学的にオートファジーを伴った細胞死」という意味であった<ref name=ref21><pubmed>2186664</pubmed></ref>。実際、死にかけ細胞で見られるオートファジーは細胞死実行のため誘導されたのではなく、何らかの[[ストレス]]に対する生存のための適応である場合も多い。しかし、「オートファジー細胞死」という名称はオートファジーが細胞死に必須であるという印象を与え、適応の結果としてオートファジーを伴っただけの細胞死を「オートファジー細胞死」と呼ぶのは、分子機構の理解のうえでも名称のうえでも混乱を招く原因となる。そこで、現在では、オートファジーの必要性を含有した細胞死にのみこの名称を適用するべきだと考え方が一般的となっている<ref name=ref3 />。オートファジーが細胞死実行に関与する例は先のショウジョウバエの例で観察されており、アポトーシス機構が破綻しているときの代償機構など、ある状況下・細胞種では確かに生じる機構といえる。
 細胞死実行過程でオートファジーが誘導され、かつオートファジーの実行が細胞死に必須な細胞死のことを指す<ref name=ref3 />。実際に[[ショウジョウバエ]]の[[wikipedia:ja:変態|変態]]時に[[wikipedia:ja:中腸|中腸]][[wikipedia:ja:上皮細胞|上皮細胞]]において生じることが遺伝学的・形態学的観察により示されている<ref name=ref19><pubmed>18083103</pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed>19818615</pubmed></ref>。歴史的には、「オートファジー細胞死」(autophagic cell death)という名称は、単に「形態学的にオートファジーを伴った細胞死」という意味であった<ref name=ref21><pubmed>2186664</pubmed></ref>。実際、死にかけ細胞で見られるオートファジーは細胞死実行のため誘導されたのではなく、何らかの[[ストレス]]に対する生存のための適応である場合も多い。しかし、「オートファジー細胞死」という名称はオートファジーが細胞死に必須であるという印象を与え、適応の結果としてオートファジーを伴っただけの細胞死を「オートファジー細胞死」と呼ぶのは、分子機構の理解のうえでも名称のうえでも混乱を招く原因となる。そこで、現在では、オートファジーの必要性を含有した細胞死にのみこの名称を適用するべきだと考え方が一般的となっている<ref name=ref3 />。オートファジーが細胞死実行に関与する例は先のショウジョウバエの例で観察されており、アポトーシス機構が破綻しているときの代償機構など、ある状況下・細胞種では確かに生じる機構といえる。


==命名・発音に関する議論==
==命名・発音に関する議論==
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===形態形成===
===形態形成===
 上皮組織においてアポトーシスによって細胞が死ぬ際には、周辺細胞との上皮バリア構造を保ったまま死に至ることができる。ネクローシスではこのようなバリア構造の保持ができないと考えられている。アポトーシスの際には、自身の上皮層からの脱落も促進するために隣接する細胞の頭頂部収縮を促す。こうして生じる張力が上皮組織の形態形成(morphogenesis)を促進することがショウジョウバエ胚背側閉鎖や成虫原基で示されている<ref name=ref23><pubmed>25607361</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>18802000</pubmed></ref>。神経系発生過程では、アポトーシスを多量に伴う形態形成運動である[[神経管閉鎖]]への関与が[[哺乳類]]および[[鳥類]]で示唆されている<ref name=ref25><pubmed>22162136</pubmed></ref>。
 上皮組織においてアポトーシスによって細胞が死ぬ際には、周辺細胞との上皮バリア構造を保ったまま死に至ることができる。ネクローシスではこのようなバリア構造の保持ができないと考えられている。アポトーシスの際には、自身の上皮層からの脱落も促進するために隣接する細胞の頭頂部収縮を促す。こうして生じる張力が上皮組織の形態形成(morphogenesis)を促進することがショウジョウバエ胚背側閉鎖や[[wikipedia:ja:成虫原基|成虫原基]]で示されている<ref name=ref23><pubmed>25607361</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>18802000</pubmed></ref>。神経系発生過程では、アポトーシスを多量に伴う形態形成運動である[[神経管閉鎖]]への関与が哺乳類および[[鳥類]]で示唆されている<ref name=ref25><pubmed>22162136</pubmed></ref>。


===細胞競合===
===細胞競合===
 細胞競合(cell competition)とは栄養因子の受容や増殖性に劣る細胞集団(敗者)が正常細胞集団(勝者)と接した場合、敗者の細胞がアポトーシスを起こして失われる現象である。ショウジョウバエ成虫原基などの上皮組織や、哺乳類初期胚や心筋などでは増殖性に劣る細胞集団が排除されるとの報告がある<ref name=ref26><pubmed>19855017</pubmed></ref> <ref name=ref27 /> <ref name=ref28 />。こうした競合的な細胞間のふるまいは、適応度の高い細胞が集団中で生きのこる基本的なプロセスと考えられる。一方、神経系では、標的からの限られた量の栄養因子に対する競合で見られる「神経栄養因子仮説」が古くから知られる細胞競合の代表例であり、末梢神経系細胞と標的組織との間で神経接続が生じる際に多くみられる。神経栄養因子仮説における競合は非増殖性の神経細胞間での競合が主であり、増殖性に関して適応度の高い細胞の選択機構ではなく、神経細胞と標的組織との数の調節(マッチング)のための機構と考えられる<ref name=ref29><pubmed></pubmed></ref>。
 細胞競合(cell competition)とは[[栄養因子]]の受容や増殖性に劣る細胞集団(敗者)が正常細胞集団(勝者)と接した場合、敗者の細胞がアポトーシスを起こして失われる現象である。ショウジョウバエ成虫原基などの上皮組織や、哺乳類初期胚や[[wikipedia:ja:心筋|心筋]]などでは増殖性に劣る細胞集団が排除されるとの報告がある<ref name=ref26><pubmed>19855017</pubmed></ref> <ref name=ref27 /> <ref name=ref28 />。こうした競合的な細胞間のふるまいは、適応度の高い細胞が集団中で生きのこる基本的なプロセスと考えられる。一方、神経系では、標的からの限られた量の栄養因子に対する競合で見られる「[[神経栄養因子仮説]]」が古くから知られる細胞競合の代表例であり、末梢神経系細胞と標的組織との間で神経接続が生じる際に多くみられる。神経栄養因子仮説における競合は非増殖性の神経細胞間での競合が主であり、増殖性に関して適応度の高い細胞の選択機構ではなく、神経細胞と標的組織との数の調節(マッチング)のための機構と考えられる<ref name=ref29><pubmed></pubmed></ref>。


===エラー除去===
===エラー除去===
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===分化運命依存的細胞死によるサイズ制御===
===分化運命依存的細胞死によるサイズ制御===
 ショウジョウバエ神経系での解析から、多様な神経細胞を生み出す[[神経幹細胞]]の性質は、分裂回数、ステージ依存的に変化し、ある特定の分化段階に到達した神経幹細胞や神経細胞はアポトーシスにより除去されることが明らかになっている。こうした分化運命依存的細胞死の制御機構の破綻は、神経細胞数の過剰増加や神経繊維の配線異常につながる<ref name=ref2 />。
 ショウジョウバエ神経系での解析から、多様な神経細胞を生み出す[[神経幹細胞]]の性質は、分裂回数、ステージ依存的に変化し、ある特定の分化段階に到達した神経幹細胞や神経細胞はアポトーシスにより除去されることが明らかになっている。こうした分化運命依存的細胞死の制御機構の破綻は、神経細胞数の過剰増加や神経線維の配線異常につながる<ref name=ref2 />。


==参考文献==
==参考文献==
<references />
<references />